インタビュー
NCsoft Kim Taek Hun氏インタビュー「The Tower of AION」の世界戦略や,“あの”タイトルについて現時点で聞けるだけ聞いてきた
今回は,元エヌ・シー・ジャパン社長で,現在はNCsoftグローバルマーケティングディレクターを務める,Kim Taek Hun氏にインタビューを敢行。NC Soft全体としての世界戦略の秘訣や,今後も続々と控える注目作について,現在聞ける範囲で話を聞いてきた。
日本や世界でも受け入れられるMMORPGを
本日はよろしくお願いします。現在のKimさんの役職は,グローバルマーケティングディレクターですよね。具体的に,どういった仕事をされているのでしょうか?
Kim氏:
弊社のタイトルを,ワールドワイドで展開させるための戦略を打ち立てていくのが主な仕事です。以前は会社の経営や管理ばかりでしたが,現在は日本を含む,世界全体での具体的な事業に集中できるのが楽しいですね。
4Gamer:
では,まずはAIONの展開について詳しく聞かせてください。日本では現在CBTが行われていますが(注:インタビューは6月下旬に実施),この段階でも日本語化の完成度は非常に高く,またプレイヤーからも好評だと思います。この現状を,どのように受け止めていますか?
率直にいって,我々の期待を大きく超える反響で,嬉しく思っています。AIONのゲームの完成度には自信があり,まだローカライズにも力を入れてきましたが,プレイヤーにここまで高く注目してもらえるとは予想していませんでした。
4Gamer:
ローカライズを開始した時期と,作業期間はどれくらいだったのでしょうか?
Kim氏:
今年の1月から作業を始め,大体4〜5か月で現在のバージョンを作り上げています。本当は,もう少し早く完成させたかったのですが,テキストだけでなく音声吹き替えも行うなど手を加えたため,予定よりも若干伸びてしまいました。
4Gamer:
ということは,韓国での開発を行っている段階から,日本への展開をすでに視野に入れていたのですか?
Kim氏:
ええ,そうです。これはAIONに限った話ではなく,NCsoftの方針として,日本市場を特に重視しています。
4Gamer:
では,その日本に向けて今回AIONを展開するうえで,従来のタイトルと比べて,どこに力を入れるべきだと考えましたか?
MMORPGではゲーム内容も大切ですが,それ以上に大切なのが運営だと思います。これまでの経験で培ったノウハウの総てを,今回のAIONに注入していますよ。
ユーザー視点での分かりやすい例だと,例えば"ゲームマスター"(GM)の名称を,"ファンサポート"(FS)に変えていますが,これにもちゃんとした理由があります。運営面に関してはこれからも,「従来のMMOとは違うんだな」と感じていただけると思いますよ。
4Gamer:
運営のほかにゲームシステム面では,日本向けとしてどこを意識しましたか?
Kim氏:
NPCとの会話やクエストなどで表現される世界観や,ムービーのクオリティに関しては,「日本で受け入れられるものを」という前提で作り上げていきました。
4Gamer:
これはMMORPGジャンルで顕著なのですが,日本人プレイヤーは直接的な争いをあまり好まず,対人戦(PvP)関連のコンテンツはそれほど人気が高くない,といった傾向があると思います。AIONではPvPも力を入れていますが,これを日本へ持ってくる際,とくに注意した点はありますか?
Kim氏:
対人戦の本質的な面白さが,日本で受け入れられない,というわけでは決してないと思うんですよ。例えば格闘ゲームのジャンルも日本発祥ですよね。
つまり,従来のMMOタイトルでPvPを敬遠してしまう人が多いのは,きっとどこかにストレスを感じてしまう理由があるはずなのです。AIONを作る際は,そこを徹底的に研究したうえで,ハードルを感じさせない作りにしています。
4Gamer:
具体的にどういったところで,PvPに対してストレスを感じないようになっていますか?
例えば,低レベル向けのエリアではPvPが行えず,作成したばかりのキャラクターが,いきなりPKされるといったことはありません。レベル20以降からPvPが自然的に発生してきますが,段階的にシステムが拡張され,少しずつ慣れていけるようになっています。
4Gamer:
最初,2006年にAIONが初公開されたときのバージョンでは,当初のウリだった飛行に関しては,現在でいうところの"飛行ショートカット"のみだった記憶があります。そのほかにも,ありとあらゆる面でパワーアップしていますが,開発初期から現在に至るまで,経営者視点で大きな軌道修正を指示がされたのでしょうか?
