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「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」制作発表会見をレポート。ステイホーム中のプレイが,斬新な企画につながった
「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」は,スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー」シリーズ35周年を記念した公演だ。“歌舞伎”と“ファイナルファンタジーX”(以下,FFX)という誰もが予想し得なかったコラボレーションで,その内容には大きな注目が集まっている。
制作発表会見の会場には企画・演出とティーダ役を務める尾上菊之助さんをはじめとして,中村獅童さん,尾上松也さん,坂東彦三郎さん,中村梅枝さん,中村米吉さん,中村橋之助さんといった役者陣が勢揃い。そこに「FFX」プロデューサーの北瀬佳範氏も加わり,本公演が始まるまでの経緯や,意気込みなどを語ってくれた。
「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」公式サイト
異界送りは日本舞踊,ブリッツボールは殺陣! 尾上菊之助さんが公演の見所を語る
前後編それぞれの上演時間は明かされていないが,両方をもって物語が完結する仕組みになっているようで,合計して約8時間(終了時間は明確ではない)におよぶ長編の新作歌舞伎となる。
公演の会場となるIHIステージアラウンド東京は,観客席が中央にあり,その周囲にステージが配置されている。さらに観客席自体が可動するギミックや,高さ8メートルにおよぶ巨大スクリーンを備える,近代的な設備が満載のエンタメ施設だ。今回の新作歌舞伎は,そうしたステージの特性を最大限に活用し,原作の音楽や映像も合わせて使用され,より没入感ある体験を楽しめるという。
基本情報に続いて,公演では原作の楽曲をそのまま用いるのではなく,和楽器アレンジしたものになることが明らかにされた。アレンジを担当するのは,2019年12月に公演された新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」で作曲・編曲を担当した新内多賀太夫氏。原作の魅力を再現しつつ,新作歌舞伎ならではの世界観を表現したものになるとのことで,アレンジにも期待できそうだ。
また,IHIステージアラウンド東京の劇場ロビーや劇場周辺に展開を予定している“ファンタジーエリア”についても発表された。エリア内にはロビー内併設のカフェやキッチンカーの展開,および公演限定メニューの提供が行われる。こちらの詳細は,後日に公式サイトで発表される予定なので,気になる人はそちらにも注目しておこう。
長時間の観劇となるため,会場のシートには高弾性ウレタンフォームクッションが設置され,豊洲のホテル「ラビスタ東京ベイ」では観劇チケット付き日帰りプラン,ホテル「JALシティ東京 豊洲」ではグッズ付き宿泊プランが用意されるなど,いわゆる“遠征勢”向けの施策もバッチリ。観劇だけでなく,公演全体を1つのイベントとして設計しているようだ。
続いては,各出演者による意気込みや,企画,出演に至るまでの経緯などが語られた。本作の主演(ティーダ役)の尾上菊之助さんによると,新作歌舞伎FFXの企画を立ち上げたのは,コロナ禍真っ只中の2020年3月だったという。
企画に関するエピソードを語るにあたり,菊之助さんは「ステイホーム期間中,文化を盛り上げていたのは間違いなくゲームだった」とコメントした。本人も10年以上ゲームから離れていたものの,ステイホーム期間中は新たにゲーム機を購入し,家族で楽しんでいたそうだ。
そこで,菊之助さんはかつて遊んだ経験のある「FFX」を再プレイし,もともと持っていた新作歌舞伎へのモチベーションも相まって,今回の企画につながったのだという。そこから仲間と共に企画書を作成し,ビデオレターとして提出する形になったとのこと。
ビデオレター形式の企画書を,菊之助さんから直接受け取ったというプロデューサーの北瀬氏は「ゲーム業界でも初のオファーでした」と驚きを隠せない様子で,当時を振り返った。しかし,同時に「ちゃんとゲームをプレイして,テーマやキャラクターを理解されたうえで話されているのが分かりました」「FFというIPを預けるにも,不安のない方だ」とも語っており,本企画が衝動的なものではなく,しっかりと練り込まれた内容であったことがうかがえる。
原作の見どころについて聞かれた菊之助さんは「ブリッツボール」「異界送り」「マカラーニャの森」の3点をピックアップ。これらは新作歌舞伎にもしっかりと組み込まれ,それぞれに合った形で歌舞伎に落とし込んでいるという。
激しく選手がぶつかり合うブリッツボールは“殺陣”,美しくもどこか恐怖を感じさせる異界送りは“日本舞踊”をベースとした演出が用意され,マカラーニャの森は360度スクリーンを活用した映像と音楽を組み合わせた大きな見所になるとのこと。
これらは,原作ではいずれも“水”の存在が印象的なシーンだったが,歌舞伎では水を使わない形でこれらのシーンを表現することになるという。詳細については語られなかったが,観劇の際には注目してみたい。
ストーリーの面では,「ティーダとジェクト」「ユウナとブラスカ」「シーモアとジスカル」という“3組の親子”も注目ポイントになるそうだ。とくにシーモアとジスカルの関係は,原作では回想の中だけで描かれるに留まっていたが,新作歌舞伎では「シーモアがなぜ闇に落ちてしまったのかが,ハッキリと描写される」とのことで,独自のストーリー解釈にも期待できそうだ。
また,今回の台本は“平易な言葉”を使う台本になっているとのことで,歌舞伎の初心者でも1度見れば物語がすんなり理解できるように作られているとのこと。同時に,演技の面では歌舞伎上級者もうならせるような演出が盛り込まれ,あらゆる層が楽しめる舞台になっているという。
以上で,今回の制作発表会見は終了となった。ファイナルファンタジーと歌舞伎という予想外の組み合わせを聞いた瞬間には,驚きと同時に「なぜ?」という疑問が浮かんだものだが,その疑問が解消されたような思いだ。
会見でFFXの思い出と,これから始まる舞台について語る菊之助さんの姿は,歌舞伎役者としてだけでなく,熱意あふれるゲームファンのそれに近いものがあった。こちらもいちファンとして,歌舞伎として生まれ変わったFFXに期待したい。
「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」公式サイト
「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」出演者 | |
---|---|
尾上菊之助さん | ティーダ |
中村獅童さん | アーロン |
尾上松也さん | シーモア |
坂東彦三郎さん | キマリ |
中村梅枝さん | ルール― |
中村萬太郎さん | ルッツ,23代目オオアカ屋 |
中村米吉さん | ユウナ |
中村橋之助さん | ワッカ |
上村吉太朗さん | リュック |
中村芝のぶさん | ユウナレスカ |
中村錦之助さん | ブラスカ |
坂東彌十郎さん | ジェクト |
中村歌六さん | シド |
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