インタビュー
新たなネットカフェ支援会社,メディエーターが考えるサービス展開とは?
「既存のネットカフェサポート事業者さんと,激しい競争になるとは必ずしも思っていません」と述べる彼らのビジョンは,日本におけるオンラインゲームビジネスの成長余地に懸かっているようだ。
なお,本インタビューをお読みになる前に,話題の大枠を掴むため,2008年7月11日に開催された,会社設立発表会の記事を読み返していただければ幸いである。
変化しつつあるネットカフェ業界
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず韓国におけるネットカフェ普及の大まかな経緯から教えてください。
Seong Jin Il氏 |
韓国におけるPC Bang(ネットカフェ)の隆盛は,ご存じのようにオンラインゲームの普及と密接な関係にあります。1995年に「StarCraft」が大ヒットすることで“人が集まってゲームをやる文化”が形成されます。この経験がのちのオンラインゲーム産業と,その舞台としてのPC Bangの発展につながりました。
4Gamer:
現在,韓国全土にネットカフェはおよそどのくらいありますか?
Seong Jin Il氏:
正確な数字は分かりませんが,約2万店舗です。2005年以降店舗数の伸びは止まった感じで,個々の店舗の規模が大型化する傾向にあると思います。
4Gamer:
では今後,韓国のネットカフェ業界は店舗の大型化傾向以外に,大局でどこへ向かって進んでいくとお考えでしょうか?
Lee Jun Han氏:
ここまで韓国のネットカフェは,オンラインゲームプレイの快適さを追求しつつ発展してきました。しかし近年,余暇を過ごすためのさまざまな娯楽が求められる傾向が出てきています。
まるで喫茶店で友達と過ごすように,ネットカフェで過ごすようになっています。飲み物やお菓子もありますから,ゲームをしながら友達と過ごすわけですね。
その意味で,日本のネットカフェに近づいているともいえますし,より日常の生活に溶け込む形に向かっているともいえます。
4Gamer:
MEDIAWEBさんの設立が1999年,つまり,まさしくネットカフェの普及と共に歩んできたというわけですね。では,現在のMEDIAWEBさんの立ち位置の目安となる数字はありますか?
Seong Jin Il氏:
ネットカフェはオンラインゲームの販売市場であり,通常はバックエンドの管理ツールをさまざまに活用して経営がなされています。MEDIAWEBが管理ツールを提供するネットカフェは約6000店舗あります。ゲームタイトルの具体的な供給も行っていますから,その両側面から見た場合,MEDIAWEBは韓国No.1のネットカフェ支援会社といえるでしょう。
4Gamer:
事業発表会では,管理ツールのもたらすメリットが大きな話題になっていましたね。ただし,ほかの支援会社さんもおそらくそれぞれに管理ツールを持っているのだと思います。
それらと比べたときMEDIAWEBのツールが優れている点や,これまでに上げてきた実績を教えていただけますか?
Lee Jun Han氏 |
日本と韓国でネットカフェの業態がいろいろ違うといっても,PCを使ってサービスを提供する点は同じですよね。MEDIAWEBのツールは決済システムや,ウイルス/不正コードに対するセキュリティ機能も兼ね備えています。
さらにPC環境のリカバリーシステムや,各種フィルタリング(閲覧)機能も備えていますので,今後日本でインターネットコンテンツの閲覧基準に関する議論が進んでも,基本的に対応できます。また,リモートインストールを含め,ネットカフェのすべてのPCを一元管理することが可能になっています。
これにさらに,日本における需要を考えた開発要素を加えていくことを予定しています。
メディエーターが考える今後の日本のネットカフェ市場
4Gamer:
日本市場の話題が出たところで,日本で今後ネットカフェ市場がどうなっていくか,いまお考えのところを教えてください。
Seong Jin Il氏:
日本において,オンラインゲームはこれから伸びていく分野だと思います。そして,日本のネットカフェ市場を調べたところでは,(編注:コミックスやリラクゼーション設備も含めて)さまざまなコンテンツを提供しているのが,ほかの国と異なる特徴だと思います。
それゆえ日本のネットカフェにおいて,オンラインゲームの比重は現状それほど重くないわけですが,今後オンラインゲーム市場の進展につれて,それを原動力とするネットカフェ市場の成長が加速すると考えています。
そのタイミングで,メディエーターという会社がそこに注力するという展望を描いているわけです。
4Gamer:
韓国では個人単位でのPC普及に先立って,あるいは並行して,ネットカフェが発展していきました。それに対して日本では順番として,ある程度家庭にPCが普及してから,ネットカフェという文化があらためて取り入れられたと思います。
それが日韓のネットカフェの違いを生み出していると思うのですが,そうした前提を踏まえたとき,ネットカフェおよびオンラインゲームに関し,日本向けに打ち出す新施策などは具体的にお考えでしょうか?
