[TGS2005#46]開発プロデューサDi Ko氏に聞く「ヨーグルティング」ここまでの道のり
写真右側が宣伝担当の古志野 史嗣氏,左側がガンホー側開発担当の鳥山主税氏,そして中央がNTIX Softで「ヨーグルティング」の開発を統括するDi Ko氏
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東京ゲームショウのタイミングで,「ヨーグルティング」の開発元である韓国NTIX Soft(NTIX)の開発プロデューサ,Di Ko氏が来日した。そこでガンホー・オンライン・エンターテイメント側の担当者,古志野 史嗣氏,鳥山主税氏ともども,インタビューを行った。 現在のオープンβサービスや今回のステージ発表,そこに至るまでのヨーグルティングの開発過程や,韓国の意外なゲーム開発環境,日本独自の運営方法などについて,大いに語ってもらった。さっそくお届けしよう。
4Gamer: 本日はよろしくお願いします。まず,Koさんのミッション,仕事内容について教えてください。
Ko氏: ヨーグルティングのプロデューサ兼プロジェクトマネージャをやっています。開発側の責任者だと思ってもらえれば結構です。
4Gamer: 本日は開発寄りの話がメインになるかとは思うのですが,まずは東京ゲームショウでの発表内容,つまり国内でのオープンβサービスの状況の話からお聞きしたいと思います。超えましたね,10万ID。
古志野氏: ええ,おかげさまで。オープンβサービス開始から2日後の,午後3時半に10万IDを達成しました。昨年(2004年)の東京ゲームショウで電撃発表してから,しばらくなりを潜めている期間があったわけですが,潜在的には暖まっていた部分があると思います。ID先行登録の受け付けを開始してから,割と一気に集まったこと。それにクローズドβサービス以降,実際に触ってくれた人の評判が良かったことが理由でしょうね。
4Gamer: 今回,日本での課金形態については発表されなかったわけですが,韓国ではすでにアイテム課金で提供されているんですよね。
鳥山氏: ええ,8月9日からです。
4Gamer: 韓国でアイテム課金に決まった理由はどのあたりなのでしょうか。
Ko氏 韓国ではもともとその予定だったから,というのが理由です。とにかく多くの人にプレイしてもらいたいから,というのもありますが,そもそもNeowizの制作方針がアイテム課金方式だったと理解しています。
4Gamer: 確かにNeowizといえばアバターサービス「ピーマン」が有名ですし,当然ながらアイテム課金との親和性は高い……というわけですか。
鳥山氏: そうです,彼らは膨大な経験を積み上げていますから。
■参加人数が変動する「エピソード」とプレイバランス
4Gamer: 韓国での開発の経緯について教えてください。確かクローズドβテストが4回あったとのことですが,それぞれ何をメインにテストしていったのかをぜひ。
Ko氏 クローズドβ1は2004年の7月7日ごろ,β2が9月9日,β3がクリスマス前で,β4が2005年3月です。β1はとにかく「こういうゲームが出ます」というお披露目に近いものでした。ただ,何しろ「ヨーグルティング」の開発は,トライアル(挑戦,試行錯誤)要素の多いものでしたから,β2以降は本当にさまざまな問題を解決していきました。その結果,韓国では2005年5月にオープンβテストに漕ぎ着けたわけです。
4Gamer: その問題解決の,中身をぜひ教えてください。
Ko氏: βテストを通じてずっと取り組んでいたのは,進級の方法とか,エピソードシステムに関わる部分です。エピソードのバランスをどう取るか。普通のMMORPGであれば,モンスターの強さやドロップアイテムで,各プレイヤーのペースを調整できるのですが,エピソードシステムの場合,ステージに入る人数が変わりますから,どこをどうやってバランスをとるか,ですね。
4Gamer: なるほど。人数はプレイの自由度に関わりますしね。ところで,1ステージには最大で何人入れるように作られているのでしょうか。
Ko氏: 32人です。競争エピソードで8人のチームを四つ作る形ですね。
4Gamer: あの速度とかアクション性を持たせつつ32人って,結構難しいと思うのですが。そのあたりで苦労されたのかと思いまして。実際のところ,どうですか。
Ko氏: 正直言って,一番難しかったのはテスターを32人集めることでした(笑)。ヨーグルティング専用のQA(Quarity Assurance。品質保証)チームがありましたが,これが30人で全員動かしても足りないという。
4Gamer: 32人同時に動くとなれば,CPUやグラフィックスカードの負荷も相応に高まると思うのですが,そこで実際に工夫した部分などはありますか。
鳥山氏: サーバーの性能は高いので,そうなると問題はクライアントの重さなんですよ。ただ,それも入学式とかで大勢集まったときのほうが重い。「稼動スペック」ぎりぎり(Pentium III/1GHz,メモリ 256MB以上,ビデオメモリ 64MB以上)のPCで32人動かすとつらいと思いますが,「推奨スペック」(Pentium III/1GHz,メモリ 512MB以上,ビデオメモリ 128MB以上)を満たしていれば余裕が出ます。
4Gamer: ノートPCでの動作は考慮していますか?
