インタビュー
プレイ感覚は「読者参加型のライトノベル」? 「三千界のアバター」プロデューサーの栗田真樹生氏に,同作の特徴や「PBW」ならではの魅力を聞いた
エクソダス・オブ・ゴダムは,三千界のアバターにおける2番目のワールドで展開される,クトゥルフ神話をモチーフとしたシナリオ。プレイヤーは,ガンスリンガー,マギウス,アウトロー,マフィアといったアバターに変身し,邪神の脅威にさらされた“黄昏の世界”の謎に迫っていくことになる。
今回,同作のプロデューサーを務めるフロンティアワークスの栗田真樹生氏に話をうかがう機会を得たので,同作の特徴や,クリエイティブRPGというジャンルの魅力などについていろいろ教えてもらった。先日デジタルハーツが発表した「クロストライブ」の影響もあり,徐々に目にする機会の増えてきた“プレイバイウェブ”ジャンルに関心を持つ人は,ぜひ目を通してほしい。
また,同作では現在,6月2日までに新規登録したキャラクターで,レベル6/ギルド加入をした人に対し,追加アバターやWebMoneyをプレゼントする「『エクソダス・オブ・ゴダム』スタートキャンペーン」(関連サイト)が実施中。本作に興味のある人は,ぜひこちらも利用してほしい。
「三千界のアバター」公式サイト
“クリエイティブRPG”の魅力は
クリエイターとプレイヤーの距離の近さ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今回は「三千界のアバター」の話題だけでなく,“クリエイティブRPG”というジャンルの魅力についても教えてほしいのですが,まずは自己紹介を兼ねて,栗田さんのクリエイターとしての経歴をお聞きしてもよろしいでしょうか。
最初はメールゲーム(プレイバイウェブ,いわゆるPBM)をメインに企画/運営していた会社に所属して,シナリオライターやゲームマスターの仕事をやっていました。ディレクターとしても,さまざまなメールゲームに関わりました。
その後,携帯コンテンツの制作会社務めを経て,マイケルソフトというコンシューマメーカーに3か月だけお世話になりました。
4Gamer:
マイケルソフトというと,「ウィザードリィ エクス」のシナリオに関わられたんですか?
栗田氏:
はい。シナリオやマップ,各種メッセージの作成などをしていたんですよ。Team Muramasa(現エクスペリエンス)の千頭 元さんとはその頃からの付き合いで,「ウィザードリィ エクス」以外も,いくつかの作品のシナリオその他でご協力させていただきました。
4Gamer:
なるほど。「蒼空のフロンティア」とエクスペリエンス作品とのコラボ企画が行われていましたが,そういったつながりによって実現した企画だったんですね(関連記事)。
栗田氏:
ということですね。そういったフリーライター/ディレクター活動ののちに,バンダイナムコゲームスでコンシューマ向けゲームの製作進行/管理,シナリオ執筆,ネット連動コンテンツの企画/運営などを担当しました。その後,知人のツテでフロンティアワークスに転職し,現在は「蒼空のフロンティア」「三千界のアバター」のプロデュース/ディレクション/シナリオを担当しています。
4Gamer:
メールゲームだけでなく,PCゲームやコンシューマゲームなど,さまざまな分野で活躍されていたんですね。ところで“クリエイティブRPG”というジャンルは,最近のゲーマーにとってはあまりなじみのないものだと思うのですが,簡単に説明すると,どのようなゲームと言えるのでしょうか。
クリエイティブRPGと銘打つ三千界のアバターですが,別の言い方をすればPBW(プレイバイウェブ)ということになりますね。PBWは,郵便や電子メールを用いて遊ぶ多人数参加型ゲームPBM(プレイバイメール,メールゲーム)から派生したブラウザゲームで,多数のプレイヤーが同じ世界観を共有し,状況(シナリオ)に応じた行動を主催者に伝えることでゲームが進行していきます。
