レビュー
北欧神話を背景に,再びララが冒険に挑む
トゥームレイダー:
アンダーワールド 日本語版
» 2009年7月17日にズーから発売された,「トゥームレイダー: アンダーワールド 日本語版」PC版のレビューを掲載した。2006年に欧米でリリースされた「Tomb Raider: Legend」から始まる,新生ララ・クロフトシリーズの第三弾となる本作。滑らかなアクションやパワーアップしたグラフィックスなど,何かと見どころの多いシリーズ最新作を,ライターの朝倉哲也氏がレビューする。あ,また落ちた!
2009年7月17日,ファン待望のシリーズ最新作「トゥームレイダー: アンダーワールド 日本語版」がズーから発売された。
コンシューマ機版は一足早く(PLAYSTATION 3版/Xbox 360版は2009年1月29日にスパイクから)発売されていたが,PCでララの冒険を楽しみたいと思っていた人も少なくないはず。夏休みやお盆休みの今日この頃,彼女と一緒にスリルあふれるアドベンチャーが楽しめるのは,PCゲーマーにとっては願ってもないことだろう。
今回,ララの冒険の舞台となるのは地中海,タイ,メキシコ,北欧,そして北極海と,いつものようにワールドワイド。北欧神話をベースに,行方不明になったララの母親の謎や超古代帝国の女王の野望などが絡み合い,シリーズ屈指のスケールを持ったストーリーが展開する。
暑いところから寒いところまで
バラエティに富んだロケーション
物語は,いきなり燃えあがるクロフト邸からスタートする。なぜ屋敷が燃えているのか,誰が火をつけたのかなど一切明かされぬままララは炎の中をかいくぐり,やっと仲間達の待つ居間へと辿り着く。ところが,今度は仲間の一人であるはずのジップが,いきなりララめがけて銃を撃ってくる。
誰かと間違えたというのではなく,明らかに相手がララだと承知のうえでのことだ。もう何がなんだか分からないまま,ゲームはその1週間前へとさかのぼる……というように,本作は出だしからスリリングだ。
トゥームレイダーシリーズは,新作が出るたびにそのストーリー展開に魅了されるが,本作もその例にもれない。燃えるクロフト邸の次は地中海の海底で熱帯魚の群れに目を奪われ,人食い鮫の襲撃をかわしつつ海底に眠る遺跡を探索。しかしどこからともなく現れた黒づくめの傭兵集団によって遺跡に閉じ込められ,そこをなんとか脱出して傭兵達の乗る貨物船を沈没させ,続くタイのジャングルではヒンズー教の神々を祀る古代寺院で虎と戦い,やっとイギリスの屋敷に帰ってきたかと思えば,屋敷の地下に隠された秘密を探ったり……とにかく目まぐるしく,あっちへ行って大暴れして,こっちへ来ては宝を手に入れと,驚くほどのフットワークを見せてくれるのでプレイしていて飽きない。さすがララだ。
もともと,トゥームレイダーシリーズのゲームの流れは「遺跡に赴く」→「トラップをクリアしながら奥へ」→「ときどき現れる敵と戦闘」→「やっとお宝を入手して,さあ次へ!」という割とシンプルな流れの繰り返しなのだが,本作では世界各地の多様な場所が用意されているし,地域だけでなく,海の中,ジャングル,土砂降りの遺跡,雪の中という具合に,シチュエーションもバリエーションに富み,いつも新鮮な気持ちで冒険に望めるはずだ。
しかも前作にも登場したララの宿敵や,海底に沈んだとされる古代帝国で女王様やっていました的な彼女や,ララのコピーキャットが登場するなど,多彩な登場人物が物語に華を添えてくれるのだ。
一見不可能な移動ルートを
理詰めで考える面白さ
パズル的な謎解きの面白さは,本作でも中心的な要素だ。はるか向こうのポイントまで行きたいのに足場がないとか,あんな高いところまで,いったいどうやって登ったらよいのか見当もつかないなど,各シーンでプレイヤーを悩ませてくれる。マウスさばきやキーボードさばきといった,アクション的な要素も確かに必要なのだが,なんといっても重要なのは頭脳プレイだろう。
一見すると目的地までの道がない場所では,事前に周囲を眺めながら「あそこから登って,向こうへ渡って,あっちに飛んで……このルートは無理か」など,正解のコースを見つけるための推理力や,「あそこからジャンプすれば,あの部分につかまれるんじゃないか?」などといった想像力が必要とされる。
一見すると足場がないような壁だが,よ〜く見たら小さな出っ張りがあったり,次にどこへ行ったらよいか分からないとき,ふと背後を見ると飛びつけそうな足がかりがあったりなど,「これだ!」と叫びたくなる場面がたくさん登場する。遺跡の中をあっちへ飛び,こっちを潜り抜けして,やっとの思いで見つけ出したアイテムを使って開かない扉が開いたとき,思わずモニターの前でガッツポーズしてしまうのは筆者だけではないだろう。こういった難題をクリアしたときの達成感も本作ならではで,マップの構成はよく練り込まれているという印象だ。
ただ,ちょっと不満なのは,カメラ視点の処理だ。本作はララの背後にカメラが置かれた三人称視点になっており,普段はマウス操作である程度自由に周囲を見わたせるのだが,真上や真下が見にくかったり,壁にピタリと張り付きながら背後の足場に飛びつきたい場合に,目標までカメラを回せなかったりする。「いつもどおり」と言ってしまえばそれまでなのだが,慣れるまでちょっと時間が必要だろう。
また,カメラが定位置に自動的に戻ろうとするため,戦闘シーンのように激しいアクションを行うと,今どこを見ているのか,わけが分からなくなってしまうこともある。このへんはもうちょっとどうにかしてほしいと思う。
地下の世界は危険がいっぱい
それでもララは行く!
