レビュー
ダンジョンRPGの面白さとは何か,を考えさせてくれるタイトル
東京新世録 オペレーションアビス
本来は1月に発売予定だったが,直前にパブリッシャであったサイバーフロントが解散した影響で延期となり,MAGES.がパブリッシャとなって無事に発売される運びとなった。これに胸を撫で下ろしたファンも多いことだろう。
リメイクの経緯は以前掲載されたインタビューに詳しいが,キャラクターデザインに「デモンゲイズ」のクロサワテツ氏を起用してビジュアル周りを一新するなど,新作をローンチするぐらいの気合の入れ方で開発されたという本作が,2014年の「新作」ダンジョンRPGとしてどうか,というのが気になるところ。発売から少々時間が経ってしまったが,本稿ではじっくりとプレイしたうえでのレビューをお届けしよう。
近未来の東京で迷宮・アビスの謎を解き明かせ
本作の舞台は近未来の東京。廃ビルや地下道といった都市空間の一部が「アビス」と呼ばれる異空間へと変容し,その周辺では原因不明の怪現象,「ハザード事件」が頻発している。
そんな中,「共立日輪学園」の生徒達が,帰り道にアビスへと誘拐され,「異形」と呼ばれる怪物に襲われる。窮地を救ったのは,ハザード事件解決のために設立された特務隊「エクス」の隊長,御舟アリスだった。アリスによって能力を見出された生徒達は,学園生活の傍ら,エクス隊の一員としてハザード事件の捜査に乗り出す……というのが本作のストーリーだ。
さて,ストーリーの概略を読んでなんとなく分かった人もいるかもしれないが,本作に特定の主人公という概念はない。敢えて言うならプレイヤーがメイキングすることになる最大24人のキャラクターすべてが主人公ということになるだろうか。そのうち,実際にパーティを組んで冒険に挑むのは前衛3人,後衛3人の最大6人となる。
キャラクターメイクでは,一般的なRPGの種族に相当する「タイプ」,職業に相当する「ブラッドコード」のほか,性別,容姿,年齢,ボイスなどを設定可能だ。タイプは,「スタンダード」「エレガント」「アスリート」「マッスル」「インテリ」「ファニー」「スピリチャル」「アンラッキー」の8種類,ブラッドコードは「戦術士」「魔術士」「聖術士」「学術士」「射術士」「武術士」「王騎士」「暗術士」「拳法士」「召術士」の10種類が用意されている。
いわゆる“鉄板編成”のプリセットも用意されているので,初心者や「一刻も早くダンジョンに潜りたい」という人はこれを使ってキャラメイクをスキップしてもいいだろう。
ブラッドコードの特徴は,習得する「スキル」や「スペル」の違いにある。スキルには,味方をかばう王騎士の「イージス」や,集団攻撃を繰り出せる武術士の「斬り込み」など,キャラクターの特徴を決定づけるものが多い。ブラッドコードは自由に変更(分かりやすく言えば転職)できるので,気になるものがあれば,とりあえず最初のスキルを覚え始めるレベル7あたりまで育ててから判断するのがいいだろう。
「迷宮クロスブラッド」などでは,「メインブラッド」と「サブブラッド」という2つの「ブラッド」に就けたが,本作でキャラクターが就けるブラッドコードは1つのみだ。
10種類のブラッドコードのうち,火力に乏しく打たれ弱いが,アイテムの鑑定や罠の解除など,探索に便利なスキルやスペルを覚えてくれる「学術士」はほぼ必須の存在。この学術士に,ヒーラー役の聖術士,タンク(盾役)となる王騎士あたりを加えるのが王道で,そうなると残った枠が3つしかない。もちろん“学・聖・王”を省いた編成でもプレイできるが,それは「縛りプレイ」的な難度になると思われる。それぞれの職業はどれも魅力的であるだけに,もう少しパーティ編成の自由度があってもよかったと感じられた。
キャラクタービジュアルについても,本作独自の仕様が用意されている。本作では,従来作と同様に髪型やアクセサリーなどのパーツを組み合わせて自由にアバターを作る「クラシック」に加えて,すでに用意されているポートレートの中から好みの容姿を選ぶ「ベーシック」という方式でのキャラクターメイキングも可能だ。沖史慈 宴氏の美麗なイラストをポートレートにできる「ベーシック」のほうが全体的な雰囲気にはマッチしているが,「クラシック」はカスタマイズの自由度が高いだけでなく,装備品がアバターに反映されるという魅力もあるので,どちらを選ぶかが悩ましい。