参加者達の行動によって変化したシナリオを,専門のライターが小説形式でアウトプットするのが大きな特徴で,自分のキャラクターをイラストレーターに描いてもらうことも可能です。
4Gamer:
なるほど。デジタルゲームではあるものの,アナログゲーム……TRPGに近い楽しみ方もできるようなジャンルというわけですね。
栗田氏:
そういう考え方もできますね。クリエイターが用意した枠組みの中で遊ぶ通常のRPGと比べ,物語的な自由度が極めて高いというのが,最も分かりやすい魅力と言えるかもしれません。PBMやPBWでは,プレイヤー達の行動によってストーリーが大きく変化しますし,その前提として「ロールプレイ(役割を演じる)」が重要になってきます。「自分達だけの物語を作っていく」というRPGの本来的な楽しみが,PBWではたっぷりと味わえます。
4Gamer:
最近では,敵との戦闘を通じてキャラクターを成長させられる仕様を指して「RPG的」と呼ぶこともありますが,そう考えると,PBWは正しい意味でRPG的かもしれませんね。
栗田氏:
ええ。三千界のアバターにも,クエストを通じてレアアイテムを入手したり,敵とガンガン戦ってレベルを上げたりという要素はありますが,基本的には「役割を演じる」ことに重きを置いたゲームになります。
今では「ユーザージェネレイテッドコンテンツ(UGC)」という言葉がありますよね。広い意味で言うと「ニコニコ動画」とかもそうだと思います。PBWは,UGC的な側面の強いRPGと言えるかもしれません。
4Gamer:
三千界のアバターでは,プレイヤーキャラクターのイラストを描いてもらえる有料サービスもありますが,需要的にはどんなものなんでしょうか。
2013年3月の時点で,イラスト受注件数は4000件程度となっています。イラストレーターから見ると,うちのコンテンツって,大変申し訳ないのですが,あまり単価の高い仕事ではないんです。ただ,イラストをオーダーしたプレイヤーから,直接お礼を言われたり,評判を目にする機会が多かったりするので,その反響がモチベーションにも繋がっている印象を受けます。本当にありがたい話です。
4Gamer:
イラスト投稿サイトなどで,PBWに関するイラストを描いているプレイヤー/クリエイターもいるみたいですし,そういったところも“クリエイティブRPG”たる所以なのかもしれません。
栗田氏:
そうですね。イラストレーターとしてPBWに関わったのがきっかけで,仕事の幅を広げられた方もいらっしゃいます。運営側としても,クリエイターとプレイヤーの距離の近さは大きな魅力だと感じています。
4Gamer:
コンピュータゲームの制作にも関わってきた栗田さんだけに,プレイヤーとの距離感についてはとくに違いを感じるかもしれませんね。
栗田氏:
コンシューマ向けの大作RPGを手がけても,プレイヤーさんから率直なご意見をいただくことって,実は難しいんですよね。とくにRPGだと,その作品を正しく評価するための(クリアするための)労力が大きいですから。その点PBWだと,シナリオに関する感想だけをダイレクトに受け取れるので,日々勉強させてもらっています。
4Gamer:
ある意味,シナリオに関して言い訳がきかない,シビアなジャンルとも言えそうです。
栗田氏:
おっしゃるとおりです。もちろん失敗することもありますが,それを反省材料として,次のシナリオを工夫できるところも,作り手としてやりがいを感じる部分ですね。
「クリエイターとプレイヤーが作る物語」に終わりはない
4Gamer:
ところで栗田さんは,PBWの可能性についてはどのようにお考えですか?