鳥山氏: チップセットの統合グラフィックスコアだと厳しいですね。そこで動くようにはしたいですが。
Ko氏: 開発チームでも(統合グラフィックスコアで動かせるよう)対策を検討しています。現状でもGeForce 2MX・ビデオメモリ32MBくらいで動作しますから,スペックではなく個別の不具合かもしれません。開発が一段落して余裕が出てきましたので,ぜひ取り組みたいと思います。
4Gamer: アイテムが増えると,それだけで負荷が上がったりしますよね。このゲームでは着せ替えをしたり,踊ったりするのも楽しみ方の一つですから,間口を広げることと,プレイヤーに楽しみを提供することの兼ね合いが難しいでしょうね。
古志野氏: 踊るといっても,パターンが豊富で常に動いていますから,なおのことかもしれませんね。
■モーションキャプチャが安価な韓国での開発環境
4Gamer: 踊りやモーションが多彩なのも,確かにこの作品の大きな魅力だと思います。ところでその踊りやエモートなど,モーションを追加することそのものは,比較的簡単なのでしょうか,それとも難しいことなのでしょうか。
Ko氏: 実はそれほど難しくはありません。一番大きな問題になるのは,モーションを作ることそれ自体ですが,実はもうかなり大量のモーションを作ってあります。モーションキャプチャしたものや,アニメーターさんが作ったものなどなど。 現状では作ったうちの半分くらいしか使っていないので,入れたいときにはいつでも入れられます。とはいえ,これもゲームのリソースですから,例えばアイテムと連動させるとか,有効な使い方を考えています。
鳥山氏: 例えば現状で,「/happy」と入力したときのバリエーションを増やすといったことは簡単なのですが,それをどうプレイヤーのみなさんの楽しみにつなげていくか,システム化して考えたいので協議しているところです。
4Gamer: ストーリーを進めるにつれて,新しいモーションを身に着けていくということですか。それがアイテムじゃなくモーションというのは実にユニークなところです。確かにこのゲームでは,ほかの人がカッコいい動き方をしていると,うらやましくなりますからね。
鳥山氏: ふだんはミューラ(音符で攻撃する楽器。踊りながら攻撃する)を使っていないんだけど,待機ポーズをとるときだけ着ける人もいますよ。踊るために。
4Gamer: ちなみに,モーションキャプチャで作られたモーションと,アニメーターさんが計算して作ったモーションでは,どちらが多いのでしょうか。
Ko氏: 数でいえばアニメーターさんが作ったもののほうが多いです。ですが,踊りのパターンを作るに当たっては,実のところモーションキャプチャのほうが早くて安上がりなのです。
4Gamer: それは本当ですか! 日本ではモーションキャプチャというと,ぜいたくな制作手法の代表のように言われていますけど……。
Ko氏: ええ,あくまで韓国での話ですが,国の研究施設でモーションキャプチャに必要なスペースや機材が利用できますから。もちろん,取り込んだモーションにはアニメーターさんによる調整が不可欠ですし,ヨーグルティングでは,人間が現実にはできないモーションが必要になることも多いです。 とはいえ,踊りに限ってはモーションキャプチャをベースにするのが一番ですので。踊りのモーションは100種類くらい作りましたが,1か月かかりませんでした。
4Gamer: その踊りのパターンは,誰が考えるのでしょうか。
Ko氏: コマーシャルフィルムなどを作っている,プロの振り付け師が知り合いにいまして。
■あえて提案してみた,独自の操作体系
4Gamer: なるほど……。こういったところが韓国におけるゲーム開発環境の成果として,作品で大いに発揮されるのですね。ところで先日のインタビュー(記事は「こちら」)で伺った,日本で出た意見を韓国で行われている開発に反映させることについてですが,具体的なやりとりはどういった形で行われているのですか?
