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【Jerry Chu】「Marvel’s Spider-Man」のバトルデザインを考える。「デビル メイ クライ」シリーズとの共通点と明確な差異
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印刷2018/11/17 12:00

連載

【Jerry Chu】「Marvel’s Spider-Man」のバトルデザインを考える。「デビル メイ クライ」シリーズとの共通点と明確な差異

Jerry Chu /  香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「Marvel’s Spider-Man」のバトルデザインを考える。「デビル メイ クライ」シリーズとの共通点と明確な差異

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


「Marvel's Spider-Man」のバトルデザインを考える


 スパイダーマンは,よく戦う。
 スパイダーマンになりきれるオープンワールドアクションゲーム「Marvel’s Spider-Man」では,ウェブ・スイングを使って街を駆け抜け,マンハッタンに巣食う悪党をやっつける。空を飛び回っていない間,プレイヤーは地上で犯罪者と戦うことになるだろう。ウェブ・スイングと同様,バトルも本作を支える重要な要素だ。

「Marvel’s Spider-Man」
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画像集 No.004のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「Marvel’s Spider-Man」のバトルデザインを考える。「デビル メイ クライ」シリーズとの共通点と明確な差異

 「Marvel’s Spider-Man」はRocksteady Studiosの「Batman: Arkham」シリーズと比較されやすい。“アメリカンコミックのスーパーヒーローを主人公としたオープンワールドゲーム”というコンセプトは,確かに共通している。バットマンもスパイダーマンも格闘術とガジェットを駆使した戦いが得意だ。相手の攻撃をかわしながらコンボをつなぎ,決め技で一気に打ち倒すというバトルの流れも似ている。

 だが,「Marvel’s Spider-Man」のバトルを楽しんでいたとき,筆者は別の作品が頭に浮かんだ。「デビル メイ クライ」シリーズである。それはなぜか。今回は「デビル メイ クライ」シリーズとの共通点や違いを挙げつつ,「Marvel’s Spider-Man」のバトルデザインを分析してみたい。


空中コンボを重視した戦闘スタイル


 空中コンボはアクションゲームの華だと思っている。
 空中で重力に抗いながら,敵を滞空させて攻撃を叩き込む。ゲーム特有の物理法則とプレイヤーキャラクターの技を把握しないと,華麗な空中コンボは成立しない。

 空中コンボはビジュアル的にも美しい。凡百のザコが地面を這いずる中で,自分だけが空高く飛び上がり,常人が仰いで見る高みで演武を繰り広げる。まるで鶏の群れに立つ一羽の鶴のように,孤高にして優雅だ。

 空中コンボは,ただの腕自慢や格好つけの手段ではない。戦術的利点もある。
 ザコ戦は“一対多”の戦いになるが,プレイヤーは常に多数の敵に囲まれ,正面の敵に気を取られていると,背後から不意打ちを食らいかねない。その点,空中で戦うと横槍を入れられるリスクが低くなる。飛び道具を持つ敵に撃たれるというケースもあるが,少なくとも地上より憂いが少ない。

華やかな空中コンボ(「DmC: Devil May Cry: Definitive Edition」より)
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 「デビル メイ クライ」シリーズのバトルでは,空中コンボがバトルの核になっている。大剣で敵を打ち上げ,銃弾を撃ち込む。魔人に変身して,空を飛びながら雷撃を放つ。シリーズ作品を重ねるごとに,空中技のバリエーションが増え,より華麗になった。

 以前,「デビル メイ クライ3」をテーマにしたときにも触れたが,空中コンボは熟練のデビルハンターにとって腕の見せどころだ(関連記事)。近接攻撃,飛び道具,ジャンプキャンセル,移動技などのテクニックを織り交ぜて,滞空時間を延ばしながら攻撃を加えていく。複雑な空中コンボになればなるほど,多数のコマンドを迅速かつ正確に入力しなくてはならない。難度の高い芸当だ。


 「デビル メイ クライ」シリーズと比べたら,いくらかシンプルではあるが「Marvel’s Spider-Man」にも空中コンボが存在する。[□]ボタンを長押しすると,スパイダーマンがアッパーカットで敵を打ち上げ,さらに[□]ボタンを押すと空中に飛び上がって追撃する。敵は盾を使えなくなるうえ,周囲の敵に割り込まれにくくなるので,スパイダーマンの華麗な体術が存分に発揮できる。

