

ファンタジーテーマのゲームや物語では,複数の生物が融合したモンスターをキマイラと総称することが多い。そのルーツが,ギリシャ神話に登場する,獅子,ドラゴン,山羊などが融合したキマイラにあるということは,皆さんもご存じのとおりだろう。
今回紹介するミルメコレオ(Myrmecoleo)は,ヨーロッパに伝わるキマイラの一種だ。これは上半身(頭部とする説もある)がライオンで下半身が蟻というキマイラで,性器が逆向きに付いているという奇妙な特徴もある。モンスターとしてのキマイラでは,猛獣と昆虫を融合したタイプは珍しいので,なかなか興味深い存在だ。
特殊攻撃について語られることはないものの,下半身が蟻というのは想像以上に危険である。仮に蟻がライオンの大きさだったら,その力強さは優にライオンのそれを超えるはずだし,蟻の中には飛び跳ねたり,毒針を備えていたりするものもいる。ひょっとしたらミルメコレオも,そうした特性を兼ね備えているかもしれない。
ゲームでは,カルドセプトやファイナルファンタジーシリーズに登場しているが,マイナーなモンスターゆえか,強敵と呼べるほどの強さは設定されていない。ちなみにファイナルファンタジーシリーズでは,翼の生えた姿で描かれている。
一説によれば,蟻の卵にライオンの精子がかかることでミルメコレオが生まれるとされている。こうして生まれたミルメコレオは,前述したようにライオンと蟻が融合した姿に成長するのだ。
しかし,生まれ落ちたミルメコレオを待ち受けているのは,餓死という悲しい運命である。父親であるライオンは肉食であり,母親にあたる蟻は肉を食べない(と考えられていた)ことから,相反する食生活が災いして満足に食事を摂取できず,次第に衰弱し,そして餓死してしまうというのだ。
ライオンと蟻という奇妙な組み合わせが生まれたきっかけは,実は聖書の誤訳にあるらしい。ヘブライ語の聖書の一節に,「年老いた雄(ライオン)は獲物なく滅ぶ」と記されていたのだが,これを七十人訳ギリシア語聖書に翻訳した際に,アラビア語でライオンを示すミュルメクス(myrmex)という語が付加されてしまい,ミュルメクスライオン(強いて言うならライオン獅子とでもいえばいいのだろうか)となってしまったのだ。ここまでなら誤訳として気がつきそうだが,なんとギリシャ語でミュルメクスは蟻を意味する言葉であったために,蟻ライオンと勘違いされ,ライオンと蟻のキマイラとしてミルメコレオが生まれたというわけだ。
情報を正しく伝えるという意味では,誤訳はあってはならないことだが,ユニコーンも聖書の誤訳によって認知度が高まったことを考えると,誤訳の効果も決してあなどれないものである。

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