連載
「キネマ51」:第8回上映作品は「シュガー・ラッシュ」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第8回の上映作品は,ゲームと映画の親和性では今年一番であろう映画「シュガー・ラッシュ」。日本で公開されたのが3月ということもあり,このタイミングで上映するのは,ちょっと遅いのでは? といぶかしむ方もいるかもしれないが,7月17日(水)にはBlu-rayが発売されるので,そっちに合わせたのである。と,言い切っておきたい。
「シュガー・ラッシュ」公式サイト
関根:
えー,おはようございます。
須田:
なんかフラフラですよ。全然頭が回ってないです。
関根:
僕もです。なんかフラフラです。
4Gamer:
お二人とも,取材当日に映画館に行くっていうのやめればいいんじゃないんですか?
須田:
このギリギリに観る感じがスリルがあっていいんですよ!
4Gamer:
それでフラフラしてたら元も子もないじゃないですか。
須田・関根:
すいませーん。
フロラン:
いつも,こんな感じなんですか?
関根:
お,今回の特別ゲスト,フランスから取材でいらっしゃっているジャーナリスト,フロラン[1]さんですね。いや,たまたま今日はこんな感じなだけで。
須田:
そうそう,いつもは,マジメに映画のことを語ってますよね。
4Gamer:
……。
ゲームへの愛が,たくさん詰まった映画
関根:
ということで,今回は映画が映画だけに,ゲーム話に花が咲きそうですね。
須田:
いやー,さすがのディズニーでした。ゲームファンも満足できる作品になっていましたね。
関根:
僕はゲームに詳しくないので,あんまり元ネタを気にしないでのんびり観ていたんですけど,ゲームが凄く好きな方は,細かいところが気になって集中できなかったんじゃないかと思ったんですけど,どうでした?
須田:
ゲームセンターの閉店後,ゲームのキャラクター達が集まる場所があって,そのシーンになったとき,スクリーンの隅々まで見て,誰がいるんだろうって探しちゃいましたね。
関根:
やっぱりそうなりますよね。
須田:
ソニックも出ていたし,クッパもいて。あと,ラルフという主人公も悪役だけに,その仲間というか,いわゆるビデオゲームの悪役キャラが,
4Gamer:
悪役商会[2]的に出てきましたね。
須田:
出てきました。
関根:
登場キャラは,いろんなところでネタバレされているので,あえてここでは解説しませんけど。
須田:
でも,これは渋いですね,「獣王記」。あと,「ペーパーボーイ」とかね。僕,大好きなゲームなんですよ。チャリで自転車こいでるゲーム。
関根:
……?
須田:
あ,違った。チャリで新聞配ってるゲームですね。面白いゲームでした。あー! オイカケっていうんだ,「パックマン」の敵キャラ。
関根:
ストップ! だから,それをやり始めたら時間がなくなっちゃうんで。でも,とにかくたくさんのキャラがメーカーや作品の枠を超えて登場していました。
制作スタッフは,たくさんのキャラを出すために,E3期間中に各社のブースを回って,このキャラを出したいって直談判したらしいんですよ。
関根:
すごいガッツですよね。
須田:
でもね,ディズニーの名刺持っていったら,OK出しちゃいますよね。
関根:
トラヴィスも出しちゃいますか?
須田:
うーん,どうでしょ。
関根:
何で長嶋さん? あ,でも,アーケードでは遊ばれてないですもんね。
須田:
そうそう。残念ながらね。
関根:
そういえば,ディズニーの作ったゲームのキャラは出てきませんでしたね。ミッキーとか。
須田:
確かに。そういえば,ディズニーの有名ゲームってカプコンさんがけっこう作っているんですよ。「アラジン」とか,「ロジャー・ラビット」は,三上真司さんが関わっていましたし。
関根:
そうなんですか,知らなかった。あ,でも,これ,アーケードゲームの世界の話ですよね。だからそういったディズニーキャラは出てこないんだ。[3]
須田:
ということは,ソニックってアーケード出てるってこと?
フロラン:
出てますよ。トラックボールで遊ぶヤツ[4]です。
須田:
アーケードでもソニックはヒーローなんだ。ソニックといえば,4Gamerには「シュガー・ラッシュ」のプロデューサーと,ソニックシリーズのプロデューサーである飯塚 隆さんの対談が掲載されているんですよね。気になる人はここをクリック。
4Gamer:
あ,お気遣いありがとうございます。
フロラン:
話を戻しますけど。
関根:
ありがとうございます。戻していただいて。
フロラン:
元ネタ探しをしなかった関根さんは,主人公の名前の由来も分かりませんでしたか?
関根:
ラルフですか?
フロラン:
そうです。
須田:
それ,僕も分からないです。
フロラン:
ラルフ・ベア[5]という方はご存じですか?
