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[GDC 2021]「Hades」はギリシャ神話に息吹をどう吹き込んだのか? Supergiant Games初のフル音声作品のキャスティング秘話
そんな「Hades」について,GDC 2021ではSupergiant Gamesのオーディオディレクター,ダレン・コーブ(Darren Korb)氏と,クリエイティブ・ディレクターのグレッグ・カサヴィン(Greg Kasavin)氏が「Breathing Life into Greek Myth: The Dialogue of 'Hades'」(ギリシャ神話に息を吹き込む: Hadesの音声セリフについて)というタイトルでのセッションを行ったので紹介しよう。
2009年に設立されたSupergiant Gamesにとって,「Hades」は「Bastion」(2011年),「Transistor」(2014年),そして「Pyre」(2017年)に次ぐ4作目である。ダンジョンクロウラーというジャンルに挑戦したのも初めてであれば,アーリーアクセス版のリリースを開発当初から企画していたのも初めて。さらに,ギリシャ神話を「IP」(知的財産)と呼んで良いのかは別として,その世界設定を既存のものから借りるのも初めてのことだった。そして何より,主要キャラクター全員に音声を用意するのも初めてだったという「Pyre」開発時の12人から,20人の開発チームに成長していたとはいえ,オーディオディレクターであるコーブ氏にとっては大きなチャレンジであった。
フリーランスの役者でありながら,ボイス提供者としてSupergiant Gamesのチームメンバーにローガン・カニンガム(Logan Cunningham)氏が起用されたのは,その経歴も影響している。
カニンガム氏は,コーブ氏と同社設立者であるアミア・ラウ(Amir Rau)氏と高校時代からの親友という間柄だったのだ。しかも,コーブ氏とカニンガム氏は,同じ演劇部に所属しており,ゲームのオーディオデザイナーと役者という異なる道に進んだとはいえ,今もお互いに助け合うことになったのだから,実に微笑ましい。
「慣れない声優との交渉とデモ収録は骨の折れる作業だった」と言うコーブ氏だが,カサヴィン氏も「ギリシャ神話だからといってギリシャ語にすることはないと皆で合意したものの,ギリシャ風アクセントにするのが良いのか,イギリス風のアクセントのほうがそれっぽいのか,そもそもギリシャの神々はどんな言葉を話していたのか」と考えだしたらきりがなかった語っていた。
実際,「Pyre」では何語とも判別つかないボイスをキャラクターたちが発していたように,「Hades」まではキャラクターのセリフを作り上げていくという経験はそれほどなかったという。カニンガム氏以外のボイスタレントとの交渉もほとんど行ったことはなかったのに,主人公を含めて30人というキャスティングを行わなければならなかったのだ。
とくに主人公のザグレウスの声優を決めるのは難航したという。ハデスという冥界の王の子でありながら,「反抗的だけと丁寧な一面もある」,「ギラついているが優しい」,「たくましい肉体を持つが内面的には弱い」という二面性が設定された,複雑で繊細な役回りであり,そのキャラクターについての深い理解を必要とする。
そのイメージとしては,「デビルメイクライ」のダンテや「アベンジャーズ」のロキのような雰囲気だったそうだが,声優を何人試しても思うような声が見つからないので,カサヴィン氏はコーブ氏に指示して,当初の開発に必要な部分をコーブ氏が話すセリフで代用した。
結局,コーブ氏の迫真の演技が,ザグレウス役として正式採用されることになったのだ。高校時代に演劇部だった経験があるとはいえ,開発者自らが主役級のキャラクターのボイスを担当するというのは,最近ではあまり聞かない話だ。カサヴィン氏は,「Time to go get killed again」(また殺されに行く時間だな)とイギリス風のアクセントで話す収録されたコーブ氏の声を聞いたとき,「これしかない」と感じたそうだ。当然,チームの全員も同意した。
ハデス役となったカニンガム氏は,ナレーターやアキレスなど6役の担当として大活躍。そして「いくら雰囲気を変えてもローガン(カニンガム)でもできない」ことが判明した,他の23キャラクターの役については,声優業界とのコネがあまりなかったこともあって,人材確保にはかなり苦労したという。最終的に,ゼウスやスケリーなど4役をピーター・カナヴェッシ(Peter Canavese)さんに担当してもらうことになった。
実はカナヴェッシさんは,コーブ氏とカニンガム氏が在籍していた演劇部の講師である。その氏名からイタリア系と思われるが,コーブ氏は「(イタリア系アメリカ人俳優の)ジョー・ペシのような声でお願いします」とカナヴェッシさんに頼み込んだという。また,カサヴィン氏も,「スケリーはギリシャ神話に根差したキャラクターですが」と前置きのジョークを飛ばしたうえで,「スケリーはギリシャ神話をどこまで自分たちの世界観に染め上げることができるかというテスト的なキャラクターだった」と語っていた。
友人のツテでボイスが決まったキャラクターはほかにもいる。フューリー役の声優アヴァロン・ペンローズ(Avalon Penrose)さんは,アフロディーテとデューサ役を掛け持ちしたコートニー・ヴィネイス(Courtney Vineys)さんの大親友という縁でプロジェクトに参加。しかも,そもそもヴィネイスさんは,Supergiant Gamesでスタジオマネージャーとして働いていたマイケル・アルシャイ(Michael Ailshie)さんの結婚相手という間柄だ。そしてアルシャイさんは俳優未経験ながらも「Hades」ではオルフェウス役を務めている。とにかく知り合いを辿るという,もっとも分かりやすい方法が取られたようだ。
最終的には,「Hades」には2万2000種にも及ぶセリフが用意され,ナレ―ティブとしても非常にコンテンツ量の多い作品に仕上がったが,大ヒットして高い評価も得た作品ではあるが,収録した期間が長過ぎたためにマイクも異なる種類のものを使うなどし,音質も一貫していないとコーブ氏は反省していた。こういう場当たり的な開発プロセスも,ヒット作を連発してもインディ魂を失わないSupergiant Gamesらしさなのかもしれない。
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(C)Supergiant Games, LLC 2020-2021. All rights reserved.
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