古志野氏: 一番手軽なものから挙げると,インスタントメッセンジャーでのやりとりがありますね。「これこれこういう意見が出たよ」とか,いきなり話が始まるという。
鳥山氏: 1か月から2か月ごとに,日韓どちらかの担当者が出かけて話し合っています。「今度こうしていきたいと思っている」という案や,実際に形にしてみたものが(NTI Soft側から)示され,一つ一つ検討し,「こうしたほうがよいのではないか」といった意見を返します。そして,それに関して協議してもらい,またフィードバックが来るというやりとりを繰り返します。
Ko氏: アイデアはたくさん集めて,面白いモノから実装していくというのが開発側としてのスタンスです。いろいろな国からの意見を集めて,グローバルに面白いものを作ってから,ローカライズするという形ですね。 ですから(韓国版も日本版も)プログラム自体は同じです。どういう機能を使うかは,セッティングで行えばよい。韓国でアップデートバージョンを作ったとして,日本向けをのものを作るのには,翻訳部分や検証部分を除けば2日くらいしかかからないのです。
古志野氏: 日本国内でクローズドβサービスが行われていたとき,韓国の開発陣はうちの会議室を一つ押さえて,ずーっと見てました。本当にリアルタイムに開発が行われているんですよ。
4Gamer: そうした開発体制の成果として,今回発表された視点変更操作の話などがあるわけですね。しかし,一つ不思議なのは,視点変更のやり方などについては,韓国でのクローズドβサービスの段階できっと意見が出ていたと思うのですが,どうなのでしょうか。
鳥山氏: ええ,出ていました。韓国でのクローズドβ3のときに,右クリックでの視点変更を入れていたのですが,クローズドβ4の時点で,ほかのシステムとの兼ね合いから再び除いてしまいました。日本でそうした意見が出ることは見越していたのですが,あえてトライしてみた,というところです。
古志野氏: 右クリック1発でスキルが出せる利便性はあるので,実は慣れると使いやすいんですよ。
4Gamer: 見下ろし視点タイプのRPGでは結構ありますね。慣れといえば慣れなのですが……。
古志野氏: はい,ですが例えば「ラグナロクオンライン」をやりながらヨーグルティングもやりたい,という人はとまどいますよね。他作品から移行する人などの利便性を考え,間口を広げるために,今回の変更を決めました。
鳥山氏: 変更といっても,従来方式(右クリック=スキル)と,右クリック=視点変更の方式を,それぞれAタイプ,Bタイプとして選べるようになります。そしてBタイプの場合,Altキーを押しながら左クリックすることでスキルが発動するようになっています。
4Gamer: なるほど,やはり検討済みの課題だったわけですね。
■運営側もキャラクターとしてゲーム世界に出演
4Gamer: 開発の話からは少し離れるのですが,Koさんは実際に日本でのプレイの様子を見て,どう感じましたか?
Ko氏: 日本のプレイヤーは,そのゲーム世界の住人になるという,ロールプレイの要素が強いと感じました。
古志野氏: GMキャラクターを「風紀委員」という立ち位置にしたのも,今度「学級委員」を設ける(記事は「こちら」)のも,そうした理由ですね。プレイヤーと目線の高さを同じにしたかったのです。立場は少々違うとはいえ,同じ生徒ということで。
鳥山氏: 運営者として出て行くのと,例えば学級委員としてプレイヤーと同じ目線で出て行くのでは,出てくる意見も違います。世界観を広げるために,プレイヤー自身がどうしていきたいかなどを聞かせてもらうには,同じ目線のほうがよいのかなと。
4Gamer: 確かにGMと呼ぶときは,世界観も何もあったもんじゃないですし,そもそも無条件にゲームの外の人と思われちゃいますよね。
古志野氏: しかも風紀委員も一人ずつキャラクターの設定が決まっています。この名前の風紀委員は髪の色が何番,肌の色は何番とか。そのため,"人気のある風紀委員"というのがいますね。
鳥山氏: 実は風紀委員同士の掛け合いで,関係性がかなり見えます。一種のキャストキャラクターとして働いてもらっているので。微妙な,一触即発の会話を繰り広げていたりとか(笑)。
4Gamer: そのやりとりはGMさん達が考えるのですか?