Kim氏:
当時と比べて,MMORPGのプレイヤーのニーズが変化しています。それに対応する形で,コンテンツ力を強化したことが,現在の高評価へ結びついたのだと思います。
4Gamer:
2006年から2009年までの間,プレイヤーのニーズの変化は,どういったところで強く感じますか?
Kim氏:
より自由度の高いゲームを望む傾向にありますね。AIONではそれを受ける形で,キャラクターのカスタマイズを大幅に強化しました。
PvPに関しても,誤解されることもままあるのですが,実はPvPを行わないという選択肢もあります。AIONでは,対モンスター戦(PvE)や,生産などだけで遊び続けることも十分に可能です。
韓国での衰えぬ人気,中国ではワールド数が150を突破
続いて,AIONのワールドワイド展開についてお聞きします。現在の各国におけるサービススケジュールは,どのようになっていますか?
Kim氏:
現在は,韓国と中国とで正式サービス中です。次に,日本と台湾とで同時サービスを予定しており,すでに発表されていますが7月7日からオープンβテストが行われます。
その次がアメリカとヨーロッパで,こちらは9月末頃のサービスを予定しています。
来年以降は,それ以外のNCsoftの支社がない国に向けても,ライセンスを供給していく形でサービスを予定しています。
4Gamer:
では,順番にお伺いしていきます。まずは韓国についてですが,少し前に同時接続者数が28万人との発表がありました。その後の状況についてはいかがですか?
Kim氏:
韓国ではオープン当時からの高い反響が依然として続いています。多くのタイトルだと,正式サービス後しばらく経つと伸び率に陰りが見えてくるのですが,AIONは順調に伸び続けている,という印象ですね。具体的な数字に関しては,同時接続者数はだいたい20万以上をキープしています。ワールドの数は41です。
4Gamer:
次に,中国についてはどうでしょうか。
Kim氏:
現地で運営を行っているのは別会社の盛大(Shanda)なので,そこから伝え聞く情報になりますが。ワールド数は150となっています。
4Gamer:
相変わらず凄まじい規模ですね。中国でのサードパーティを通じての運営は,スムースに運びましたか?
中国ではサービスインの際にトラブルがあって,一度ユーザーが離れてしまったんです。これは,同じ中国の中でも,地域によってサービススケジュールがズレてしまい,あるところでは無料で遊べるβテスト,またあるところでは課金サービスがされていた時期があったのです。これにより,プレイヤーが混乱してしまいました。
もちろん,今はしっかり対策していますが,あのトラブルがなければ,もっとよい結果を出せたと思っています。その点が心残りですね。
4Gamer:
NCsoftの中国進出というと,過去の「リネージュII」の例が思い浮かびますが。あの経験は,今回どのように生かされていますか?
Kim氏:
中国での「リネージュII」は同接数18万を記録していたものの,満足がいく結果を残すことができませんでした。その理由はサービス開始以降に,事業のビジョンの方向性を,明確に打ち出すことができなかったからだと分析しています。
AIONでは,それらのノウハウを現地のパブリッシャに伝え,より良い結果を出せるように努力しています。
中国は課金モデルが従量制だと聞きました。これは,どういった内容なのでしょうか?
Kim氏:
"従量制"という言葉は,日本だと誤解を与えてしまうかもしれません。これは要するに,1か月におけるプレイ時間に上限を設けるという課金プランですが,この課金モデルを導入した主な理由が,不正BOTへの対策としてです。
4Gamer:
従来だとゲームシステムの変化や,運営チームによる調査などといった対応策がありました。この課金モデルの導入は,そういった既存の対応だけでは,不正BOTへ対処しきれなくなった,と受け止めてよいのでしょうか?
Kim氏:
いえ,そういうわけではありません。もちろんプログラムでも対応していますし,運営チームによる調査も今後も続けていきます。今回の課金モデルは,それらの対応策のうちの一つ,という意味です。
4Gamer:
そのほかの狙いはあるのでしょうか? 例えば,プレイヤーが成長する時間に制限をかけることで,コンテンツの消費速度を抑えたりとか。
Kim氏:
そこまでは考えていないですね。
4Gamer:
この従量制(に近い)課金は,韓国や中国以外の国でも導入を予定していますか?
