レビュー
Arctic Coolingの最新作が持つ実力に迫る
Arctic Cooling
Accelero XTREME Plus
そんななか,2010年8月に,GPU&CPUクーラーで実績豊富なスイスの冷却機器メーカーArctic Coolingから,「Accelero XTREME Plus」という製品が発表された。3連ファンを採用する大型GPUクーラーシリーズたるAccelero XTREMEはこれまで,特定のグラフィックスカードに向けた専用設計となっていたのだが,今回は,取り付け金具や専用チップクーラーをひとまとめにした「Accessories Set」(アクセサリセット,以下カタカナ表記)を別売りにすることで,より多くのグラフィックスカードに対応できるというのが大きな特徴だ。
日本国内では,販売代理店のザワードから10月になって販売が始まったが,4Gamerでは,Arctic Coolingから直接,Accelero XTREME Plusと,「GeForce GTX 480」専用アクセサリセットの貸し出しを受けられたので,あの“発熱王”を黙らせることができるのか,さっそく検証してみたい。
大型の3連クーラー単体では機能しない点は要注意
GPUに合わせたアクセサリセットの用意が必須
重要なのは,「Accelero XTREME Plus単体では利用できず,別売りアクセサリセットの利用が必須」という点である。
2010年10月下旬時点において,アクセサリセットは「VR001」〜「VR005」の5種類が用意されており,VR002以外はArctic Coolingの直販サイトから,4.99もしくは5.99ドル(+送料)で購入可能。ザワード扱いの国内版は1500円前後で販売されている。
各アクセサリセットの対応GPUと内容物は下記のとおりだ。
VR001
- 対応GPU:ATI Radeon HD 5870・5850・5830・4890・4870・4850・4830・3870・3850,GeForce GTS 250,GeForce 9800 GTX+・9800 GTX(※ただし,ATI Radeon HD 5850カードは,ブラケット部がシングルスロットタイプになっている製品に限る)
- 内容物:メモリチップ&VRM用ヒートシンク,熱伝導接着剤
- 対応GPU:GeForce GTX 285・280・275・260
- 内容物:マウント用プレート,メモリチップ・VRM&NVIO用ヒートシンク,熱伝導接着剤
- 対応GPU:GeForce GTX 470&465
- 内容物:マウント用プレート,メモリチップ&VRM用ヒートシンク,熱伝導接着剤
- 対応GPU:GeForce GTX 480
- 内容物:マウント用プレート,メモリチップ&VRM用ヒートシンク,熱伝導接着剤
- 対応GPU:GeForce GTX 460
- 内容物:マウント用プレート,メモリチップ&VRM用ヒートシンク,熱伝導接着剤
多数のGPUに対応するVR001だと,ひょっとしたらもう少しいろいろ入っているのかもしれないが,このあたりは未確認だ。
さすがArctic Cooling,取り付けは極めて容易
ただ,製品版に影響のない,ちょっとした“事件”も
製品をひととおり概観したところで,実際に取り付け作業に入っていこう。
とはいえ,最難関はGTX 480のリファレンスGPUクーラーを外すところで,あとは,グラフィックスメモリチップとVRM用のヒートシンクを,マニュアルに従いながら,熱伝導接着剤で固定し,最後に,Accelero XTREME Plus本体をネジ留めするだけ。一度でもGPUクーラーの換装経験のある人なら,悩むところはまずない。
※注意
リファレンスGPUクーラーの換装は,カードメーカー保証外の行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,GPUを壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考に試した結果,何か問題が発生したとしても,GPUメーカーやグラフィックスカードメーカー,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
……と述べただけで済ますのもどうかと思うので,念のため,以下のとおり,手順を紹介してみたい。GTX 480リファレンスクーラーの取り外し方については説明しない(※外す自信がないなら,本製品を試すべきではない)ので,その点はご了承のほどを。
(1)チップ用ヒートシンクの取り付け
