インタビュー
鋼屋ジン氏の作家性……いや“オタク性”にも迫った「ギルティクラウン ロストクリスマス」のインタビューを掲載
女の子との恋愛模様や“萌え”だけではない,熱い男の戦い/友情を描いた“燃え”るシナリオ展開がプレイヤーにささり,美少女ゲームながら男性キャラクターの人気が高いデモンベイン。“燃えゲー”と言われてこれを挙げる人は,いまも多いだろう。
また,クトゥルフ神話をベースにした作品の中では,いわゆるモンスター名やアイテム名などを使っただけではなく,全体的にクトゥルフ(のパロディ)色が強い作品だったので,案外ここからクトゥルフ神話に興味を持ったという人も少なくないのではないだろうか。
※これまでPC「斬魔大聖デモンベイン」や,PS2用に移植された「機神咆吼デモンベイン」,それらの後日談にあたるPC「機神飛翔デモンベイン」が発売されている
そんな氏の最新作となるPCゲーム「ギルティクラウン ロストクリスマス」が2012年7月26日に発売された。鋼屋氏はアニメ版の一部で脚本を担当しているなど,もともと「ギルティクラウン」と深く関わっていたが,「デモンベイン」のシナリオを書き上げた氏が,本作ではどのようなシナリオを展開しているのか。そもそも,PCゲーム版の制作に至った経緯がどうだったのかも気になるところだ。
そこで今回4Gamerでは,鋼屋氏に直接インタビューしてみることにした。本作についていろいろと聞いてみただけではなく,せっかくなので作家としてのルーツやプライベートにおける趣味嗜好など,好奇心にまかせて手当たり次第に質問したため,かなりコッテリ風味な内容になっている。「ギルティクラウン ロストクリスマス」(以下,ロストクリスマス)に興味がある人や,鋼屋氏のファンだという人は,ぜひともチェックしてほしい。
「ギルティクラウン ロストクリスマス」公式サイト
アニメ「ギルティクラウン」公式サイト
当初は成人向けとして出す予定だったロストクリスマス!?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。ロストクリスマスは,テレビアニメ「ギルティクラウン」のスピンオフ作品ですが,これを制作することになった経緯を教えてください。
最初にProduction I.GからニトロプラスにPCゲームを作りませんか? と話をいただいたんです。その企画こそが「ギルティクラウン」でした。そしてアニメを原作にゲームを作るのならば「鋼屋が適任だろう」ということで白羽の矢が立ちました。
4Gamer:
ゲームを出すというのは,アニメを含めて最初から企画にあったんですね。鋼屋さんはそのアニメ本編でも脚本で参加されていますよね?
鋼屋氏:
ええ。最初は参加する予定じゃなかったんですが,ゲームを作るにしても大本を知らなければいけませんから,アニメ本編の本読みに参加させていただいたんです。それがきっかけで,アニメの脚本にも携わることになったんですよ。
4Gamer:
そんな経緯があったんですね。鋼屋さんがアニメの脚本を手掛けるのは「ギルティクラウン」が初めてだったと思うのですが,参加してみていかがでしたか。
鋼屋氏:
非常に楽しく仕事をさせていただきました。ゲームとは全然違ったやり方なので刺激的な部分もありました。最初に担当した8話の脚本は四苦八苦しながら書いていましたが,シリーズ構成の吉野弘幸さんや副構成の大河内一楼さんの助けもあってやりきることができました。
4Gamer:
具体的にどういった部分が「ゲームとは違う」のでしょうか。
鋼屋氏:
アニメの場合は「動き」が前提になってくるので,それを意識した脚本でなければいけないんです。動きで説明しなければならない部分は,全部動画に任せてしまうというスタイルですね。自分達が普段作っているノベルゲームでは,動きの部分も文章に起こしていますから,一番難しかったのはその塩梅でした。
4Gamer:
なるほど。確かに大きな違いです。では,脚本を書いてみて動かしやすかった,動かしにくかったキャラクターがいたとは思いますが,そのあたりはどうでした?
鋼屋氏:
なぜか自分の脚本時は,ダリルが登場するシーンがちょこちょこありまして,彼は動かしやすかったですね。あとはツグミもそうですね。彼女については吉野さんと大河内さんに「カワイイ!」と褒めていただけました(笑)。
○ダリル・ヤン。GHQに所属する少年将校
○ツグミ。葬儀社の情報戦担当
葬儀社:日本を統治するGHQに対抗。革命を目指すレジスタンス組織
4Gamer:
では逆に,動かすのが難しかったキャラクターは?
