連載
「キネマ51」:第25回上映作品は「クローズEXPLODE」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第25回の上映作品は,支配人お待ちかねのヤンキー映画「クローズEXPLODE」。
「クローズEXPLODE」公式サイト
須田:
いやぁ,部長,ついに来ましたよ「クローズEXPLODE」。「クローズ」が帰ってきたということで。部長はもちろん……?
関根:
もちろんねぇ,そりゃあもう。クローズっていうのが,「閉まる」のCLOSEじゃなくて,カラス(CROW)だって,この映画を観て初めて知りました。
……ごめんなさい,何も知らないで拝見しました。さらに言うと「ROOKIES」と混同していまして,今回の映画の最初のほうのシーンで鈴蘭高校のOBが「懐かしいなぁ,ここが俺たちの部室だ」なんてセリフを言うもんだから,ここから野球が始まるのかなぁ,なんて思ってしまったぐらいですよ。
須田:
それはヒドい。まあ,そんな部長と今回この映画の話をするにあたって,クローズとは何ぞやと,そういう話からさせていただこうかなと。
関根:
ぜひ,よろしくお願いします。
支配人,クローズを熱く語る
須田:
実は僕は,劇場映画第1作「クローズZERO」で,クローズの世界を知ったんです。
関根:
映画がきっかけだったんですね。
須田:
三池崇史監督作品として,原作のことは知らずに観たら,これが面白かったんですよ。
関根:
どんなところにグッときたんですか。
須田:
まず,ストーリーがとてもシンプル。鈴蘭高校というワル達が集まる高校で,トップを取るためにみんなが喧嘩する。ただそれだけ。
関根:
確かに言われてみればシンプルな設定ですよね。
須田:
でも,実は鈴蘭高校には,今まで番長というのがいなかったんですよ。
関根:
いわゆるトップで全員を仕切る,みたいな人が不在であったと。
そうです。それだけワル揃いなのでトップを取るのが難しい。クローズZEROでは,小栗 旬さん扮する滝谷源治,そして山田孝之さん演じる芹沢多摩雄が,彼に対抗する存在として登場するわけです。で,ストーリーはこの二人を中心に描かれるんですが,三池監督の演出が壮絶でなんとも魅力的だったんですよ。あと,学ランの着こなしね,これがまたかっこいい。
関根:
着こなしですか?
須田:
そう,我々だって高校時代に,学生服をいかにカスタムして着るかを競っていたじゃないですか。赤のインナーとか,短ラン,長ラン[1]なんかね。日本独自のファッション感覚ですよね,あれ。
そのあたりでハマッてしまって。若者言葉を使うならば,アガッてしまったんですよね。
関根:
支配人の精一杯の若者言葉がそれですか。
須田:
その勢いでコミックスを全巻買っちゃいまして。
関根:
確かにそれはアガッちゃってますね。
須田:
完全版で外伝含めて21巻。一気読みしました。で,原作も大好きになってしまったんですよ。それで,クローズ世界にどっぷりと浸かってしまうことになるんです。
関根:
まずは,第1作映画のお話でした。ここからようやく漫画のお話ですね。
須田:
ただ皆さん,ちょっと待ってください。
関根:
突然多くの人に訴えかけ始めましたね。
須田:
漫画のお話をする前にお伝えしておかなくてはならないのは,原作と映画は違う世界観であるということです。
関根:
それを分かったうえで,映画も楽しんでくださいということですね。
須田:
そうです。まずは女性が出てくる。
関根:
原作には出てこないんですか。
須田:
女性は後姿すらほとんど出てこないですからね。完全に男の世界。大人もほぼ出てこないんですよ。
それからもう一つ,大きな違いが。
関根:
ほう?
