ガンホー古志野氏・鳥山氏に聞く:既存のMMORPGとの共存を模索する「ヨーグルティング」の展開手法
誰にとっても馴染み深い「学校」という場を舞台とし,謎解きを主体にしたストーリー展開と,MO的なインスタンスゾーンでの冒険が特徴のMMORPG「ヨーグルティング」。 4Gamerでは,クローズドβサービス終了後のタイミングで,ガンホー・オンライン・エンターテイメントにおけるヨーグルティングのマーケティング/開発の担当者,古志野 史嗣氏と鳥山主税氏にインタビューを行った。 クローズドβサービスの手ごたえやプレイヤーの傾向,さらには今後の展開に関する話も含めて大いに語ってもらったので,その内容をお伝えしよう。
■異なるプレイスタイルで,既存作品との競合を回避する
ヨーグルティング宣伝担当の古志野 史嗣氏
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4Gamer: 本日はよろしくお願いします。それにしても,オープンβサービスの実施時期が思ったより早いのには驚きました。クローズドβサービスでの感触はいかがでしたか?
古志野氏: みなさん東京ゲームショウ2005で発表と予想していらしたみたいですね。クローズドβでとくに大きな問題も出なかったですし,せっかく盛り上がっているところでもあります。あまり時間を空けずにオープンβに移行して,みなさんに楽しんでいただこうと。
4Gamer: クローズドβサービスの全般的な手応えはいかがですか?
古志野氏: 思ったより大勢の人が実際に参加してくれて,安定性と負荷については十分な検証ができました。クローズドβサービスは予定時刻ぴったりに開始できましたし,まる一日以上緊急メンテナンスの必要なく運用できたのは,韓国で4回にわたるクローズドβサービスを重ね,時間をかけて開発されてきたことが大きいです。
4Gamer: クローズドβサービスはかなり賑わっていたようですが,その後の会員数の伸びはどうでしょうか?
古志野氏: 具体的な数字は東京ゲームショウで発表できると思いますが,個人的な印象としては,これだけ競合タイトルが多い中で,かなり健闘していると思います。
4Gamer: 競合作品の中には御社の作品もかなり多い気はしますが(笑)。
古志野氏: ええ,ありますね(笑)。おかげさまで「エミル・クロニクル・オンライン」はエミル・クロニクル・オンライン(以下ECO)で,順調に伸びています。
鳥山氏: かといって,「ラグナロクオンライン」のほうに影響があるかというと,とくに人数の減少もないんですね。それを考えると,ECOもヨーグルティングもまったく別のところからプレイヤーを集めることができているのかな,と考えています。
4Gamer: ヨーグルティングの場合,並行してプレイするのにも向いた作りですよね。
古志野氏: そこが一番のウリになるところです。短時間でプレイできますから,メインでほかのゲームをプレイしている人のセカンドゲームとしてだけでも,十分に成り立つわけです。いろいろなタイトルのセカンドを積み上げていくと,それはそれでターゲットにできるかと。
4Gamer: たしかに,真っ正面からプレイ時間の奪い合いをしないのは新しいビジネスの切り口ですね。
古志野氏: 既存のMMORPGのプレイヤーには,それぞれの作品でコミュニティが出来ると,試しに他タイトルをプレイしても,やがて帰って行ってしまうという傾向があります。他作品のプレイヤーが流れてくることを期待するのでなくて,遊ぶ人から見た選択肢を広げる方向を目指すべきかと。
4Gamer: なるほど。ただ一つ気がかりなのは,御社の各作品が想定するプレイヤーのプロファイルが,かなり重なっているように思える点です。効率の部分に難がある気もするのですが,そこはどうお考えでしょうか?