MEDIAWEBの海外事業展開につきましては,ネットカフェの管理ツールと運営ノウハウを携えて当たるのが基本となります。ただ,さきほどもお話ししたとおり,日本ではネットカフェが実にさまざまなサービスを提供しています。つまり,管理ツールと従来の運営ノウハウだけでは足りないと考えているのです。
現状で完璧といえるような日本市場対策は構築できていませんが,日本のオンラインゲーム市場を分析しつつ,オンラインゲーム部分を核に,広く日本のネットカフェに向けたソリューションを固めていこうと考えています。
4Gamer:
では,新会社が手がける具体的な事業の内容についてお聞きします。メディエーターが提供するソリューションとは,例えばネットカフェで使うPCの販売や,回線契約の斡旋なども含むのでしょうか?
Seong Jin Il氏:
韓国MEDIAWEBとしては,ネットカフェの経営に必要なすべての要素に関して供給実績がありますが,日本でこれから事業を展開するメディエーターにとっては,ネットカフェさんとの間に信頼関係を築くことが第一です。
その段階である以上,MEDIAWEBが韓国で行ってきた全面的なサポートビジネスをいきなり日本で展開するのは難しいと思いますし,ネットカフェさんのメリットを考えたとき,まずは限定的なソリューションから始めるのが正しいと思います。
必要な時間をかけ,日本市場の現実に合わせつつ,段階的にMEDIAWEBのビジネスを持ってくるつもりでいます。
4Gamer:
ご存じのように,日本にもすでにネットカフェのサポートビジネスを手がける会社さんがいます。それら先行の会社さんと激しいシェア争いが起きる可能性もあると思います。これについては,どのようにお考えですか?
Seong Jin Il氏:
ビジネスである以上,もちろん競争の側面はありますが,一方でWin-Winの関係が望ましいのは言うまでもありません。
ネットカフェの市場が順調に成長していけば,そこに関わる各社が利益を伸ばせます。お互いに協力することで市場そのものを大きくできなるなら,それに越したことはないので,そういった意味で,激しい競争が避けられないとイメージしているわけではありません。
メディエーターの持つアドバンテージとは
4Gamer:
なるほど,業界全体の発展がより重要であると。では競争と協力という構図を受けつつ,まず競争的側面でメディエーターが持つアドバンテージについて教えてください。
メディエーターが持ち得るアドバンテージとしては,母体であるMEDIAWEBが,一つの事業を10年にわたって専門的に手がけてきたことに尽きます。その間にお客様からいろいろな要望をいただき,それをかなえるべく努力してきた結果として,韓国でNo.1になりました。いささか大げさにいえば,世界レベルで見てもMEDIAWEBは,ネットカフェマーケティング分野でNo.1の会社ではないかと思います。
そしてメディエーターは,日本でNo.1のオンラインゲーム会社であるNHN Japanと,韓国におけるネットカフェサポートNo.1のMEDIAWEBが,共に出資して立ち上げた会社ですから,両社のノウハウが結集されることで,今後の展開にはご期待いただけることと思います。
4Gamer:
今後日本のネットカフェ市場全体を大きくしていくに当たって,何がキーになるとお考えでしょうか?
Seong Jin Il氏:
ネットカフェを活性化するためには,なんといっても利用者の増加が第一です。そのためにはオンラインゲームパブリッシャが,より良いコンテンツを提供していくことが大切だと考えています。利用者とネットカフェとオンラインゲームパブリッシャ,この三者がうまく噛み合っていくことが重要なのです。
パブリッシャは優良なコンテンツを提供する場として,ネットカフェをうまく使うべきだと思いますし,ネットカフェはそれに応えるべきだと思います。
4Gamer:
メディエーターが今後提供予定の管理ツール/ソリューションと,他社のツール/ソリューションは,一つのネットカフェ店舗の中で併存可能なのでしょうか?
Choi Hyo Sun氏:
もちろん可能です。
4Gamer:
複数の管理ツールを併用する状態というのは,なかなか想像しづらいものですが,新規市場への進出に当たって,その可否は重要なポイントのような気がします。そこはいかがでしょうか?
Choi Hyo Sun(崔 孝先)氏 |
基本的に可能です。例えば現在他社さんの管理ツールを使っているネットカフェ店舗さんがあったとして,システムリカバリ部分だけメディエーターのツールを使ったりもできるのです。
そのあたりは,店舗のオーナーさんがどのように運営するかによって変わってきますので,(編注:PCのシステムリソースの競合といった)個別の問題さえ生じなければ,柔軟に対応できると思います。
βテスト仲介を通じたマーケティングの拡大
4Gamer:
日本における今後の展開を占う意味で,韓国においてネットカフェの盛り上げに成功した事例をいくつか教えてください。
Lee Jun Han氏:
そうですね……例えば韓国のネットカフェには,サービス用仮想通貨(編注:プリペイドカードでチャージするポイントや,ハンコインのようなシステム)を使うのでなくて,その場で(編注:小額)決済のできるシステムがあります。ネットカフェ管理ツールを通してそうした決済システムをサポートしているわけです。
そして利用者の方は,自分に便利な決済システムをサポートしたお店を選ぶようになります。なんといっても便利ですから。そこが集客メリットとなって,店舗経営に貢献できたという例があります。
4Gamer:
韓国では携帯電話を含む小額決済が発達していると聞きますが,その波がネットカフェ経営にも及んでいるんですね。
Lee Jun Han氏:
もう一つ挙げるとすれば「PC Bang無料利用クーポン」でしょうか。これはMEDIAWEBとゲームパブリッシャが協力して,1時間程度無料でネットカフェを利用できるクーポンをあげましょう,というものです。
この間の利用料金はMEDIAWEBが負担するので,店舗としては何も失うことなく新規顧客の開拓になります。
4Gamer:
いわばネットカフェそのものの“体験版”みたいな考え方なわけですか。では,MEDIAWEBさんのマーケティング活動,例えばアンケートなどを通じて利用者の要望が実現した例などはありますか?
オンラインゲームではサービスインまでに,クローズドβテストやオープンβテストがありますよね。ゲームパブリッシャはこの期間の同時接続者数動向などを見極めて,サービスインの時期を決めたりします。
そこでゲームパブリッシャは「MEDIAWEBの加盟店ネットワークを通じてテストを実施したい」旨,申し込んでくれます。同様に,ネットカフェ側からも申し込みが来ます。ネットカフェ側のメリットとしては,新しいゲームをいち早く提供できることがありますし,ゲームパブリッシャには大規模なテストが実施できることによって,プレイヤーからのさまざまな意見が集約されます。
個別のマーケティングというよりは,こうした取り組み全体が,オンラインゲーム業界とネットカフェ業界,そして利用者の方々を結びつけることになっていると思います。
4Gamer:
では最後に,メディエーターの事業展開によって,ネットカフェ利用者とゲーマーがどんなメリットを手にできるかについての決意表明をぜひお願いします。
Lee Jun Han氏:
マーケティングスペースでもあるネットカフェの振興をめぐって,ここまでいろいろお話ししてきましたが,その大前提には利用者の方の利益になること,があります。
ネットカフェを舞台にオンラインゲームを活性化していくことで,利用者の方に喜んでいただく,それこそ韓国でMEDIAWEBが手がけてきたような利用者メリットを実現していくこと。まずはそれをご期待いただければと思います。
いろいろなオンラインゲームがあるなかで,良いコンテンツを探し,企画してネットカフェに提供していきます。そこが基本だと思いますし,「ああ,メディエーターが支援しているネットカフェだから,こうした楽しいゲーム内コンテンツが実現しているのだな」と認知してもらえるよう,たとえ時間がかかっても努力していきたいと思います。メディエーターの今後にご期待ください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
そうした彼らの発想に,聞き手としては「ああ彼らはまさしく,オンラインゲームパブリッシャ/ネットカフェ事業者/ネットカフェ利用者のすべてを視野に入れ,この三角形を緊密につなげる役割を果たしているのだな」と,強く実感させられた次第である。
日本における今後の取り組みについてこそ,あまり具体的な話題提供にならなかったものの,韓国におけるネットカフェの今後は,一つ興味深い論題になっていると思う。というのも,ChinaJoy2007の取材記事で,NVIDIAネットカフェ担当Matthew‘Mac' Cuerdon氏が唱える,ネットカフェ業界の三段階推移論とも,おおむね方向の一致した意見であるからだ。韓国のネットカフェは,これから固有の価値を追求してそれぞれに生き残りを目指す状況に,移行していくのだろう。
ネットカフェの文化が移入された段階で,すでにある程度家庭にPCが普及していた日本において,ネットカフェはサービス内容面で幅広い展開を遂げている。漫画喫茶や(アーケードゲーム機を並べた)ゲームセンターを兼ね,ダーツレーンやビリヤード台,マッサージチェアやフットバスを備えた店舗すらあるのがその実例だ。
そうした日本市場に,韓国ネットカフェサポート業界の巨魁(の合弁会社)は,具体的にどうアプローチするのか。繰り出される一手が実に楽しみである。
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