インタビュー
鋼屋ジン氏の作家性……いや“オタク性”にも迫った「ギルティクラウン ロストクリスマス」のインタビューを掲載
呼び起こされる記憶……鋼屋氏のルーツとは
4Gamer:
「ロストクリスマス」についてひと通りお聞きしたところで,鋼屋さん自身のこともいろいろ教えてもらおうと思います。
は,はい。よろしくお願いします(笑)。
4Gamer:
まずは,鋼屋さんがシナリオライターとしてデビューすることになったきっかけから教えてください。
鋼屋氏:
その昔,インターネット上で二次創作のSS(ショートストーリー)を書いていたのですが,それを見た虚淵(※)が声を掛けてくれて,ニトロプラスに入社することになったんです。そういう意味では,趣味にしていたものが仕事になったという形になります。
※ニトロプラス 虚淵 玄氏(関連インタビュー)
4Gamer:
文章はいつごろから書いていたんですか。
鋼屋氏:
書き始めたのは割と最近で,大学生の頃からです。……とはいっても10年以上前ですから,最近というのはちょっとおかしいですね(笑)。
4Gamer:
もっと昔からだと思っていました。
鋼屋氏:
インターネットが普及して,個々人がホームページを持ったり,掲示板に書き込めるようになってから活動を始めた感じです。
4Gamer:
なるほど。2000年前後というのは,ちょうど二次創作をインターネットで公開することが流行り始めた時期のように記憶しています。
鋼屋氏:
まさにそれです。Leafさんのオフィシャルサイトにも一時期だけSS掲示板がありまして,そこに投稿したのが最初です。
4Gamer:
鋼屋さんが,いわゆるアニメやゲームといったコンテンツに興味を持ち始めたのはいつ頃からなのでしょう?
鋼屋氏:
要するにオタクになった時期ってことですか(笑)。
4Gamer:
えーと,そうです(笑)。
鋼屋氏:
難しいですね……。30代におけるオタクの基準ってなかなか難しくて,気が付いたら「どうやら我々はオタクと呼ばれる人種らしい」という感じになってましたから。
一同:(笑)
鋼屋氏:
私はいま35歳なんですが,流行していたコンテンツでの区分けも微妙に分かりづらい世代なんですよ。ガンダムでもなければエヴァでもない。じゃあ何で育ったのかというと……ジャンプとドラゴンクエストでした。
と言うと,あんまりオタクって感じじゃないかもしれませんが,ファミコンやジャンプにはこういうジャンルへの入口があって,普通の人は成長するにつれ卒業するところを,私は深く掘り下げちゃったんですよ。アニメ雑誌を買ってみたりだとか……。
4Gamer:
分かりやすい分岐点です(笑)。
鋼屋氏:
自分の場合はそれが「ニュータイプ」でした。それ以外にもパソコン雑誌を買ってしまったり,TRPGをやってしまったりして……気が付いたらオタクと呼ばれていましたと。
4Gamer:
なるほど。順調に道を突き進んできているんですね。
鋼屋氏:
そうですね。いろいろなコンテンツに触れて,順調にステップアップしました(笑)。
4Gamer:
TRPGの話が出ましたが,そちらはいつごろから始めたんですか?
鋼屋氏:
中学1年生の頃からやっていましたね。昔「マル勝ファミコン」という雑誌がありまして,その中に「ダブルムーン伝説」というテーブルトークRPGの企画があったんです。それで初めてTRPGという物の存在を知って,いろいろと調べた結果「ロードス島戦記」に辿り着いてどっぷりハマり,小説を買ったり,アニメを観たり……。ああ,ここはもう完全に分岐点ですね。OVAまで観るようになったらもうダメです(笑)。
4Gamer:
後戻りは不可能な段階ですね(笑)。
鋼屋氏:
「機動警察パトレイバー」とかも買ってましたよ……。ああ! 思い返せば思い返すほど,この時期です!!
