ガンホー森下氏インタビュー:RJC 2005とガンホー当面の展開とは?
「RAGNALOK ONLINE Japan Championship 2005」(以下RJC 2005)で忙しい合間を縫って,ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 森下一喜氏がインタビューに答えてくれた。今年は国内で完結するRJC 2005の開催意図をはじめ,「ラグナロクオンライン」と近い位置に「エミル・クロニクル・オンライン」や「ヨーグルティング」を立ち上げる真意や,東京ゲームショウ 2005の予定まで,限られた時間ながらガンホーの今を語ってくれた。
■より広いプレイヤーを募るため,RJCは国内完結に
4Gamer編集部(以下4Gamer): 本日はよろしくお願いします。イベントは大盛況ですね。まず,RJCの位置づけについて教えていただきたいのですが,今回はあくまで国内で完結する形なのでしょうか? 後ろにRWC(RAGNAROK ONLINE World Championship)が控えているわけでなく。
森下一喜氏(以下,森下氏): ありがとうございます。ええ,あくまで国内のみでの大会となります。
4Gamer: 表面だけ見ると,規模縮小にも思えてしまうんですが,なぜそうしたのでしょうか?
森下氏: ご存じのように,昨年はRWCという形で決勝大会を韓国で開催したのですが,そのために年齢制限を設けたり,保護者の方同意を得る必要があったりで,出たい人が必ずしも出られないという問題がありました。今年は国内に限ることでより全プレイヤーさんが対象となり,参加申し込みは500ギルド弱,256ギルドのエントリーで予選が開始されるという,大規模な大会となりました。 「A3」などと異なり,ラグナロクオンラインはそれほど戦い,戦争という感じのタイトルではないのですが,一種の競技,スポーツとして,サークル活動的な新しい楽しみ方を広げていきたいというのが,RJC 2005の開催理由です。 昨年「ラグスタ」(「ラグナロクオンライン ドリームスタジアム 〜史上最大の祭典〜in 東京ビッグサイト」。RWC 2004の日本代表決定戦はこのイベントの一環として開催された)をやってみて,参加できる人は限られるものの,多くの人(編注:入場者数は延べ1万8500人)に見に来ていただけたというのがあります。また例えば,東京ゲームショウ 2004で最も注目を集めたのが,ギルド戦のエキシビジョンマッチでした。
4Gamer: 確かに最近のラグナロクオンラインにはアジト戦やアリーナなど,集団戦闘を指向した要素が整備されていますね。例えば今後,ゲーム内イベントとしてPvP要素を拡充していくといった可能性はありますでしょうか?
森下氏: 普段のプレイ自体では,なかなか難しいとは思いますが,運営面でいろいろな企画を立て,新しい楽しみ方を出していければよいな,とは考えています。
■トップランナーROは,地方の新規顧客を狙う
4Gamer: なるほど。では,もう少し大きな枠組みのお話をお聞きしたいのですが,他社製品を含めライバルタイトルも出てきた状況で,ラグナロクオンラインはかなり健闘していると思うのですが,その理由はどういった事柄だとお考えでしょうか? また,その健闘を今後も続けていくための方策についても,できれば教えてください。
森下氏: そうですね,各社の作品の(MMORPG)マーケットが広がっていることもありますが,そのなかで代表的な位置を占めることに努力してきたこと,そして,現に人が集まっていることによって新しい人が入ってくるという,プレイヤーさん自身がどんどん大きくしてくれている側面が,やはり大きいと思います。
4Gamer: それをより補強し,活性化していく策について,ぜひお聞きしたいのですが。
森下氏: オンラインゲーム自体が"終わらないマラソン"ようなものですから,その中でペースを作り,トップを走り続けるにはとにかく発展させていくしかない。ゲームそのものもさることながら,コミュニティの部分が重要だと考えています。例えば,PCの前にはいないけれど,ラグナロクオンラインには触れていられるような,携帯電話との連動の部分などを,ビジネスとして展開していかなければならないと考えています。 もう一つ,今回のイベントも基本的に既存プレイヤー向けですが,そうでなく新規のプレイヤーを入れていくべく,この下期以降大型のプロモーションといったものも入れていきます。
4Gamer: 大型のプロモーションとは,オフラインですか?
森下氏: オフラインです。が,イベントよりはもっとフォロアー層と呼ばれるターゲットにアプローチしていくようなものを,いろいろ用意しています。
4Gamer: うーん,ちょっと想像がつかないのですが,それは例えばどういった感じになるのでしょうか?
