キュー・ゲームスは
「トゥモロー チルドレン フェニックス エディション」(以下,「フェニックス エディション」)を2022年9月7日に発売する。プラットフォームは
PlayStation 4と
PlayStation 5で,価格は4000円(税込)。
前作「
トゥモロー チルドレン」はキュー・ゲームスが開発し,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がサービスを行う,PS4向けの基本無料のオンラインゲームだった。
2016年9月から1年2か月にわたってサービスが行われ,ファンから惜しまれつつ終了した作品だが,2021年になんとキュー・ゲームスがSIEと本作の権利譲渡契約を締結。
「フェニックス エディション」として仕様の一部を変更し,買い切りのタイトルとして復活する運びとなったのだ。
筆者は前作のαテストの頃から,独自の世界観やグラフィックス表現,ゆるいオンライン要素と黙々と続けられる労働の手触りが好きで,サービス終了のその日までゲームを楽しんでいたほどのファンなので,第一報を目にしたときは飛び上がった。
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4Gamerでは今回,京都にあるキュー・ゲームスに足を運び,本作のディレクターである
ディラン・カスバート氏と,アシスタントディレクター
高橋明人氏の解説のもと,現在開発中の本作を体験してきたので,そのプレイレポートをお届けしよう。
キュー・ゲームスにて,ディラン・カスバート氏(左)と高橋明人氏(右)
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かつてのプレイフィールはそのままに
より遊びやすくゲームシステムを改良
「トゥモロー チルドレン」の舞台は,科学実験の失敗により文明が崩壊した世界。プレイヤーは人形のような姿の生命体「プロジェクションクローン」となり,人間の肉体と意識が溶けた
「ボイド」と呼ばれる物質から人間を救い出して,文明の復興を目指すことになる。
まさかの復活を遂げ,再びあの“労働の日々”がやって来る
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基本的なゲームの流れは,最初にわずかな施設が置かれた「町」を拠点に,その周囲に定期的に現れる「島」と呼ばれる陸地へと渡り,そこで採取した「資材」を持ち帰って町を少しずつ大きくしていくというもの。島では人間の魂が封じ込まれた
「マトリョーシカ」を見つけることもでき,それを人間として復活させ,文明を復興していくのだ。
冷戦時代の社会主義国家を思わせる世界観で,プレイヤーの一連の行動は
「労働」と呼ばれ,オンラインで集まったほかの同志(本作ではプレイヤーのことをそう呼ぶ)と共に労働を行いながら,町の復興を目指していくのが大きな特徴だ。
ある程度,町を発展させたあとは,資材を使って自分の好きなように町を作ったり,ひたすら資材集めに没頭したり,同志と共同作業をしたりと,比較的自由に遊べるようになる。
プレイヤーが降り立つ町。最初は最低限の施設しか存在しない
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真っ白な地表はすべてボイドで,町など特定の場所以外は固まっておらず,歩くとずぶずぶと沈んでしまう
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今回は,製品版とほぼ同じ内容のPS5版をゲーム開始から1時間ほどソロでプレイし,次に開発陣が復興中の町に合流して1時間半ほど遊ぶことができたのだが,基本的なプレイフィールは以前とほとんど変わらなかったことを,まずはお知らせしておきたい。真っ白いボイドの上を軽快に走り回り,鼻歌を歌いながらコツコツと資材を発掘していくプロジェクションクローンの動きには懐かしさも感じられたほどだ。
「フェニックス エディション」はPS5のゲームブーストモードに対応しており,PS5では60FPSで動くのが心地いい
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労働の感触は変わらないが,採掘した資材が飛び出てくるなど,演出にもちょっとした改良が加えられている
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以前から大きく変わったのは,オンライン周りの仕様だ。オリジナルの「トゥモロー チルドレン」はオンラインプレイが基本だったが,今回は専用のサーバーを介さず,P2P(Peer-to-Peer)方式でネットワークプレイを行う仕組みとなったため,復興する町はプレイヤー各自が保有することになる。
これは「Minecraft」や「あつまれ どうぶつの森」に近いイメージで,町の持ち主がホストとなって,自分の町に来てもらったり,誰かの町に行って一緒に作業したりが可能だが,ホストがゲームをプレイしていないときは,その町に入れなくなる。常にどこかの町が存在していた以前とは,ちょっと違った感覚になるかもしれない。
オンラインになっている町はリストに表示され,駅から自由に行き来ができる。現状,オンライン状態のままカギをかけるような機能はないそうだ
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ちなみに,町の持ち主がプレイしていないときはゲーム内の時間が止まっており,その間に町が崩壊してしまうことはないそうだが,長時間プレイしなかったときは,ゲームに直接影響がない程度の変化が起こるらしい。このあたりは実際にゲームを遊んでからのお楽しみだ。
施設や建造物などを,どこに建てるかは自由。自分だけの町が作られていく
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また,以前はオンラインプレイのみだったのに対し,「フェニックス エディション」ではオフラインでのプレイも可能となった。これまでの感覚では,1人で町を復興するのはかなり大変そうに思えるが,後述する