4Gamer:
どんどん記憶が呼び起こされていきますね。
鋼屋氏:
時期的には,「ふしぎの海のナディア」もありましたね。当時は中学1年生で,このころから本来ならオタクのものとして秘匿されていたようなものがメディアに出始めて,目につきやすくなったように思えます。ナディアがNHKで放送されたのは,かなり大きかったですね。
4Gamer:
「ふしぎの海のナディア」といい「カードキャプターさくら」といい……NHKの罪は重いですね(笑)。
鋼屋氏:
重いですよ本当に(笑)。あとは「セーラームーン」とか,あの時代です。
4Gamer:
そんな素晴らしい時代に純粋培養された結果,いまの鋼屋さんができ上がったわけですね。
鋼屋氏:
まさにそんな感じです(笑)。
4Gamer:
TRPGをプレイしていたことが,いま現在の文章力につながっているように思えるんですが,どうでしょうか。
鋼屋氏:
ゲームマスターをやることが多かったので,それはあるかもしれません。自分から周囲に「やってみない?」と言った立場上,自分がゲームマスターをやるよと。オリジナルシナリオを作ったこともありますし,影響は無視できないです。
4Gamer:
鋼屋さん世代のクリエイターは,TRPG経験のある方が非常に多いですよね。やはり,TRPGには物語を創作する感性を培う,何かがあるのでしょうか。
鋼屋氏:
あると思いますよ。ライアーソフトさんも元々PBM(※プレイバイメール。メールで遊ぶ読者参加型ゲーム)から派生したゲーム屋さんですし。PBM版「蓬莱学園の冒険!」なんかが有名ですね。
4Gamer:
ちなみに,鋼屋さんが一番最初に作ったTRPGのシナリオって覚えてますか?
鋼屋氏:
おそらく「ロードス島戦記コンパニオン」か,そうでなければ「ソード・ワールド」ですね。あのふたつの勢力が,当時はハンパなかったですから。
多大な影響を受けたゲームや映画,そして宇宙的恐怖
4Gamer:
ではもうちょっと踏み込んでいこうと思うのですが,鋼屋さんはいわゆる「中二設定」をシナリオに生かすのがうまいライターだというイメージがあります。そのあたりのセンスは,どのようにして磨かれたのでしょうか?
オタク環境の中で磨かれていったんでしょう。先駆者的な意味で言えばTYPE-MOONの奈須きのこさんで,「月姫」の影響は大きいですね。
4Gamer:
そのあたりは世代を問わず絶大な人気がありますよね。
鋼屋氏:
ほかには……映画ですかね。例として挙げるならば「フロム・ダスク・ティル・ドーン」とか。アレは最高でした。本当に予備知識なしで観たので,1時間くらい経ってから愕然とした覚えが。
4Gamer:
まさかそのタイトルが出るとは……最高ですよね! 闇鍋みたいな映画で(笑)。
鋼屋氏:
ノワールでロードムービーだったはずなんですよ。それが後半になると突然……ホント,観ているときに「何があったんだ!?」ってなりましたから(笑)。
4Gamer:
未見なら,死ぬまでに絶対に観てほしい映画のひとつです。映画ではどのようなジャンルが好みなんですか?
鋼屋氏:
最近だとアメコミヒーローものですね。先日ちょうど「アメイジング スパイダーマン」を観てきたところです。あとは……今でも特撮は観てますし,「ダークナイト ライジング」もそろそろ公開ですよね!
4Gamer:
「ダークナイト ライジング」といえば,やはりジョーカー役のヒース・レジャーが亡くなられたのが本当に残念で……。
鋼屋氏:
そうですね,本当に残念でなりません……。あれは鬼気迫る演技でした。「コイツとは絶対関わり合いになりたくねぇ!」と思わせる雰囲気が本当に素晴らしかったです。
4Gamer:
そういった個性的な悪役でいうと,鋼屋さんの作品にも有名なのがいますよね。……ドクター・ウェストとか。
鋼屋氏:
いわゆるトリックスターですね(笑)。あのような役割のキャラクターが好きなんです。黒幕の目的には一切関わっていないのに,状況を引っ掻き回して変えてしまう。ドクター・ウェストの場合は,その明るいバージョンですね。敵なのに,状況を良いほうに転がしちゃいますから。
4Gamer:
そして気が付けば,そんな彼が絶大な人気を誇っているという事態に……。
鋼屋氏:
人気のあるキャラクターになってくれて良かったです。もちろん,声優さん(山崎たくみさん)の演技の部分がかなり大きいんですけど(笑)。
4Gamer:
「デモンベイン」がそうでしたが,鋼屋さんは「クトゥルフ神話」に関する造詣が深いですよね。宇宙的恐怖に触れるキッカケは何だったんですか?
鋼屋氏:
やはりTRPG「クトゥルフの呼び声」です。自分達の世代は,そのケースが多いんじゃないですか。この影響力はバカにできません。「クトゥルフの呼び声」から生まれた誤解がすっかり定着してしまっていることが,それを証明する最もたるものだと思います。
4Gamer:
誤解とは?
