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キャラクターゲーム考現学 / 第35回:Memories Off History
今回のお題は,サイバーフロントがキッドの版権を引き継いでリリースした統合製品,「Memories Off History」。もともとキッドの出世作であり,看板作品であった「Memories Off」シリーズの,ほぼすべてのタイトルをカバーした,8タイトル,DVD8枚組のパッケージだ。
さすがにこれだけのボリュームになると,個々のタイトルについて詳しく解説するわけにもいかないのだが,このシリーズはキャラクターゲーム全体の流れにおいて,いわば節目,ターニングポイントとなったギミックを多く含む。2000年前後から現在に到るキャラクターゲーム全体の流れを意識しつつ,このシリーズが果たしてきた役割に迫ってみよう。
「Memories Off」シリーズではこれまでに,ゲーム本編といえる作品が5本リリースされている。すなわち,
●「Memories Off」
●「Memories Off 2nd」
●「想い出にかわる君〜Memories Off」
●「Memories Off〜それから〜」
●「Memories Off #5 とぎれたフィルム」
の5作品がそれだ。
これらのほか,後日談/外伝的な作品が以下の6本だ。
●「Memories Off Pure」
●「Memories Off After Rain Vol.1」
●「Memories Off After Rain Vol.2」
●「Memories Off After Rain Vol.3」
●「Memories Off〜それからagain〜」
●「Memories Off #5 encore」
さらにファンディスク的な作品が2本ある。
●「メモオフみっくす」
●「Memories Offタイピング」
ついでに言えば,ゲームでなくOVAとして「Memories Off 3.5」というストーリーが,さらに2008年に入ってからコンソールゲーム機で女性向けタイトルの「ユア・メモリーズオフ 〜Girl's Style〜」も発売されている。
Memories Off Historyにはこのうち,本編5本と,Memories Off #5 encoreを除く,後日談/外伝系作品5本が収録されている。5+5=10ならば最初に述べた8タイトルとは勘定が合わないわけだが,これはMemories OffとMemories Off 2ndさらにMemories Off Pureが,まとめてセットになった「Memories Off Duet」として収録されているからだ。そして,後日談/外伝系作品のすべてと#5 とぎれたフィルムは,このMemories Off Historyで初めてPC版が登場した。
ということで,実に壮観なラインナップではあるのだが,注目すべき点は「シリーズ」でありながら,本編でメインとなるキャラクターはすべて異なることだろう。
全作品とも実は同一の時間軸上に設定されており,サブキャラクターとしてほかの作品のキャラクターが登場したりはするのだが,メインにはならない。シリーズであっても続編ではないのだ。いまでこそ,そう珍しい発想ではなくなってきたが,2nd発売当時の2001年では,あまり例を見ない試みだった。
そんなわけで「Memories Off」シリーズは,作品としてのテイストを変えず,キャラクターを変えていった。これは同シリーズがキャラクター重視でなくストーリー重視の路線をとっていたことと,無関係ではないだろう。
「Memories Off」シリーズ以前の作品ではたいてい,プレイヤーの分身となる主人公について,感情移入を妨げないため没個性に近い描写が行われていた。ところが「Memories Off」シリーズでは,主人公の性格付けを明確に行って,それをストーリー展開の重要なキーポイントと位置付けている。
逆にヒロイン達の個性は必ずしも強烈ではなく,基本に忠実なキャラクターが多い。もちろんメインヒロインは,ストーリーや主人公との関わりが強いこともあり,それぞれの作品の中では相対的に存在感が大きいわけだが。
ただし,シリーズが進むにつれて各ヒロインも,ストーリーと並行しつつ個性を発揮するようになってきており,だんだんとキャラクター性が強くなってきてはいる。とはいうものの,メインストーリーと独立したところで個性を発揮しているというわけではなく,あくまでストーリーあってのキャラクターという配置は,変わっていない。
桧月彩花
1stのヒロイン。主人公三上智也を窓伝いで起こしに来るなど,まさにゲームやライトノベルの中にしか存在しない幼馴染みタイプの彼女だったが,中学三年のときに交通事故で他界。After RainやPureでは,その頃のストーリーも見られる。
(CV:山本麻里安)
