連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年1月17日掲載

 サンフランシスコで開催されたMacworldの会場へ出かけて,現在のMacintoshのゲームシーンについて取材したので報告しよう。全世界で累計7000万台のiPodを販売し,コンピュータ企業から家電メーカーへの脱皮を図りつつあるApple。今後,同社はどのようにゲーム市場に影響を及ぼしていくのだろうか。Macユーザーでない読者にも,十分に興味の持てる話題であるはずだ。

 

最新Macゲーム事情2007

 

ATIもBlizzardもいなかった今年のMacworld Expo

 

今年のMacworld ExpoのGaming Experienceコーナーは,「World of Warcraft: Burning Crusade」のような目玉タイトルがなく,対戦ゲームのトーナメントも行われておらず,どこか物足りなさを感じずにいられない

 現地時間の2007年1月8日から12日までの5日間,カリフォルニア州サンフランシスコにおいて開催されたMacworld Expoは,Macintosh専門誌“Macworld”などを出版するIDGが主催するもので,今年で21回目を迎える。
 今年は,“コンピュータ会社”のイメージから脱却するために,正式社名をApple ComputerからAppleへと変更し(※1),iPodの機能も持つ携帯電話「iPhone」などの新製品を発表。一般紙やテレビニュースでも報道されるなど,Appleが事前に期待していたとおりの評判になっているようだ。
 とはいえ,コンピュータに特化した展示会は急速に客足が伸びなくなっているのはCOMDEX(※2)などを見ても明らかであり, Macworld Expoでも,毎年恒例となっている同社CEO,Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏の基調講演を除けば,それほど混雑した印象は受けなかった。

 確かに,ゲーマー的な視点から見ても,今年はどこか気の抜けたような状態になっていた。会場となったサンフランシスコのモスコーニー・センターは,北と南に分かれた二つのホールからなる施設であり,今年はMac用のソフト/ハード開発者は,AppleやIntelのブースを中心とするサウスホールにすべて収容され,これまでサウスホールの隅にあったゲーム専用エリアがノースホールへと移動した。ここは,ゲーム以外にも,音楽やワイヤレス通信を楽しめるエリアである。
 これだけなら,ただの区画変更にも思えるが,ノースホールに行ってみると,ここ数年ゲーム専用エリアを賑わせていたLAN対戦ブースが存在していない。しかも,常にWindows版とMac版を同時リリースするなど,長年にわたってMacゲーマーの力強いサポーターとなってきたBlizzard Entertainmentが,発売直前の「World of Warcraft: Burning Crusade」の展示を見合わせたことも,ファンにとっては残念だったろう。
 さらには,Mac用のグラフィックスカードをリリースし,Appleとの絆が固いAMD――と書くと分かりにくいが,要するに旧ATI Technologiesのことで,以下便宜的にATIと呼ぶ――も,今回は展示ブースを置いていないのだ。ATIは2006年だけでも10種の新製品を発売しているが,同年10月にAMDに吸収されたドタバタが影響しているのかもしれない。もっとも,ATIはOpenGLコンソーシアムを通して今後もMac用グラフィックスカードの開発は続けていく見込みで,2007年前半には,ATI Radeon X1900シリーズの投入も予定されているとのことだ。

 

※1

日本法人の社名は1月17日現在アップルコンピュータ

※2

アメリカで春(アトランタ)と秋(ラスベガス)に開催されていたコンピュータエキスポ。参加者や出展企業の減少を理由に,2004年以降は開催されていない

 

 

Mac用ゲーム“御三家”の動向は?

 

 さて,Mac用ゲームで大きな存在感を見せつけてきたのが,Aspyr Media,Feral Interactive,そしてFreeverseの“御三家”である。彼らは,どのような新作をMacworld Expoで紹介していたのだろうか。
 まず,Windows用ゲームでも知名度の高いAspyr Mediaは,2006年末にリリースした「The Sims 2: Pets」(PowerPCおよびIntel搭載Mac用)の展示が,かなりの人気を呼んでいた様子だ。このほか,「Call of Duty 2」や「Civilization IV: Warlords」といった作品を発売済みで,大手メーカーの数々のヒット作が会場で遊べたのは頼もしい限り。
 しかし,Macworldで一番の人気だったのは,会場で制作発表されたばかりなのに,数日中には店頭販売されるという「Prey」である。発売当初からMacintosh専用オンラインゲームサービス「GameRanger」に正式対応したソフトとなる予定で,コアゲーマーの支持を得そうな気配だ。

 

画面は,Macworld初参加の開発チーム,Bongfishによるスノーボードシム,「Stoked Rider: Alaska Alien」。AGEIA Technologiesの物理エンジンを採用し,自分の思いどおりのコースを作ってさまざまな技を繰り出すことができる

