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[TGS2005#61]WCG2005国内予選の審判が語る,審判の役割とe-Sportsへの期待,そして目の前にある課題
筆者は,このWCG2005に審判として参加することになった。そこで今回は,選手にも運営側にも近い,この審判という視点から見たWCG2005国内予選について,筆者なりの考えを述べさせていただこうと思う。
具体的には,ゲーム大会における審判,e-Sportsへの期待と,e-Sportsをめぐる課題の整理の三つになるだろうか。
■そもそもWCG2005とは
さて,WCGについては,今更説明するまでもないだろうが,簡単に解説しておこう。一言でいえば,オンラインゲームの世界大会で,2001年に韓国で行われた第1回大会を皮切りに,これまで年1回のペースで開催されている。
第1回から3回大会まで,決勝大会の開催場所は韓国だったが,2004年にサンフランシスコで開催された第4回大会から,予選に参加している国々が持ち回りで決勝大会を開催する形となった。競技種目となるゲームの種類も1種類だけではなく,FPSやRTS,サッカー,対戦格闘など,さまざまなジャンルでチャンピオンを決定する。「オンラインゲームのオリンピック」といった表現のほうが分かりやすいかもしれない。
WCG2005に日本が参戦する競技は,FPS「Counter-Strike:Source」(以下CS:S)と,Xbox用の対戦格闘「デッド オア アライブ アルティメット」の2種目。CS:Sに関しては,1チーム5名が,グランドファイナルの舞台となるシンガポールへの渡航費,現地滞在費の提供を受けられる。
■ゲーム大会になぜ審判が必要なのか?
2種目のうち,筆者が審判を担当したのはCS:Sだ。では,審判はゲームの大会において何をしているのかというと,試合中ずっと選手の背後に立ち,ゲームの進行に応じてスコアを控えるという作業を行っている。
また,選手達が試合で使用するPCのセッティングを行う手伝いも,審判の役割の一つである。PCは運営側が用意したものを使用するわけだが,選手達が持ち込むマウスやキーボード,ヘッドセットなどが正常に動作しないというのはよくある話。とはいえ,規定のセットアップ時間内で準備ができなければ試合進行に大きく影響してしまうから,審判が手伝うというわけである。
そして,ある意味一番重要なのが,試合中のトラブルに対して速やかな対応を行うことだ。状況に応じてゲームを中断することもあれば,ゲームを進行させながら対応する場合もある。この判断を下すのも審判の役割である。
例えば今回の予選では,選手達のプレイするすぐ後ろに観戦者用の大型スクリーンとスピーカーが設置され,アナウンサーの実況がリアルタイムでブース内に聞こえる状態で試合が行われていた。このため,密閉型のヘッドセットを利用していても,アナウンサーの声が選手の耳に入ってしまう状態になっていたのだ。「ゲームの音が聞こえづらいから音量を下げてほしい」という要望は,予選会中に筆者が受けた実例だが,こういった選手の要望を運営側に伝え,対応してもらう。これも審判の仕事だ。
審判は選手と観戦者の間に立っていたりすることがあるので,邪魔に思うかもしれない。だが,少し視点を変えて,次回以降は審判の動きに注目して,大会を観戦してみるのも悪くないと思う。
■プロクランの選手達に見る「e-Sportsマンシップ」
CS:Sの国内予選決勝は,東西プロゲーミングクラン同士の対決となった。決勝の舞台に勝ち残ったのは,結成以来,国内公式戦無敗の記録を持つ「4dN.PSYMIN」(以下4dN)と,西の雄「Aggressive Gene」(以下AXG)。4dNはPSYMIN(才民)やRazer,AXGはNEXTAGEやSoft Tradingといった企業からスポンサードを受けるプロゲーマー集団である。
「ゲームでメシを食っていく」と腹をくくった彼らにとっては,WCG2005のように世界的に見ても規模の大きい大会で結果を出すことは,賞金だけでなく,より多くのスポンサー企業を獲得するために重要だ。それだけに対決は真剣そのもので,1ラウンドを争う素晴らしい試合だった。
優勝したのは4dN。勝利が確定した瞬間,彼らは身につけていたヘッドフォンを外すと同時に大きな声を上げ,勝利の喜びを分かち合った。そしてすぐに,AXGの選手達と健闘をたたえ合い,堅い握手を交わす。敗れて悔しいはずのAXGの選手達も,笑顔で握手に応えていた。そして両クランのいずれもが,応援に駆けつけたファンや友人達に感謝の言葉を述べる。