 戦闘中,敵の兵士から「注意しろ! ヤツが空中にいると危険だ」「ヤツを地面に留まらせろ!」といった指示が聞こえる。空中戦こそ,スパイダーマンの真骨頂であることが強調されているのだ。

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アッパーカットから始まり,空中回避やスウィングキック,決め技など,多彩な空中技を繰り出せる(「Marvel’s Spider-Man」より)
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離れた敵を瞬時に引き寄せる


 敵に連続攻撃を仕掛けるのは気持ちいい。だが,敵が離れてしまったらコンボは途切れる。
 強力な技を使って,派手にザコを吹き飛ばす。これはとても爽快だが,デメリットでもある。相手が自分から離れてしまうと,近接攻撃で追撃できなくなるからだ。飛び道具ででは近接攻撃より火力不足だし,爽快感が落ちる。

 敵を吹き飛ばす技を使わない。吹き飛ばしても離れないように壁際で戦う。こうした対策を講じればいいのだが,敵の体力が尽きたら,次の敵との距離を詰める必要がある。敵を殴ることが“戦闘アクションの爽快感の源”であり,コンボを維持させるためにも攻め手を緩めさせないのが望ましい。だが,プレイヤーと敵の距離がその妨げになる。

 「デビル メイ クライ」シリーズは作品を重ねるにつれて,敵に急接近する技が充実していく。敵に向かう突進技「スティンガー」に加え,「デビル メイ クライ3」では「エアトリック」という敵の近くにワープする技が登場。さらにダッシュや空中ダッシュといった移動技も増えた。大剣の「スティンガー→ミリオンスタッブ派生」や二刀の「ジェットストリーム」といった,敵を吹き飛ばさない突進技も追加されている。


 「デビル メイ クライ4」の主人公・ネロは悪魔の右腕「デビルブリンガー」を持つ。その手を伸ばして,吹き飛ばした敵を引き寄せることでコンボを叩き込める。地上の敵を空中に引き上げて,空中戦に持ち込むことも可能だ。

遠くの敵を引き寄せる「デビルブリンガー」(「デビル メイ クライ4 スペシャルエディション」より)
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 「敵を引き寄せる」という能力は,Ninja Theoryが手がけた「DmC: Devil May Cry」でさらなる進化を遂げた。主人公・ダンテは天使と悪魔の力を駆使して,剣を鞭に変化させる。それによって対象をつかみ,敵を引き寄せたり,その懐に自ら飛び込んだりすることができる。「4」のネロと比べて,自分と敵との距離を自在に操れるようになった。

剣を鞭に変化させて,敵をつかむ(「DmC: Devil May Cry: Definitive Edition」より)
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 蜘蛛の糸を操るスパイダーマンは,「DmC: Devil May Cry」のダンテに似た技を使う。地上で[△]ボタンを押すと,スパイダーマンは糸で離れた敵を捉えてから飛び込んでいく。空中にいるときは[△]ボタンの長押しで地上の敵を引き寄せて,空中コンボを浴びせることが可能だ。敵との距離を一瞬に詰めて,絶え間なくコンボを叩き込む感覚は「DmC: Devil May Cry」を彷彿させる。

蜘蛛の糸で離れた敵をつかむと,そのまま空中に引き上げたり,懐に飛び込んだりできる。スパイダーマンならではの俊敏さが体感できる(「Marvel’s Spider-Man」より)
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近接攻撃と飛び道具の棲み分け


 剣はもう古い。時代は銃だ。
 「デビル メイ クライ」シリーズの主人公は,現代に生きるデビルハンターである。大剣や刀といった伝統的な武器と,現代兵器である銃を使い分けて戦う。
 だが,そこに問題がある。剣より銃のほうが有利に戦えるからだ。敵に反撃されるリスクを冒して肉弾戦を挑むより,敵の攻撃が当たらない場所から射撃するほうが安全であることは言うまでもない。敵に肉薄するときのスリルと爽快感こそがアクションゲームのバトルの醍醐味なのに,飛び道具は近接攻撃の存在理由を危うくしてしまう。ただ銃で魔物を殺したければ,「DOOM」のほうが気持ちいい。

 近接攻撃の地位を守るためには,飛び道具に弾数制限を設けたり,その攻撃力を低く設定したりするという手法がある。だが,「デビル メイ クライ」シリーズの銃は撃ち放題だし,攻撃力もそこそこある。ザコ戦では距離を保ちつつ,銃を撃つだけで案外なんとかなる。カットシーンでも,ダンテが二丁拳銃で悪魔をやすやすと撃ち抜く場面が多い。