PBWのパイって,どこまでいっても,それほど大きくはならないと思うんですよ。
4Gamer:
それはゲームジャンルの,構造的な問題ということでしょうか。100万人を対象とするゲームとして企画/運営するわけではないし,そうしてしまうとジャンルの魅力がスポイルされる恐れもありそうです。
栗田氏:
ええ。PBWというジャンルは,いわゆるライトユーザーが飛びつくようなコンテンツではないと考えています。ただ逆に言うと,こういったクリエイティビティを刺激するゲームが好きな人は,どの時代にも確実に存在するわけで,ジャンルが消滅することはないとも思っています。「開発スタッフとユーザーがやり取りをして物語を作っていく」という部分には,普通のコンピュータゲームにはない,独自の面白さがありますし。
なので我々としては,時代の流れに対応しつつも,PBM/PBWというジャンルを運営し続けていきたいなと思っています。
4Gamer:
時代の流れに対応するという意味では,富士見書房が「TRPG ONLINE」というサービスを開発し,TRPGを盛り上げようと努力していますね。
栗田氏:
面白い試みですよね。TRPGも,今では実況リプレイ動画などが簡単に観られますが,遊ぶ楽しさだけでなく,観る楽しさについても注目されてきている。TRPGの場合は,一つのセッションに参加できる人数が限られているため,そういった「場の提供」がベターだと思います。
4Gamer:
ジャンル的にはマニアックな部類に含まれる格闘ゲームでも,動画を観て楽しむファンが増えてきて,盛り上がっています。
栗田氏:
そうですね。PBMは,ブラウザゲームというジャンルと融合してPBWに進化しました。この先,ジャンルの名称やプレイスタイルは変わっていくかもしれませんが,PBWのような遊びはなくならないと確信しています。
PBMともMMORPGとも違う,PBWの企画/運営
4Gamer:
三千界のアバターは,会員登録者数が約2万人,イラスト受注が4000件,クエスト利用回数が25万回(いずれも2013年3月時点)ということですが,これはPBWとしては好調な数字と考えていいのでしょうか。
栗田氏:
はい。おかげさまで,多くの方にプレイしていただいています。アクティブユーザー数は,一般的なブラウザゲームと変わらない規模をキープできています。
4Gamer:
ちなみに,前作「蒼空のフロンティア」もサービス中ですが,そちらの規模はどのくらいなんでしょうか。
栗田氏:
現在,会員登録者数が3万人程度なので,ユーザー数的には三千界のアバターを上回っている状況ですね。
4Gamer:
フロンティアワークスでは,現在二つのクリエイティブRPGが運営されているわけですが,どのような体制で運営されているんですか?
三千界のアバターは,プロデューサー,チーフディレクター,ディレクター,デザイナーといったスタッフが基本的な部分を統括していて,あとは外注のクリエイターさん(ライター/イラストレーター)に参加してもらっています。蒼空のフロンティアでは,それに加えて声優さんにも参加してもらっています。
4Gamer:
規模的にいうと,社内で10人程度,外注で数十人という感じでしょうか。
栗田氏:
内部はそのくらいですね。外注スタッフに関しては,1000人,2000人規模になります。もちろん,作品との関わりの大小や,プロジェクトの規模によって実働人数は変動しますけど,クリエイティブRPGの要ともいえるクリエイターさんは,多めに確保しておく必要があるんです。
4Gamer:
現在,フロンティアワークスで二つのPBWを担当されていますが,そこから得た手応えや,課題などはありますか?
栗田氏:
やってみて分かったのは,結局「サービス精神」が重要なんだということですね。楽しいゲームを遊んでもらいたいという熱意が伝われば,人は集まってくれるんだな……と。
あとは,プレイヤーを楽しませるアイデアを継続的に出し続けることの難しさにも,あらためて気付かされました。
4Gamer:
シナリオやイラストの質はもちろんとして,そういった材料をもとに,プレイヤーをどう楽しませるか……ということですね。
栗田氏:
例えば,優れたイラストは多くのプレイヤーを引き付けますが,イラスト以上の魅力がその作品になければ,コレクターは残っても,プレイヤーは離れていってしまいます。極端な話,イラストが良くなくても「面白いゲーム」は作れるんです。要は,システム,シナリオ,イラストそれぞれの魅力をいかに引き出すか,それによってプレイヤーにどのような体験をしてもらうかが,PBWのようなゲームでもっとも大切なところでしょうね。
プレイ感覚はまさに「ユーザー参加型ライトノベル」
4Gamer:
三千界のアバターでは,2013年5月8日より,新シリーズ「エクソダス・オブ・ゴダム」がスタートしました。こちらについても話を聞かせてください。
栗田氏:
まず,「三千界のアバター」というタイトルには,「三千界という世界の数だけ,君(アバター)がいる」という意味を込めています。ジェームズ・キャメロンの映画「アバター」や,オンラインゲームの普及によって,アバターという概念は一般的なものになってきましたが,本作では,プレイヤーがさまざまな世界で,その世界に応じたアバターに変身して冒険を繰り広げられるんです。