古志野氏: そこで出てくるのが遊び方の違いです。また,想定ターゲットが近いということは,相乗効果が見込めるということでもあります。
4Gamer: 相乗効果の核になるのは,やはり「GungHo-ID」ですか。
鳥山氏: それに今回ECOとヨーグルティングでは「お試しID」という形を用意しています。メールアドレス以外に個人情報の入力がいらないお試しIDの数を伸ばしていくことで,正規のGungHo-IDを伸ばしていこうと考えています。 また,時期はまだ申し上げられませんが,βサービス段階限定のお試しIDを,正式サービス以降に使うGungHo-IDに移行していくこと,その手続きを用意することも考えられています。
■日本アレンジでなく,韓国での開発に直接コミット
ヨーグルティングの開発に早期から携わる,コンテンツ開発部 第二開発グループ マネージャー 鳥山主税氏
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4Gamer: なるほど。それらの延長線上に,森下氏のいう「オンラインのテーマパーク」という構想があるわけですね。と,だいぶ話が周辺のほうに流れてしまったので,このへんで本題に戻したいのですが,テスターから寄せられた具体的な意見について,教えていただけますか。
鳥山氏: いままで触れたことがない斬新なシステムだ,という声は,かなり寄せられています。確かに"エピソード"という仕組みが最初分かりづらいという意見や,チュートリアルをスキップしてしまうと,あまり説明がないという指摘もありましたが,実はエピソードゲートや案内板に,すべての情報を用意しています。 それと,これはクローズドβで最初に予想されたとおりですが,ほかのMMORPGと比べて操作系統が特殊だという意見は多く聞かれました。マウスで視点変更できない,とかですね。ただし,ここは従来のMMORPGに合わせることも可能ですから,意見を聞きながら検討していきたいと思います。
4Gamer: オープンβサービスに移行してからは,キャラクターやアイテムデータのワイプ(消去)はもうないと考えてよいのでしょうか?
古志野氏: そこについてはまだ調整中でして,今明確にお話しできないのですが。東京ゲームショウまでには決定して発表したいと考えています。
4Gamer: オープンβサービスがいつまで続くか,つまり正式サービスへの移行タイミングはいつになるのでしょうか。
古志野氏: 年内に正式サービス移行という方針で進んでいます。もう少し細かいタイムスケジュールは,ちょうど今検討しているところです。
4Gamer: もう少し長期的なスケジュールと……これはヨーグルティングの特徴にも関わる点ですが,例えばクローズドβに用いられたバージョンは,韓国のどの時点でのものに相当するのでしょうか。また,今後しばらくのところで,韓国版の何か月後ろを進むことになるのでしょうか。
鳥山氏: クローズドβサービス(9月1日スタート)で使われたクライアントのバージョンは,韓国でいう8月バージョンです。いま1か月ある時間差は,埋めようと思えば1週間にも,話し合いさえつけば日本先行にもできると思います。
4Gamer: なるほど,時間差はほぼないわけですね。通常のオンラインゲームでは,いかに手間をかけてゲームを"日本仕様"にしたかが強調されがちなわけですが,ヨーグルティングの場合プレスカンファレンスの段階で,むしろアレンジ,カルチャライズという発想を採らないことのメリットが強調されていました。これは端的に言って,スピーディに国内に持ってこられるということなのでしょうか。
鳥山氏: ヨーグルティングの場合,例えば私の立場がまさにそうですが,ゲームとしての面白さの部分に,日本的な発想で開発元にどんどん提案して,協議しています。つまりカルチャライズを施すまでもなく,日本側の意見は取り入れられているわけです。 そして今後,韓国,日本以外の国でサービスを提供することを考えても,ゲームとしての根本の面白さについては,それほど国に左右されないというのが,私の意見です。サービス国,パブリッシャが増えたら,その新しいパブリッシャを交えたうえで,同じように話し合っていけばよいと。
4Gamer: ちなみにそうした,ラウンドテーブル的な開発体制は,ガンホー・オンライン・エンターテイメント側の考えですか,それともNeowiz側ですか。
鳥山氏: この場合は両社ですね。両国で成功できるよう,互いに提案し合って一つのゲームを作っていってます。
■学校の追加と"転校",そして彼らが帰る家
4Gamer: では,もう少し大きな意味で今後の展開について教えてください。現在二つの学校があって,その周辺が舞台として用意されているわけですが,このゲームにおけるワールドの拡張はどういった形で行われるのでしょうか。
古志野氏: さまざまなアップデートの形が考えられていますが,例えばこのゲームのウリに従って,謎解きとしてのエピソードを追加していくのが一つ。もう一つが,フィールドや学校自体を増やしてしまうというものです。現在「宵月学院」と「エスティバー学園」でまったく別のストーリーになっていますが,これにさらに新しいストーリーを加えていくという方向ですね。
