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完全設定資料集「.hack//Archives_03」の発売記念トークイベント&サイン会が開催。貞本義行氏にまつわる制作秘話が語られる
このイベントは,事前募集によって抽選で選ばれたファンが招待され,同社の代表取締役社長で「.hack」シリーズのディレクターを務める,松山 洋氏によるサイン会とトークショーが午前/午後の2回に分けて行われた。本稿では,午前中の模様についてレポートしていきたい。
最初に行われたサイン会では,松山氏が訪れたファン1人1人と談笑し,終始和やかな雰囲気だったのが印象的だった。
「.hack」に貞本義行氏が参加するまでの経緯とは?
今明かされる「.hack」ファーストシーズンの開発秘話
完全設定資料集の制作は,「『.hack//G.U. TRILOGY』完全設定資料集 .hack//Archives_01」からスタートし,そこから遡る形で,「.hack」ファーストシーズンにたどり着いた。松山氏は,「『.hack』はサイバーコネクトツーのオリジナルシリーズですし,これによって会社の規模も大きくなり,皆さんに知っていただくきっかけになりました」と話し,さらに,今後も完全設定資料集の刊行は続けていきたいと考えていると語った。
なお,完全設定資料集の巻末には,毎回,松山氏による1万文字手記というコーナーが用意されているのだが,今回のトークでは,そこに載っていない話として,「.hack」でキャラクターデザインを手がけた貞本義行氏に焦点が当てられ,松山氏から見た「貞本義行というクリエイター」をテーマとして,出会いから仕事の際の思い出話まで,さまざまなことが語られた。
まず事の発端は,約10年前の「Project .hack」となる。当時松山氏がバンダイ(現バンダイナムコゲームス)へ,オリジナルRPGの企画を提案したことが始まりだという。サイバーコネクトツーはまだあまり知られていない会社であったが,開発を担当することとなり,この際に,バンダイのビデオゲーム事業部を取り仕切る鵜之澤伸氏(現バンダイナムコゲームス 代表取締役副社長)と知り合ったとのこと。
最初の段階では,「著名な脚本家とキャラクターデザイナーを立てる」ということを決めたそうだ。RPGを作るうえで「シナリオが大事だ」と考えた松山氏は,プロットから手がけることを決め,架空のオンラインゲーム「The World」を舞台に,ネットに潜む裏表のある悪意,匿名性などをテーマに描くことが決まったという。
脚本家は,「ガメラ 大怪獣空中決戦」「機動警察パトレイバー」などを手がけた伊藤和典氏に依頼することが決まったものの,こちらは口説き落とすのに半年かかったそうだ。当時を振り返り松山氏は「こちらの情熱を買ってくれましたね」と話していた。
脚本家が決まり,ミーティングも月に2回のペースで行われる。バンダイのビデオゲーム事業部は東京・東中野にあり,松山氏はそこに出向いて脚本の内容を詰めていき,それ以外は福岡県・博多のサイバーコネクトツー社内でゲーム制作に取り組んでいたと語る。
しかし「.hack」を一般に露出させていく際,著名なキャラクターデザイナーを立てたいという方針があり,3Dポリゴンモデルを作る前に,しっかりキャラクターを作り上げておきたかったそうだ。
そこで松山氏は鵜之澤氏に相談を持ちかける。鵜之澤氏は「誰でもいいよ。俺が紹介してやるから名前を挙げてみろ」と背中を押してくれたので,松山氏と磯部氏,そして「.hack」のディレクターを務める新里裕人氏の3人で話し合いを持ったという。なお,「すでにゲームのキャラクターデザインを手がけている人では,そのイメージが出てしまう」という理由から,ほかの分野で活躍していて,なおかつ,ゲームのキャラクターを手がけたことがない人をデザイナーに起用しようということになったとのこと。そして話し合いの結果,「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラクターデザインを手がけた貞本義行氏の名が挙がる。
さて,ここから貞本氏に参加してもらうための交渉が始まる。東京都内にあるガイナックスを訪れた松山氏は,企画書や磯部氏がデザインし,PS2上で動くポリゴンモデル,実機でのゲーム映像などを見せ,貞本氏にプレゼンを行うのだが,最初は丁重に断られたという。その理由として「なぜガイナックスの社員が,別の会社のゲームのキャラクターを描かなければいけないのか」「ゲームが好きではない」「キャラクターデザインだけではなく,企画やシナリオなどゼロの段階から関わりたい」といったことが挙げられたそうだ。