4Gamer:
前作「蒼空のフロンティア」との,明確な違いはどういったところになるのでしょうか。
栗田氏:
どちらの作品も,主人公(プレイヤー)が異世界に赴いて冒険を繰り広げるゲームなんですけど,三千界のアバターは,シリーズが変われば世界観もアバターも変わるというのが特徴です。前作は基本的に“学園モノ”というコンセプトですね。
また,蒼空のフロンティアでは,最初に2キャラクターを作る必要があります。創作好きなら楽しいでしょうけど,普通のプレイヤーにはちょっと難しいんですよね……。なので三千界のアバターでは,異世界でフェロー(いわゆるNPC)と出会ってパートナーにするというシステムを採用しています。パートナーのひな型を運営側で用意することで,ロールプレイに専念しやすい形を取りました。
4Gamer:
なるほど,そんなに創作が得意じゃない人でも,入りやすくなっているわけですね。
そうですね。自分のアバターは,「キャラクター名」「性別」「年齢」「パーソナリティ」を決めるだけで作成できます。キャラクター名をランダムで決める機能もありますし,創作が得意な人は,詳細なキャラクター設定をすることも可能です。
ゲームの流れは,シリーズごとに用意されたトリガークエストでメインストーリーを進めていくのが基本になります。
4Gamer:
トリガークエストの1話目からストーリーを体験していけば,それこそ小説を読むような感覚で,物語に参加できるわけですね。
栗田氏:
はい。外伝的なクエストも週に数本ずつ追加しているのですが,そこで勝利条件を満たすことで,キャラクターを成長させたり,アイテムやフェローを入手したりできます。
4Gamer:
プレイヤーのアクションが物語を変化させる具体的な仕組みは,どのあたりに組み込まれているのでしょうか。
栗田氏:
有料の「シナリオ」に対して,自分自身がどう行動するかを投稿していただくことで,物語に参加することができます。例えば「ある街が邪神に包囲されている」というシナリオへ参加表明したプレイヤーAが「街を防衛する」,プレイヤーBが「住人を避難させる」というアクションを選択したとします。それを受けたライターは,「邪神に包囲された街を救うべく,プレイヤーAは果敢に戦った。プレイヤーBはその隙に住人を避難させ,被害を最小限に抑えることに成功した」といった内容の結果をアウトプットするわけです。
4Gamer:
なるほど,ユーザー参加型のライトノベル……という感覚でプレイできるんですね。
栗田氏:
まさにそんな感覚ですね。言葉で説明すると難しく感じるかもしれませんが,公式サイトでゲームの雰囲気を確認できますし,基本プレイ料金自体は無料ですから,ぜひ一度お試しプレイをしていただければと思います。
4Gamer:
ところで,新シリーズ「エクソダス・オブ・ゴダム」では,クトゥルフ神話をベースにした西部劇風世界観で冒険が楽しめるそうですが,ファーストシリーズのファンタジー風世界観から大きく変わりましたね。
そこが三千界のアバターの面白いところですね。クリエイターにとっても,プレイヤーにとっても,新鮮な気持ちでゲームが楽しめます。今回は,西部劇+SF+クトゥルフ神話風の世界観を用意してみました。クトゥルフ神話は個人的にも好きなので楽しんでやっております。
4Gamer:
かつてはかなりマニアックなテーマだったクトゥルフ神話も,「這いよれ!ニャル子さん」の影響などもあって,ずいぶん認知度が高まってきましたよね。
栗田氏:
ですね。ただ,クトゥルフ神話のすべてがメジャーになっているわけではないので,作り手としては,あまり煮詰めすぎないように気を付けようと思います。本気で凝りすぎて,ライトなクトゥルフ神話ファンが置いてけぼりになってしまうと大変ですので(笑)。
4Gamer:
反響をリアルタイムで確認しつつ,投入するシナリオなどを調整できるところも,クリエイティブRPGの面白いところ……といった感じですかね。それでは最後に,読者に伝えておきたいことなどがあれば,お願いします。
栗田氏:
新シリーズ「エクソダス・オブ・ゴダム」は,ファーストシリーズのファンタジー風世界観から一転,クトゥルフ/SF要素の強い世界観になっています。この世界観の変化こそが,「三千界のアバター」のポイントでもあるので,今回興味を持っていただいた方には,こういったタイミングで参加していただければと思います。
基本プレイは無料ですが,有料のシナリオ/イラストを利用していただければ,ほかのゲームでは味わえない没入感が味わえるのが,クリエイティブRPGの魅力と言えます。プレイヤーと共に作り上げていく物語ゆえ,何が起こるか私にも分かりませんが,それも含めて,みんなで楽しく遊べればいいなと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「三千界のアバター」公式サイト
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