4Gamer:
このあたりで少し趣を変えて,あらためてお聞きしたいのですが,山本さんはほかのParadox作品もプレイしますか?
切込隊長:
ええ,やってます。「ヨーロッパ ユニバーサリスII」とかもやっていますが,あれの“反乱祭り”にはよく苦しめられました。ゲームバランス的に,さすがにあれはいかがなものかと(笑)。
徳岡正肇氏:
巨大帝国が,彗星一つで滅びますからね(笑)。
切込隊長:
そして案の定,アジア方面のイベントはかなりテキトーですし。
徳岡正肇氏:
そこは……やむを得ませんね。「アジアチャプターズ」にしても,あれはあれでイベントの取捨選択に問題がありますし。日本で戦国時代を再現するのに,富樫氏に関連したイベントはそんなに重要なものなの? とか。
切込隊長:
歴史ゲームである以上,どこまでを再現し,どこから先を枝葉末節として捨象するか,そこでのジャッジは大変だけど,これをしっかりやらないと不思議なゲームになってしまいます。
|
|
「ヨーロッパ ユニバーサリスII アジア チャプターズ 日本語版」における,明帝国とその“反乱祭り” |
徳岡正肇氏:
ボードゲームの例ですが,例えばディテール面を極めていった旧SPIの作品がどこに向かってしまったかというと,「プレイしなくても結果が分かっているゲーム」ですし。
切込隊長:
どう粘るか,どこまで善戦するかがすべてだという。
徳岡正肇氏:
そうです。ヘタをすると,そこでプレイヤーにできることすら,ルールで縛られています。「アザンクール」が典型ですが。
切込隊長:
拡張してみても,なかなか異なる結果が出ない。
徳岡正肇氏:
一部のコマについては,最低進出ラインが決定されていて,「○ターンまでにここまで来い」。歴史性とゲーム性の衝突は,割といかんともしがたいかと。
切込隊長:
かといって自由度を上げてしまうと,今度は“キャラクターゲーム”になってしまう……。基本的な難度の問題と併せて,コンピュータゲームではなかなか難しいところです。
徳岡正肇氏:
戦略級にまでスケールが上がっていくと,歴史性とシミュレーション性とゲーム性,この三つの兼ね合いが出てきて。全部を成り立たせるのは難しいように見えます。
身もフタもない言い方をしてしまうと,史実は往々にしてシミュレーション的でないんですよね。
切込隊長:
そうですねえ,まったく。
徳岡正肇氏:
数字だけを追っていったのでは,絶対に起こるはずのないことが起こる。そういう非対称な部分が歴史にはある。とはいえ多くの局面は,予測可能性の範囲に収まっているわけで。
切込隊長:
ハーツ オブ アイアンIIの内部にもそれがあって,量的側面だけで見れば,フランスはドイツに攻め込まれても戦線を維持できたはずです。ところが,ゲームをそう作るわけにいかない。
徳岡正肇氏:
そこで個別の歴史性を諦めて,シミュレーション性で全体をうまく動かしたのが,旧システムソフトの「天下統一」です。
切込隊長:
誰が勝ち上がってくるかはともかく,成長していった大名家は最後に必ず,天下分け目の戦いを迎える。あれは実に頭が良いですね。
徳岡正肇氏:
数に任せて攻めてくる敵の軍勢を,どう打ち破るかとかが,ゲームとして非常に盛り上がれる部分になっていましたし。
切込隊長:
プレイヤーは逆に,歴史性を体現した存在である,ゲーム内の有力大名に抗うことがゲーム性になっていました。
ハーツ オブ アイアンIIで,弱小国を使った生き残りを目指すのと同じノリなのですが,ゲーム側はやはり同じ種類の厳しさを備えていて。
徳岡正肇氏:
弱小国が満身創痍になりながら頑張っている。それはそれでロマンだけれども,シミュレーション的に正しく組まれたAIは,そんな国こそ攻め込むには都合がいいと判断しますね。
切込隊長:
もう,がっかりですよ。せっかく頑張ったのに(笑)。ポーランドで頑張って,ルーマニアに背中を刺されるとか。
|
|
連載初回,ポーランドでいろいろ頑張ってみたときの画面。生き残ることすら難しい国でも,あえてプレイ可能にしてあるのがこのゲームだ |
徳岡正肇氏:
逆に覚悟を決めて「今回はリトアニアで生き延びてやるぜ!」とか思っているときに,AIヒトラーがポーランドに宣戦布告しなかったり。
切込隊長:
真珠湾攻撃に向けて着々と準備を進める日本を尻目に,なぜか連合国がアメリカに宣戦布告,みるみるアメリカを占領していくカナダ軍,とかね。
徳岡正肇氏:
陸上兵力を作らないですからねえ,AIアメリカは。州兵もいないし。
4Gamer:
比較的シンプルなモデルを,スクリプトでそれらしく因果を付けて動かすのがハーツ オブ アイアンIIですから,そのタガが外れてしまうと……。