鋼屋氏:
いのりです。彼女は感情を表に出さない,複雑なキャラクターなので。裏にある設定も難しいですし,そのあたりを言葉で語らずに見せなければいけませんでした。積極的に動いて会話してくれるわけではないですし……いま振り返ってみると,「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイはトリッキーな使い方をしていましたよね。
○楪 いのり(ゆずりは いのり)。ウェブアーティスト「エゴイスト」のヴォーカルで,葬儀社の一員
4Gamer:
トリッキーと言いますと?
鋼屋氏:
実は彼女って,基本的に誰のドラマにも絡みに行かないんですよ。なのに周囲のキャラクターが勝手に綾波のことを気にするから,どんどんキャラが立っていく。
4Gamer:
確かに……でも,そういうキャラって往々にして人気が高いから不思議です。視聴者も知らず知らず「彼女を気にする人」の一員になっているということなんでしょうね。
そうしたアニメ制作の流れを踏まえて,いよいよ「ギルティクラウン」の前日譚となるロストクリスマスが発売されるわけですが,改めてどういった作品なのかを簡単に教えてください。
鋼屋氏:
アニメ本編の10年前……日本が「アポカリプスウイルス」に汚染され,GHQの保護を受けるきっかけとなるロストクリスマス事件に関する物語が語られます。
事件の黒幕である「ダアト」という組織に関わる者達が,ロストクリスマスの登場人物達になります。主人公のスクルージやキャロルはダアトの施設から逃げ出した実験体で,それを追う追跡者達がいて,彼らが,ロストクリスマス事件にどう関与していたのかを描いています。
4Gamer:
ところで,アニメ作品がゲーム化する場合は,どちらかと言えば家庭用ゲーム機で展開されることがほとんどだと思うんですが,今回はなぜPCでの制作/発売になったのでしょうか。
鋼屋氏:
ウチはPCゲームの開発がメインで,一番得意だからです(笑)。あとは単純に,ノベルゲームだったらやはりPCだろうということもあります。なにより,ニトロプラスのユーザー層がPCゲームに慣れているというのが理由として大きいです。
4Gamer:
なるほど。
鋼屋氏:
あと,これはプロデュース側の狙いなんですが,現在PCゲーマーの人口が減っているとよく言われています。そこで絶対数が少ない市場から新しいお客さんを獲得しようとするのではなく,元々お客さんの多いアニメ市場からプレイヤー層を増やしたいと考えていたようです。今ではPCでアニメを観ている方も多くいますから,もう一押しあれば,そういった層がPCゲームも遊んでくれるのではないか,と。
4Gamer:
ニトロプラスとしては,新規ユーザー層の開拓も視野に入っていたわけですか。一方で,Production I.G側も最初からPCゲームになることを想定していたのでしょうか。
鋼屋氏:
そうですね。むしろ「成人向けでいいです」って言われました(笑)。
4Gamer:
それってテレビ的にはアウトなんじゃ……。
鋼屋氏:
それが……フジテレビさんも「それでいいです」って言ってくれたんですよ。「よし,じゃあ!」ってことでやろうかと思ったのですが,どう考えても声優さんが使えません(笑)。
一同:(笑)。
鋼屋氏:
少なくともアニメのキャストはゲームで使えません。それでは,メディアミックスする意味がなくなりますし。
4Gamer:
確かに声優さんは厳しいですね。ニトロプラスらしいハードコア表現も面白そうなんですが。では,その流れで,レーティングを15歳以上推奨にしようと決めたんですか?
鋼屋氏:
いえ,そういうわけでもないんですよ。制作が始まってから過去のタイトルと比べてみて,「この内容なら15歳以上かな」と考えてのことです。内容はそれなりにハードな内容を扱っていますよ。
4Gamer:
激しいのを期待しています(笑)。ところで,ニトロプラスの新作ということで「ギルティクラウン」を知らないプレイヤーも本作に手を伸ばすと思いますが,そういった人達でも楽しめるのでしょうか。
鋼屋氏:
もちろんです。アニメを観たほうが「あの話は伏線だったのか!」とリンクする部分を楽しめるとは思いますが,ストーリー自体はアニメを観ていなくても理解できるようにしています。
主人公達はゴーストに追われるボニー&クライド
続いては「ロストクリスマス」に登場するキャラクターについて教えてください。アニメ版の主人公である桜満 集(おうま しゅう)や恙神 涯(つつがみ がい)は,かたやヘタレ,かたや完璧超人というキャラクターでしたが,今回のスクルージはどういったタイプの主人公になるのでしょうか?
