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ボドゲ特化を謳うARデバイス「Tilt Five」試遊レポート。AR技術の先に垣間見えるアナログゲームの未来とは
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印刷2020/09/09 12:00

プレイレポート

ボドゲ特化を謳うARデバイス「Tilt Five」試遊レポート。AR技術の先に垣間見えるアナログゲームの未来とは

 テーブルのうえにマップが立体表示され,3Dグラフィックスのドラゴンが炎を吹いて暴れ回る。そんなテーブルトークRPGを想像したことはないだろうか。あるいはカードに描かれたクリーチャーが飛び出してきて,相手側のクリーチャーを攻撃してくれるトレーディングカードゲームは?
 そんなアナログゲーマーの夢を叶えるデバイスが,Kickstarterから生まれようとしている。軽量なARグラスを用いて,机上に配置された3Dモデルを複数人で共有できるゲーム特化のARデバイス「Tilt Five」がそれだ。

画像集#001のサムネイル/ボドゲ特化を謳うARデバイス「Tilt Five」試遊レポート。AR技術の先に垣間見えるアナログゲームの未来とは

 今回4Gamerでは,この「Tilt Five」をいち早く試遊する機会が得られた。合わせて日本における同製品の窓口であるカラーリンク・ジャパンにも話を聞いてみたので,その模様をレポートしてみたい。ARと組み合わせることで,近未来のボードゲームがどんな風に進化していくのか,その一端を感じてもらえたら幸いだ。

※記事中で使用している画像や写真はすべてデモ版のものであり,製品版ではデザインなどが異なる可能性が高い。


「Tilt Five」公式サイト(英語)



「Tilt Five」とはどんなデバイスか


 まず「Tilt Five」がどんなデバイスなのかを,ざっと紹介していこう。同製品は,透過型のARグラス専用のコントローラ,そして3Dモデルを投影するためのボードの3つのアイテムで構成されている。

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 ARグラスは約85グラムと,ほかのAR/VRデバイスと比べてもかなり軽量だ。USB Type-CケーブルでPCもしくはAndroid端末と接続して使用し,(Bluetoothは搭載するものの)無線接続に対応していないとのこと。
 コントローラは魔法の杖にならって「ワンド」と呼ばれており,これでARグラス上に表示された3Dオブジェクトを操作できる。伸びた棒の部分で位置を指し示すことができ,コントローラ上に配置されたボタンやトリガー,アナログスティックと組み合わせることで,さまざまな操作が行える。
 一方,映像を投影するためのボードはサイズが約80センチ四方。周囲には位置を認識するために円形のマークが配置されており,本製品の場合,映像が表示できるのはこのボード上のみである(理由は後述)。なお収納時は四つ折りにたためるとのことだ。

ARグラスの上部にはカメラが内蔵されていて,これでヘッドトラッキングを行っているとのこと。ちなみに眼鏡の上からでも問題なく着用できる
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コントローラから長く伸びた棒の部分からは赤外線が放出されている。これをARグラスのカメラで捉え,トラッキングしている
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プレイ中の様子はこんな感じ。なお2,3歩くらいなら問題ないが,ボードから離れすぎるとトラッキングが効きにくいようだった。ちなみに上部に配置された小さい板はデモ機用とのこと
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さっそく遊んでみた


 大まかな説明が済んだところで,さっそくARグラスを装着して遊んでみることに。なお今回体験できたアプリケーションはいずれも開発中のものだという。プレオーダーした人には,製品発送時に基本的なゲームがいくつか組み込まれた形で届くというが,今回の紹介する中にはそれ以外のものも含まれている。

 まず最初にプレイした「Marbles」は,さまざまな障害や罠がしかけられた通路をボールを転がして進み,ゴールまで導くというゲームだ。これは製品版に最初に組み込まれている基本ゲームの1つだという。板を傾けて穴に落ちないように金属球を転がしていく,よくあるおもちゃのようなプレイフィールで,なかなか反射神経が要求される。
 写真ではなかなか伝わらないかもしれないが,空中に配置された通路の下には,広大な大地とはるか下方を飛ぶ鳥の姿もあって,なかなか壮観でもある。こうした演出は釣りゲームなんかとも相性が良さそうで,個人的には「ドラえもん」に出てきたひみつ道具「神さまセット」(水が貼ったプール越しに地上を眺めつつ,お告げを下したりや制裁の雷を落としたりできる道具)が思い起こされる体験だった。

画像は左右それぞれの目に表示される画像を並べたもの。以下,ゲーム画面の画像はこの形で掲載している
画像集#024のサムネイル/ボドゲ特化を謳うARデバイス「Tilt Five」試遊レポート。AR技術の先に垣間見えるアナログゲームの未来とは

 同じくアクション寄りな「Race」は,クォータービューのクラシックなレースゲーム。箱庭のようなフィールドに敷かれたコースを走る車を,アナログスティックで操りレースができる。高低差を利用したジャンプでスピードを稼ぐのがコツのようで,最大5人でプレイ可能とのことだった。
 アナログゲーム用のARグラスを謳う「Tilt Five」だが,これはアクション要素が強めで,普通のデジタルゲームに近いプレイフィールのタイトルだ。