関根:
いや,存じ上げないですねぇ。
フロラン:
この人が,世界で始めての家庭用テレビゲーム機,オデッセイを作った人なんですよ。彼へのオマージュだろうと僕は分析しています。「PON」は分かりますよね。
須田:
ATARIの大ヒット作ですよね。
関根:
それなら僕も分かります。
フロラン:
実は,あれもこの人が作ったゲームの類似ゲームなんですよ。で,ほかの類似ゲームも含めて多くの訴訟を起こしているんです。オリジナルの開発者として。その闘いの人生を重ね合わせているのではないかなと思うんですよ。
関根:
なるほど。でも,ラルフ・ベアという名前はあまり知られていないですよね。
フロラン:
だから,勲章というか,本当はヒーローなんだって感じが,映画の主人公,ラルフと重なるんです。
一同:
ほー。
須田:
凄いですね,それ。そのコメント,全部盗ませていただきます!
関根:
いや,ご本人がお名前入りで話してますから。
須田:
あ,そかそか。じゃあ,ほかのところで……。
関根:
こら!
支配人も脱帽のこだわり満載
須田:
しかし,ここまで,ビデオゲームの世界観を大事にして映画を撮っているとは思いませんでしたよ。
関根:
例えば,どういったところですか?
須田:
この映画,フルCG作品ですよね。ゲーム用語では,ドットを2D,CGを3Dって言うんですけど,この映画で一番素晴らしいと思ったところは,言ってみれば2.5Dで作ってるところなんです。
例えばラルフたちのような昔のゲームキャラクターのスプライトアニメーションが,コマ落ちしてしている。あれはドットの動きなんですね。で,今のキャラ達はCGで動いている。そこに,ドットキャラが関わってくると,その部分だけ,例えばケーキが潰れてしずくが飛ぶときなんかも,全部四角くなっている。
あれは,凄いですよ。正直,かなり面倒くさい作業でしょう。ちゃんと一個一個丁寧に指示が出てるんですよね,当たり前ですけど。その設定の細かさに,感動しました。
関根:
なるほど。
須田:
ゲームを作っている人間が見ても,ちゃんとゲームの設定に寄せられていて,突っ込みどころが無いんですよ。よくあるじゃないですか,主人公が働いているのがたまたまゲーム会社で,みたいな,適当な設定のものとか。そんなことないですもんね。
関根:
映画業界物でも,こんなこと普段やってないよみたいな話が多いですから。
須田:
あと,さらに素晴らしいのは,バグをテーマにしたっていうところですよね。
4Gamer:
バグ技って懐かしいですよね。
須田:
ヒロインの女の子,ヴェネロペがバグを持っていて,自分の意思でバグネタをコントロールして闘ったりしてしまう。凄いですよね。そこまでネタにして作りこんでいる。
関根:
彼女のセリフで「使わないようにしようと思っていたけど」なんてのがあったりして,やっぱりゲーマーとしては,それを使わないでクリアしたいんだけど……。みたいな思いもちゃんと汲んでいる感じがあるのは,嬉しいですよね。
須田:
でも,チートに関しては,やっぱり良くないこととして扱われているんですよ。ああいったところには,本当に感心します。
フロラン:
間違いなく我々のような30代〜40代をターゲットにしてますよね。我々の世代にしか分からないネタが満載で。でも,そういったことが分からない子供でも,ちゃんと楽しめるように出来ているというのが,凄いですよね。
須田:
ディズニーの凄いところです。
フロラン:
そういえば,この主人公,ラルフの出てくる「FIX IT FELIX JR.」は架空のゲームなんですが,2年前のE3に実際に筐体が展示されていたんですよね。その時に,「このゲームは謎のゲームです。何か情報を知っている人は教えてください」と書かれていたんです。
須田:
へー,そうだったんですね,面白い。確かその筐体は,日本にも来ていたようですね。実際に触ってみたかったです。
関根:
そういった仕掛けも含めたあらゆる部分から,ちゃんとゲームをリスペクトしているのが伝わってくる作品ですねぇ。
カルチャーとしてのゲームの到達点
須田:
あと,この映画は,一つの記念碑的なところがあるような気がするんです。
関根:
記念碑,ですか。
須田:
そうです。ビデオゲーム,とくにレトロゲーム,ビット(2D)ゲームというものが,近年ポップ・カルチャー,アート・フォームの一部として引用される存在になってきています。
関根:
サブカルチャーとしての評価は高まってきましたよね。
須田:
それがディズニー映画にまでなったというのは,一つの到達点じゃないですけど,完全なる文化として,太鼓判を押してもらったような,そんな気分になったんです。
4Gamer:
サブカルからメインカルチャーになったという意味での,記念碑ということですね。
須田:
そうです。
関根:
確か支配人は以前,某カルチャー誌で1980年代サブカルチャーを総括する特集が組まれたとき,ビデオゲームが入っていなかったことに対して,疎外感ということも含めて,強い思いがあると言ってましたよね。
