お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名

LINEで4Gamerアカウントを登録
クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のインタビュー

メディアパートナー

印刷2026/03/19 20:00

連載

クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)

画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 とあるショッピングモールに置かれていたじゃんけんゲーム機で,なんと12回連続で負けたことがある。確率としては約53万分の1。ポーカーでロイヤルストレートフラッシュを引くのに近い(65万分の1)確率である。証拠があるわけではないが,実感としては何度やっても負ける仕掛けになっていて,お金を無駄にしたとしか思えない。

 名著「デザインされたギャンブル依存症」(ナターシャ・D・シュル,日暮雅通訳)にもあるように,ラスべガスに設置されているようなスロットマシンはデジタルで管理されていて,ドラムロールが回り始める前に結果は決まってしまっている。最初から遊ぶ人が負けるように設計されているわけだ。

大人から子供まで,誰もが楽しめるクレーンゲーム。YouTubeにも多くの専門チャンネルがあるほど人気を博している
画像ギャラリー No.005のサムネイル画像 / クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)

 では身近なゲームセンターを賑わせているクレーンゲームの場合,どうなのだろうか。何度挑戦しても景品を獲得できず,店員を呼び,店員に50回以上チャレンジしてもらってもいっこうにゲットできず,ついには警察を呼んで警官立ち会いのうえ,200回以上やってみても駄目で,景品の位置をずらしてようやく事なきを得た……。

 ネットニュースにもなって世を騒がせた,そんな動画の事例から幕を開けるのが,今回紹介する「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」だ。箱の中のアームを操作して,吸い込み口へ景品を落とす――突き詰めればこれだけの仕組みにすぎないクレーンゲームをあらゆる角度から検証した,決定版たる一冊である。

画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)
「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」

著者:ボトス・ブノワ
版元:福村出版
発行:2025年7月25日
定価:6600円(税込)
ISBN:9784571410833

購入ページ:
Honya Club.com
e-hon
Amazon.co.jp
※Amazonアソシエイト


 著者曰く,クレーンゲームには多くの矛盾がある。例えばゲームセンターに置いてあるほかのゲーム――それこそ対戦格闘ゲームやシューティングゲームとは違い,クレーンゲームは景品の獲得自体が目的かのように思えるだろう。
 ならば,これはゲームではなく,あらかじめ仕組まれたギャンブルなのか? しかし法律的には,これはギャンブルではない。景品の価格は1000円以下(2022年以降)に抑えられ,あくまでもゲームとして扱われている。

 一方で1997年以降,アーケードにおけるクレーンゲームの売上は,ほかのジャンルを上回り,2018年では2813億円に達している。これはビデオゲームの売上である686億円の3倍以上で,クレーンゲームはもはやゲームセンターの中心的な存在となっているのだ。

 本書は,クレーンゲームを本格的に研究した博士論文を元に書籍化したもので,これまでにないスケールでその実態を徹底調査した文献である。
 著者のボトス・ブノワ氏は,フランスで日本語と日本学(日本研究)を学んだ俊英で,西洋近代のメディア(自動販売機,ジオラマ,ショーウィンドウ)と現代日本のアーケードゲーム文化が交錯する地点として,クレーンゲームに注目したという。

「デザインされたギャンブル依存症」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像ギャラリー No.007のサムネイル画像 / クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)
 博士論文という性質上,本書は理論的な枠組みの設定や解説にも,かなりの紙幅が割かれている。ユニークなのは,クレーンゲームをメディアとメディアの間にあるもの,つまり間メディア的な存在と位置づけているところだ。

 先の例でいえば,クレーンゲームはギャンブルマシンそのものではないが,一定金額を投入しなければ景品が取れない仕組みを備えた,いわゆる確率機と呼ばれる筐体も多く存在する。これはいかにもギャンブル的で,伝統的な遊び論の文脈から来る既存のゲーム研究の枠組で語るのはなかなか難しい。

 一方,プレイヤーがクレーンを操作する手工性や,店員が景品の位置を変更して難度を調整し,同時に景品を魅力的に見せるディスプレイ性といった視点も存在する。これまたデジタル中心のゲーム研究では捉えきれない。デジタルとアナログ,ゲーム研究とギャンブル論の合間にあるのがクレーンゲーム,というわけなのだ。

 このようにシンプルゆえの捉えがたさを抱えながら,クレーンゲームはアミューズメント施設と共にあり続けてきた。現在筆者が長期滞在しているアルゼンチンでも,クレーンゲームはキオスコと呼ばれるコンビニのようなストアからゲームセンターまで,日本とほぼ変わらない形であちこちに存在している。違うのは硬貨がほとんど使われないので,メダルを購入して遊ぶことくらいだ。

ブエノスアイレス市内,中華街にほど近い雑貨店。店頭にはこんな具合にクレーンゲームが置かれている
画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)