可能性は高いですが,国によって状況は違うので,そっくりそのままという形にはならないと思います。例えば台湾の場合,純粋な意味での従量制というのは,法律で規制されていて不可能なんですよ。
4Gamer:
台湾はどういったビジネスモデルなのでしょうか?
Kim氏:
主に月額課金を予定しています。それと,時間で遊べるプレイチケットも別途用意するつもりです。
4Gamer:
なるほど,ネットカフェで遊ぶことが推奨されているんでしょうか。
Kim氏:
かもしれませんね。台湾以外の国でもいろいろ事情があります。日本でのビジネスモデルについては,現在は最終調整中で,もうじき発表できると思います。
4Gamer:
ちなみに台湾でのAIONの反響はいかがですか?
Kim氏:
台湾と,あと韓国もそれに近い状態だったのですが,最初の情報公開のタイミングで,ユーザーが一気に殺到したのが印象深いです。「リネージュ」シリーズの人気が高いからかもしれませんが,韓国と台湾のユーザーの傾向は,似ている部分があると思います。
4Gamer:
日本でもCBTは10万人を超える応募者が来たとのことですが。となると台湾のβ応募者数は,かなり凄かったのではないですか。
Kim氏:
いえ,混乱が予想されましたので台湾ではCBTのアカウントは一般募集を行いませんでした。主に「リネージュII」のプレイヤーやメディアを通じて,35000のβアカウントを配りました。
そして日本での展開は?
アジアで開発されたタイトルを日本へローカライズする際,経験値テーブルなどを調整しているケースがちらほら見受けられます。AIONではそういったことは行っていますか?
Kim氏:
いえ,行っていません。もちろんローンチする国に応じた翻訳は行っていますが,ゲームバランスに関しては,すべて同じバージョンという方針です。
確かに他社さんのタイトルでは,サービスする国によってレベルアップなどのハードルの高さを調節していますね。ですがAIONはそもそも,レベル上げが目的というゲームではありませんし。
4Gamer:
例えば,アジア圏と欧米圏だけを見比べても,プレイスタイルは大きく違うと思います。こういった幅広いニーズを一つのAIONに盛り込む際,どこに注意しましたか?
Kim氏:
本当は胸を張って「国によってゲームバランスを変えなくても通用すると思った」といいたいところなのですが,実際には生易しい作業ではありませんでした。各国のニーズを徹底的にリサーチし,これまでの運営ノウハウを総て注ぎ込んで,はじめて実現可能だったんだろうなと今では思います。
4Gamer:
なるほど。
ですが,苦労をしただけの甲斐はあったと思います。現在は多くの国でAIONをローンチすべく作業を進めていますが,現地のスタッフから「自分の国のプレイヤー向けにここを変えてほしい」といった要求が,極端に少ないですね。
4Gamer:
アメリカやヨーロッパのスケジュールはこれからといったところですが。前評判はいかがですか?
Kim氏:
現在アメリカではパッケージ版の販売が行われていますが,この数を見る限りかなり期待されているようですね。
欧米で展開するあたり不安点はいくつかあったのですが,彼らの反響を見ると今のところクリアできてるかなと思います。
4Gamer:
そういえば,韓国ではそろそろ大型アップデートの準備に入っていると聞きましたが。
Kim氏:
はい。現在は「1.5アップデート」を7月に予定しており,それとは別に12月にも大規模なアップデートを予定しています。このタイミングに合わせて,一気に新規プレイヤーを獲得したいと思っています
4Gamer:
ちょっと気が早いかもしれませんが,日本版への導入予定は決まっていますか?
Kim氏:
日本市場を重視していることは先ほども少しお話しましたが,アップデートのラグをいかにして短縮するか,というのも現在の大きな課題の一つです。1.5アップデートに関しても,韓国に導入されてからかなり早い段階で,日本へローカライズする予定ですよ。
4Gamer:
おや,そうなんですか。まだ日本では正式サービスが始まっていないので,大規模アップデートは早いかなと思うのですが。1.5はどういった方向性なのでしょうか?