4Gamer: 学校が追加される場合,すでに育てているキャラクターをどう使えるのかが,プレイヤーにとって気になるところですが。
古志野氏: 現状では入学した学校で3年生まで進級していれば,ほかの学校でも3年生までのエピソードに参加できるようになっているので,自分のキャラクターでほかの学校を楽しむことはできます。
鳥山氏: できないのは他校のクエストで,それと他校の制服を着ることも不可能ですね。これらをやってみたい場合,もう一人キャラクターを作っていただくことになります。
4Gamer: 「転校」という手続きを用意したりは。
古志野氏: それもおいおい出てくるかもしれません。
鳥山氏: どういった形で転校が実装されるかはまだお話できないですが,以前からヨーグルティングのシステムとして,アイデアは出ています。複数のアカウントを取ってもらうよりも,愛着のあるキャラクターでプレイを続けてもらうほうが面白いと考えていますので,ぜひ実現したいところです。
4Gamer: なるほど。新しいエピソードが加わるたびに,転校を交えてプレイを進めるプレイヤーも出てきそうで,面白いですね。ところで,学校の周辺を拡張していくというアイデアはありますか。
古志野氏: 現代に近い世界設定で,学校で起きたことを扱う以上,生徒達には帰る家もあるでしょうし,近くの街もあると思うんですね。それらが今後出てくる可能性もあります。アップデートの全体に関しては大まかなスケジュールを(Neowizから)受け取っていて,それについて協議しているところです。
4Gamer: とすると,学校の追加などはかなり可能性の高いお話になるんでしょうか。
古志野氏: 学校の追加などはまだかなり先のことですね。まず話し合っているのは,ストーリーを1本完結させるまでの流れが中心です。 クローズドβサービスでは3年生までの進級が可能だったわけですが,残りの4年生から6年生の部分を,どう実装していくかが課題になります。エピソードにもちょこちょことストーリーが載っているので,私としてはぜひそこに注目していってもらいたいですね。
鳥山氏: サイドストーリーもふんだんに用意されていまして,温室やら図書館やらといった,学校によくある"いわくつき"の場所が舞台になります。そして学年が上がるにつれて,EVP(無限放学現象)の真相に迫るエピソードが展開していきます。
■勝手に称号が付いてしまうことも?
4Gamer: 個々のエピソードにはストーリー要素だけでなくランキング機能も付いていますよね? そこでの順位はキャラクターの成長やアイテムの入手確率などに影響しているのでしょうか。
鳥山氏: いいえ。実際に影響しているのは,そのとき何点を取って,それがAクラスかBクラスか,といった評価のみで,エピソードごとのハイスコアランキングにボーナス要素はないです。あくまで目安ですね。
古志野氏: 称号とかには影響しないんだっけ?
鳥山氏: PvPが可能なエピソードにはありますね。「二年最強」とか。
古志野氏: 称号,面白いですよ。例えば購買でいっぱい買い物すると「ゴールド会員」という称号がもらえて,アイテムの売買が10%得になるとか,メリットがつくこともあります。称号には自分で獲得するものと,自動で付いてしまうものがあって,例えばいつもエピソードの途中で逃げていると「逃亡者」という称号になります。
鳥山氏: クローズドβサービスで一番多く見られたのは「牛乳マニア」でしたね。(回復用アイテムの)牛乳を飲み続けると付くんですが,レベルがありまして,2段階目まで進むと「牛乳ジャンキー」になって,最終的には「牛乳魔神」になります。
古志野氏: ネタとして「取りたい」と思うような称号も,けっこう用意されています。
鳥山氏: クローズドβサービスでは一人だけ「まったり」という称号の人がいて,これはログイン時間を見ています。まだ実装されていませんが,例えばこの称号を取るとキャラクターの待機姿勢が変わるようにする,といったことが考えられています。
4Gamer: キャラクターのしぐさに影響するのは面白いですね。そういえばこのゲームは,攻撃モーションなどのアクションがかなり多彩ですが。
古志野氏: ええ実は,動作一つ一つについて,モーションキャプチャーを元にして作っています。
4Gamer: いや,可愛らしいキャラクターにしてはイカした回し蹴りを出すなあ,とか思っていたんですが,そんな秘密がありましたか。
古志野氏: 楽器で攻撃するミューラの動きが特徴的で, 2種類あるダンスと結成して,ずらっと横に並んで一斉に同じフリをしたり。
鳥山氏: 全員初期のミューラでモーションパターンを統一して,指揮をとる役の人が足を踏み出したら,全員がそれに続くという練習を,ひたすらしていた人達もいましたね。これはまったく予想外の遊び方だったので,びっくりしました。