タイトルどおり,本作は地下の冒険が多い。地中海某所の海底遺跡を皮切りに,ララ邸地下の納骨堂につながる礼拝堂,地面の下に巨大な塔が立つヤン・マイエン島,そして北極海の海底からつながっている最終決戦の地ユグドラシルなどだ。
本作の開発が発表されたとき,デベロッパのCrystal Dynamicsは「広大なマップで,自由な進行ルートが取れる」としていたが,実際にプレイした限りではそれほどでもないという雰囲気。メインが地下ということもあり,基本はやはり一本道だ。とはいえ,遺跡の中などは従来作より広いようで,必ずしも狭くて暗いトンネルを歩きっぱなしというわけではない。
たどり着いた遺跡の中にはもちろん無数のトラップが用意され,目標のポイントまで簡単には行かせてくれない。仕掛けには壁から火が吹き出たり,いきなり巨大な刃が向かってきたりなど死に直結するものから,アイテムを集めて手順に沿ってパズルを解いていくという地味なものまで種類は多い。本作ではララが地面に落ちているオブジェクトを拾って歩いたり,それを投げ飛ばしたりする新アクションが追加されており,それを使ってパズルを解く場面なども登場する。
グラップルという伸縮自在の投げ縄のようなロープを使って壁を上り下りしたり,崖を飛び越えたりするのはすっかりおなじみだが,前作「トゥーム レイダー:アニバーサリー」で導入されたグラップル&壁走りも重要なアクション。これは,グラップルでぶら下がりつつ壁を横走りし,普通では届かない足場にジャンプするものだが,前作に比べて微妙な距離設定がなされているように感じる。つまり,わずかでも早く手を離してしまうと目標まで届かずララ落下! ということになってしまって難しい。
こうしたララのアクションは,すべてモデルの動きをキャプチャーしたものだということで,これまでなかったような滑らかでリアルな動きが見られる。このあたり,いかにもポリゴンを張り合わせのような初期のトゥームレイダー作品からは考えられないような技術の進歩だと思うが,まあ,オリジナルの「Tomb Raider」が登場したのは1996年のことだから仕方ないか。
パズルの中には時間制限付きのものもある。例えば,とあるスイッチを作動させると扉が開くが,それまでに扉にたどり着かないと閉まってしまうというものだ。ものすごくシビア! ではないものの,まごまごしていたら間に合わない程度にはなっているので,こういった場面では正確なキーボード(もしくはコントローラ)さばきが求められるだろう。
やっぱり日本語ローカライズは嬉しい!
今さら言うのもヘンかもしれないが,本作は完全日本語版だ。PC向けのゲームを国内発売してくれるけでもありがたいのに,テキスト/音声まで日本語にしてくれるのは,筆者のようにPCゲームが三度のメシより好きなプレイヤーにとっては嬉しい話だ。
仕事柄,普段は英語版のゲームをプレイすることが多いが,やはり日本語だとストーリーが非常に良く分かる。英語版の100倍は良く分かる(当社比)。待ちきれなくて英語版を購入してしまった筋金入りのララファンも,あらためて日本語版を購入しなおすのは……,まあ各個人の経済状況による話だが,ゲームの物語がきちんと分かれば,それだけ没入度が高くなるはずだ。
PC版ならではのグラフィックスの美しさも,本作のアドバンテージといえるだろう。上述したように本作にはさまざまな風景を持った場所が多数登場する。これらの光景を高画質で堪能できるのはPCゲーマーならではだ。
前作までをプレイしていた人ほど「アッ」というような展開になるとか,最後に手に入る武器は超強力だとか,バイクを乗り回すシーンが結構あるよとか,本作には数多くの仕掛けが施されており,個人的にかなり本気で楽しめた作品だったという点を最後に強調しておきたい。
各シーンの最初で,着ていく衣装を選べるようになった。暑い場所では,タンクトップにショートパンツなんていうウフフなものも選べる |
トールの力の源である雷をまとい,渾身の一撃を繰り出すララ。北欧神話で語られる最終戦争ラグナロクは,まさに世界破滅の予言だった |
難解なパズルもあるが,けして理不尽ではなく,分かったときには思わずひざを叩いてなるほどと言えるようなものばかりだ。トゥームレイダーシリーズのファンはもちろん,これまで一度もプレイしたことがないという人も,ぜひララ・クロフトと一緒に世紀の大冒険を楽しんでみよう。
ちなみに,本作の体験版を4Gamerの「こちら」に掲載している。英語版ではあるが,本作の第2章の序盤部分がプレイできる。体験版では,この先どうなるのといったところで終わってしまうのだが,その続きは本作でどうぞ。
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トゥームレイダー: アンダーワールド 日本語版
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(C)Tomb Raider: Underworld c Eidos Interactive Ltd. 2008. Developed by Crystal Dynamics Inc. Published by Eidos Interactive Limited. Tomb Raider, Tomb Raider: Underworld, Crystal Dynamics, the Crystal Dynamics logo, Eidos, and the Eidos logo are trademarks of Eidos Interactive Ltd. Uses Bink Video. Copyright c 1991-2008 by RAD Game Tools, Inc. Dolby and the double-D symbol are trademarks of Dolby Laboratories. All other trademarks are the property of their respective owners. All rights reserved. (C)Zoo Corporation. All Rights Reserved.