特集 : 切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

前編:ボードゲームからコンピュータマルチプレイへ

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Text by Guevarista,Photo by 佐々山薫郁

 

批評性メディアとしてのストラテジーゲーム

 

切込隊長:

 いい話ですね(笑)。同じような話で,非常に迷惑なポルトガルといったパターンもあります。ポルトガル本国が何かの拍子で滅びちゃったりすると,首都が東チモールに移ります。これが邪魔で仕方ない。

徳岡正肇氏:

 ドイツでイベリア半島を席巻していて,パルチザンの活動が激しかったのでポルトガルを併合したいと思ったのですが,例によって東チモールだけが残りました。
 直接占領できないので,チモール島を舞台にパルチザン支援を進めていたら――って,このあたりでシャレにならないことに荷担している自覚はあったのですが――現地の人々が蜂起して,ポルトガル人を追い出しました。ただし,ついでにオランダ人も。
 このときドイツは中立オランダから石油を買っている状況だったのですが,産油地帯を含む東南アジアのオランダ領はパルチザンに次々と占拠されていき,とうとうオランダはドイツに石油を売ってくれなくなりました。

切込隊長:

 それはもう,かなり痛いですね。

徳岡正肇氏:

 ついにはインドネシアという独立国家が出来上がり,旧宗主国オランダと関係が深かったドイツは,もちろん嫌われっぱなしです。実に身につまされる因果応報ぶりでした……。
 ともあれ,ドゥームズデイで導入されたパルチザン支援は,さまざまな妄想に形を与えてくれる,使いでのあるルールですね。

切込隊長:

 パルチザン支援と政権転覆は,ちょっと効きすぎるのでマルチプレイでは禁止にせざるを得ないんですけどね。

徳岡正肇氏:

 領土の少ない国は,パルチザン支援だけで滅ぼされかねないですからね。

パルチザン支援は有効かつ興味深いプレイ要素だが,しばしば収拾のつかない事態を引き起こす

 

切込隊長:

 逆に有害な閣僚は,どこかのエージェントに暗殺(※)されてほしいという話も出てきます。

※閣僚の暗殺も,ドゥームズデイで加わった新ルール

 

徳岡正肇氏:

 ただ,それもめぐり合わせ次第で,例えば陸軍大臣を兼ねたタイミングでスターリンを暗殺しちゃったりすると,むしろスターリンより優秀な後継者に苦しめられたりとか。「ICマイナス5%」は,敵の元首にはぜひ持っていてほしい能力ですからね。

切込隊長:

 スターリンといえば,大粛正で死んでほしくない将軍ばかりバタバタと死んでいくときとか,実につらいです。

徳岡正肇氏:

 あれは一部ランダムですからね。スターリンが暗殺されて大粛正イベントそのものが起きないと,そもそも国民不満度上昇も起きないですから,ソビエトとしては良いことづくめです(笑)。

切込隊長:

 そうすると,抜き身で「スキル5」とかいう大人げない将軍が,普通に戦車に乗ってやってきたり。非常に困ったことです。また,よく分からないのが,スターリンの身に何かあった場合,なぜかヨルダン独立イベントのフラグが立ったりすることです。

徳岡正肇氏:

 あれは絶対に,イベント番号指定の間違いだと思います。制作側もすべてのイベントの因果関係を把握していない気がしますし。
 もう少し深刻な例として,ドイツがヴィシー・フランスを立てないと,日本軍の北部仏印進駐イベントが起こらず,日本が対米宣戦布告しないため,ドイツはアメリカを敵に回さずに済むとか。個々のイベントの因果関係は間違っていないのですが,これをプレイヤーが学ぶと,計画的に利用できてしまうので。

切込隊長:

 中国共産党の宣戦周りでも,おかしいときがありますよね?

徳岡正肇氏:

 あります。中国関連の宣戦フラグはとにかく不可思議で,AI中国が“固有の領土”と見なしているプロヴィンスを1か所でも占領していると,無慮宣戦布告される可能性が生じるようです。ちなみにその範囲には台湾も入っていますので,アメリカが台湾を解放したりすると,ときにたいへんなことが起きます。

切込隊長:

 あと,ズデーデンラントの割譲要求をしなかったときに,不思議なヨーロッパになりやすいとか。

徳岡正肇氏:

 ああ,なりやすいですね。

切込隊長:

 スペイン内乱で国粋派がさくっと勝っちゃったときとか。ドイツと仲が良いせいか,国粋派がポルトガルに宣戦布告し,今度はポルトガルが連合国に加わったり,アメリカと同盟を結んだり。非常にややこしいことになります。

徳岡正肇氏:

 イベリア半島一帯が中立に留まることが,AIスクリプトの行動方針上の大前提であるらしいだけに,ギャップが大きいですね。何度もプレイしましたが,AIスペインが枢軸陣営に入るのは1回しか見たことがありません。

切込隊長:

 そうですね。まるで違う世界だと思っておかないと,対応できませんから。

4Gamer:

 ドイツが引き起こす,一連の国際的な大事件も,かなり入り組んでいるようですね。

徳岡正肇氏:

 オーストリアの併合が拒絶される流れとは別に,併合要求そのものが行われないパターンもありますからね。連載ではまさにそれにぶつかりましたが。
 ドイツの一部となれば,もちろん役に立つのですが,同盟国としてのオーストリアは実に使いづらい……。1918年式歩兵や,騎兵がいっぱいいたりして。