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 お次の「Crossy Road」は,1マスずつ進む自機を操作し,走る車や流れる丸太の間隙を縫いながら道路や川を横断していく,スマホアプリなどでもおなじみのタイトルだ。
 ARで見ると,車やキャラクターが積み木のようでかわいらしい。通常のディスプレイだと視点が真上に固定されるが,ARなら自分が少しかがむだけで,はるか彼方までまで横断すべき道が続いているのが見えておもしろい。

 ここからはゲームというか,純粋なデモに近いアプリケーションになる。こちらはコントローラを使ってブロックを生み出し,それを転がしたり浮かしたりできるというもの。コントローラの先が磁石になったようにブロックを吸着させ,ボタンを離せば落下して飛び散るのはなかなかに壮観だ。
 ボードゲームで振ることの多いダイス表現のプロトタイプなのかと考えたが,だとすると重力が小さめに設定されているためか,全体的に動作がフワッとしているのが気になった。とはいえ大量のダイスを振るタイプのゲームでは便利そうである。

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 同じくデモ系のアプリケーションでは,さまざまな形状や色のブロックを積み木のように積みあげられるものも用意されていた。これもシンプルなデモなので使い方はアイデア次第だが,例えば「マインクラフト」のようにブロックを積み上げて,簡単な立体マップを作るのに使えるかもしれない。

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 そのほか,クォータービューでエイリアンから逃げ回るステルス風ゲームや,ミニチュア風の街中をコースに見立てたゴルフゲーム,ボードゲームの「カタン」を模したボードゲーム,火を噴くドラゴンと戦う冒険者が表示されるテーブルトークRPG風のデモもあったが,いずれも開発途中のもののようで,機能が制限されていたり,そもそも操作ができなかったりしたのでテキストで紹介するに止めておく。


 ざっとプレイした感想としては,まず既存のデジタルゲームを再現したタイプのタイトルだと,やはり「Tilt Five」の魅力を引き出すのは難しいように感じられた。奥行き感や演出などで,ARらしさを感じる部分はありつつも,映像の精細さや応答速度では通常のディスプレイにはかなわない。またマットに投影するという形式上,どうしてもクォータービュータイプのゲームになりがちという懸念もある。

 一方で,複数人で一つの画面=テーブルを共有しつつ,周囲の様子や相手の顔色をうかがいながらプレイできるのは新鮮な体験だ。またリアルなカードやダイスを併用することもできるので,謳い文句どおり,卓を囲んでワイワイ遊ぶタイプのボードゲームなら,その真価が発揮できるだろう。
 まあ結局のところ,「Tilt Five」用に作られたゲームやアプリケーション次第がどれだけ生まれてくるかによるのだが。

今回試遊したゲームはほとんどがUnity製だったが,SDKはUnreal Engineにも対応済とのこと。また開発中のものであるためか無音のものがほとんどだったが,スピーカーはあるので音もつけられる
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■「Tilt Five」の仕組みについて


 ほかのARデバイスと比べ,軽量かつ低価格を実現した「Tilt Five」だが,その仕組みはどうなっているのだろうか。ここではその技術的な側面を少し解説してみたい。

 「Microsoft HoloLens」や「Magic Leap 1」といった専用のARデバイスでは,透過型のレンズに直接映像を投影する仕組みだが,「Tilt Five」の場合はそうではない。まずグラスに組み込まれた左右2つの小型プロジェクターが映像をボードに投影する。このボードには「当てられた光が入って来た方向にのみ反射する」性質を持った再帰性反射材が用いられており,投影された光はそのままグラス側に帰ってくる。これをレンズの表面に映し出すことで,通常の視野と映像が重なったAR表現を実現している。……そう聞くと複数人でプレイしたとき,映像が混ざってしまうんじゃないかと不安になるが,再帰性反射材に加えレンズ側でも偏光するので問題はないらしい。

 開発元によれば,さまざまなVRおよびARシステムのプロトタイプを比較した結果,ユーザーの快適さなどを総合的に判断し,この「再帰反射+プロジェクション方式」を採用したとのこと。アナログなぶん映像の精細さには欠けるものの,原理がシンプルなためグラスそのものに組み込む機構が少なくて済むこと(=軽量かつ低コスト),画像が明るくコントラストが高いこと,画像の視野角が110°と広いことがメリットなのだそうだ。

小型プロジェクターから投射される光は弱いので,明るい部屋ではほとんど見えないが,暗くするとボードに映像が映っているのが分かる。
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日本の窓口であるカラーリンク・ジャパンは,実はこの小型プロジェクターと偏光レンズを製造している企業でもある。同社ではほかにもARやVRデバイス用のレンズユニットを手がけており,その技術力を買われて北米ベンチャー企業であるTilt Five社から声がかかったとのことだった
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 ちなみにボードには正確なトラッキングのため,周囲に円形のマークが配置されているが,映像を映すだけなら再帰性反射材でできた布があれば事足りる。先に「Tilt Five」で映像が表示できるのはボード上のみと書いたが,例えば部屋中を再帰性反射材の布で覆ってしまえば,360度どっちを向いてもAR表示ができるようになる(ただしプロジェクターの光が届く距離でなくてはならないが)。