Kim氏:
レベルキャップを開放したりといったベテランプレイヤー向けではなく,もっとAIONの遊び方の幅を広げるものが中心です。クエストやアイテムの種類を増やして,現在遊んでくれているプレイヤーに楽しんでもらえるものを数多く導入する予定です。
開発中の「ブレード&ソウル」や「Guild Wars 2」はどうなる?
NCsoftにとっては,ここ数年大型MMOがリリースされていませんでした。しかし昨年韓国でAIONがリリースされ,今後もビッグタイトルが続々と控えています。会社としての方針に大きな変更があったのでしょうか?
Kim氏:
これといった方針変更はないですね。AIONに関しては,ユーザーからの要求を受け入れるため,開発期間が想像したよりも大幅に延びてしまったのが原因でしょう。
4Gamer:
今後のNCsoftだと,「ブレード&ソウル(Blade&Soul)」の注目度がとくに高いと思います。このタイトルに関して,なにか現在話せる情報はありますか?
Kim氏:
「ブレード&ソウル」は,2010年中に韓国で正式サービスを予定で,現在はそのための最終調整段階です。韓国のあとは,ワールドワイドで展開していきます。
「ブレード&ソウル」は,最初に公開した際のバージョンから,大分ゲーム内容が変わっています。次にお見せする際は,きっと驚いてもらえるんじゃないかなと思いますよ。
4Gamer:
日本でも,とても注目度が高いタイトルですが,ローカライズは何時ごろになるのでしょうか?
Kim氏:
まだ韓国でもスケジュールを発表してないような状況でして,日本版についてもあまり詳しく発表できる段階ではありません。すみません。
ただ,海外ローカライズに関しては,全世界で日本を一番最初に行う予定です。
4Gamer:
韓国の次に,中国ではなく日本を選ぶ理由とは?
Kim氏:
先ほども申し上げましたが,ゲームコンテンツが日本市場でどのように受け入れられるかというのは,売上とはまた別の価値があり,非常に参考にしてます。個人的には,ゲームの本質を評価するという意味では,日本が世界一のゲーム大国だと今でも信じているくらいです。
現在の弊社は,AIONのローカライズで得た経験があります。この経験をもとに,「ブレード&ソウル」ではもっと早い段階で日本へローカライズできると思いますよ。
4Gamer:
まだまだほかにもありますよね。例えば「Guild Wars 2」に関しては,2007年3月にタイトルが発表されてからほとんど音沙汰がなくて,やきもきしているのですが。
Kim氏:
すみません,こちらについても,まだ詳細をお知らせできる段階ではないのです。
現在話せる範囲だと,「Guild Wars 2」に関しても,ほかのNCsoftのタイトルと同様,日本市場を重視していますよ。前作「GuildWars」の頃は,欧米では成功を収めることができたものの,開発元のArenanetが日本市場を理解しきれていませんでした。現在,開発を行っているArenanetとやりとりしていて,そのあたりは大分改善されているように思えますね。
4Gamer:
では最後に,7月7日のOBTからAIONに参加する人に向けて,コメントをお願いします。
Kim氏:
自分が業務に携わる際のポリシーとして,実際に遊んでくれているユーザーの存在を,常に忘れないように心がけています。そのためには開発したあとの運営や,サービスのケアが大切だと思っています。
現在のAIONは,アジア各国で順調に展開していますが,本当に大切なのは,むしろこれからだと思います。これまで培った経験を生かし,期待に応えられるだけのサービスを心がけていくので,ぜひAIONのOBTで遊んでみてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
もちろん,実際にMMORPGを遊ぶプレイヤーにとって,"運営の良さ"は何より強く求める要素の一つである。NCsoft全体を指揮する内の一人が,そこに注目してくれているのは心強く,確かにそのポリシーはNCsoftのさまざまな活動に反映されているように見える。
来年以降は,「ブレード&ソウル」や「Guild Wars 2」といったビッグタイトルも続々と控えているが,まずはAIONでどういった運営を見せてくれるのか,今後の展開に引き続き注目していきたい。
(6月23日収録)
- 関連タイトル:
The Tower of AION
- この記事のURL:
The Tower of AION(TM) is a trademark of NCSOFT Corporation.
Copyright (C) 2009 NCSOFT Corporation.
NC Japan K.K. was granted by NCSOFT Corporation the right to publish, distribute and transmit The Tower of AION(TM) in Japan. All rights reserved.