1回目の交渉はうまくいかず,1か月後にあらためてガイナックスを訪れた松山氏は,今度はPS2上で動く綾波レイのポリゴンモデルを持ち込んだ。これは貞本氏が「自分がデザインしたものが,ゲーム上でどのように動くか分からないからやりたくない」と断ったことに対する,松山氏なりのアンサーであった。しかし,「正面から見ると似ているけど,横から見ると顔が歪んでいる」などのダメだしを食らい,ここでも参加を断られてしまう。なお,このときのプレゼンでは,ポリゴンモデルの三面図も持ち込んだが,貞本氏の手によって紙が赤く染まるほど赤ペンを入れられたという。
そのほか,フィギュア原型師のあげたゆきを氏の名を教えられ,貞本氏は「もともと2次元の世界で作られたものも,3次元で完璧に再現できる」と話していたとのこと。
さっそくゲームの世界観やシナリオのプレゼンが始まる。そして,磯部氏が描いたカイトの原画を見せると,「シルエットがいい」「中学2年生の男の子を主人公にするなら,感情移入しやすいよう,頭身を下げたほうがいい」などアドバイスをもらったという。なお,貞本氏は頭身の表現の具体例として「NARUTO -ナルト-」(少年篇)を挙げたそうだが,当時の松山氏は「NARUTO -ナルト-」のゲーム化をバンダイに提案していたところで,大きな偶然を感じたという。
キャラクターについては,主人公が帽子をかぶっているという設定が「ユニークだから採用しましょう」と褒められたり,カイトが履いているパンツは股下が長く,ダボダボな感じになっているのだが,その点について「中学生っぽいけど,軽快さを出すために足は膝から下を出しましょう」など,理屈から入ってキャラクターデザインがなされていったそうだ。
こうして,話を持ちかけてから半年を経て,やっとキャラクターデザインの作業がスタートした。松山氏はガイナックスに顔を出し,貞本氏に企画内容やシナリオの説明をするなど,制作作業をサポート。作業中には居留守を使われたりして会えないこともあったそうだが,結果として全キャラクターを仕上げるのに,1年を要した。
パッケージデザインの話では,松山氏によるとVol.2とVol.4の2本がとくに苦労したという。Vol.2は背景を松山氏がCGで制作し,その上に貞本氏のイラストを合成した合作となっているのだ。
一番大変だったのはVol.4で,こちらは工場への入稿がギリギリのタイミングとなった。その理由は作業中の貞本氏と連絡がとれなくなったことにあるそうだが,パッケージが間に合わなかった際の最後の手段として「Vol.4のパッケージは,Vol.1〜3のパッケージをコラージュにして作ろうか」という話まで出ていたほどだったそうだ。しかしある日,松山氏はガイナックスのWebサイトで,貞本氏の個展とトークショーが名古屋で行われるという告知を偶然発見する。「ここに行けば確実に会える」と確信し,楽屋に直接出向いて描いてもらったそうだ。「さすがにここまで来られては」と,貞本氏も腹をくくり,作業に取り掛かってくれたという。
そのほか,Vol.3と4はサイバーコネクトツーで,さまざまなパターンでラフレイアウトを作成したが,Vol.3はすんなり完成したとのこと。その理由として「貞本さんはミアを気に入っており,好きなキャラクターは描くのが早いんだと思います」と話していた。
また,貞本氏の人物像としては自動車やオートバイ,自転車が好きだという。実際にそういったものを購入したり,カタログを取り寄せ,貪欲に新しいデザインを追い求めており,それを見て松山氏は「クリエイターの鑑だ」と感じたとのこと。貞本氏はドイツで職人が手組みで制作している自転車(100万円以上する)を,観賞用と乗車用で2台所有しているそうだ。これがモチーフとなっているデザインとして,「トップをねらえ2!」に登場するバスターマシン「ディスヌフ」が挙げられた。
そのほか,後日談として,貞本氏は松山氏が定期的にプレゼンにやってきたことに対し,「僕が知らない世界の話をしてくれて,それはすごく面白かった。新たなインスピレーションから『.hack』という世界が生まれ,自分自身も新しい扉が開けて楽しかった」と語っていたという。松山氏自身も貞本氏と仕事をすることで,「アニメーターはゲームクリエイターとは違う視点で物づくりをしている」ということが分かり,非常に勉強になったとのこと。
既報のとおり,「ドットハック」は3D立体視での作品となるが,松山氏は「世の中にある3D立体視の映画の中では,最高のクオリティで,お手本になるような作品です」と自信を持って語った。音楽面でもオーケストラによるレコーディングが行われるなど,さまざまな挑戦が行われている。11月より映画の最終的な仕上げに入るほか,新たな情報も公開されていくそうなので,公開を心待ちにしているファンの皆さんはお楽しみに。
「.hack」シリーズは現在の第3期がファイナルプロジェクトと銘打っているが,松山氏は「応援してもらえる限り,シリーズは不滅です」と,今後の展開を匂わせる発言をしていた。こちらも時期が来れば何があるか判明するかもしれないので,続報に期待したい。
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