 ゆえに本書の一番の見どころは,クレーンゲームの歴史に関する記述だろう。アーケードゲーム史,あるいはアミューズメント産業従事者の共通見解として,クレーンゲームを語る言説は,およそ「二つのブーム」に集約されている。

 一つ目のブームは,1960年代半ばから1970年代にかけてのこと。このときはイタリア製の輸入マシンのほか,日本製の「スキルディガ」(セガ・エンタープライゼス)や「クラウン602」(太東貿易,現・タイトー),「スタークレーン」(サミー)などがボーリング場に設置され,タバコが景品となるなど,成人男性向けの娯楽であった。

 二つ目のブームは1980年代半ばから1990年代初頭にかけてだ。「UFO CATCHER」(セガ・エンタープライゼス)の普及と,アンパンマンのようなぬいぐるみの景品が本格導入され,1990年代前半には,急増した女性客層と結びついてブームとなった。筆者もこの頃の風景は記憶に新しく,限定のぬいぐるみをワンコインでゲットすべく躍起になったものだ。

 しかし本書では,こうした史観への大胆な更新が試みられている。奇をてらっているわけではない。アーカイブ化されている英語のアミューズメント産業誌「The Automatic Age」(1925年創刊)や各種新聞資料などを実直に当たり直し,記録されている中でもっとも古いクレーンゲーム機が,ちょうど100年前の1926年に発売されたことを突き止めたのだ。

 しかも,現代のゲームセンターでよく見かけるキャンディをキャッチするタイプのものとそう変わらない,ショベル型のクレーンゲームである。「ディガー」と呼ばれるこれらのコイン式マシンは,1920年代後半に大成功を収め,類似モデルが,それこそ工場でフォード自動車のような勢いで生産されるようになっていく。

 奇しくも,クレーンゲームの普及は1929年からの世界恐慌の時期と重なるのだが,「The Automatic Age」1931年6月号は,「ここには恐慌がない」という記事を掲載して活況を伝えている。またアメリカのみならず,1935年前後にはフランスの新聞にも,盛んにクレーンゲームの記事が掲載されていたのである。

 日本ではどうなのか。1920年代にはアメリカ製の機械が輸入されていたという。これが1930年代になると,ケーキクレーン(当時はお菓子のことを「ケーキ」と呼んだ)の名前で大いに普及していく。フランス文学者の澁澤龍彦も幼少期に愛読したという「コドモノクニ」1932年11月号には,そのものずばりの「ケーキクレーン」という童謡が掲載されているくらいだ。
 しかし,あまりの普及によって警察に目を付けられたのか,1935年以降は戦時体制による規制強化によって禁止されていったという。

1993年に発売された「セルダの伝説 夢をみる島」に登場するクレーンゲームのミニゲーム。本書を片手に,こうした事例について再考してみるのも面白いかもしれない
画像ギャラリー No.004のサムネイル画像 / クレーンゲーム100年の歴史をたどり直す労作「クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論」(ゲーマーのためのブックガイド:第58回)

 このように,本書には熱心なゲーマーや,文化史に旺盛な関心を抱く人でも知らなかったような,古くて新しい情報が目白押しである。ほかにもゲームセンター店員へのインタビューや客の観察・分析など,社会学的な調査もふんだんに盛り込まれている。

 欠点が皆無というわけではない。例えば景品文化に言及するにあたり,それこそ1960年代に草創期の日本アニメとのタイアップで流行した「鉄腕アトム」シールにまで遡るのはいいとしても,その内容は既存の社会批評のツギハギになってしまっているきらいがある。
 それこそ「鉄腕アトム」シールから,1980年代以降の「ビックリマンチョコ」の悪魔VS天使シールへ至る流れなどは,遊戯史研究の死角になっている部分なので,願わくば一次資料から当たり直してほしかったところだ。

 が,全体の完成度からすれば些細な話である。本書をひもとけば,クレーンゲームで遊んだ悲喜こもごもの記憶が蘇り,何かしらを語りたくなるだろう。硬派な学術書にもかかわらず,読者の忘れかけていた熱気を喚起する力があること。それが本書の魅力なのだ。


■■岡和田 晃(翻訳家,文芸評論家)■■
SF・幻想文学やクラシックなスタイルのゲームにちなんだ翻訳紹介を得意とするライター・翻訳家。4Gamer連載の「ファイティング・ファンタジーとその時代」は,「主人公はキミだ! 〜You are the Hero!日本語版〜」(SBクリエイティブ)の別巻となった。「アナログゲーム産業年鑑2025」(一般社団法人アナログゲームミュージアム運営委員会)では,TRPGや関連分野の動向分析を執筆。そのほかの近著に,「セイレーンの歌」(共訳書,アトリエサード)などがある。
  • 関連タイトル:

    クレーンゲーム

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:03月19日〜03月20日