会場となったのは,徳岡氏が所属するアトリエサードのイベントスペース「タナトス6」。舞踏や演劇,ときにボードゲーム関連のイベントも開催される,ちょっと個性的な空間だ
聞く人ごとに,思い浮かべるエピソードが違うだろうなと思えるほど,blog論客「切込隊長」こと山本一郎氏の活動は,さまざまな場面で人目を引いてきた。大型掲示板「2ちゃんねる」におけるひろゆき氏との協力と訣別しかり,経済と投資に関する何冊もの著書しかり,である。
その一方で山本氏は,ゲームデベロッパ イレギュラーズアンドパートナーズの代表として,システムソフト・アルファーのSFストラテジー「インペリアルフォース2 cosmic interceptor」をはじめとするゲームの制作を手がけており,自身のblogサイトである「俺様キングダム」ではしばしば,氏が最近プレイしたゲームについての所感が披瀝されている。そうしたblog記事を比較的頻繁に賑わしたゲームが,ほかでもないWWII戦略級ストラテジー「ハーツ オブ アイアンII」および「同ドゥームズデイ」であった。
PCゲーム業界に深くコミットし,おまけに上記2作品(いや,事実上1作品だが)をやり込んでいるとなれば,話を聞いてみない手はないだろう。そこで,当サイトを舞台に「ハーツ オブ アイアンII」で存分に暴れてくれた,ご存じアトリエサードの徳岡正肇氏と引き合わせる形の対談企画を実現させてみた。
話題の重みで重力場が歪みそうな展開になるかと思いきや,ある種必然的ともいえる二人の共通体験から,話は意外な方向に広がっていく。実にいろいろな楽しみどころが見いだせるやりとりを,ご一読いただきたい。
4Gamer:
お二人とも,本日はよろしくお願いします。話の口火というわけではありませんが,山本さんと「ハーツ オブ アイアンII」という取り合わせの話から入らせていただければと。
山本さんはきっと,この手のストラテジーゲームとは並々ならぬ因縁がある人だろうと想像しながらこの場に臨んでいるわけですが,実際のところ,ストラテジーゲームとの絡みはどんな感じなのでしょうか?
切込隊長:
「ハーツ オブ アイアンII」については何度かblogのほうにも,「プレイヤーにどうにもできないゲームってなんだろう?」みたいなスタンスで書かせてもらっていますが,もともと私はボードゲーム大好き人間だったりするわけです。
そこで,昔から一緒にやってるメンバーに「ハーツ オブ アイアンII面白いよ」みたいなことを言って,「じゃあネットワーク対戦をやろう」ということになりました。
4Gamer:
なるほど,やはりボードゲーム体験が基礎になっていましたか。そうなると確かに,一緒にプレイできる仲間がいるというあたりも,すんなり納得できますね。
切込隊長:
ええ。それで最初6人くらい集まって始めたのですが,ご多分に漏れず不正終了で落ちやがりまして(笑)。……どうも話を聞いてみると,これはどうしようもないらしいですね。例えば1936年にドイツがデンマークを併合すべく作戦を開始すると,そこで必ず不正終了するとか。
ただ,昔ボードゲームの「D-DAY/ノルマンディ上陸作戦」や「ワーテルロー」(※)をやったときの繁雑さを考えたら,このくらいの困難は大したことない部類だと思いました。
※「Wellington's Victory」ないし「LA BATTAILE DE MONT SAINT JEAN」といった,両軍合わせて2000ユニットくらいでプレイするボードゲームを指す。
徳岡正肇氏:
そこはまったくそうですね(笑)。
切込隊長:
そこで今度は11人くらい集めて再挑戦しまして。いや,これも結局不正終了しちゃったんですけど。そうした試行錯誤の産物を,ときにblogで披露してきたわけです。
ただまあ,どうしても時間はかかりますね。みなさんそれぞれにプレイスタイルが違いますから。どうやって担当国を決めるかから始まって,担当国の状況に応じて戦略を立てるのにも時間が必要ですし。ゲームパラメータ上,組んでも意味がない外交関係もあるので,それを取り払ってみたら,今度は日常的な人間関係がプレイにガッチリ組み込まれてしまったりして,なかなかそれっぽく動かない。
4Gamer:
マルチプレイヤーズゲームが抱え込まざるを得ない命題がてんこ盛りですね。徳岡さんも確か,以前マルチプレイを企てていましたよね?
徳岡正肇氏:
そうなんですよ。ただ結局メンツが集めきれず……。
4Gamer:
山本さんがblogで書いていた,36時間対戦に参加してくれる仲間というのは,どういった方々なんでしょうか?
切込隊長:
大学時代のサークル仲間ですね。どの大学にもいた“ボードゲームバカ”達なんですが,そのうちの一人が,IT企業の研修ルームを使えるポジションにいたわけです。「これはいい!」ということで,そこを土日に借りきって,やった次第です。
4Gamer:
場所の問題も気になっていたのですが,いまのお話で疑問が氷解しました。なるほど,研修施設ってのは妙案ですね。
切込隊長:
英語版を人数分買い,インストールしてLAN対戦を始めてみると,先ほど述べたとおり落ちまくる。誰かがポーズを掛けると,それが引き金になって落ちるらしいことが分かってきたり。そこで進行速度に「遅い」を選択し,どんなにヒマでもそこに座っていなければならないというルールにしました。
4Gamer:
うーん,なかなかきついけど仕方ないですね。
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「Hearts of Iron II: Doomsday」(英語版)の画面。ただしこれは,体験版のドゥームズデイキャンペーンのもの |
切込隊長:
貿易バグとか,傀儡化した国の資源の貢ぎ方にもバグがあります。輸送艦の行動半径無視といったAIチートがあるぶんだけ,AIが担当する傀儡国家を抱えたほうが有利になるとかね。そうした裏技の利用を話し合いで禁止して,スタートするまでにだいたい4時間です。
4Gamer:
事実上のブリーフィングに4時間?