須田:
劇場版は前2作,そして今回の豊田監督版も喧嘩のシーンが多いじゃないですか。ところが原作はですね,決して喧嘩漫画じゃないんですよ。ヤンキー漫画だから喧嘩シーンたっぷりみたいに思われがちですけど,実際は凄く少ないんです。ここ一番の伝説のタイマンみたいな回もあるんですが,長々と描写はしない。
関根:
喧嘩がメインではない,と。
須田:
それよりも,その手前の人間ドラマを細かいところまできちんと描くことに重点を置いているんです。男達の魅力や生き様,ダメなところなど。
つまり,男と男の本気のぶつかりあいの話が主軸なんですよ。ファンの多くはそこに惚れているんです。当然,誰が一番強いのかという見方もあるんですけども,そこだけじゃないわけで。要は,勝った負けたの話じゃなくて,男ってのはこうあるべきみたいな,そんな感じなんですよね。
関根:
シンプルな世界観でも内容が濃いんですね。
須田:
そうですね。でも,だからといって映画版がただの喧嘩ヤンキー映画というわけでもない。それはまた後ほどお話しするとして,漫画版を中心にクローズ世界の簡単な説明をしておきましょうか。
支配人,引き続き(というかまだまだ)クローズを熱く語る
須田:
そういった男の世界の中にカリスマが何人か登場するんですが,その中でも圧倒的なカリスマが,我らが坊屋春道。僕もしかりですけど,みんな春道に惚れちゃうんですよ。2年生で鈴蘭高校に転校して来て圧倒的な強さで一気に頂点に向かっていく。
でも,頂点に向かうには倒さなきゃならない相手がいる。林田 恵,通称リンダマンと呼ばれる一匹狼。彼とはタイマンを2回張っているんですけど,その決着がつかないまま,クローズは終わるんですよ。
関根:
なるほど,番長がいないというのはそういうことなんですね。
須田:
そして,春道以外にも3人のキーマンがいるんです。まず,我らがブル(古川修)。黒焚連合の初代総長。黒焚連合というのは,今回の映画に出てきたライバル校,黒咲工業高校と,東出昌大さん扮する主人公,鈴蘭高校3年生の鏑木旋風雄の転校元,焚八商業高校が,鈴蘭に対抗すべく作った連合チーム。ただ,彼はライバルである坊屋とも大親友なんですね。
ほうほう。
須田:
そしてもう一人,出ました我らの鳳仙学園。ここは鈴蘭の敵対勢力で喧嘩最強の異名をとる学校。この闘いは劇場版第2作「クローズZEROII」で描かれています。この鳳仙のトップが美籐竜也。映画ではなんと三浦春馬が演じているんですよ。漫画でも,映画でもいい男でしたねぇ。
関根:
支配人,さっきからすべての登場人物を“我らが”って呼んでませんか?
須田:
おっと。みんなに思い入れがあるのでつい。
で,話を続けると,原作のキャラクターって映画版にはほとんど出てこないんですよ。漫画のイメージも強いですし,原作と違うストーリーでなくてはいけないという映画化の際の条件があるので。
でもそんな中,三浦春馬の美籐竜也,完璧でした。素晴らしかった。そしてもう一人,我らが武装戦線。僕はどっちかというと武装派なんですよ。クローズファンってそれぞれどこどこ派ってあるんですけど,僕は鈴蘭ではなくて武装戦線派なんですよね。
関根:
武装戦線っていうのは学校じゃないんですか?
須田:
これは暴走族です。超硬派なんです。こいつらの生き方がカッコいい。ここの四代目ヘッドが九能龍信。元々4人で始めた絆の深いチームで,三代目が悪の集団にしてしまったのを立て直して,再び少数精鋭の最強チームを作り上げたんですよ。
もう,話し始めると終わらないくらいなんですよ,武装の魅力は。
関根:
永遠に語り続けそうで怖いんですけど……。
須田:
春道と今話した3人は街で「四天王」と呼ばれる最強の4人で,物語は彼らを中心に動いていく。漫画は坊屋春道が転校してきてから卒業までの25期生を中心とした大体1年半位の間の話なんですよ。で,劇場版のクローズZEROとZEROIIは,23期生の話ですから,坊屋春道が鈴蘭に来る前。
そして,今回のクローズEXPLODEは24期生,つまり春道登場の直前を描いているんです。
関根:
なるほど。よく分かりました。いよいよ今回の映画の話ですかね。
須田:
うわ,もうこんな時間。盛り上がってついつい会話が弾んじゃいましたね。
関根:
弾んでましたよ,ずっとお一人で。
須田:
そうでしたか? いやぁ,部長どうでしたか? 良かったでしょう? という前提で質問してるんですけどね。
関根:
そうですねぇ,良かったですねぇ。
須田:
あれ,反応が薄いようですけど。
関根:
いやいや,圧倒されてしまって(笑)。
須田:
先ほども話したとおり,原作とは違って喧嘩のシーンも多いんですけど,前2作と同様,シンプルな男の物語に映画として大事な要素も盛り込んで,きちんと描いているんですよ。
映画と漫画原作は違う。当たり前のことなんですけどね。でも映画にするってどういうことなんだろうって,今作を観て考えたというか,学びました。
今回の例でいえば,女性がフィーチャーされているっていうことなんだろうな,とか。
関根:
なるほど。しかもフィーチャーされてはいますけど,決して女優陣を前面に押し出すことはしていないですよね。そこはきちんと原作の世界にマッチしていた気がします。
須田:
そうですよね。まあ女優陣もよかったですけど,クローズの映画といえば,やはりきらびやかな若手男優の共演ですよ。前作はなんといっても山田孝之さん。僕達のなかでも孝之ブームが起こりましたよね。
関根:
確かに。「白夜行」とかね。
須田:
あの作品はクローズ前ですよ,いわばノーマル孝之の頃。
関根:
ノーマル?