最近では変わっているかもしれませんが,「邪神レベルのモンスターを見ると,人間なんか一瞬で発狂する」という認識です。あれはあくまでルール上の裁定であって,正気度チェックに失敗するとD100を振らされて,場合によっては一撃で正気度が0になるというものです。
実際には,原作では邪神を見ても正気でいる人間がたくさんいるんですよ。そもそも,原作の「クトゥルフの呼び声」では,船長が船でクトゥルフに体当たりしてますし(笑)。
4Gamer:
それで退散しちゃいますからね(笑)。
鋼屋氏:
ルールとの混在から生じた誤解がいまだに残っている気がします。あと「外なる神」と「旧支配者」の区別とかも。
4Gamer:
ああ,それは確かに。
鋼屋氏:
旧支配者の凄いバージョンが外なる神って認識は,でっち上げだぞと(笑)。
4Gamer:
誤解が広がりまくって,もはや新しい「クトゥルフ神話」が生まれそうな感覚すらありますよね。
鋼屋氏:
クトゥルフ研究家に森瀬 繚という方がいるのですが,彼もよく言っているようにクトゥルフの神話体系ってちゃんとした設定があるわけでなく,あくまで作家同士の遊びから浮かび上がってきたものが,いまのクトゥルフの原型なんです。そう考えると,イメージがひとり歩きするというのは,実に「クトゥルフらしい」のかもしれません。
4Gamer:
興味深いですね……。ちなみに,そんな鋼屋さんが一番好きな「クトゥルフ神話」のエピソードは何でしょうか?
鋼屋氏:
「好き」という感覚とはちょっと違ってきますが……やはり印象深いのは「デモンベイン」のベースになっている「ダンウィッチの怪」です。あれはモンスターを倒すというパターンの作品では,ちゃんとラヴクラフトが書いたものですし。
4Gamer:
ラヴクラフト作品でモンスターを倒しに行くのは珍しいですよね。
鋼屋氏:
けっこうスタンダードな話なんですけど,しっかり追っ払ってますから。
4Gamer:
となると,やはり「タイタス・クロウ」的な,ヒロイックな物語のほうが好みなのでしょうか?
鋼屋氏:
そもそも「デモンベイン」をやろうと思ったきっかけは「タイタス・クロウ」ですから。これはまだ札幌に住んでいて「どんなネタをニトロに出そうか……」と考えていた時期の話なのですが,丸善に行ったらちょうど「タイタス・クロウの事件簿」が発売されていたんです。平積みで,そこに書いてあった煽り文句がすごくて(笑)。
4Gamer:
というと?
鋼屋氏:
「名探偵 VS. 邪神」って書いてあって(笑)。
一同:(笑)
鋼屋氏:
「こ,これは頭が悪そうだ……! でも,すごく面白そう!」というところが始まりだったんです。ですから,「タイタス・クロウ」は自分の中で非常に思い入れの深い作品です。
そのほかにもお約束ですが「インスマウスの影」とか,あと取っ掛かりとして「クトゥルフの呼び声」,それに「ドリームランド」系のエピソードも,ラヴクラフトの描くファンタジーということで印象深いです。
4Gamer:
どれも「クトゥルフ神話」の中では読みやすい作品ですよね。
鋼屋氏:
はい。あの辺りはクトゥルフ初心者にもオススメですね。
4Gamer:
最近ではニコニコ動画での「ゆっくり達のクトゥルフの呼び声」を発端としたTRPGリプレイ動画の増加や,「這いよれ!ニャル子さん」アニメ化の影響なのか,クトゥルフ関係がジワジワと盛り上がりを見せていますよね。なかなか珍しい事態だと思うのですが,いかがでしょうか?
鋼屋氏:
それは私も肌で感じておりました。ニコニコ動画で「ゆっくりクトゥルフ」関係が盛り上がり,そこへタイミング良くニャル子さんが(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー(※鋼屋氏のジェスチャー付き)して(笑)。
4Gamer:
「ゆっくりクトゥルフ」やニャル子さんがクトゥルフへの入口になるのはかなり特殊だと思うんですけどね(笑)。
でも,かなりの書籍が動いているようで,間違いなく影響はあると思いますよ。クトゥルフにはたびたびこういう事象が起こっているような気がします。なんだか分からないけどジワッっと来る瞬間が(笑)。
4Gamer:
面白い展開ですよね。クトゥルフのルールブックも,どんどん売れているらしいですし。
鋼屋氏:
あれ,もうちょっと読みやすくなってくれたら良いんですけど。ルールの参照が難しいんですよ。僕らは昔からやっているので運用の仕方は分かっているんですが……新規のプレイヤーにとっては,少し大変だと思います。
4Gamer:
まあ,古いと言えば古い書籍ですしね……。
鋼屋氏:
自分達の裁量でやらなきゃいけないことも多いので,その辺も少し戸惑うかもしれません。慣れている人にとっては,その感覚が逆に扱いやすいんですが。
- 関連タイトル:
ギルティクラウン ロストクリスマス
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