切込隊長:
そうですね。基本的な作りはボードゲームの思想に基づいていますので,実に無難にデザインされています。それを「えいや!」と組み合わせるときに,イベント的な帳尻合わせをやっている感じで,貼り合わせるのりしろを間違えると,たいへんなことになってしまうのです。
徳岡正肇氏:
まずシミュレーション的な手続きで組んでいって,後からゲームとして成り立たせるために手を入れるという形になっているのは,まず間違いないですね。歴史性を担っているのも,後から手を入れたところ,つまりはかなりイベントです。
ですから連続するイベントが破綻すると,連続的に崩壊が始まる。それはそれで歴史っぽく見えるのがミソなんですが。
切込隊長:
東欧のほぼ全域がユーゴスラヴィアになっちゃったり。
徳岡正肇氏:
ユーゴスラヴィアはこのゲームで,重要な地位を占めていますね。バルカン半島は「火薬庫」だといいますけど,いろいろな意味で爆弾が詰まっていて。
AIドイツが対ソ戦方針を採る大前提として,ユーゴスラヴィアがすでに地図上にないことが挙がっていますから。
切込隊長:
そのために,ユーゴスラヴィアが枢軸入りしても信用されないという,やや無理めのイベントまで用意されているのですが,これが発動しなかったときの惨状たるやもう。
そして,ユーゴ消滅の布石となっているのがアルバニアです。これが無事イタリアの手に収まっていれば,ルーマニアも枢軸側として参加し,結果としてユーゴは消える。これらがきちんと動いているときは「ははあ,そういう流れか」と納得がいくのですが。
徳岡正肇氏:
まかり間違って,アルバニアが生き延びていたりすると……。
切込隊長:
そう。守備隊が2か所に分散していました,とかね。
徳岡正肇氏:
アルバニアに対して,イタリアが領土要求を行わない可能性が,おそらく5%くらい残されてますよね?
切込隊長:
ああ,そのくらいかもしれないですね。
徳岡正肇氏:
そこから不思議歴史がスタートするわけです。だいたい,アルバニアの初期労働力設定が−20というのも,アルバニアを無事に併合させるための,強引な陰謀ルールに違いないわけで。
切込隊長:
それでも,何をどうやったのかAIアルバニアが守備隊を作っていたりすることがあって。そこに“上陸できない病”にかかったイタリア軍が攻めかかったりすると,もう。
徳岡正肇氏:
バルカン半島情勢がおかしな方向にいくと,ゲーム全体がおかしなことになる……。それはそれでリアルな気もしますが。
|
|
イタリアプレイで序盤に生じる,エチオピアとアルバニアの併合。後者に失敗すると,ヨーロッパ情勢はたちまち不思議な方向へ |
切込隊長:
それはそれで受け止めて,ですね。そのユーゴスラヴィアで何度かやってみたんですが,何をどうやっても滅びます。
オランダみたいに,何もできないで滅びていくわけではないですが,行き詰まっていくのが明確に分かります。まず不可侵条約が次々と切れていき,オーストリアが併合され,ハンガリーとはもともと仲が悪い。ルーマニアは枢軸に入り,じゃあユーゴも入るべきかと思うと,おかしなイベントで弾き出されてしまう。「こりゃまずいなあ」と思っていたところで,突然ソビエトに宣戦布告されたりとか。
徳岡正肇氏:
粘って持ちこたえていると,いきなり来ますよね。
切込隊長:
連合国に入ろうと頑張っても,まず入れてくれませんし。唯一使えそうなのが,アメリカとの同盟です。そのうえで,ギリシアあたりを巻き込めれば生き残れるのかなあ?
4Gamer:
すでにだいぶ斬新な世界秩序ですね。
切込隊長:
普通の展開で,イタリアに宣戦布告されると海上ルートが途絶しますから,希少資源がなくなって終わります。有効貿易パーセンテージが50%くらいにまで落ち込んだりして。
徳岡正肇氏:
スクリプト全体の話との関連でいうと,割ととんでもないことになっても,「これはこれでアリかなあ」と思わせるあたりは,良く出来ていますね。
切込隊長:
そうそう。「これはねえだろ?」という事態が頻発していても,アメリカが紆余曲折を経てきちんと連合国側で参戦したりすると,意外とOKに見えてしまう。……まあそれはそれとして,ポーランドは滅びるんですけどね(笑)。
徳岡正肇氏:
……ゲーム展開上避け得ないことはあります。Paradox作品の良さとして,たくみに乗りきっているとき,作戦が図に当たったときだけでなく,負け始めたら負け始めたで楽しいというのがありますね。「ああ,こんな風に負けていくのかあ」みたいな。
切込隊長:
負け方に納得がいく場合が多いですね。