「同志AI」の存在やバランス調整により,1人でも十分遊べるようになっている。P2P方式への変更によって,オンラインプレイで1つの町に入れる同志の数が10人程度となったことに加え(以前は20人以上入れた),町作りの楽しさを優先しているため,全体の難易度は抑えめになっているそうだ。
町の復興はこれまで同様,一定数の人間を復活させたときに完了となるが,その後も新たな目標が設定され,復興させた町でそのまま労働を続けることが可能となった。以前は復興が完了した町は消滅してしまったので,苦労して作り上げた町を残せるようになったのは嬉しいところだ。
島で見つけたマトリョーシカを「人形変換器」に置くと人間が復活し,町の住人となる。「フェニックス エディション」では,住人の種類も増えている
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こうした仕様変更を受けて,ゲームの冒頭では簡単なチュートリアルに沿って町の復興手順を学べるようになっており,街頭テレビやメニューからもヒントを参照できるので,初心者でも迷うことなく楽しめるだろう。
序盤の町での労働もチュートリアルとなっている
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頼りになる「同志AI」の存在が
プレイヤーをサポートする
もう1つ大きな新要素として挙げられるのが,前述した
「同志AI」の登場だ。これはAIによって自動で行動する同志に,特定の労働をお任せでやってもらうというものだ。ゲームの序盤で2体の同志AIが自動的に参加するほか,町の施設
「警察署」から呼び出すこともできる。町の復興には,島に資源を取りに行くことのほかに町の維持も重要で,以前はそれをオンラインの同志達が担っていた。
同志AIはこれをサポートする存在であり,例えば発電機を使った発電や,町に植えた木々からの食料の収穫,
「イズベルグ」と呼ばれる敵の襲撃に対する防衛などを任せることができる。これのおかげで,プレイヤーはそれ以外の労働に集中でき,町の復興の手助けにもなるというわけだ。
同志AIはオンラインプレイ時でも呼ぶことができるので,うまく使えば復興の効率を上げることもできる。発電や採掘した資源の運搬など,重要だがちょっと単調だった労働を任せられるのはありがたい。
同志AIを呼んで,その行動を指定できる警察署。オフライン時はオンライン時よりも多くの同志AIを呼ぶことができる
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資源やマトリョーシカが眠る島についても触れておきたい。町の周囲に定期的に現れては消えていく島は,前衛芸術のような奇妙な形をしており,定期運行しているバスなどに乗って移動し,そこで採掘した資源やマトリョーシカをバスに乗せて運ぶことが定石となる。「フェニックス エディション」ではリリースの段階で40以上の島が用意されるので,最初のうちは景色を眺めるだけでも楽しくなるはずだ。
また今回の島には
「モノリス」という物質が存在し,プレイヤーがこれに触れることで島が新たな姿を見せてくれる。モノリスの中には,複数の同志が触れないと反応しないものもあるそうだ。
島のどこかにあるモノリス。これに触れると,島の様子が変わる。隠されているマトリョーシカの数なども増えるようだ
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島の種類が大幅に増え,モノリスによる環境変化も加わったことで,「フェニックス エディション」では探索のモチベーションがグッと上がった印象だ。島によっては足場が少ないところもあり,さらに足元のボイドは固まっておらず,歩くと沈んでしまうようになったので,「ランマー」や「ハシゴ」,「ボイドパワー」など足場を作るツールの価値もさらに高まっている。試遊では島に置かれた宝箱などからボイドパワーを多数入手でき,積極的に使って地形を変えることで大幅に行動がしやすくなった。
目の前に特殊な地形を作り出すボイドパワー。地形が一気に現れるので使用時は注意が必要
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これらの島は一定時間が経過すると消えてしまうのだが,消えるまでの時間は以前よりもかなり長くなったように感じられた。その一方で,隠されたマトリョーシカをすべて発見すると,その島はすぐに消えて新たな島が出現する仕様となり,全体的に島での労働がしやすくなったと言える。
島では残りのマトリョーシカの数が表示される。すべて見つけて持ち出せば,島は消える
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隠されたマトリョーシカは近づくと声が聞こえるので,それを頼りに探していく
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同志の存在感を少しだけ強め
オンラインプレイの楽しさもアップ
前作「トゥモロー チルドレン」はオンラインゲームでありながら,同じ町や島にいる同志の姿はお互いが何かしらの行動をしているときにしか見えないという独自の演出があった。多少の意思の疎通は必要なものの,密なつながりはあまり必要ない“ゆるさ”が魅力の1つでもあったのだ。
「フェニックス エディション」でもその仕様は変わらないが,同志の姿が見える時間は少し長めに調整しているとのこと。また,町に家を建てると,ほかの同志にプレゼントを贈れるようになるなど,簡単なコミュニケーション要素も追加されている。
何か行動をすると,相手に姿が見えるようになる。「フェニックス エディション」では,この時間が少し長くなっているそうだ