接着剤は10秒ほど指で押さえていると軽く固定され,次のヒートシンク貼り付けに移れるため,作業効率は悪くないが,「すべてのヒートシンクを取り付けたらその時点で60分ほど乾かすように」とマニュアルに注意書きがあるのはお見逃しなく。
(2)Accelero XTREME Plus本体のマウンタを換装
(3)Accelero XTREME Plusをカードと固定
Accelero XTREME Plusを,4本のビスでGTX 480の基板に取り付ける。他社のGPUクーラーにありがちな,スペーサーを挟んだりといった作業は不要だ。ショート防止ワッシャーを噛ませることだけ忘れなければOK。
また,これはArctic Cooling製のクーラー製品で定番の仕様だが,Arctic MXシリーズのシリコングリスが標準で銅製プレートのGPUパッケージ接触面に塗布されているため,グリスを塗る手間もかからない。
(4)ファン電源コネクタの接続
と,ここで1つ余談。
最初に4Gamerへ届いたVRMヒートシンクだと,形状の問題で,カードから浮いてしまっていた |
上が初期サンプルのVRMヒートシンク,下が後から届いた(製品版の)ヒートシンク。GTX 480カードの仕様に対応すべく,接触面が階段状になっている。なお,上で接触面が汚れているのは,いったん取り付けたものだからである |
というわけで製品版では問題なくVRMヒートシンクを取り付けられた |
Arctic Coolingからは,ほぼ製品版と聞かされていたのだが,この状態では冷却性能が期待できない……どころか,ショートしてしまう危険すらある。そこですぐに同社へレポートを入れたところ「修正するからテストを一時中断してくれ」という連絡が入り,それから1か月強が経って,最終製品版が送られてきた,といった次第である。
おそらく,リファレンスデザインを採用したGTX 480カードのロット差によって,Arctic Coolingでテストした個体と,4Gamerでテストした個体で,VRM周辺に搭載される部品が異なっていたのだろう。製品版へ至る前には,こうした細かな修正があって,発売が遅れることもあるというのを実感したハプニングだった。
GTX 480でもFurmarkの連続実行が可能
冷却性能と静音性はともに優秀
話を戻そう。これで,クーラーの換装作業は完了だ。
いよいよ,Accelero XTREME Plusの性能を見ていくことになる。今回は冷却性能を確かめるため,GPU負荷テストに「Furmark」(Version 1.8.0)の「Stability Test」モードを使っている。
Stability Testは,冷却が甘いグラフィックスカードならGPUがハングアップしてしまうような高負荷を連続で掛け続けるモードなので,冷却性能を見るには最適だ。
今回は,表に示した動作環境で,MSI製のオーバークロックユーティリティ「Afterburner」(Version 1.6.1)を使って,温度とファン回転数の割合でログを取った結果を見てみることにした。比較対象として用意したのは,もちろん,GTX 480のリファレンスクーラーである。
なおテスト環境は,室温23℃の環境でバラック状態に置いている。
というわけで,先に,リファレンスクーラーを装着した状態でFurmarkを実行した結果から見てみよう。グラフ1は,GPUのファン回転数とGPU温度を1つにまとめたものだが,ご覧のとおり,どちらも高い。ファン回転数は約1分30秒後から92%設定に貼り付き,そしてGPU温度はテスト開始から4分後に100℃へ達してしまう。リファレンスクーラーの回転数は,“センサー読み”だと低めの値が表示される傾向にあったので,おそらく実際の回転数は100%に達しているのではないだろうか。
GTX 480の動作保証最大温度は107℃なので,仕様上はこの値でも問題ないはずだが,さすがにほかの部品へのダメージが懸念されるため,8分強の時点でテストを打ち切った次第だ。
なら,同じテストをAccelero XTREME Plusで実行したらどうなるのか。その結果がグラフ2である。
ファン回転数,GPU温度ともに,リファレンスクーラーとは様相が一変していると一目で分かると思う。最終的にFurmarkは50分間実行し続けたが,ファン回転数は60%未満,GPU温度は80℃強で安定し,これ以上になる気配を見せなかった。もちろん,今回のテスト結果はバラック状態のものなので,PCケースに組み込んだ場合は,グラフィックスカードの周辺温度が上昇するはずだが,しかしファン回転数にまだ十分な余力が残っているので,「PCケースに入れたときの不安」はないと断じていい。GTX 480でFurmarkを50分間回し続けても余裕というのは,非常に優秀な結果だ。
