[E3 2006#075]物理演算技術&演算チップ「PhysX」の近況やいかに? AGEIAブースレポート
コアなゲーマーやコンピュータフリークの間で何かと話題を集めているのが,AGEIAの物理演算技術「PhysX」と,これをハードウェアでサポートする物理演算チップ「PhysX PPU」だ。すでに北米ではPhysX PPU搭載カードが出回り始めており,日本でも2006年5月中(つまり今月中)の発売が見込まれている。
| AGEIA Technologiesのブースで展示されていたBFG Technologies製のPhysX PPU搭載カード。日本でも2006年5月下旬に発売される予定だ |
■改めて確認する「PhysXとは何か」
物理演算技術であるPhysXについては4Gamerで何度か紹介しているが,ここでいう物理演算とは,物体と物体の関係を規定する演算技術のこと。例えば,カーブを曲がりきれなかった自動車が壁に当たったとして,速度や壁への進入角度から,自動車がどう壊れるかを求めるのが物理演算だ。 単純に「壁に当たった→走行不能」であれば,PhysXのソフトウェア技術を使ってCPUで処理できる。しかし,「まずボンネットがひしゃげ,その影響で全体的にシャーシがゆがんで,さらにナットが破損してタイヤが外れ,飛んでいく」などとリアリティを追求する方向でリアルタイム処理を行おうとすると,CPU負荷が高くなりすぎて,ゲームの体感に大きく影響してしまう。そこで,CPUとは別に,複雑な物理演算処理を行うためのチップとして用意されたのが,PhysX PPUというわけだ。
物理演算といえば,「Half-Life 2」でも採用された「Havok」なども有名だが,PhysXの面白いところ(そして注目を集めている理由)は,PhysX PPUというハードウェアによって,物理演算を高速処理できる点にある。その性能は,ソフトウェア処理時と比べて数十〜数百倍といわれており,例えばPhysXテクノロジーのデモ用ゲームタイトルとなる「CellFactor: Combat Training」では,従来では絶対に不可能だった,物理演算を多用した演出を全面的に実装。その演出効果の中には,これまでにはなかった種類の驚きと面白さが感じられるものが多く,次世代のゲームのあり方を感じさせてくれる“何か”がそこに存在するのは確かである。
CellFactor: Combat Trainingより,布状のオブジェクト。静的なものに見えるが,きちんと物理法則が働いており,攻撃によって穴を開けることが可能
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■気になるPhysXの将来性は?
Peter A.L.Evers氏
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E3 2006には,PhysXテクノロジーを各ゲームデベロッパに提供しているAGEIA Technologiesが出展しており,前出のCellFactor: Combat Trainingや,初の対応タイトルといって過言ではない「Tom Clancy's Ghost Recon: Advanced Warfighter」などを展示していた。 PhysX PPU搭載カードの価格は300ドル前後で,当初予定されていた価格範囲の最大値となっており,日本円では3万5000円程度になる見込み。ゲームに劇的な変化をもたらすとはいえ,ミドルクラスのグラフィックスカードを買えてしまう金額で,さらに対応タイトルでなければ効果を実感できないという制約もあるから,「物理演算カードにそもそも需要があるのか?」という疑問は,当然出てくる。そこで,今回は,PhysX PPU搭載カードの普及戦略を中心に,AGEIA Technologiesに話を聞いてみた。
応じてくれたのは,PhysXのマーケティング&広報を担当するPeter A.L.Evers氏。氏はここ1年のPhysXテクノロジーの歩みを説明しながら,「Unreal Engine 3」で採用されたことや,「プレイステーション3」のSDKに取り入れられたという実績を紹介。PhysX SDKが業界標準になりつつあるとしたうえで「2006年末までに20本以上の対応タイトルがリリースされる予定です。また,100以上の開発中タイトルでPhysXテクノロジーの採用が決定しています」と,今後について相当な自信を覗かせていた。
Tom Clancy's Ghost Recon: Advanced Warfighterより。PhysX PPUがインストールされたシステムでは,爆発の描写がよりリアリティを増す
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だが,一般的なゲーマーの視点で考えるならば,グラフィックスカードほどには“見た目”で分かりやすい変化をもたらしてくれるわけではないPhysX PPU搭載カードに,3万円を超える投資をする価値があるのかという疑問はぬぐえない。 さらにいうなら,価格から考えても,いきなりすべてのゲーマーにPhysXカードが普及することはあり得ないわけで,そうなるとデベロッパは,「持ってない」人への配慮を行う必要が出てきてしまう。であれば,爆発のエフェクトなどといった,「ゲーム性には直接関わらない部分」にしか,PhysXテクノロジーは使われなくなってしまう可能性がある。
確かに「見た目の演出効果がパワーアップすれば十分!」と思う人はいるだろうが,それはハイエンドのグラフィックスカードを購入するモチベーションと大して変わらない。要するに,その程度のニーズしかないのであれば,物理演算チップ的な機能が,グラフィックスチップに統合されたり,あるいはマルチコアCPUのいくつかのコアでまかなわれたりするようになるまで,爆発的な普及は望めないような気がしなくもない。 実際,前出の――AGEIA Technologiesからするとライバルになる――Havokは,“セカンダリグラフィックスカード”に物理演算処理をさせる新技術「Havok FX」を発表している。仮にHavok FXが成功するようだと,専用の物理演算カードの存在意義自体が問われることになってしまうことにもなりかねないのだ。
物理演算処理に関するPhysX PPUの性能的なアドバンテージについて,少なくとも現時点で疑いの余地はない。あとは,その圧倒的な性能を駆使したキラータイトルが,どれだけ登場してくるかにかかっているといえるだろう。物理エンジン(物理演算技術)そのものは,今後ゲーム世界を豊かにするための技術の一つとして,今後も普及していくだろうが,その流れのなかで,ライバルに先んじてゲーマーやデベロッパを巻き込んでいけるか。ここがAGEIA Technologies,そしてPhysXの勝負の分かれ目になると思われる。
いささか今後の課題を強調しすぎてしまったが,先ほども述べたように,PhysX PPUのもたらす効果それ自体は,誇張なしで非常に素晴らしいもので,ゲーマーとして心躍らされるものであることは間違いない。2006年3月23日の記事では,対応ゲームのムービーを紹介しているから,興味がある人はぜひ一度見てみてみよう。PhysX PPUのポテンシャルを実感できるハズだ。(TAITAI)
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Ghost Recon Advanced Warfighter 日本語マニュアル付英語版 |
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