今坂唯笑(いまさか ゆえ)
1stのヒロインで,智也のもう一人の幼馴染み。少し天然ボケ気味なところがあり,智也によく騙される。子供の頃から智也,彩花と三人で一緒にいた。このパターンでよくある,もう一人のことを思って身を退くというシチュエーションだが,それに加えて事故のこともあり,それを引きずる智也を見てさらに……という悪循環。実にメロドラマである。
(CV:那須めぐみ)
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黒須カナタ
「想い出にかわる君」の主人公,加賀正午と以前付き合っていたが,突然姿を消す。数年後突然正午の前に現れ,そこから物語が始まる。
(CV:福井裕佳梨/村田あゆみ)
陵いのり
Memories Off〜それから〜のヒロイン。主人公,鷺沢一蹴と付き合っていたが,卒業直前のバレンタインに一蹴を呼び出し,突然別れを告げる。本編では,のっけからその状態なので,全体として明るい表情を見せることはほとんどないが,外伝である「それからagain」では明るい表情も見せる。
(CV:小林沙苗)
日名あすか
#5のヒロイン。主人公河合春人の幼馴染みである日名雄介の妹で,後輩でもある。致命的な方向音痴に加え,機械音痴。いきなり機械を壊したり,飛行船を目印にして道に迷ったりする。以前は子役としてTVなどに出ていたが,現在は休業中。
(CV:野川さくら)
仙堂麻尋
春人達の前に現れた少女。雄介の転落事故の目撃者で,その直前に雄介が春人に渡したビデオ(テストショット)に映っていた。彼女の登場で,映画への情熱が冷めかけていた春人達が動き出す。
(CV:井ノ上奈々)
1stで物議を醸したのは,このような主人公のモノローグ。当時は「うざい」「自意識過剰」などといった反発もあったものだが,その後本格的に開花した他社作品の「ヘタレ主人公」達に比べれば,この程度はかわいいものだ
そういったわけで「Memories Off」シリーズのポイントは,プレイヤーキャラクターを核に展開するストーリー作りにあるといってよいだろう。ゲーム内では,主人公のモノローグといった形で心境や苦悩が綴られる部分が多く,語弊を恐れずに言えばヒロイン達以前に,主人公の存在感がまずある。その点では,「攻略」を目指すゲームというより,恋愛ドラマを見ているかのような要素が大きい。
また,1stの「別れとそれを引きずる主人公」や2ndの「主人公と恋人のすれ違い」のように,一筋縄ではいかないドラマ要素が盛り込まれているのもポイントで,全作を通じてシリアス要素が強いストーリーが展開する。これもまた発売当時としては目新しかったのである。
ただし,主人公が前面に出てくる叙述スタイルには,当時賛否両論あったのも事実。自分語りがすぎるとか,自意識過剰なモノローグなどと,当時はいろいろ取り沙汰されたものだ。
とはいえ「Memories Off」以降,主人公が前面に出てきたり,その行動様式がプレイヤーに単純でない感情移入の形を求めたりする,いわゆる「ヘタレ主人公」コンセプトの作品が続々と登場してきたことは,「Memories Off」が拓いた新しい表現の延長として捉えるべきだろう。
また「Memories Off」以降,ストーリー重視でドラマ的な要素を多く取り入れたゲームが増加していったことも考えると,現在のキャラクターゲームの流れの,基本線の一つを準備した作品とも評せる。キャラクターのインパクトもさることながら,一貫性のあるストーリーがどれだけ重要かを,結果として広く示したことになろう。
そんな「Memories Off」シリーズももちろん,作品数を重ねるに伴って,構成や表現手法にさまざまな試行錯誤を行ってきた。3作目の「想い出にかわる君」では,メインとなるストーリーを持たず,キャラクターごとのシナリオに委ねる形が試みられているし,シナリオライター/キャラクターデザイナーを変更するなどの刷新を行っている。
だがこれは正直好評だったとは言いがたく,4作目である「Memories Off〜それから〜」では以前のスタイルに戻る。さらに#5では,主人公のビジュアルと声をゲーム内で明確に表現するなど,よりドラマやアニメ的な,第三者視点からの作劇手法を強化している。
また後日談/外伝系の作品は,本編作品の間をつなげるストーリーを描いており,シリーズとしてのシナリオバリエーションを広げるのに役立っている。もちろん,端役のキャラクターがきちんと描かれる機会でもあるわけだ。
キャラクターゲーム中屈指のロングシリーズであり,またすべての作品で時間と空間が共有され,一つの世界を構成しているだけに,まとめてプレイしてみるのもよいだろう。2000年前後から現在に到る,キャラクターゲームの微妙なテイスト変化も味わえるだろう。
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