なお,グラフには入れていないが,アイドル時のGPU温度は,リファレンスクーラーで48℃前後なのに対し,Accelero XTREME Plusでは40℃前後。アイドル時の冷却能力も高いことになる。
Furmarkで限界の環境における挙動を見たところで,実ゲームに近いテストとして,「3DMark06」(Build 1.2.0)での結果を比べてみたい。
今回は,3DMark06の標準テストから,GPUクーラーには意味がないCPU Testをオフにし,代わりにGPU負荷が比較的高い「Feature Tests」をオンにして,2回実行している。
リファレンスクーラーの結果がグラフ3,Accelero XTREME Plusの結果がグラフ4だ。
グラフ3では,GPU温度とファン回転数のグラフ形状が,ともに激しく変動している。これはリファレンスクーラーがファンを負荷に合わせて激しく制御し,GPU温度を抑えようとしているためだが,それでもピーク時のGPU温度は90度以上に達する。
対して,グラフ4では,GPU温度こそ若干変動しているものの,変動幅は明らかに小さく,ファン回転数に至ってはほとんど変動していない。GPU温度の最高値も72℃で収まっており,優秀だ。
約9分経過時点から始まる2回めのテストでは温度が若干高くなるが,これはファン回転数が,最低速度の900rpmと思われる「44%」設定からほとんど上がらないためだ。グラフ2の結果も併せて考えるに,Accelero XTREME Plusのファン回転数は,GPU温度が最低でも70℃台後半に達するまでは,最低設定に維持されるものと推測される。“3DMark06程度”なら,最低設定で十分ということなのだろう。
このまま3DMark06を3回,4回と回し続ければ,ファン回転数は上がっていくかもしれないが,GPU温度が90℃を超えるケースというのはまず起こりそうにない。
以上のテストからわかるように,Accelero XTREME Plusは優れた冷却性能を持っている。では,動作音は? 結論から言ってしまうと,驚くほど静かだ。
今回は,GPUから約20cm離れた場所にマイクを置いて動作音を録音した。参考までに,2010年8月のGELID Solutions製GPUクーラー,「ICY VISION」をレビューしたときに比較対象として用意したGTX 480リファレンスカードの動作音も再掲載するので,ぜひ聞き比べてみてほしい。このときの室温は29℃だったので,リファレンスクーラーは多少不利だが,実際に聞いてみると「そんな差は問題にならない」ことが分かってもらえるはずだ。
上で示したとおり,Accelero XTREME Plusのファン回転数は,Furmark実行時ですら100%には達しない。そのため,今回はAfterburnerから無理矢理100%にしたので,「本来ならまずあり得ない回転数で動作させた状態」の音ということになるが,この状態でも,1mほど離れると,アイドル時との区別がつかないほど。PCケースに入れてしまえば,動作音はほぼ気にならないレベルと言っていいだろう。
念のため触れておくと,アイドル時の音は,CPUクーラーや電源ユニットのファンより低いほどで,1mも離れると,回転しているかどうかすら分からないほどだった。
サイズと価格,販売形態というハードルの高さはあるが
それを補って余りある圧倒的な性能
また,2010年10月30日時点の実勢価格が7000円前後で,さらにアクセサリセットの1500円前後がプラスされるという,かなり高価な製品であることも人を選ぶだろう。人気が偏った場合,アクセサリセットがちゃんと手に入るのかという懸念もあるし,今後,例えばRadeon HD 6800やRadeon HD 6900シリーズなどに対応したアクセサリセットが登場するのかどうかも不透明だ。
しかし,そうした欠点をものともしないだけの実力が,Accelero XTREME Plusにはある。取り付けやすく,冷却能力は高く,そして静か。性能という観点では,正直,非の打ち所がない。
現在ハイエンドのグラフィックスカードを使っていて冷却能力や動作音に不満がある人はもちろん,とことんまでゲームPCを静かにさせたいという人も,真っ先に購入を検討する価値があるGPUクーラーだ。性能重視なら,間違いなくオススメできる。
Arctic Coolingの「Accelero XTREME Plus」製品情報ページ
- この記事のURL: