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[AOGC 2006]ガンホー堀氏が語るゲーム業界の技術動向と今後の展開「2006年,ゲームマネジメントの新たな潮流」
堀氏は話の導入部を兼ねてニンテンドーDSを引き合いに出し,Wi-Fiネットワークによるプレイの広がりを高く評価した。次いで,携帯ゲーム機や携帯電話,家庭用ゲーム機,PDA(携帯端末)やPCなど,異なるゲームプラットフォームが共通のゲートウェイを介してつながり,そうした市場全体に向けてゲームが制作されるようになるとした。おそらくは,一つのゲームにさまざまな端末からのプレイヤーが集まる,同一のゲームサービスを状況に応じてさまざまなプラットフォームでプレイする,といった状況だろう。
そうなれば,機種を問わずにコンテンツを提供可能なサービスインフラが待望される。それはオンラインゲームメーカーにとって,より大きな市場が開かれるということだ。
しかし,と堀氏は続ける。さまざまな夢は語られるものの,現行のオンラインゲームサービスにはいろいろ問題がある。その解決に向けてさまざまな努力が重ねられているが,一朝一夕で解決できるわけではない。そう語る堀氏は,以下の四つを問題点として挙げる。
1.不正(チート)問題
2.RMT(リアルマネートレード)問題
3.ゲームマスター(GM)問題
4.ファシリティ(設備)問題
1.の不正問題は,ガンホーの最近の取り組み課題としても注目されるところだ。氏は,チート手法がメジャー化していること,ネットワーク上でのチート情報共有やファイルの流布が広がりつつあること,チートが組織化し,組織を支える層が大規模化しつつあることを述べ,デベロッパ,パブリッシャにセキュリティベンダーが加わってノウハウを共有,対策を講じ,啓蒙と摘発の手段,対策ソリューションを前進させ,やがて法的措置にステップアップさせることが必要という認識を示した。とくに,セキュリティベンダーとの協力体制を強調したのは,「ラグナロクオンライン」における,昨今のガンホー自身の取り組みを踏まえたものだろう。
2.のRMTについては,法で扱えないグレーゾーンであるために,アンダーグラウンド市場として機能していると指摘した。そして,「RMTに対する見解と対応は,メーカーの意思により定められるべき」とする大原則を示し,メーカー個別の自主規制(規約に盛り込むなど),ゲーム内容面での考慮などを含みつつ,ゲーム業界有志によって検討が進められているという現状を説明した。
3.のGM問題とは,まずもって人材不足を指すが,その背景には,GMを,ゲーム業界に入る安易な手段と認識する風潮や,GMにメーカーが求める事柄(安全に運用すること)と,プレイヤーが求める事柄(楽しませてくれること)の乖離があるという。そして,今後より高度化していくGMの業務に見合う,育成課程とキャリアパス(個人としての将来展望)を築く必要性を指摘した。
4.のファシリティについては,“技術屋”堀氏らしい,なかなか新しい話題が聞けた。例えば回線費用は,プレイヤーの増加に対して二次曲線の逆の形で頭打ちになっていくという。つまり,人数が少ないうちは急速にコストが跳ね上がっていくが,一定の規模を超えると,プレイヤーが増えてもそれほど増加しなくなる。
ここで,先行業者が受託業務の形で後発業者に設備を貸し出せば,効率的な運営が成り立つ。この受託業務による参入コスト軽減策をファシリテーターサービスと呼び,これによって委託側/受託側ともにメリットを享受できるとした。
このように,回線やサーバーのコストには解決策があるとして,現在問題になりつつあるのは電力コストと空調なのだという。電力使用料は,オンラインサービスの設備コストとして,現在最もかさむ項目となっている。ネットワークトラフィックの問題と異なり,サーバーおよび関連機器の消費電力(=発熱量)は規模に比例して増大していくし,熱対策としての空調費用も同様だ。現在は,機器メーカーとの協議が進められるようになっているという。