 銃が便利で格好いい武器ならば,どうやってプレイヤーに剣を使わせるのか。
 ご存じのとおり,「デビル メイ クライ」シリーズには「スタイリッシュコンボ」という独自のシステムがある(関連記事)。銃を撃つばかりではスタイリッシュランクが上がらないので,高ランクを目指すのであれば,自然に近接攻撃を使うことになる。
 プレイヤーが剣を使うように,レベルデザインにも工夫が施されている。
 「デビル メイ クライ」(第1作)では,古城の一室で最初の敵に遭遇する。逃げ場のない空間で,敵が目の前に出現するため,「とりあえず叩こう!」と直感的に剣で斬りかかりたくなる。

「デビル メイ クライ」の最初の戦闘シーン。窮屈な部屋で前後から敵に襲われる。明らかに剣を使うべき場面だ(「デビル メイ クライ HDコレクション」より)
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 「デビル メイ クライ3」の冒頭にも同じようなシチュエーションがあり,悪魔の群れがダンテの事務所に急襲を仕掛ける。狭いスペースで多数の敵に囲まれるので,離れて銃を撃つ戦い方は有効ではない。やはり剣で斬りかかりたくなる状況だ。

「デビル メイ クライ3」の最初のミッションは,狭いオフィスが舞台。「銃より剣が有効だ」と直感的に分かるだろう(「デビル メイ クライ HDコレクション」より)
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 「DmC: Devil May Cry」の最初のミッションは,剣しか持たない状況で始まる。剣のコンボこそが“バトルの核”であることを,プレイヤーに教え込むという意図があるのだろう。

 「デビル メイ クライ」シリーズは最初の戦闘に剣が活躍する状況を作り,「剣が主戦武器である」という第一印象をプレイヤーに刻んでいる。

「DmC: Devil May Cry」の冒頭,プレイヤーは剣を振るって敵を蹴散らしてから,二丁拳銃を手にする(「DmC: Devil May Cry: Definitive Edition」より)
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 「Marvel’s Spider-Man」にも飛び道具がある。それは,もちろん蜘蛛の糸だ。だが,飛び道具の扱いに対して,「Marvel’s Spider-Man」は「デビル メイ クライ」シリーズとはまったく異なるアプローチを選んでいる。

 ダンテの銃とは違い,スパイダーマンの糸には弾数制限があり,攻撃力は皆無。糸は敵にダメージを与えられないが,敵に纏わりついて相手を拘束できる。銃を持つ敵や巨漢の相手には,糸で敵の動きを鈍らせてから接近する戦い方が効果的だ。
 また,壁に近い敵や床に横たわっている敵に対し,糸を連射すると壁や床に張り付けて,相手を瞬時に無力化させる。

スパイダーマンは蜘蛛の糸を撃ち出して,敵を拘束する(「Marvel’s Spider-Man」より)
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 蜘蛛の糸で敵を弱らせてから殴るか。格闘で敵を壁に吹き飛ばしてから,糸で封じ込めるか。近接攻撃と飛び道具はそれぞれの役割を持ち,互いを補い合う。「デビル メイ クライ」シリーズとは異なる仕組みだが,両者の棲み分けは絶妙だ。

壁に近い敵に糸を撃つと,壁に張り付けて動きを封じ込める(「Marvel’s Spider-Man」より)
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「Marvel’s Spider-Man」は進化の歴史を受け継いでいる


 シリーズは作品を重ねることで進化していく。
 「デビル メイ クライ」シリーズには最初から,多彩な空中技や敵との距離を詰める技が揃っていたわけではない。飛び道具が強すぎて,近接攻撃を選ぶメリットが感じられない時期もあった。だが,作品を重ねることで問題点が解消され,戦闘アクションがどんどん進化していった。

 「Marvel’s Spider-Man」の制作陣が「デビル メイ クライ」シリーズを参考にしたのかは分からない。だが,「Marvel’s Spider-Man」のバトルには,「デビル メイ クライ」シリーズが得た教訓と知恵が感じられる。アクションゲームが歩んできた進化の歴史を受け継いでいることが,「Marvel’s Spider-Man」のバトルが爽快たる所以ではないだろうか。

■■Jerry Chu■■
香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。
  • 関連タイトル:

    Marvel’s Spider-Man

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