連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年4月11日掲載

 あの国際連合(国連)が再びゲーム開発に乗り出した。それは,現在公式サイトで無料公開されている「Stop Disasters!」という,与えられた地域を整備し,来る大災害の被害を最小限に留める,という目的のシミュレーションゲームだ。

 

国連が再びゲーム開発に乗り出した!

 

国連機関プロデュース第2弾は防災がテーマ

 

「災害リスクの軽減は学校から始まる」という標語のもとに「Stop Disasters!」を制作して,青少年の防災教育を行っている。国連機関がゲームをプロデュースするのは「Food Force」以来2作目だ

 軍隊,放送局,NASAに社会福祉法人……,欧米では,ゲームが教育や啓蒙活動の一環として取り入れられていることが珍しくない。とくに,国連機関の一つである世界食糧計画(WFP)がリリースした「Food Force」は,大きな賞賛とともに成功した良い例だろう。Food Forceは,飢餓状態にある地域の人々に対してWFPが行っている活動を,多くの人(とくに青少年達)に理解してもらおうという趣旨で開発された無料のゲーム。コナミによって開発された日本語版もある。詳しくは,「第35回:国連がゲーム開発に乗り出した!」や,「第113回:今,教育ゲームが熱い」などを読んでもらいたい。

 今回紹介するのは,同じく国連機関である国際防災戦略(ISDR)がプロデュースした「Stop Disasters!」だ。ISDRの活動は,災害の被害を減らすことや,災害を未然に防止するための知識を広めるというもの。2006年からISDRは「災害リスクの軽減は学校から始まる」(Disaster Risk Reduction Begins at School)という標語を掲げ,国際連合教育科学文化機関(ユネスコ),国際連合児童基金(ユニセフ)や各政府機関などと共同で,災害とその被害を減らす教育キャンペーンを,大々的に行い始めた。Stop Disasters!のプロデュースも,その延長線上にあるわけだ。

 

 

災害を未然に防ぐことの必要性を説く
シミュレーションゲーム

 

 Stop Disasters!は,津波,山火事,洪水,ハリケーン,そして地震という,五つの災害被害をできるだけ減らすというゲーム。3月に一般公開されており,Flashプレイヤーがインストールされていれば無料でプレイ可能だ。汎用性の高いゲーム再生環境であるFlashが選ばれたのは,多くの人に遊んでもらえるように,考慮されているからだろう。

 ゲームは非常にシンプルで,シナリオ別に用意されたタイルベースのマップに,与えられた資金を元に住居や防災施設を建設していく。病院や学校の設置は必須で,「○○人が住める町にする」とか「古い家屋を修復して災害に備える」「安全な水源を確保する」といった内容のミッションがあり,それらを達成しつつ,一定時間経過後に発生する災害への準備をするのだ。

 

Stop Disasters!は,津波やハリケーンといった災害に対して,事前に対策を整えておくことで,被害を最小限に留めるのが目的のFlashゲームだ。ちなみに,津波は英語でもTsunami。日本語がそのまま英語になっている

 各シナリオは,大,中,小の3段階でマップサイズを選べるようになっており,管理しやすい小さいマップほど難度が低く,大きいほど高い。災害後に維持しなれけばならない建物数や,死者数,被害額の上限が課せられており,プレイヤーはこの条件を達成するためにさまざまな準備をする。
 シナリオの最後には災害が発生し,ミッションの達成状況や被害などによって,メダルと得点が与えられる。そして,得点とプレイヤーの希望する名前がFood Forceと同じように,公式サイトに表示されるのである。

 もっとも本作は,音声が波の音や鳥のさえずりなどに限定されていたり,マップ内の人々が動かなかったりと,単純にゲームとして見た場合のクオリティはあまり高くない。
 しかし,ハリケーンの被害を抑えるには屋根を強化する,水害対策には湿地帯の整備や消波ブロックの設置が必要,といったことを遊びながら学べるようになっていることに意義がある。さらに,「乾燥した日が続くときには火事に注意しなければならない」「潮が突然引いたときは,津波の可能性がある」といったコメントも表示されるようになっており,教育的な効果が期待できそうだ。

 

 

ゲームの社会貢献をアピールし,イメージの一新を

 

本作は,最新のゲームに慣れた人には演出面で物足りなさを感じるかもしれない。だが,このようなシリアスゲームこそが,ゲームの地位向上の鍵を握るのではないだろうか

 Stop Disasters!は,現在英語版だけしかないが,いずれフランス語や中国語にも翻訳されると思われる(公式サイトにアイコンが用意されている)。紹介した五つの災害以外のシナリオを公募しているので,干ばつや土砂崩れなど,新しい災害が追加されていくのかもしれない。
 このサイトにはゲーム以外に,津波や地震など災害のデータや,被害を抑えるためのノウハウが文書化されたページ,ゲームの補足情報やISDRの活動内容が分かるページなどが用意されており,複合的に防災知識が得られるようになっている。

 本作を開発したのは,ロンドンを拠点にするPlayerthreeで,実はFood Forceと同じ開発元である。FlashやShockwave,JAVAなどを使って,テレビドラマの公式サイトなどでサービスされるミニゲームや,Flash広告を制作する会社として知られており,モバイル用ゲームの開発経験もある。おそらく,Food Forceの実績が認められ,今回も選ばれたのだろう。

 昨今では,とかくゲームと犯罪が結び付けられる傾向にあり,アメリカのゲーム業界では「社会的に悪い印象を与えてしまった“Video Game”という言葉自体を,代えなければならない」という論議も行われるようになった。そんな負のイメージを払拭するためにも,ゲームが社会に貢献しているという事実を業界全体でアピールし,ゲームの文化的な地位向上につなげていきたいものだ。

 

 


次週は,MMORPGの未来について。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。能登半島地震発生のニュースを聞いてから,日本の地震対策についてあらためて心配し始めた,サンフランシスコ在住の奥谷氏。とくに,日本海の孤島に住んでいる祖父母のことを考えると,おちおち原稿も書いていられないとか。まあ,人の心配もいいですが,ちょっとした振動でドアが開いてしまうという,自宅(築70年)の補強も考えるべきだと思いますよ。


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