「ユニオンスキル」による爽快感のある戦闘
ではいよいよ,ゲーム本編の紹介へと入っていこう。冒頭で述べたとおり,本作はRPGのなかでも「3DダンジョンRPG」と呼べるサブジャンルに属する作品だ。古くは「ウィザードリィ」,最近では「世界樹の迷宮」シリーズなどを思い浮かべてもらえれば分かりやすいだろう。
本作の戦闘はオーソドックスな主観視点のターン制戦闘だが,特徴的なシステムとして「ユニオンスキル」というものがある。これはパーティメンバーが協力して繰り出す技のことで,「ユニオンゲージ」を消費して発動する。敵全体・味方全体に効果を及ぼす強力なものが多いだけでなく,技によってはメンバーそれぞれの行動とは別に使えるというのがポイントで,戦闘のテンポを損なわないのが嬉しい。また,使えば使うほどパーティの「結束値」が高まってステータスにボーナスが入り,ユニオンゲージの最大量も増加して,新しいスキルを覚えられるというメリットもある。しかもユニオンゲージの回復は早いので,積極的に使っていきたいところだ。
戦闘の大まかな傾向は「一度の戦闘に多数の敵が出現するが,“固い”敵はそれほど多くない」というもので,大勢の敵を蹴散らす爽快感を味わえるが,状態異常で前線が維持できなくなったときなどは,あっさりとやられてしまう。全体としての難度は決して厳しいものではないが,中盤以降は攻撃以上に防御が重要になり,緊張感のある戦闘を楽しめるだろう。
さらに,「ライズ&ドロップ」という新システムも戦闘の緊張感を高めるのに一役買っている。これは,戦闘を繰り返すほど,より強い敵とエンカウントしやすくなり,逆に戦闘を回避すると敵の強さがリセットされるというもの。もちろん高レベルの敵からはより多くの経験値やより良いアイテムを入手できるので,リスクとリターンを慎重に判断しながら戦闘に挑む必要がある。
本作では,キャラクターのステータスやレベル以上に,装備の良し悪しが重要な要素となっている。本作のアイテム周りのシステムはちょっと凝っていて,拠点の「開発ラボ」でアイテムの性能を「強化」したり,属性や異常状態を「付与」したりと,自分好みに武器や防具をカスタマイズ可能だ。また,ダンジョン内で手に入れた「ジャンク装備」をもとに,新たな武器を「開発」することもできる。
さらにダンジョン内では,宝箱などからのドロップでしか手に入らない「ユニーク装備」や,限界以上に性能が強化された装備が入手できるなど,トレジャーハンティング要素もバッチリだ。
「奥に進めばOK」ではないダンジョン探索
ここまで本作を紹介したところで,やや唐突ではあるが,「ダンジョンRPGの面白さはどこにあるか」ということを考えてみたい。まず浮かぶのは「ハック&スラッシュ」(以下,ハクスラ)だろうか。敵を倒し,アイテムと経験値を得てキャラクターを強化し,さらに強い敵と戦う……というのがハクスラの醍醐味だ。これまでに紹介してきた本作のシステムもまた,シンプルかつ遊びやすい良質なハクスラとして良くまとまっている。
だが,レベル上げとアイテム集めだけがダンジョンRPGの面白さのすべてだろうか。少なくとも本作にはハクスラとは別の面白さもあると感じている。それは「ダンジョンの作りの複雑さ」と,「ダンジョンと拠点を往復するゲーム性」から来る「ダンジョンを探検しているという感覚」だ。以下,それぞれを順に説明しよう。
本作をプレイして筆者が一番驚かされたのは,ダンジョンそれ自体の手強さである。お馴染みの3Dダンジョンだが,トラップや隠し扉,動く床といった各種ギミックが待ち構えているのはもちろん,通路と部屋とが,あるいはフロアとフロアとが複雑に絡み合っている。目的地を示してくれる親切なマーカーなどは存在せず,それゆえに足を使ってダンジョンをくまなく探索する必要があるのだが,探索も「奥に進めばOK」というものではなく,「下に進むためにあえて上のフロアに戻ってみる」とか,「マップの未踏破の領域を眺めて,そこにあるかもしれない隠し通路の構造を推測する」といったように,頭を使う必要があるのだ。最近のぬるいゲームに慣れてしまい,この辺りのやり方を完全に忘れていた筆者は,最初に挑んだ「森本ビル」で見事にハマり,開かない扉を前にして3時間ほど右往左往することになった。