鋼屋氏:
集とも涯ともまったく違う,ノリとしては一匹狼タイプのキャラクターです。彼は素で人間を超える能力を持っているので,よりその印象に拍車がかかっている感じです。相方のキャロルくらいしか友達がいない,とも言えますが(笑)。
○桜満 集。テレビアニメ「ギルティクラウン」の主人公。いのりとの出会いをキッカケに,右腕にヴォイド(その人の本質)を形にして引き出す「王の能力」を宿す
○恙神 涯。葬儀社を率いるカリスマ的存在。「王の能力」を持った集を導き,革命の成功を目指す
4Gamer:
あまり社交的なタイプではないと……。
鋼屋氏:
そうですね。寡黙とまでは言いませんが,余計なことは話さない。いわゆる無愛想なタイプでしょうか。
4Gamer:
気になるのは“スクルージ”というコードネームですが,これはやはり「クリスマス・キャロル」の登場人物からとったのですか? 今では,守銭奴という意味でも使われる言葉だと思うのですが。
鋼屋氏:
直接的に性格を表しているというわけではありませんが,ところどころに比喩的な形で「クリスマス・キャロル」の設定が生かされています。「守銭奴」や「ケチ」という言葉は,主にキャロルがスクルージをからかうときに出てきます(笑)。
キャロルはなんだかウザかわいい感じになりそうですね(笑)。
鋼屋氏:
トリックスター的と言いますか。スクルージをからかったり,悪ふざけをするのが好きなキャラクターです。スクルージがムスッとしているので,話を明るく引っ張る役目を持っています。
4Gamer:
聞いた限りでは主人公もヒロインも,アニメとはかなり違ったキャラクター性を感じますが,やはり意識されてのことなんですか。
鋼屋氏:
はい。確かにアニメとの対比は意識しています。「ギルティクラウン」が主人公と周囲の人々がつながりながらヴォイドで戦う話なのに対して,「ロストクリスマス」は人間関係が閉じているんです。
4Gamer:
かなりシリアスな印象を受けますね。
鋼屋氏:
シリアスですよ。なんといっても,ロストクリスマスが起こってしまうという事実は決まっていますから。「スクルージが頑張ったから,ロストクリスマスを阻止できた。やったね!」ってやっちゃうと,アニメがなくなっちゃいますので(笑)。
悲劇は確実に起きてしまうけど,その中でスクルージ達がどう生きたか……という話なんです。
4Gamer:
アニメとのパラレルワールド的な展開があるわけではなく,ダイレクトにアニメへとつながっていくわけですね。つまり,マルチエンディングのような要素もないんですか。
鋼屋氏:
いえ,「その後ふたりがどうなったのか」という結末は,微妙に変わります。ただ,ロストクリスマスが起こらない……ということには絶対になりません。
4Gamer:
なるほど。あと公式サイトを見た感じでは,キャロルから複数のヴォイドが引き出せるという設定が気になるのですが……アニメを見た限りだと,ヴォイドは基本的にひとつしか引き出せないですよね?
鋼屋氏:
はい。キャロルはアニメの設定と矛盾した力を持っています。なぜ彼女から複数のヴォイドが引き出せるのか。これはまさに作品のキーポイントとなる謎です。
4Gamer:
ふと思ったんですがスクルージとキャロルの関係は,「デモンベイン」の主人公である大十字九郎とヒロインのアル・アジフをちょっと連想してしまいます。お互いに必要としあっている関係だとか……。
鋼屋氏:
男女のカップリングで「やらなきゃいかん!」という状況がなんとなく好きなんですよ(笑)。スクルージとキャロルでいうならば,「俺たちに明日はない」のイメージですね。
大十字九郎。アル・アジフとの出会いから,さまざまな怪異に遭遇することに。デモンベインのパイロット |
アル・アジフ。見た目こそ女の子だが,その正体は魔道書(ネクロノミコン)だ |
4Gamer:
ボニー&クライドですか! そうすると,アメリカン・ニューシネマ的な結末が思い浮かんでしまうんですが(笑)。
鋼屋氏:
そこは,ご想像にお任せします(笑)。もう少し詳しく説明すると,主人公が倫理観の置きどころに悩んでいたアニメ本編に対して,「ロストクリスマス」ではそれと対となるような,倫理観の薄い,殺人に対するハードルが低いヤツを主人公にしようという考えが最初からありました。それが男女ペアになったとき,ボニー&クライド的な雰囲気になるかなと思ったんです。
4Gamer:
なるほど……。
鋼屋氏:
イメージ的には古橋秀之さんの小説である「ブラッドジャケット」も近いですね。主人公と吸血鬼になりかけの少女が,積層都市の最下層で悪事を働きながらお金を貯めて脱走を企てる……というお話です。彼らはそれぞれ右手と左手を失っていて,「寄り添ってようやくひとり」という印象があるんです。スクルージとキャロルには,そういったイメージがあります。
4Gamer:
聞けば聞くほどに興味深いですね……。では,続いては主人公達を追ってくる「ゴースト」の3人についてお聞きしたいと思います。まず最初に,プレゼントはどういったキャラクターなのでしょうか?
