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[AOGC 2006]アジア地域のオンラインゲームの現状(その3:中国・ASEAN編)
日本編で述べたように,これらのアジア地域では「ほかに娯楽がない」ということが,オンラインゲームが普及していくうえで大きな原動力となっている。ブロードバンド環境の普及も始まり,これらの地域でもオンラインゲームは急速に浸透しつつある。
中国でのトピックをまとめると以下の3点になる。
・とにかく巨大な市場
・3Dを使ったゲームも登場
・100万同時接続に耐えるサーバー環境
中国は,物量が他国とは比較にならないスケールだというのは,昨年のChinaJoyでも痛感したことではあるが,
・オンラインゲームユーザー数……約2634万人
・現在開発中のオンラインゲームタイトル……約200本
・開発者数……(この1年間で3倍増の)1万2600人
とさらに規模を拡大しつつある。決して大げさな数字ではなく,しかも今なお成長中だ。今年中に4000万世帯のアメリカを抜いて,世界一のブロードバンド大国となる見込みである。
この市場を目指して,海外からのオンラインゲーム売り込みを目指す企業も多いが,中国が政策として国内のオンラインゲーム育成に力を入れていることもあり,上陸はなかなか難しい。
まず,現状の中国内でサービスされているオンラインゲームがだいたい200本と言われており,さらに開発中が200本。これはさらに増えてくるだろう。こうなると,毎週何本か新作が出てくるような勢いになるのも時間の問題で,いくら広大な市場とはいえ,熾烈な競争は必至と思われる。
ウィ氏の講演で,3Dゲームも出てきたという例で挙げられたのが,既報の「完美世界」である。昨年のChinaJoyでも賞を穫った,一部では有名な作品らしい。とはいえ,ChinaJoy会場は隅から隅まで見て回った記憶はあるのだが,まったく記憶にないゲームだった。調べてみると,該当ブースナンバーがマップ上に存在しないので,会場展示はされていなかったようだ。
この作品は,独自エンジンで作成されていることも含め,中国のオンラインゲームの中では突出したレベルにあると言っていいだろう。ムービーを見るとフレームレートが低いようにも思えるのだが,実際にプレイしてみると,フルオプション状態で12〜15fps程度出ている(Pentium 4/3.2GHz+GeForce 6800 Ultraで華北サーバーに接続時)。実現されている仕様から考えると,なかなかのものといっていいだろう(ちゃんとシェーダなども使われている)。
さらに中国では,同時接続100万人規模のアクセスに耐えるサーバー構築技術が確立されている。これは,単純に力業でサーバーを並べる方式ではあるが,とにもかくにも,同接100万人に耐える環境が実際に構築されているという事実が重要である。中国でサービスを展開するには,これが必須要件になってくるのだろう。
AOGCの中国セッションで講演したのは,中国King SoftとGolden Humanの2社だが,どちらもビジネスソフトや教育ソフトの大手として知られていた企業だ。中国で最後までパッケージソフトを販売していたのがGolden Humanだという。
教育ソフトということで,まだマシだったのかもしれないが,同社のWang氏は,中国ではパッケージソフトはまったく成り立たないと嘆いていた。
韓国でCabal Onlineを開発したESTSoftもそうだが,技術力を持ったビジネスソフトの大手が,オンラインゲーム市場に参入してくるという展開が韓国,中国と続いている。これも面白い傾向かもしれない。
ウィ氏はタイ,インドネシア,ベトナムなどをまとめて概況をレポートしていた。ただしASEAN諸国とひとまとめにしても,ばらつきは相当大きく,タイはかなり進んだ状況にあり,ベトナムは最も遅れているという。ブロードバンド環境が発展途上にあるこれらの地域では,オンラインゲームは急速に浸透しつつあり,市場としても有望そうだ。
ASEAN地域での特徴は,まだまだインフラ整備が追いつかず,都市圏にのみ島のようにネットワークが存在していること。ユーザーの性向は中国に近く,シンプルなものが受けているようだ。
また,文化的な制限も厳しい。宗教的な問題もあり,露出度の高いキャラクターは,すべて服を着せ直さなければならない。このような文化的な問題は,かなり大きな障害となる可能性がある。
ほかのセッションでは,Hanbit SoftのTANTRAの海外展開関係で,面白い話があった。TANTRAは,いうまでもなくインドのヒンドゥ教をベースとしたMMORPGだが,インドではかなり違和感があるらしく,インドへ輸出するにあたってかなり作り直しているという。同様に南米への輸出では,とくに宗教的なバックグラウンドを謳わないようにするなど,単なるオリエンタル風味のゲームとしてリリースするといった話も出ていた。
ベトナムで大々的なヒットとなり,名実ともナンバー1の実績を持つ「Swordman(剣侠情縁)」を開発した中国King SoftのBruce Ren氏は,ベトナムでの成功要因をいくつか挙げていた。中国と文化的に近いものがあること,ベトナム人に格闘モノを好む傾向があること,一番初めに良い形で参入できたことなどを並べ,最後に「ラッキーだった」とまとめていたが,ベトナム人に分かりやすいようにゲームタイトルも変え,きちんとしたローカライズがなされていたことが一つの要因であろう。
氏は,ベトナムで,ベトナム語のWindowsが提供されていないことに驚いたという。Microsoftにとってはあまり魅力のある市場ではないのかもしれない。Swordmanは,実に初めてベトナム語で提供されたゲームであるという。
剣客情縁は中国でも大ヒットしたKing Softの看板作品ではあるが(現在は剣侠情縁2が提供されている),2Dのかなりシンプルなゲームである。
ベトナムでは,単純にレベルが上がるゲームが受けているという。頭を使うクエストなどが入ると,途端に人気がなくなるそうなのだ。淡々と単純作業の戦闘を繰り返すものが好まれるというのを,ウィ氏は驚きを持って語っていた。ゲーム自体が浸透しておらず,まだ複雑なものを受け入れる土壌はできていないのだろう。
またベトナムでは,インフラはまだ整備されておらず,クライアントの大きさが1GBを超えるようになるとネットカフェでも扱えないので,まったく需要がないという。そういったところに,中国でかつて受けていたSwordmanがちょうどツボにはまったという感じだ。
ASEANの中ではかなりオンラインゲームが普及しているタイでは,大学生が勉強せず,1日中オンラインゲームをやっていることが問題になってきているという。
かつては先進国でも麻薬と呼ばれたことがあるだけに,オンラインゲームを普及させると同時に,はまりすぎることの害を啓蒙することも必要となってくるのだろう。こういうのは,娯楽が少ない国ほど気をつけなければならないのかもしれない。そういった意味では,早期に政策としてオンラインゲーム規制を始めた中国は,先進的だったのだろうか。 (aueki)
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