古志野氏: 日本でのイベントの様子を見てみたいということで,韓国のプロデューサの方もいらしていたのですが,韓国ではこうしたGMイベントを催しても,人が集まらないらしいですね。「日本って違いますね」という話になったりして。 めいめいが好き勝手なことをしゃべっていると,GMイベントが進まないということで,自主的にサポートしてくれる人が出てきたりとか。実は独特らしいです。
■競争エピソードとランキングは国内で受け入れられるか
4Gamer: 日韓での違いにも関係するのですが,PvPに対する温度や,ランキングに対する入れ込み具合とか,両国でかなり違うのではないかと予想されるのですが,日本国内での反応はどうですか。
古志野氏: 韓国でのプレイでは効率を重視する人が多かったため,ランキング機能があることでコミュニティが育たないのではないかという懸念はありました。ただ,実際にやってみると,エピソードに途中参加することで挨拶が生じ,きちんとコミュニケーションが始まるんですね。
4Gamer: PKが許可されている点が国内ですんなり理解されるかどうか,不安はないですか。
古志野氏: 「PK」のオプションはあくまで競争エピソードのみの機能で,PKというよりも運動会的な内容の競争エピソードに限られているため,かなり違う捉え方で受け容れられていると思います。競争エピソードは思ったより好評で,まさに運動会というイメージがあるからか,あまり殺伐とした雰囲気にはならなかったようです。
4Gamer: なるほど。そこはこのゲームのモチーフの勝利かもしれませんね。ただ,それでも,いわば人の足を引っ張るという勝ち方について,あまりゲーム慣れしていない人は,とまどったりしないでしょうか。
鳥山氏: そこなんですが,競争エピソードはゲームのストーリー進行には直接関わらないものとして用意されているんですよ。つまり,やりたい人が集まってやる形になるので,ゲーム初心者が否応なく巻き込まれて,ということはないと思います。
古志野氏: 競争エピソードは人数が集まらないと面白くないこともあって,待機室でメンバーを募っている時間が長かったりするんですよ。その中でチャットが盛んになったりする部分もあります。
4Gamer: 引き続き競争要素についてなのですが,エピソードクリア時の順位に応じて,好きな箱を入手しやすくなるシステムは,非常にオリジナリティが高い部分ですね。とくに,箱の中身についての情報が,開けてみるまであいまいな点など,非常に工夫されているといいますか。
古志野氏: アイテムを手にしたその場でチャットもできますから,「しまった!」とか「交換して」とかいったコミュニケーションも生まれますし。
鳥山氏: とはいえクローズドβサービスの段階で,やはり1位ばかり狙うといったプレイも指摘されていますので,順位制は今後も変えていく可能性があります。
4Gamer: パズル性や協力要素の強弱でも変わっていく部分ですしね。
鳥山氏: そのとおりです。
4Gamer: 現段階でお聞きするのは早いのかもしれませんが,課金の形態についてはどうお考えですか。
古志野氏: うーん,韓国ではアイテム課金でスタートしていますが,(定額課金とアイテム課金の)どちらでも行けると考えています。今まさに協議の真っ最中です。
4Gamer: では最後に,この記事を読んで新たにプレイしてくれるかもしれない読者に,メッセージをお願いします。
古志野氏: ヨーグルティングとほかのタイトルとの違いは,とにかく手軽さ。短時間でも遊べることと,簡単な操作でプレイできることです。後はストーリー部分の魅力を含め,オンラインゲームを初めてプレイする人にも慣れている人にも,それぞれに楽しめるタイトルになっています。ぜひ遊んでみてください。
鳥山氏: ヨーグルティングでは,どんどん新しい楽しみを提供していくつもりでいます。さまざまな意見をいただいて,そこから成長させていきたいと考えております。今後もお楽しみに。
4Gamer: 本日はどうもありがとうございました。
ストーリーがエピソード単位で区切られ,短時間でもプレイ可能な作り,そして競争要素と協力要素がブレンドされたゲーム性で,ほかのMMORPGと共存できるプレイスタイルを目指すヨーグルティング。既存のMMORPGと勝手が違うだけにとまどう人もいたようだが,テスターにはおおむね好評をもって迎えられたという。昨日(9月15日)発表されたばかりの,登録ID数10万突破(「こちら」参照)という数字を見ても,それは決して誇張ではないようだ。 キャラクター要素など,テイストは同社他作品と共通するものを持ちつつ,まったく異なるプレイ感覚を発揮できるとすれば,それは同社が構想する「オンラインのテーマパーク」というラインナップ展開には理想的な存在なのかもしれない。 今後のワールド拡張の方向性も含めて,今,ぜひとも動向を注目しておくべき作品であることは疑いないだろう。(Guevarista,photo by kiki)
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