鋼屋氏:
ダアトの刺客で,スクルージとキャロルを追う追跡者です。なぜかふたりに執着していて,ネチネチと絡みつくような性格ですね。「バットマン」で言うところのジョーカーみたいな存在です。「とにかくバットマンに嫌がらせをする! 俺はそれが一番楽しいんだ!」ってヤツで,プレゼントはそれに近いです(笑)。
4Gamer:
すごく分かりやすい例えです(笑)。では,次にパストですが,彼女はエンドレイヴ乗りでパイロット自身の姿は明かされていませんが,どのようなキャラクターなんですか。
鋼屋氏:
基本的に子供のような人物ですね。無邪気に「鬼ごっこー!」とか言いながら襲い掛かってくるような。なので,声も完全に子供の声です。プレゼントもそうなんですが,無邪気なのが一番残酷っていうタイプのキャラクターです。
4Gamer:
では,3番目のキャラクターであるイェット・トゥー・カムですね。彼女については何もかも伏せられていますが,シルエットになにか見覚えが……。
鋼屋氏:
えーと……。ぜ,ぜひお楽しみにしていただければと思います(笑)。
4Gamer:
ああ,ここは……あまりツッコまないほうがいいんですね(笑)。
鋼屋氏:
話せる部分だけを言いますと,イェット・トゥー・カムは「クリスマス・キャロル」でも最後に出てくるゴーストで,ダアト最後の刺客です。彼女に関してはキャラクター付けも微妙に「クリスマス・キャロル」のゴーストをイメージしています。
4Gamer:
そういえばアニメでは若干印象が薄かったエンドレイヴですが,鋼屋さんがシナリオを担当されるということでゲームでは活躍の場が増えていたりするんですか。
鋼屋氏:
パストがエンドレイヴ乗りなので,彼女の活躍に期待してください。スクルージはヴォイドを使うので生身でエンドレイヴも倒せますが,パストはそれに超人的な操縦能力で対抗します。
4Gamer:
パストが乗るエンドレイヴにも,いろいろな種類があるようですね。それで代わる代わる襲ってくるという感じに?
鋼屋氏:
ノリとしてはそんな感じです。ですが,「ロストクリスマス」の時代だとエンドレイヴはまだ正式に実用化されていません。そういった設定もあり,公式サイトで出しているエンドレイヴのひとつは作業用の匂いが強い重機タイプとなっています。
4Gamer:
初期のプロトタイプだから重機のような形をしているわけですか。
鋼屋氏:
いえ,元々エンドレイヴは重機として開発された物です。遠隔操作なのも,人間が入れない場所で作業させるため。それを基にして軍事利用されていったということです。そしてその裏では,パストの専用機体が建造されていたりということですね。
4Gamer:
エンドレイヴのデザインがアニメと一味違った雰囲気なのも,そういった理由なんですね。
鋼屋氏:
基本的なコンセプトとして,エンドレイヴは世代が進めば進むほど小型化していくんですよ。そこがProduction I.Gらしい設定で面白いところです。
4Gamer:
小型化されていくというのは,リアリティがありますね。
鋼屋氏:
ええ。SF的な設定なので,開発が進めばムダはどんどん省かれていきます。その結果,小型化・高性能化されていくのは当然です。だから「ギルティクラウン」では「ジュモウ」がいちばん大きくて,「ゴーチェ」や「シュタイナー」と開発が進むごとに機体が小さくなっています。パストの乗っているものは開発過渡期のものなので,ジュモウに較べてもかなり大きいわけです。
4Gamer:
時間による技術の推移まで,しっかりと整合性をとっているわけですね。
鋼屋氏:
あまり行き過ぎた技術が出てこないように気を付けています。と,言っておきながら「エデン・ベベ」という機体は,いろいろなものを無視したものだったりしますが。厳密には,エンドレイヴと呼んでいいのかどうか微妙な機体ですし(笑)。
4Gamer:
エンドレイヴの話もそうですが,ほかにも10年前という時間の制約から苦労された部分はありますか?
鋼屋氏:
アニメにもロストクリスマス事件の描写があるので,整合性を取るにあたっていくつか大変なものがありました。ゲームにもアニメのキャラクターが出てくるので,それぞれタイムスケジュールを調整するのが難しいんです。ゲーム中でスクルージ達と出会っていても不自然がないかとか,そういった部分ですね。
4Gamer:
ゲームに登場する集や涯は,どのように物語に絡んでくるのでしょうか。
鋼屋氏:
あまり詳しくは話せませんが,彼らの存在がスクルージの物語に大きな影響を及ぼすということはありません。実はある場所でニアミスしてましたよという感じです。アニメとのリンクはいろいろと仕込んでありますので,期待していてください。
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