2011/11/11 16:11
aueki
「ARM Technical Symposia」開催,Cortex-A15やMali-T685など同社製品の概要やPS Suiteの展開なども語られた基調講演をレポート
ARMは,CPUやGPUなどのアーキテクチャを開発している企業で,自身ではプロセッサを製造せず,その設計をIPコアとして提供するというビジネスを展開しており,ARMのCPUコアであるCortexアーキテクチャは,携帯電話用SoCをはじめ,各種産業用デバイスの制御部品などとしても非常に広く使われている。
「ARM Technical Symposia」は,ARM開発者のための世界各地で開催されているイベントだ。今回のイベントは,10月末にサンタクララでの開催に合わせて発表された新情報を中心に,日本の開発者に紹介していくものが中心となっている。なお,日本での開催に合わせて発表された情報としては,昨日発表された新グラフィックスコア「Mali-T658」がある。
アーム代表取締役社長 西嶋貴史氏 |
ARM President Tudor Brown氏 |
Brown氏は,まず,前回の来日が東日本大震災直前だったことを挙げ,恐ろしい災害から日本が回復していることに感銘を受けていると語った。続いて,ARMの創設以来25年を振り返り,1985年に作られた最初のARMプロセッサは,3μmプロセスで6000ゲートを集積した7mm四方のチップだったが,最近のCortex M0プロセッサは20nmプロセスで8000ゲートを集積しており,回路の占める面積は1万分の1の大きさになっているという。テクノロジーは劇的な変化を遂げているというわけだ。
もちろん,1985年当時のチップに対して1万分の1の大きさのチップが作られているわけではなく,いまも7mm角のシリコン上にSoCの一部として搭載されているわけだが,昨年1年間に世界中で220億個のSoCが作られ,そのうち28%がARM系であり,携帯電話ではほとんどがARM,組み込み系では30%,タブレットでは10%,HDDでは50%,サービス系ではほとんど採用なし,と分野によってさまざまではあるが,ARMは幅広く使われていると語る。
また,WindowsのARM対応などにも触れ,今後より広い分野でARMデバイスが使われることになると氏は語っている。
ARM製品は幅広いSoCをサポートしていく
組み込み系からサーバーまで,用途によって必要とされるパフォーマンスはまちまちだが,それらに対して多くの選択肢が用意されている。例えば「8bitプロセッサと同等のコストで32bitのパフォーマンスがほしい」といった場合は,Cortex Mシリーズ,ハイパフォーマンスが要求される場合はCortex-Aシリーズが推奨される。
またARMは「big.LITTLE Processing」という戦略で複数のコアを組み合わせることで,高性能と低消費電力を両立させようという試みも進めているが,Web閲覧をする場合,ページのレンダリングはCortex-A15で,スクロールはCortex-A7で,といった感じで,負荷によって自動的に切り替わるという。これはOSから見てもトランスペアレントであり,簡単にパフォーマンスと低消費電力のいいとこ取りができるという。big.LITTLEの構成をとることで,従来より70%消費電力を下げることができるそうだ。
Clarke氏は,近年,ARMコアを使った革新的なデバイスが多く登場してきていることに対し,シリコンサプライヤのイノベーションを賞賛し,そのイノベーションに対し,幅のあるSoCを提供できるようにより多くの選択肢を用意し,今後も研究開発を続けていくことがARMの使命であるとまとめていた。
SCEは「PlayStation Suite」をソニー系端末以外にも展開へ
松本吉生(まつもときっせい)氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント シニアバイスプレジデント兼第2事業部長)。ソニーでウォークマンやVAIOの商品開発を担当した後,異動してきた人物だ。現在はポータブルゲームコンソール事業を統括している |
クロスプラットフォーム・クロスデバイスがキーワードとなるPlayStation Suite |
松本氏はまず,PlayStation Suiteを「(SCEが)PlayStationプラットフォームで培ってきた資産や経験をほかのプラットフォームで活か」すべく設けた,クロスプラットフォーム・クロスデバイスの仕組みだと定義。「ライトデベロッパ(=小規模なデベロッパ)や,ゆくゆくは一般の人にも参加してもらって,(最終的に)AndroidやPlayStation Vita上で動くゲームや一般のコンテンツを楽しんでもらう」ためのものだとし,そのために提供するのがPlayStation Suite SDKだとしている。必ずしもゲーム専用ではないというわけだ。
PlayStation Suite SDKはVM(バーチャルマシン)上で動作するようになっており,現在はAndroidに対応。今後,PlayStation Vitaに対応の予定となっている。採用されているプログラム言語はC#で,3Dグラフィックスライブラリ,そして,「ゲームはもちろん,天気予報やニュース,乗り換え案内などといった,AppleのApp Storeで配信されているような一般的なアプリを容易に開発できる」(松本氏)UIツールキットが用意されているのも特徴だ。
開発されたアプリは,松本氏のいう「簡単なものにしたいと考えている」とされる基準をパスすると,PlayStation Network上の「PlayStation Store」で販売可能になる。
別記事でもお伝えしているとおり,現在SCEでは,PlayStation Suite SDKのβ版を配布するとして,希望者の公募を開始している。β版を経て,2012年春には,正式版のSDKで開発されたアプリが配信される予定になっているという。
なお,PlayStation Suiteは,「一定のパフォーマンスを持つマシンに対して『PlayStation Certified』認証を与え,一緒にやっていきたいと考えている」(松本氏)。現在はXperiaシリーズやSony Tabletといったソニーグループの製品のみが対象だが,氏は「ソニーグループのみにフォーカスするのではなく,むしろ他社と組みたい」として,今後,対応製品の拡大を図っていく意向を示していた。
ARMプロセッサは,低消費電力で高いパフォーマンスということで,従来は組み込み系を中心に多く使われていたのだが,近年では,プロセッサ単体のパフォーマンスに限界が見えてきたこともあり,クラスタ構成にして性能を上げる方向が主流となっており,消費電力が最大の問題にクローズアップされるに至っている。携帯機器の高性能化という,もう一つの波とともに,ARMアーキテクチャの重要度は日増しに高くなっているともいえるだろう。スマートフォンやPS Vitaなどのゲーム機を含め,ゲーマーにもARMという単語は今後は馴染み深くなってくることだろう。今後のゲーム産業で,一つの鍵を握る会社として注目していきたい。
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