森下氏: 例えば,ネットカフェはスペースビジネスではあるけれども,あまりぶらっと行くところではないと思うわけです。先日の,アミューズメントスポットを運営する「Wonder GOO」さんとの提携に見られるように,都心でなく地方,ロードサイドで新しいプレイヤーを取り込んでいこうという考え方です。すでに「エミル・クロニクル・オンライン」(以下ECO)でスタートしていますが,それだけでなく,全タイトルを提供していく。そこに専門のスタッフがいてラグナロクオンラインを説明するといった方法で,チャネルを拡大していくことを考えています。
4Gamer: なるほど,本日も会場に置かれていた「ASTRO CROSS BB」などを使った,地方展開が当面のキーということですね。Wonder GOOさんの「オンラインゲームゲート」に続く一手は,もう決まっていますか?
森下氏: それは……インサイダー情報に当たるので,言えません(笑)。
■競合を辞さず,3作品で10〜20代ゲーマーを取る
4Gamer: なるほど,あるということですね(笑)。東京ゲームショウ 2005以降,順次明かされていくというところでしょうか。ところで先ほど,「全タイトル」という言葉が出てきましたが,御社からはこれから,エミル・クロニクル・オンラインや「ヨーグルティング」など,ラグナロクオンラインとプレイヤー層が重なるタイトルがリリースされるわけですが,これはビジネスの効率として,あまり問題とは考えていないのでしょうか? それとも,明確な市場の差別化が図られるのでしょうか? 誰でも聞いているであろう質問で恐縮ですが,ぜひ(笑)。
森下氏: そうですね,みなさんからよく聞かれます(笑)。昨年は,どちらかというとラグナロクオンラインとターゲットがカブらないタイトルで,会員の母数を拡大することを目標としていたんですね。「A3」しかり「TANTRA」しかり,カジュアルゲームしかりです。しかし,やはりメインのターゲット,イノベーター層になってくれるのは10代〜20代の層で,そこに三つの作品を投入することにより,重点的にプレイヤーを確保しようと。 もちろん,カブってしまうという懸念はあるのですが,実はガンホーとしてはそれほど問題視していないんですね。どんなに飽きないようにゲームを作っていっても,プレイヤーさんが飽きてしまうことはあるし,そのとき次にプレイする作品を提供できれば,それはそれであまり違いはない。同じ趣味趣向で移ってくれるぶんには構わないということです。 もちろん,ECOでの知り合いとラグナロクオンラインでの知り合いは別で,併行してプレイすることはあり得るし,ヨーグルティングなら短時間で一つのミッションをクリアして,区切りがついたところで別の作品をプレイする,といったことも考えられるわけですが。
4Gamer: 明確な後継作品という考え方でなく,プレイヤーをより多く獲得するために手を広げる,というイメージですね。なるほど,確かに分かりやすいコンセプトだと思います。 では,併行してプレイしやすくするための工夫を,ラグナロクオンラインに取り入れていくといったことは考えられていますか? 例えば韓国版でいう「ホムンクルス」(関連記事は「こちら」)のような……。
森下氏: アチラにある要素については,もちろん通常どおり導入していきます。ただ,韓国で開発されている要素についてはなかなか……。もちろん,韓国でもさまざまな作品が乱立している状況ですから,そういうことも視野に入れて開発していかなければならないだろうな,とは言えますが。
■仮にガンホーが「Ragnarok 2」をサービスするならば
4Gamer: 他作品との棲み分けに関連して伺いたいのですが,「Ragnarok 2」(以下RO2)に関する御社のコミットメントは,どういったものになるのでしょうか?東京ゲームショウ 2005では,Gravityが割と大がかりにお披露目をするようですが。
森下氏: ……それもインサイダー情報になるので,今は何も言えません。ご想像にお任せします(笑)。
4Gamer: 確定的なことはともかくとして,御社としてこう思っている,とかをお聞きできればと。微妙な問題ですが。
森下氏: まあ……そうですね,先のことで言えば,仮にうちがRO2をやったとしても,基本的なコンセプトが同じである後継作品ではありますが,別の作品になると思うんですね。つまり,二つの作品をきちんと育てていこうと。"2"があったとしても"1"は"1"で当然伸ばしていくし,プレイヤー同士のコミュニティが生まれた場所として,きちんと守っていけるようにしたい,そういう考え方です。あくまで,仮に,ですが。
4Gamer: なるほど,"仮に",ですね。ところでさらに先の作品についてですが,例えば「北斗の拳オンライン」などについて,近々に情報出てきたりする予定はないですか?
