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[CEDEC 2010] CEDECはゲーム開発者の「課題を顕在化する場」,そして「自己研鑚を促す場」である。松原健二氏による基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」
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印刷2010/08/31 22:38

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[CEDEC 2010] CEDECはゲーム開発者の「課題を顕在化する場」,そして「自己研鑚を促す場」である。松原健二氏による基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」

CEDECフェロー コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長の松原健二氏
画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2010] CEDECはゲーム開発者の「課題を顕在化する場」,そして「自己研鑚を促す場」である。松原健二氏による基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」
 8月31日〜9月2日の3日間,CESAデベロッパーズカンファレンス2010(CEDEC 2010)が開催されている。その初日となる8月31日,CEDECフェローを務めるコーエーテクモホールディングス 代表取締役社長の松原健二氏が,基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」を行った。講演の内容は,4Gamerで行った事前インタビューと重複する部分も多いが,本記事にてあらためて紹介しよう。


【関連記事】情報をオープンにして業界全体の底上げを。オールジャパンで改革に取り組んだCEDECの3年間と今後の展望をCEDECフェローの松原健二氏に聞いた



日本のゲーム業界が抱える最重要課題は

「進化への対応が遅い」こと


画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2010] CEDECはゲーム開発者の「課題を顕在化する場」,そして「自己研鑚を促す場」である。松原健二氏による基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」
 登壇した松原氏は,今回の基調講演は「CEDECを身近に感じてほしい」というコンセプトの内容であり,また氏自身も,CEDECフェローまたはゲーム企業の社長という肩書きでなく,元エンジニアとして話をすると前置きした。
 松原氏が最初に提示したのは,「日本のゲーム業界は厳しいのか?」という疑問だ。実際,日本国内のゲーム市場は伸びていないのに,海外ではその6〜7倍にも伸びている。またプラットフォームが多様化し,据え置き機/携帯機のみならず,スマートフォンまでをも視野に入れなければならないが,すべての市場でビジネスが成立しているのか。あるいは急成長しているソーシャルゲーム/ブラウザゲーム市場に,従来のゲーム企業は対応できるのか。

画像集#003のサムネイル/[CEDEC 2010] CEDECはゲーム開発者の「課題を顕在化する場」,そして「自己研鑚を促す場」である。松原健二氏による基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」
 続けて提示された2つ目の疑問は「欧米のゲーム開発に遅れている?」というもの。欧米のゲームは開発もプロモーションも,日本のそれに較べて非常に大きな規模で展開されている。また欧米ではターゲットにした顧客をモデル化し,それに沿ってゲームデザインがなされ,技術が投入されていくのが一般的だ。さらに開発環境も,効率化された統合環境の整備や,開発手法のスキルを蓄積していくシステムが確立されている。

 松原氏は,上記二つの疑問の答えとして「今はそういう傾向にある」と率直に述べつつも,「だからってすべてダメということではない」と続けた。
 その一方で,松原氏は,日本が取り組むべき課題として「進化への対応が遅い」ことを挙げた。そしてこの課題を開発者がクリアできれば,状況が厳しいとか欧米に遅れを取っているという見方はなくなるだろうと指摘した。

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1980〜90年代の日本と北米における

IT産業の意識の違いをヒントに


 それでは,どうすれば進化に対応できるのか。松原氏は“原点”に帰るとして,自身のエンジニア時代のエピソードを披露した。
 松原氏が一人のエンジニアだった1980〜90年代の日本のIT産業は,いろんな意味で欧米に差をつけられていた。この時代,それまで専門家しか使っていなかったコンピュータを,PCやワークステーションとしてオフィススタッフが使うようになっていた。松原氏は,その様子をあえて今のゲーム業界に例えるなら,コアなものだけでなくカジュアルなゲームが台頭してきたような状況,と表現した。

 そして松原氏は,ゲーム業界やほかの業界の今後の発展のヒントとして,なぜ当時の日本のIT産業が「メインプレイヤーになり損ねた」のかについて考え,学ぶことが重要であると述べた。
 松原氏は当時のIT産業について,まず「危機感の欠如」を指摘。日本製の家電製品や自動車が世界中で評価され,「日本はこのまま行ける」という奢りがあったのだという。
 そしてもう一つは「戦略の欠如」。もともとメインプレイヤーではなかった日本は,2番手としてIBMのあとを追っていればよかったというわけだ。
 とはいえ,これら2点は,開発者達の意識よりも,企業や団体といった組織レベルの姿勢の問題であると松原氏は述べる。