須田:
そうでしたね。そういう思いを味わったことがあるだけに,ついにメインカルチャーの場に完全に躍り出た。そういう印象を受けて,単純に嬉しかったんですよ。
関根:
確かにそうかもしれません。
須田:
とくに日本のゲームキャラクターがフィーチャーされているじゃないですか。やっぱり日本のゲームというものは,アメリカだけではなく,全世界のゲームファンにとって,特別な存在なんだなと。
4Gamer:
この映画の主人公は「ドンキー・コング」のオマージュのようなキャラクターで,プレイヤーキャラクターにあたるのがマリオみたいな感じですよね。なんとなく「レッキング・クルー」を彷彿とさせる部分もありますし。
須田:
そうですね。うん,なんかあらためて凄く嬉しい気分ですね。
関根:
なんか支配人,今日はいい雰囲気の話になってますね。
須田:
いつもそうでしょ。僕のゲームに対するパッションが溢れる素晴らしい連載ですよ。
でも,あれですね。いやらしい見方をしちゃいますけど,なんであのキャラクターが出ていないんだろう? みたいな想像をし始めると,いろいろと気になることはあるんですよね。例えば,かつてディズニーが実写版を制作した超有名ゲームキャラクターが出てこない件とか。
須田:
確かにそこは気になるんだよね! って,部長! せっかくいい雰囲気で進んできたのに,どうしてそうやってゴシップ的なことを! ホント,チミは芸能ニュースとか噂話が大好きだからなぁ。
関根:
支配人,そっくりそのまま……。
須田:
ん? あんだって?
関根:
いえ,な・ん・で・も・な・い・で・すー。
まさかの関連ゲーム登場
今日はゲームに関するお話もたくさんできましたし,ここから関連するゲームをひもといていく必要はなさそうですね。
須田:
いや,ありますよ!
関根:
え! なんか支配人の発言で,久々にホントにびっくりしたんですけど。
須田:
いや,間違いなく,シュガー・ラッシュの元になったゲームがあるんですよ。
関根:
それは映画そのものじゃなくて,劇中に出てくる架空のレースゲーム,シュガー・ラッシュの元ネタってことですか?
須田:
そうです。それはEAから出ていた「ロードラッシュ」[6]というゲームなんです。もう,それをぜひ,みなさんに紹介したい。
関根:
レースゲームなんですか?
須田:
そうです。バイクの公道レースものです。バイクに乗っている人間が,チェーンを持っていて,迫ってくるライバル達をそれで倒しながら進んでいく内容なんですよ。
関根:
なんかバイクに乗りながらチェーンって,不良高校生の話ですか? 学校の廊下をバイクで走っちゃうような。
須田:
それは「スクール・ウォーズ」[7]ですけどね。
関根:
ちなみにそれ,いつ頃の作品なんですか?
須田:
僕が遊んでいたのは,3DO版でした。
フロラン::
最初は1993年頃にメガドライブで出たと思いますけど。
須田:
そうでした。たぶんあれが元ネタだよね。フロランもそう思うでしょ。
フロラン:
そうですかね(完全に苦笑い)。
須田:
違いますかね?
フロラン:
いや,まあ,須田さんがそうおっしゃるのなら……。[8]
須田:
あれをソフィスティケイトしたのが。
関根:
シュガー・コーティングしたのが。
須田:
そうそう,うまい! シュガー・コーティングしたのが,シュガー・ラッシュですよ。
関根:
この映画は,アーケードゲームの世界を描いた作品ですよね。「ロードラッシュ」はコンシューマゲームじゃないんですか?
須田:
確かに僕が遊んだのは3DO版でしたけど。確か……,アメリカにはアーケード版がありました。アメリカのことなんで調べられないですけど。
関根:
どんな情報環境で生きてるんですか。誰でも調べられるでしょ。
須田:
でも,シュガー・ラッシュはすごい進化してますよね,アイテムを取って強くなったり,周りをジャマできたり。
関根:
くじけませんね,相変わらず。
4Gamer:
つまり,ロードラッシュが進化したらこうなるんだなって感じですね。確かに今までこんな発想のゲームは見たことがありません。
関根:
乗っかってくるなぁ。
須田:
抜群のアイデアだなって。さすがディズニーですよ。
関根:
むしろディズニーをもバカにしかねない発言ですよ,それ。
4Gamer:
もしかしたら,これを有名キャラクターでやったら,とんでもないヒット作が生まれるかもしれませんね。
須田:
そうですね。うーん,「マリオ」と「ゴーカート」をつなげて「マリオカート」ってどうですかね。「マリオ・ラッシュ」じゃそのまますぎますからね。
4Gamer:
確かに。
関根:
確かにじゃないでしょ。あー,こんなツッコミしたくないけど,いい加減にしなさい!
フロラン:
どうも,ありがとうございました。
関根:
そっち!?
「シュガー・ラッシュ」公式サイト
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