森下氏: ……ずいぶん先の話できましたね。「Codename:GO」「Rondo」とか,すっ飛ばされちゃいましたが。今後のタイトルについて東京ゲームショウ 2005では,何らかのサプライズ発表を,また考えています。
4Gamer: 北斗は韓国でかなり話題を集めていると聞きますが?
森下氏: ええ,韓国に限らず,いろいろなところからお話が来ています。直近ではECOについても,いろいろと。実際にガンホーがテストを海外向けに出してプレイしてもらい,反応が返ってきているところで,非常に反応はよいですね。
4Gamer: ECOの海外展開先というのは,具体的にいうと?
森下氏: 第一フェーズとしてはアジア圏です。順次広げていきたいところですが,開発やサポート,そもそもああいったキャラクター的なものが受け入れられる素地の問題がありますね。
4Gamer: 韓国とか台湾は手堅いあたりですね。
森下氏: 後は中国(中華人民共和国)とか,東南アジアといったところをターゲットに置いています。中国市場でのさまざまな問題が話題になりますが,ビジネスとして見ると,また違ったところがあるので。パブリッシングを希望する会社には,テストクライアントを渡して,検証に参加していただいています。
4Gamer: では,最後になりますが,今回のRJC 2005の手応えと,この記事を読んでくれる読者の方にメッセージを一言お願いします。
森下氏: RCJ 2005はまだ途中ですが,昨年より参加チームも増えて,大きくなっていくことを嬉しく感じます。読者の方へのメッセージですが,最初のタイトルであるラグナロクをもっともっと大きく育てていきたいのはもちろんのこと,これからガンホーはオリジナルを含め多くのタイトルを世に送り出し,それぞれ対等に扱っていきますので,ラグナロク1本と言わず,ほかのゲームも併せて遊んでもらえればたいへん光栄です。
4Gamer: 欲張りかつ,たいへん前向きな回答,ありがとうございました。
■明確なアイデンティティの確立で,ゲーマーをリードする
書籍やCDの販売,ビデオレンタルなどを兼ねることで,アミューズメントスポットは地方における情報拠点と位置づけられる。そのアミューズメントスポットを足がかりの一つとし,自社タイトルをまだプレイしていない"フォロアー層"を狙うというガンホー。その拠点一つ一つには,ガンホー提供のタイトルすべてが揃い,同社および同社のパートナーが手がけるメディアミックス商品も置かれることで,より有効なプレゼンスを発揮できるというのが,同社が当面注力する地方展開の姿だろう。 一方,同じ年齢層/ターゲットに向けて,3本の作品を並べるガンホーの"強気"の背景には,ラグナロクオンラインで獲得したプレイヤー資産を,同ジャンル自社作品より外に拡散させないという至上命題がある。そしてそれに必要な手を打つためのタイムスケジュールはおそらく,自社内競合を気にする云々以上に,ハイペースなものと認識されているに違いない。
今回のインタビューでは,自社内競合を辞さず,地方をターゲットに据えつつ前進することがテーマだったわけだが,一方でガンホーには「オンラインコミュテイメント」と呼ばれる,gungho IDを核にしつつ,プレイヤー同士が個々のタイトルを超えてコミュニケーションをとれるテーマパークのような"場"を構築するという構想がある。その詳細は未だ明かされておらず,昨今隆盛の「ライトゲームポータル」と本質的にどう異なるかも明らかでないが,少なくとも嗜好の共有度合いについては,ライトゲームポータルより緊密なイメージが浮かぶ。 "ガンホーファン"を統合するようなコミュニティの構築が,ビジネスの当面の目標であるならば,まさしくガンホーのテイストを共有する複数の作品が並び立つことにさほど違和感はない。 たしかに,まったく新しい客層を開拓するには向いていないかも知れないが,提供作品の充実がガンホーのアイデンティティ,求心力を強化する方向で働くのは間違いないところだ。こまごまと手を広げるよりも,まずはそのコアを固め,インパクトを最大にしようという策なのだろう。
そうした展望で,コアプレイヤーの祭典たるRJC 2005を見てみると,深さがむしろ広さを生み出す構図が見えてくる。多方面/同時多発的に拡散するのではなく,明確な一点を中心にじわじわ同心円状に広がっていくイメージだ。ハイレベルなPvPと,下半期のアップデート予定,コスプレステージが共存するRJC 2005の構成は,そのまま,ガンホーの構想を映し出しているのかもしれない。(Guevarista)
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