鳥山氏: そうですね。基本的にはGMさん達が設定を考えて,自分達が運営をしていかなければならないと周知徹底してやっています。
古志野氏: いわゆるGMが,普通のプレイヤーさんと廊下でダベってるのは,ほかのオンラインゲームにはなかなかない要素です。これから学級委員が出てくると,なんといっても20人体制ですから,面白いことになるかな,と。 いるのが当たり前,というところまで持っていけば成功。そして,ヨーグルティングはそれができるタイトルだと思っています。
■日韓共通のシステムと,ガンホー独自の運営要素
鳥山氏: 実際僕もラグナロクオンラインのゲームマスターから始めて,今は制作担当とかやってますけど,プレイヤーさんと運営側との関係をずっと考えてきたんですね。ヨーグルティングの場合,それがやりやすいコンテンツだったというところで,トライしてみようと。
4Gamer: 念のためにお聞きしますが,徘徊する風紀委員というのは,ガンホーさん独自のアイデアなんですよね。
古志野氏: これについては我々で,ぜひそういう世界観に合ったことをやっていきたいと。
4Gamer: 学校の違いで色を出していくといったことは考えていますか。
古志野氏: 今のところそれは共通でやっていますね。
4Gamer: ちなみに韓国では,GMはどのように振る舞っているんですか?
Ko氏: あまり表に出てこないで,ゲーム内のアイドル的存在になっています。韓国でもそうした遊び方ができる人はいますが,普通ではありません。最初に日本側の運営チームの話を聞いたとき,それは面白いな,と思いました。
4Gamer: システムは共通だけど,運営の仕方で各国に違いが出ると。
古志野氏: このあたりは培ってきた経験と,日本のプレイヤーの特性によるところかと。GMが出てくると喜ばれやすいという(笑)。
4Gamer: 20人というとかなり多いですが,サーバーを増やす予定などを見越してのお話でしょうか。
古志野氏: それもありますが,キャストキャラクターのみなさんは学生なので,自分の空いている時間につなげてもらう形になっているからです。
鳥山氏: 声優科の方々なので,アニメーションのキャラクターに自分の声で性格を付ける練習をされているわけです。それに加えて,今習っている声の部分を,オンラインの何かに生かせればという考えもあります。
古志野氏: 学級委員も一人一人性格や設定を作って,キャストキャラクターをNPCばりに確立するまで育てていきたいと。
4Gamer: 先ほどの話で,開発時に原案を提示するのはNTIX Soft側ということでしたが,これはキャラクター設定などについても同様ですか。
Ko氏: それはそうなのですが,最初にガンホーさんから「決めてほしい」と来た事柄は,NPCのスリーサイズとかでしたよ(笑)。そういうことはまるで決まっていなかったので,面白かったですね。
古志野氏: この作品のウリとしてストーリーを見せていくためには,バックグラウンドとか事細かく決めておいたほうがよいかと。日本なりのローカライズをするときにも,キャラクターのしゃべり方とか,バックグラウンドが見えていないと分からない部分もありますので。
Ko氏: ええ,そうした設定によって,作品としてのまとまりはかなり出たと思います。
鳥山氏: キャラクター設定があることで,枝分かれしたサイドストーリーが作れるようになるわけです。合意のうえであれば,こちらでアンソロジーとかも展開していける。そこで,ベース作りを共同で進めていたのです。将来的には,ガンホーで一連のエピソードを作って,実装していくとかも考えられますし。
4Gamer: すべてはキャラクター作りから始まるわけですね。では,最後に読者にメッセージをお願いします。
古志野氏: ここまでの会話を受けての話になるのですが,とにかく僕はストーリーを見ていただきたいんですよ。クエストを順番にやっていくと,自然にエピソードを追う形になります。さらにサイドストーリーが見えてきて,ストーリーに厚みが増します。クエストを追いかけていくと,ヨーグルティングが一層楽しめます。
鳥山氏: 今回東京ゲームショウでアップデートの概要を発表させていただきましたが,そこからも分かるように,今後の展開は非常にスピーディです。予定されたアップデートを一日でも早くお届けできるよう,がんばっていきたいと思います。
Ko氏: いままでのMMORPGと違い,いろいろなことを試してみた作品です。ぜひ応援をお願いします。
4Gamer: 本日はどうもありがとうございました。
参加人数が変動する「エピソード」システムならではの開発上の困難や,豊富に使われたモーションキャプチャの秘密。そして,日韓共通のプログラムを使っていながら,まったく異なるサービス運営など,まことに興味深い話が聞けた。 とくに風紀委員や学級委員などキャストキャラクターをめぐっては,オンラインゲームの大きな魅力であるコミュニケーションのあり方,プレイヤーに提供される娯楽の形として,新しくかつ積極的なものと評価できる。 アニメーション作品などとオーバーラップする発想や展望を持ちつつも,"ライブ"でプレイされるゲームならでは形を打ち出しており,今後の発展が楽しみな提案要素といえよう。(Guevarista)
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