 後発ながら,イギリスに本部を置くという地の利を生かし,Eidos InteractiveやUbisoft Entertainment,Electronic Artsのヨーロッパ支部などとの関係を深めているのがFeral Interactiveだ。今回のMacworldでは,「Imperial Glory」や「Chessmaster 9000」,そして「The Movies」など,最近リリースされたばかりのヨーロッパ産ソフトを展示していた。
 また,前作はAspyr Mediaからリリースされていた「Lego Star Wars II」のプレビューデモも,ブースでかなりの集客力を見せたタイトルだ。会場で展示はなかったものの,Windowsでリリースされた「Colin McRae Rally 2005」を大幅にアップデートした「Colin McRae Rally: Mac - Second to None」も,Feral Interactiveが発売する期待の一作と言えるだろう。

 最後に紹介するFreeverseは,「Heroes of Might & Magic V」のようなWindowsタイトルの移植ばかりでなく,Mac専用のゲームソフトを独自開発するメーカーだ。会場では,魔法の宝石やマスクなどのパワーアップアイテムを集めながらミニゴルフを楽しむ「Tiki Magic」や,数種類のクイズを楽しめる“脳開発”系のゲーム集「Big Bang Brain Games」などを紹介しており,そのユニークさが注目を集めていた。

 

 

少しずつ変化の見られるMacゲームシーン

 

 以上に挙げた以外には,MacSoftが「Microsoft Age of Empires III」を移植しているのが目を引くところ。Age of Empires IIIは,ご存じのように,Havokエンジンによる物理効果が魅力的なストラテジーゲームだが,HavokはMac OSを正式にサポートしていない。つまり,彼らは独自に対応しようとしているわけで,そうした力の入れ方がMacゲーマーにとって頼もしく映る。

 今回,気になったのが,BongFishというオーストリアの開発チームだ。設立されてすでに10年ほど経っているらしいが,2004年にScience Park Grazという企業に買収されて資金的な余裕を得,ここのところはスノーボードゲームの開発に力を入れている。会場では,Windows用が2007年冬にリリースされる予定の「Stoked Rider: Alaska Alien」を紹介しており,これは,技を競い合うアクションに加え,自分でコースの制作などもできるサンドボックス型のゲームシステムを併せ持った作品となる。

 

デスクトップから携帯型デジタル音楽プレイヤーのiPod,そして携帯電話のiPhoneとフィールドを広げるApple。今後のMacゲームはどうなっていくのだろうか?

 対戦ブースがなかった今回のMacworldのゲームコーナーだが,iPod用ゲームの展示があったのは特筆に値するだろう。iPodには操作用のボタンが少なく,ほとんどのソフトが片手での操作を基本的とするため,それほど複雑なゲームが用意されているわけではないが,展示されたタイトルの中ではElectronic Artsの健闘が際だっていた。
 Electronic Artsは,「Mahjong」や「Tetris」など,2006年9月以来,11タイトルにも及ぶiPod用ゲームソフトを市場に投入している。1作あたり5ドル(約600円)と,単価は低めながら,全世界で7000万台が発売されたというデバイスを,モバイルゲームの重要なターゲットとして位置づけるのは当然だろう。なにしろ,2005年度には3億9300万ドル(約471億円)の収益を計上したElectronic Artsだが,実にその14%近くがモバイルゲーム用タイトルによるものなのだ。今後,その傾向はますます強まっていくだろう。

 Mac,iPodに次ぐ新たなプラットフォームとして期待されるiPhoneではあるが,現状では,サードパーティによるアプリケーション開発の門戸はあまり大きくは開かれていない。正直なところ,ゲームを含めたアプリケーションでの大きな発展を期待することは難しいと言わざるをえないだろう。さらにiPhoneは,iPodと同じくAppleにライセンス料を支払うクローズドなプラットフォームであるために,どれだけのソフトが供給されるのかも未知数である。
 とはいえ,そのコンセプトや機能から見ても,大きな魅力がある製品であることも事実。今後のモバイルゲーム市場急成長の起爆剤となる可能性は,十分にあると見るべきだろう。

 

 


次週は,“少し変わった”ゲームを紹介します。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。新年なので,低反発性で衝撃吸収力のある“メモリーフォーム”というマットレスを導入した奥谷氏。新年とマットレス購入がどういう関係にあるのかは不明だが,寝ると体型どおりにくぼみ,隣で奥さんが寝返りをうつのも気にならないとか。奥谷氏は相当気に入っているらしく「なにより体温が逃げにくくてあったかいのが良い」と話すのだが,夏場はいったいどうするつもりなのでしょうね?


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