設備の問題はともかく,これらの問題はもっぱらMMORPGというゲームサービスの,未完成な部分を突く形で顕在化するという。堀氏は,人間の欲求が「生理欲求」「安全欲求」「親和欲求」「自我欲求」「実現欲求」という順で高度化していくとする,アブラハム・マズローの欲求段階説を図示して,「MMORPGのプレイがまさにこの段階を踏んで進んでいく」と述べ,それぞれの段階におけるプレイ内容の突き詰めが,ゲームデザイン上の課題であるとした。
■ガンホーが考える,ポータルとソフトウェアプラットフォーム
各ゲームプラットフォームがネットワークでつながった市場では,ダウンロード販売が普及し,ポータル(サイト?)が実店舗の代わりを果たすことになる。そして,ポータルは,一緒にプレイする仲間を確保する役割も演じて,「総合コミュニテイメント」が生まれてくると,氏は述べる。
そして,さまざまなゲームプラットフォームにまたがる開発を効率化するために,ミドルウェアソリューションが再編され,広義の「プラットフォームの共通化」が進む。各機種に落とし込んでいく末端での開発作業は別として,これはつまり,ソフトウェアが事実上のプラットフォームになることだという。
そして,そこに向けてガンホーが進める開発案件が,昨日掲載した森下氏の基調講演で「次世代ネットワーク技術プロジェクトの取り組み」と述べられたものであり,堀氏の言う「ソフトウェアプラットフォーム構想」というわけだ。
前述のオンラインゲームの課題に即しつつ,堀氏はガンホーの取り組みを説明していく。
まず,チート問題に関連して,ガンホーがチート対策のみならず,コンテンツ開発やネットワークソリューション,ワークフレーム開発といった各分野で協業体制を推進していることを説明,「餅は餅屋という考えも重要」とする認識を示した。
また,管理システムの統合,基幹情報のデータウェアハウス化を進めることで,省力化を進めつつ,基幹情報をマーケティングに活用しやすい体制をとるという。もちろん,セキュリティの強化も重要な課題となる。
堀氏は昨年起きたデータベース情報の漏洩についてもコメントし,「負けは負けとして認めたうえで,現在ガンホーにおけるシステムを一から築き上げる努力を進めている。また,今後ネットワークビジネスの方法論が大きく変わることに先立っての,下準備ともなっている」と語った。
GM問題については,ガンホーが職位としてのGM,部署としてのGMグループを廃止し,プランナーを目指す「イベント制作課」と,エンジニアに向かう「DCオペレーション課」そして,キャストに特化していく「ナビゲータ」という3分野に,GMの業務を分割したと述べた。職掌が曖昧で先の展望が与えられていない状態から,ガンホーとしての明確なキャリアパスを示したということだ。
そして,こうした組織変更を通じて,ゲームのプレイ内容に関するカスタマサポートを強化していくという。
最後に堀氏は,再びソフトウェアプラットフォーム構想に触れ,現状で設計/開発が進められているワークフレームの具体的な項目として,以下の三つを挙げた。
■レイテンシ対策,セッションコントロールのチューニングを積んだ,サーバーサイドゲームエンジン
■マルチデータフォーマットの非同期型データ配信システム
■サービス縦断を意識した,パケットブロードキャスティングシステム
ネットワークがゲームプラットフォーム同士を結びつけていく展望のもと,同社らしい“ワンソース,マルチユース”の風呂敷を広げる思考は,一種のPCオンラインゲームセントリズムというか,ゲームの多様性を重視する視点からは正直微妙なものだ。ただし,プラットフォームを目指して進むことは,現在のガンホーのポジションからすれば,適切な選択なのかも知れない。
ともあれ,ガンホーの開発案件については,「Project Rondo」を含め,まだまだ明かされていない部分が多い。可能であればそれらについて,ぜひトータルな話を聞いてみたいと思う次第だ。(Guevarista)
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