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住居に入って同志にアイテムを贈るといった,簡単なコミュニケーションも可能に
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気になるのは,町の破壊活動や,意図的に「悪いね」をして誰かを陥れるなど,復興を妨げる反社会的行為を行う同志への対策だ。そうした行為を重ねると,投獄などのペナルティの時間がその都度長くなり,さらにホストがその同志を名指しで入場制限することも可能とのこと。このような不届き者が時折,現れるのも本作の面白さの1つなので,町のホストにその対策を委ねられるのは,いい仕様変更だと言える。
意図した破壊行為などを行うと一定時間,体が青くなり,罠や警察官に近づくと拘束され,防衛タワーからの電撃を食らう
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問題がある同志に対して「悪いね」をすると,反社会的行為として報告できる。むやみに報告できないよう,回数が制限された
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ほかにも,高所にワイヤーで飛び移る
「フックガン」や,島などの地形を変形させて足場を作る
「ストレッチガン」など,新たなツールが登場。ツールの使用回数も増加しているなど,数え切れないぐらいの改良が加えられており,より遊びやすくなっている。
PlayStation.Blogでは,本稿で紹介している要素も含め,以下のような改良点が公開されている。
●改善されたチュートリアルで,模範的な市民になる方法を学ぼう
●新デザインを含む40以上の島を発見しよう
●すべての島に新たな要素が追加
●モノリスを使って島を変形させ,島に隠された秘密を探そう
●オフラインのシングルプレイでも,同志AIがあなたをサポート
●オフライン・オンラインどちらでも,同志AIが町の運営をサポート
●修理や,資源集め,町の防衛など,同志AIの行動に優先順位を設定可能
●それぞれのプレイヤーが自分自身の町を1つ所有できる
●パーティコードでフレンドを自分の町に招待しよう
●フックガンで自由自在に島を移動可能
●新しい村人が多数登場
●エネルギー補給所でホバーカーを充電可能
●新しいライティングとカラー設定が追加
●新しいボイドパワーが登場
●新しいコスチュームやバッグをアンロックして,他の同志と差をつけよう
●バス停にVoidKaの自動販売機を設置,冒険前に能力アップ
●バッグの中の資源を表示するメニューを追加
●新しくトロフィーを追加し,プラチナトロフィーに対応
●他の同志が視認できる機会が増え,より簡単にコラボレーションが可能
●タッチパッドを上にスワイプすることで,クイックに「いいね」を送れる
●他の同志の個人住居にプレゼントを届けよう
●他の同志のテントも復活地点として利用可能
●マトリョーシカが鳴き声で居場所を教えてくれる
●冒険や町の運営に役立つヒントを多数追加
●ゲーム全体のバランスを大幅に見直し,すべてのツールの使用回数をアップ
●町は永続して発展でき,人口の増加で報酬が得られる
●それぞれの島につけられたテーマに沿った名称
●同志の個人住居に新しいデザインを追加
ワイヤーアクションで高所に登れるフックガン。これを使って壁などにぶら下がると,足元に簡易的な足場ができる
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地形を変形させるストレッチガン。こちらも使い方を考えるのが楽しそうだ
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巨大なイズベルグ「バンクローツ」は,町を破壊する厄介な存在。倒した残骸からは資材やマトリョーシカのほか,貢献度を表す「貢献印」などが手に入るようになった
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島のバス停には自動販売機を常設。ドリンクを買って飲むと,一時的に特別な力を得られる
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今回の取材では,本作とそのファンに対する,キュー・ゲームスの強い愛情を感じることができた。カスバート氏は,「作り込んで発表したゲームがサービス終了でプレイできなくなることは,開発者としても本当に悔しかった」と語り,SNSなどに当時の思い出を綴っているファンの声が,本作を復活させたいという開発陣の気持ちを後押ししたと続ける。そして不死鳥のように復活するという意味を込めて,「フェニックス エディション」というサブタイトルを付けたそうだ。
取材に訪れた我々を迎えるために,「4GAMER」のロゴを用意して待ってくれていた開発陣に感謝の気持ちを伝えたい
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またカスバート氏は,「フェニックス エディション」ではユーザーコミュニティの声を積極的に取り入れており,今後も反映させていきたいと述べている。キュー・ゲームスの公式Discordでは,ユーザーからの質問などに開発者が直接答えてくれるので,何か気になることがある人は積極的に参加してみよう。
さらに,8月に開催されるBitSummitには,発売直前の本作がプレイアブル出展される予定なので,興味を持った人はぜひ会場に足を運んで触ってみてほしい。
一度はサービスが終了したオンラインゲームが,開発会社がパブリッシャとなって買い切りタイトルとして復活するというのは非常に珍しく,筆者もいちファンとして,再び本作が楽しめるようになったことを,とても嬉しく感じている。
さまざまな仕様変更やバランス調整が施され,より多くの人が遊びやすいゲームに生まれ変わっているので,「トゥモロー チルドレン」のファンはもちろん,これまで遊んだことがなかったという人も,ぜひ同志となって共に町の復興に励んでほしい。