切込隊長:

 順調に成長してくれた場合でも,よせばいいのに今度は「石油消費+0.1」の1945年式歩兵を溜め込んでくれたりして。

徳岡正肇氏:

 石油で苦しむことが確定している国だと,歩兵は1943年式までに留めざるを得ないから,こっちはわざわざ山岳歩兵を選んでるのに。

切込隊長:

 山岳歩兵師団に,随伴旅団として砲兵を付けるとか。工兵とかもう,もってのほかです。工兵の最初の型は,以前は使いまくったものですが。要塞を片っ端から攻略できましたし,山岳歩兵に工兵旅団を付けたり。

徳岡正肇氏:

 渡河攻撃で,攻撃先の地形が山岳とかでも,なんとかなりますからね。

切込隊長:

 あれができなくなってから,フィンランドは生き残れなくなりました。マンネルヘイムラインでなく,森と丘のところに防衛線を引くと,以前はかなり善戦できました。

前作におけるフィンランドの奮戦。冬戦争の終結直後と,その後カレリア地峡を舞台に展開された,ソビエト軍への抵抗

 

 

マルチプレイにおける他プレイヤーとは

 

4Gamer:

 blogのマルチプレイ記事でも,フィンランドをやってましたよね?

切込隊長:

 ええ,あのときはドイツとソ連とイギリスが全部プレイヤーで,協力関係を成り立たせるために政体スライダーを動かしていったのですが,そうすると自分から戦争を仕掛けられるようになって。そこでスウェーデンを占領したりとか。
 「Red more than Dead」(※)なんて言ってる場合じゃなくて,自ら他国に介入しまくりでした。

※「死ぬよりは赤化したほうがマシ」。ソビエトに近すぎたフィンランドの,苦しい地政学的立場を端的に表現した言葉

 

4Gamer:

 「スウェーデンをフィンランド化」(※)とか,よく分からないですよね(笑)。

※「フィンランド化」は,軍事的脅威をちらつかせることで,相手を政治的に同化することなしに従属国化することを指す政治学用語。この場合フィンランドは,スウェーデンを併合しているが「フィンランド化」したわけではない。念のため

 

切込隊長:

 最終的には共産フィンランドから枢軸フィンランドに切り替えて生き残ったわけですが,あれはもう「ディプロマシー」(ボードゲーム)の世界でしたね。

4Gamer:

 マルチプレイでの生き残り条件は,このゲームでも世渡り的なものになりますか。

切込隊長:

 4回目,5回目のプレイはある程度まともな展開になったんですけれども,このときは誰がどの国を担当しているか明かさなかったのがポイントでした。
 担当国はクジ引きで決めていますが,互いに担当国が分からないようにして,チャットもナシにしたわけです。けっこう緊張感溢れるものになりました。

4Gamer:

 プレイヤーも,プレイの展開を決めるインフラの一つだったと。

切込隊長:

 そう。大きなイベントが起きて,誰かが叫んでたりすると「あいつあそこじゃねえのか?」とか思ったり。そういった意味で,顔の見えない本当のオンラインプレイのほうが,面白いかもしれません。

徳岡正肇氏:

 マルチプレイはなんだかんだで,いろいろ約束事を決めないといけないものですね。

切込隊長:

 各自のPCから聞こえてくる,スパイを送り込むときの音だけでも,情報として参考になっちゃいますからね。いまスパイを送り込んでいないのは,資金の乏しい国の担当者ではないか? とか。
 それはそれとして,諜報要素はゲーム内で本当に重要です。「情報力+5%」の閣僚は役に立ちます。どこにどの程度の敵部隊がいるか,分かっているのと分かっていないのでは,全然違いますから。

徳岡正肇氏:

 ドゥームズデイで一番大きくゲーム性を変えたのは,なんだかんだいって,他国の軍備が見られなくなったことでしょうね。

切込隊長:

 送り込めるスパイの数が自国の情報収集能力を決めるとなると,今度は資金捻出が問題になってきます。そこで,IC配分をコンピュータ任せずにせず,最も効率的になるよう直接コントロールしたりとか。

送り込んだ工作員の人数によって,情報の精度が変わる

 

徳岡正肇氏:

 コンピュータ任せだと,物資が足りなくなりますしね。常にぎりぎりの生産能力しか割り当てようとしないから,事あるごとに不足が生じて,予定どおりの量が確保されない。

切込隊長:

 便利そうに見えて,実は現実的でない点ですね,そこは。また,独裁制に寄せていくと,生産財の需要そのものが減って,逆にICを効率的に活用できなかったりとか。

 

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 山本氏がblogで取り上げているマルチプレイの話題から,それがボードゲーマー共通の夢であったこと,「ハーツ オブ アイアンII」が持つボードゲーム性,そして,プレイヤーなら多かれ少なかれ体験しているであろう,印象深いプレイシーンへと,対談の話題は移ろっていく。
 この続きとして,5月2日に掲載予定の後編では,国内ストラテジーゲーム市場と,そこでハーツ オブ アイアンIIのヒットが持つ意味,そして,変革期を迎えつつあるボードゲーム業界から学べることはあるか,といった話題をお送りする。

 

 

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タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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