奥側に再帰性反射材の布を吊るした状態でプレイすると,高い位置にも映像が表示できる
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写真ではなかなか伝わりにくいが,ゲームの背景が地平線まで見えるようになり,かなりの絶景が楽しめる
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■「Tilt Five」の基本スペック
ディスプレイ 720p解像度のデュアルプロジェクターと偏光レンズによるステレオディスプレイ
視野角 110°
最大リフレッシュレート 180Hz
最適表示距離 10〜200cm
インタフェース USB3.1 Gen 2互換(ホスト側はUSB3.0以上が必須)
音声入出力 マイクおよびステレオスピーカー内蔵
グラス総重量 85グラム
通信機能 Bluetooth Low Energy対応
そのほか カラーフィールドごとに180Hzで動作する専用の手ぶれ補正機構,アプリケーションからアクセス可能な8メガピクセルの画像処理専用カメラ



未来のボードゲームはどうなる?


2020年1月に開催されたウェアラブルエキスポに出展した折には,国内のゲームメーカーからの引き合いも多かったとか。すでに開発が進行しているところもあるそうなので,それらが世に出てくることを期待したい
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 短時間ながら体験できた「Tilt Five」だが,こちらはあくまで現在開発中のハードウェアだ。やはりこうしたARボードゲームが身近に遊べるようになるには,まだもう少し時間がかかるのかもしれない。
 なお,もしいち早く入手したいなら,この記事を掲載した2020年9月現在も公式サイトでオーダーを受け付けているので,挑戦してみるのもいいだろう。価格はグラスとコントローラ,ボードの一式セットで359ドル(約3万8000円)だ。ただし,新型コロナウィルスの影響で生産に遅れが出ているそうなので,発送に至るには1年以上待たされる可能性があるとのことだった。

 一方で,近い将来にまずありそうなビジョンとしては,アーケードや専用のアミューズメント施設,あるいはボードゲームカフェのような公共施設への導入だろうか。とくにグラスが透過式で周囲の風景が見えるARは,VRと比べとくに安全面でハードルが低そうに思える。デジタルカードゲームとの相性も良さそうなので,近い将来きっとそうしたアーケードゲームが出てくることだろう。
 ちなみに「Tilt Five」の日本の窓口であるカラーリンク・ジャパンでも,当面はこの方向に可能性を感じているそうで,この記事で興味を持った企業の担当者は,ぜひ同社まで問い合わせてみてほしい。

今回は試す事が出来なかったが,「Tilt Five」には印刷されたパターンを検出してリアルカードを認識する仕組みが備わっている。製品版ではサンプルカードも付属するとのこと
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 さらに進んでコンシューマレベルでの普及となると課題は多いが,もし実現したならアナログゲームをオンラインで遊ぶのが,今以上に気軽にできそうだ。ボードゲームはもちろんのこと,時間がかかりがちなテーブルトークRPGのキャンペーンや,初見プレイヤーを集めるのに苦労するマーダーミステリー,あるいは人狼ゲームなんかも,臨場感たっぷりにプレイできるに違いない。

画像集#013のサムネイル/ボドゲ特化を謳うARデバイス「Tilt Five」試遊レポート。AR技術の先に垣間見えるアナログゲームの未来とは
4Gamerでも以前紹介した,テーブルトークRPGのオンラインセッションツール「ユドナリウム」などは,3D表示が可能なこともあって相性抜群に思える
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マーダーミステリーは集めた情報をプレイヤー同士で交換しながら,あるいは秘匿しながら事件の謎を追い,犯人を見つけ出すアナログゲーム(関連記事)。情報の非対称性が重要なこともあり,どちらかいえばオンラインより,顔を見ながらプレイできるところがAR向きかも

 テクノロジーは日進月歩であり,世界中のプレイヤーと,好きなときに好きなアナログゲームが遊べるようになるのもそう遠い未来ではないのかもしれない。とくに顔を突き合わせてアナログゲームを遊ぶことが難しい昨今であればなおのこと,需要は高いはず。そんな未来を期待しつつ,続報を見守りたいデバイスだ。

余談だが,カラーリンク・ジャパンではこのほかにもメガネ型のシースルーモニター(のレンズモジュール)を開発中とのことで,そのデモも見せてもらった。解像度は1080pながら,2メートル先に57インチのディスプレイを見るような映像を,風景に重ねて3D表示できる。サイズや透明度も調整可能で,主に医療分野での利用を想定しているそうだ(写真は開発中のもの)
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「Tilt Five」公式サイト(英語)

カラーリンクジャパン 公式サイト

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