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 松原氏曰く,開発者にとって問題だったのは「課題共有の欠如」だ。松原氏は,開発者達が抱える課題には,古今東西,似たような内容が多い。それらは顕在化(オープン化)し共有することによりクリアになる。松原氏は,それをまとめて「企業を越え,広く関わる開発者」達による「顕在化(共有化)」が「叡智を呼び起こす」と表現した。
 しかし,松原氏に課題を共有することの重要性,そしてそれが進化へ対応することでもあると気づかせたのは,当時,氏が勤めていた日本の企業ではなかった。その企業も含めて日本のIT産業は極めて閉鎖的で,開発者同士が交流するような場がなかったからであると続ける。

 当時の北米では開発者同士が情報を共有し,交流するイベントが次々に開催されていた。松原氏がそうした開発者イベントの一つ,「HotChips」に参加したのは1990年頃の話である。松原氏は,そのイベントで開発者達がさまざまな情報を公開し,課題を共有しあい,切磋琢磨して自分の成長の糧としている姿を見て,日本との違いにショックを覚えたという。

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 日本では自社のノウハウを保持する観点から,そうした情報の共有に対する懸念を抱く企業も多かったのだが(「ひょっとすると今でも」と松原氏は指摘した),北米では「もちろんコンフィデンシャルな部分まで公開しなくとも十分」「公開した情報を他者が真似できたとしても,その頃には自分達はもっと先に行っている」という姿勢だったそうだ。
 以上が松原氏の“原点”というわけだが,氏はCEDECを,日本のゲーム業界のそうした場として活性化していきたいと述べる。

 続けて松原氏は,今後,ゲーム企業が生き残っていくには,開発者がゲームを作り続けていくには何をすべきかと,会場に問いかけた。もちろん,100万本(世界なら500万本)を売る万能の策はない。しかし,成功の可能性を高めることはできると松原氏は述べる。
 その一つは,「危機感を持つ」こと。松原氏は,日本は今でも世界のゲーム業界のトップランナーであると言い,奢りにならないのであれば,その自信は持っていても構わないと述べる。
 そして,講演の冒頭で提示したような「閉塞感や停滞感を持たない」ことを次に挙げた。確かに,芳しくない傾向はあるかもしれないが,落ち込む必要はなく,明るく楽しい気持ちを保つこともまた重要だというのが氏の考えだ。
 自らの経験を踏まえ,開発者が成すべきことは,「進化の認識」「危機感の共有」「進むべき方向性の確認」であると,松原氏は述べる。そして,この三つを理解したら,あとは自分で自分を高めるために「自己研鑽」「自己啓発」していくしかないと付け加えた。


CEDECは今後もゲーム開発者イベントとして成長していく


 ここで松原氏は,あらためてCEDECを以下のように定義した。

・ゲーム開発に関わるあらゆる人材を対象
・ゲーム開発力の向上を目指す


 松原氏の言うゲーム開発力の向上とは,いいゲームを作ること──すなわち“開発者の独りよがりにならないもの”を作り出すことである。松原氏は自身の20代後半の経験を引き合いに出し,開発者は自分のやりたいことにこだわり過ぎる傾向があると指摘。心意気としては決して否定されるものではないが,ゲームは「売れてナンボ」のものであり,自分だけが満足して「いいものなのに売れなかった」とは言って欲しくないと述べた。そして自分のやりたいことだけでなく,顧客を満足させビジネスに貢献する──その指標として売上を出す──力の底上げこそが,開発力の向上であると続けた。

 そして松原氏は,CEDECがもたらすものを以下の3点にまとめ,その価値を周囲に広めていくのは,この場に集まった人達しかいないと述べた。

・ゲーム開発の抱える課題を顕在化
・情報・知識の共有
・開発者同士の研鑽・交流


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 また松原氏は,過去3年,CEDECが目指したものとして,より多くの人を対象にするための「規模の拡大」,セッションの公募による「イベント品質の向上」,そして「ゲーム業界内外での認知」を挙げる。
 さらに今後のCEDECの可能性として,「ゲーム開発者にどういう価値をもたらすか」ということを考えなければならないと述べ,業界団体主導の「オールジャパンでの取り組み」という意識が必要であると述べた。

 講演の最後に松原氏は,開発者は「モノ作りが使命」と述べ,そのためにはスケジュール,コスト,スペックの3要素に加え,売れてナンボという部分を守ることが重要と,あらためてまとめた。そしてその実現には,開発者同士の交流と課題の顕在化,自己研鑚が重要であり,またCEDECで受けた刺激をいかにして明日の仕事に繋げるかということを,ぜひ考えてほしいとして,基調講演を締め括った。

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