切込隊長:
そう,4時間。そうしてようやく始まると,スパイを送り込む音がそこかしこから聞こえだす(笑)。
4Gamer:
これで正常に動きさえすれば,誰もが夢見た光景の実現なんですけどねえ。
徳岡正肇氏:
Paradox Entertainmentも,そこまできちんとマルチプレイの検証をしているとは思えないので……。
切込隊長:
そうなんですよ。1回「日本のプレイヤーなんだけれども,マルチプレイがどうしても動かない」といった問い合わせをしてみました。けれどそれに対しては「申し訳ない」という回答しか返ってこない。「無理です」と。
徳岡正肇氏:
まあ,シングルプレイですら,落ちたり誤動作したりしますからね。
切込隊長:
ただ,やっぱりここまでできるってことはゲーマーの夢であって,アクション性が強いRTSで無事に対戦ができることとは,全然別の意味があるわけです。
4Gamer:
例えば戦力の損耗が2割に達した時点で普通の軍隊は……。
切込隊長:
無条件で撤退する。そうした現実と比べたとき,普通のRTSはやはり違うものです。ボードゲーム以来の夢がきちんと引き継がれているという意味で,ハーツ オブ アイアンIIでしばらくそれを追求してみました。
4Gamer:
本当に正常に動いてくれれば,なんですけどね。
切込隊長:
ですから,開発元にはぜひ,対戦部分をチェックして作り込んでいただきたいと強く思います。
4Gamer:
ただ,blogに掲載されていた対戦では,割ときちんと勝敗が着いていましたよね?
切込隊長:
あれはですね,毎回何度も立ち上げ直したりした成果です。日本が1939年に自動でアメリカに宣戦布告してしまうバグとかもあるんですが,これが起きるとデータが壊れてしまうので,そうなったらやり直しなどと決めておくしかないのです。
徳岡正肇氏:
(苦笑)
切込隊長:
なにしろプレイヤーが担当していても,勝手に宣戦布告しちゃいますからね。それ以外にも,いくつか致命的なバグがあります。
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割と無茶な対米宣戦布告をすることで知られる,日本とその宣戦布告シーン |
4Gamer:
それらを堪え忍んで,初めてプレイが成り立つと。
切込隊長:
そうです。もう5回くらいやりましたかね。逐一リプレイ記事にしているわけではないのですが。
4Gamer:
それらのうち,記事になっているのは……。
切込隊長:
2回目と3回目です。1回目はもうどうしようもなくて。1回目の後に開発元にバグをレポートして,貴重なサポートをある程度受けた後で検証し,「なんとかなる」と判断して集まり直したのが2回目です。
このときも1941年か1942年でポシャッてしまったんですが,やり直したらどうにかいけたという。
4Gamer:
うーむ。文字になっていない取り組みが,背後にかなり控えていたわけですね。
切込隊長:
はい。そこはもう塗炭の苦しみだったわけですが,先ほど述べたとおり,「インペリウム」などといった大作ボードゲームで,コマを並べ直すだけで5時間とか使っていたことに比べると,苦労は少ないほうです。プレイヤーとして参加できないジャッジ役も要りませんし。
4Gamer:
眠くなってスタック(積み重ねたコマの山)を倒して……。
切込隊長:
終了,とかありますからね。まあかつて,スタック束を動かすのが楽しみだったことの再現ですよ(笑)。「ワーテルロー」でルーアン街道からスタックの山が粛々と近づいてくるとか。
4Gamer:
手で動かす1400ユニットとか,どうなの? という(笑)。
切込隊長:
それにマーカーが加わりますからね。何かの拍子で倒れたとたんに,もうゲームは終わりです。それに比べれば,不正終了なんて大したことないよな,と。
徳岡正肇氏:
まだ小さい問題ですよね。
切込隊長:
10か月よりも短い間隔で自動セーブさせると,どうもバグるらしいんですよ。そういう問題は逐次,プレイヤー間でのルールにして対処します。
開発元のサポートを受けたとき,「半年以内など,短い間隔でセーブすると不正終了しやすい。原因は分からない」といった回答が来て。じゃあ試してみようというノリです。
4Gamer:
げ,原因は分からないって……。
切込隊長:
仕方がないので10か月以内のセーブを禁止して。実際それで,だいぶ落ちなくなりました。
4Gamer:
不正終了で失うゲーム内時間は,長くても10か月ほどに抑えられたわけですか。
切込隊長:
そう。黎明期のMMORPGに比べたら,短いものです。
4Gamer:
巻き戻りとか,どうにもできなかったですからね。
切込隊長:
そうした不具合に慣れた,耐性の高いプレイヤーが揃っていた時代というのも,そう悪くなかったなあと思いますけどね。
4Gamer:
メンテナンス直前で,確実に「なかったこと」になる時間を,ふだんできないことを試すのに使ったり。
切込隊長:
ええ,ええ,ありました。いろいろ悪いことしたりね。