そんなダンジョン探索をさらに複雑なものにしているのが「エクスメモ」の存在だ。これはマップ上にメモを書き残したり,そのメモをネットワークを介してほかのプレイヤーと共有できたりする機能で,攻略のヒントを得たり,ストーリーの感想をゆるくシェアしたりできる。「それならダンジョン探索が簡単になるのでは」と思うかもしれないが,メモには決められた単語しか書けないので,言いたいことをダイレクトに伝えるのは難しく,他人の書いたメモも“解釈”する必要がある。また,トラップの前に「安全」と書かれているなど,イタズラ目的の嘘を書いたメモも散見される。「どのメモを信じればいいんだ」と疑心暗鬼になってしまうのだ。
ダンジョン自体がなかなか油断ならないのに加えて,本作では終盤になるまで瀕死のメンバーを復帰させたり,MPを回復させたりといった手段が乏しいうえ,基本的にダンジョン内でのセーブができない(特定のアイテムを使えば可能)ため,一度でクリアするということは難しい。
また,必要な経験値が溜まっていても,拠点で「休息」するまではレベルは上がらない仕様となっているし,前述したようにダンジョンで手に入れたジャンク装備を使っての武器開発も学園の開発ラボでしかできないため,ときには“戦略的撤退”も必要になる。もちろん,一度拠点に戻れば次の探索はまたダンジョンの入口からになるので,それによるデメリットを考慮しながら判断することになるだろう。
こうやって,ダンジョンへ挑み,いろいろと思案しながら進んで,後ろ髪ひかれつつ戻る……ということを繰り返しているうちに,ダンジョンの存在感がいやがうえにも増し,「探索している」というリアルな感覚が生まれてくるのだ。
こういったゲームの作りは割と昔からあるものだし,「なんだか面倒臭さそうだな」と感じる人もいるだろう。実際,筆者が本作をプレイしたときの第一印象もそうであった。だが,「自分はレベル上げとアイテム集めをしているのではなく,ダンジョンを探検しているのだ」と気づいた時,同時に,このような感覚を覚えさせてくれるタイトルが今どれだけあるだろうかという思いも湧き上がってきたのだ。
近年の大作RPGは,オープンワールドの広大な世界をウリにしているものが多いが,ことダンジョンについては,探索要素を排除したシンプルな動線設計のものが少なくない。また,ハクスラの有名タイトルでも,拠点とダンジョンの往復を始めとする戦闘以外の要素を極力簡素化し,「目の前のモンスターをぶちのめす」ことに特化している傾向があると思う。もっと言えば,ブラウザゲームやスマホ向けゲームでは,ダンジョン内の移動が自動化されたものが流行中だ。
本作では,こういった「面倒だから」という理由で,近年の作品ではオミットされてきた要素――ダンジョンの探索や,拠点との往復――がゲーム性のコアとして位置づけられたうえで,うまくハクスラ要素と調和し,独特のプレイ感を生み出している。古参のゲーマーが昔を思い出しながらプレイするのもいいが,この手の作品を知らない人にぜひ触れてほしい。思うように探索が進まず,イライラすることもあるかもしれないが,本当の冒険とはそういうものであるはずだし,それを乗り越えて成果を得たときの喜びはより大きくなるはずだ。
「東京新世録 オペレーションアビス」公式サイト
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東京新世録 オペレーションアビス
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キーワード
(C)2014 EXPERIENCE (C)2014 MAGES. / 5pb.
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