昨今,ゲームに対しての風当たりが強いようだ。だが,4dNやAXGをはじめとした"e-Sportsマン"達の"e-Sportsマンシップ"がもっと報道されれば,いわゆる世間一般からの目も変わるはず。ゲームに関わるメディアやブロガーには,ただ勝った負けたではなく,こういったところにもっと目を向けてほしいと心から願う次第だ。
■選手達を取り巻く状況と,e-Sports&WCGが抱える課題
主催者側の発表によると,国内予選会場となった「オンラインゲームビレッジ」ブースには,のべ2万人以上もの人が足を運んだそうだ。一昨年のWCG2003日本予選もTGS会場で行われたが,このときは決勝戦のみ。初日のビジネスデイから3日間にわたって開催されたことを考えれば,人の目に触れた回数はおそらく過去最高だろう。
だが,試合を行った選手達の身になって考えると,手放しには喜べない部分もある。試合会場となったブースは,スポンサーの展示スペースがほとんど。選手達が試合を行った「トーナメントエリア」というスペースは非常に狭い印象を受けた。また,オンラインゲームビレッジの周囲にあるブースが非常に大きい音を出すのだ。これが原因で,密閉型のヘッドフォンを使用しているにもかかわらず,音が聞こえにくいという不満を審判に漏らす選手が多かった。
当然のことながら,WCG2005(やTGS2005)は主催者やスポンサーがいて初めて成り立っているわけで,やむを得ない部分はある。だが,数年前では夢物語でしかなかったプロクランが実際に誕生し,国内ゲーマーのレベルが世界に近づきつつある現状もある。これを踏まえれば,選手にとっては直接関係のない"事情"が原因で,プレイに集中できない状況が生じてしまうのは,できればあってほしくない,というのも素直な感想である。
ロケーション以外では,(これは日本予選の問題ではないが)WCGで選択されたタイトルそのものに「?」を付けておきたい。
WCG2005本戦で採用されているのは,もちろん国内予選と同じCS:S。だがCS:Sには,「グラフィックス向上と引き替えのフレームレート低下」「多くのバグ」「ゲームバランスの悪さ」があり,Counter-Strikeコミュニティに受け入れられていないという大きな問題がある。
この問題は深刻で,WCG2005の予選であるにもかかわらず,米国など多くのWCG参加国では予選用タイトルとして「Counter-Strike 1.6」(以下CS1.6)を使用していたりするほど。WCGと肩を並べるゲーム大会「Cyberathlete Professional League」(CPL)でも,ワールドツアーでCS:SではなくCS1.6が採用されることが決定している。国内予選優勝の4dNも,WCG2005日本予選の直前には,CS1.6で「World e-Sports Games」(WEG)という別の大会に参加しており,CS:Sの練習はほとんどしていなかったという。
こういう状況からするに,CS:Sによる世界大会は,今回のWCG2005が最初で最後になる可能性が極めて高い。なぜCS:Sを"選んでしまった"のか,主催者の事情までは分からない(もっとも,想像は付く)が,選手が余計なことを考えずゲームに打ち込めるよう,主催者側には慎重なタイトル選択を願いたい。
■Good Luck,4dN!
イベントの主役である選手達を取り巻く環境は,国内も世界規模でも,まだまだたくさんの課題を抱えているのが現状だ。もちろん,選手やコミュニティの意見だけではイベントは成り立たないが,かといってスポンサーやメーカーの都合に選手達が振り回されるという状況もいただけない。
以上,厳しいことを書いてきたが,いずれにせよ,日本代表となった4dNには,シンガポールでの大活躍を願ってやまない。幸いにしてWCG2005では,予選から本戦までの期間が約2か月と長いから,十分な準備がきっとできるはず。リーダーであるKeNNy氏は「この期間を利用し,グランドファイナルまでには万全な状態に仕上げていきたい」と力強く語ってくれたので,期待してよさそうだ。素晴らしいプレイをぜひ見せてほしいと思う。Good Luck,4dN!(Crize)
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