そうです。今ウシジマくんでキレキレの孝之がニュータイプ化したのは,まさにクローズZEROなんです。
関根:
ニュー? タイプ?
須田:
そのあと「BOSS」っていうドラマにシリアルキラー役でゲスト出演したんですけど,これが怖くて素晴らしかったんですよ。そして「勇者ヨシヒコ」シリーズでね,もう,大ブレイクですよね。
関根:
テレ東の深夜枠でブレイクっていうの,かっこいいなぁ。
須田:
で,今作は彼ですよ。
関根:
やっぱりね,彼ですね。
須田:
柳楽優弥さん。
関根:
いやぁ,すごいですね,いつの間にこんな悪かっこいい役者になったんでしょうか。びっくりしました。すごい筋肉。
須田:
ねぇ,いつの間にね。
4Gamer:
まさに「誰も知らない」[2]ですよね。
関根:
確かに。誰も知らなかったですね,いつの間に。
須田:
いやぁ,苦節何年,ついにここで孝之現象が起こったんだと思いますよ。
関根:
柳楽さんニュータイプとして覚醒ですね。
須田:
前作の芹沢のポジションって,柳楽さん扮する強羅 徹ですからね。来ますね,これ。カミーユ確定ですよ。
関根:
ほかの俳優さんもよかったですよね。
須田:
鈴蘭高校の魅力が俳優さんを開花させるということでしょうか。藤原役の永山絢斗さんがとくに良かったですね。さらには勝地さんとか,早乙女さんとか,役者のバランスがいいんですよね。それが観てて楽しかった。柔硬のバランスというか。
関根:
絶妙でしたね。でも前回の「ジャッカス」と一緒で,クローズ世界をまったく知らなかった僕がすごく楽しめたというのは,どうなんだろうかと。
須田:
なるほど。僕が思うにクローズの映画の役割は,クローズ世界への入り口だと思うんですよ。僕はまんまとクローズZEROから漫画にはまったわけですし。この映画を観て楽しんだのをきっかけに,鈴蘭高校の学園生活を楽しんでもらえれば良いなぁと。
関根:
そうですね。じゃあ支配人,とりあえず漫画貸してください!
須田:
そのぐらい自分で買いなさい! なんてね。いやぁ楽しいなぁ。あと何時間話できるんでしたっけ?
関根:
もう誌面には載せられないくらいのお話をいただいてます。
もちろんあのゲーム
関根:
もちろんゲームは「クローズ」のゲームですよね。
須田:
えーっと,そこをあえて外したくてですね。
4Gamer:
となると,「熱血硬派くにおくん」?
須田:
そのとおりです。
4Gamer:
付け加えて余談なんですが,「月極蘭子の一番長い日」の主題歌,澤 紫臣さんが作詞されているじゃないですか。
須田:
はい。
4Gamer:
澤さんのお父さんが,くにおくんのサウンドを担当されている澤 和雄さんなんです(関連記事)。
須田:
えっ。そうなんですか。奇遇というか,もはや運命ですね。
ということで,クローズに出てくるような男たちのことを悪メンっていいますけども,ゲーム業界における初代悪メンですよ。僕らが愛してやまないくにおくん。クローズを観たあとは,このゲームしかないですね。
関根:
くにおくんといっても,ずいぶんたくさんのゲームがありますけれど,その中でも選ぶとしたら?
須田:
やっぱりドッジボールでしょ。
関根:
「熱血高校ドッジボール部」ですね。面白かったですよねぇ。つい先日も友人宅でやってきたんですけど,しかしなぜ,対戦相手が海外のチームなんですかね。
須田:
ヤンキーって喧嘩で決着をつけるじゃないですか。くにおくんが凄いのは,その限界に早くから気が付いていたことなんですよね。もうシリーズ2作目からいきなりドッジボールですから。この究極の決断力。クローズの世界でもね,卒業して社会に出て行く。リンダマンのように総合格闘家を目指す人もいるんですよ。
関根:
そう聞くと今回は映画とゲームの親和性がけっこうばっちりでしたね。いや,強引は強引ですけど。
須田:
月極蘭子もこの際だから親和性があるということで。
関根:
強引すぎ!
「クローズEXPLODE」公式サイト
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