インタビュー
[インタビュー]なぜ今「マリーのアトリエ」リメイクなのか。シリーズの原点を25周年で再び世に贈る理由とは
本作は,1997年に発売されたPlayStation用ソフト「マリーのアトリエ 〜ザールブルグの錬金術士〜」のリメイク版だ。シリーズの原点となるタイトルのリメイクが決まった経緯や,現在のプレイ環境に合わせてどのような調整を行っているかなどを,「アトリエ」シリーズプロデューサーの細井順三氏と,本作ディレクターの勝又祐樹氏に聞いた。
今の「アトリエ」ファンを尊重しつつ,往年のファンも楽しめるリメイクを目指す
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今回,「マリーのアトリエ」のリメイク版が発表されましたが,タイミング的に「アトリエ」シリーズ25周年記念タイトルの1つですよね。シリーズ第1作のリメイクですから,20周年でないなら,30周年のキリのいいタイミングでお祝い的にやるのだろうと思い込んでいたので,少し驚きました。
細井順三氏(以下,細井氏):
このタイミングでリメイクすることになったのは,2019年にリリースした「ライザのアトリエ」から始まる「秘密」シリーズ以降,「アトリエ」シリーズの状況が大きく変わったからです。「ライザのアトリエ」がシリーズ史上最高の売上をワールドワイドで達成した結果,ファンの皆さんから「原点に触れてみたい」というお声をいただくようになりました。とくに「マリーのアトリエ」に関しては,海外ではその存在すら知らなかったという方もたくさんいらっしゃって。
4Gamer:
「マリーのアトリエ」は,海外では販売自体なかったですからね。
細井氏:
そこで,今後のシリーズの広がりを見せられるようなナンバリング最新作の「ライザのアトリエ3」,ファンの皆さんのリクエストに応える形で作った「ソフィーのアトリエ2」と並ぶ形で,原点となる「マリーのアトリエ」のリメイク版を25周年記念タイトルとして皆さんにお届けしようと。そうすることで,「アトリエ」シリーズの変遷も感じていただけるのではないかと考えました。
4Gamer:
そうは言っても,「マリーのアトリエ」は過去に何度か移植されていますよね。たとえばスマートフォン版「マリーのアトリエ Plus」は今でも配信されていますし。
細井氏:
オリジナル版の「マリーのアトリエ」は,今の時代に遊ぶと,さすがに体験として古い部分もあると思っています。お客様が触ったときの快適性は,どうしても“当時のゲーム”なので。それを今「原点を遊んでみたい」という新しい「アトリエ」ファンの皆さんにお届けするなら,現行プラットフォームに向けてきちんとリメイクするのが,ふさわしい形なのかなと。
4Gamer:
なるほど。
オリジナル版の「マリーのアトリエ」を今遊ぶと,時代性だけでなく,単純にジャンルの違いでも驚かれそうですね。近年の「アトリエ」シリーズとは毛色が違うというか,シミュレーション色が濃いじゃないですか。
細井氏:
そうですね。私自身は,「アトリエ」シリーズを4期に分けて捉えています。もともと「マリーのアトリエ」から始まる初期のタイトルは,“調合”を題材にしたシミュレーション重視でした。それが「イリスのアトリエ」のときに,RPGに転向したんです。これはセールス的な話や当時のトレンドを踏まえたもので,「マナケミア」シリーズまで続きました。
4Gamer:
「ザールブルグ」シリーズと「グラムナート」シリーズが第1期,「イリス」シリーズと「マナケミア」シリーズが第2期というわけですね。
細井氏:
そして次の「ロロナのアトリエ」では,当時のディレクターが,「もう1回,“アトリエ体験”というものを見直したい」とおっしゃって,それで「アーランド」シリーズは,「イリスのアトリエ」以降に培ってきたRPGラインを入れつつ,錬金術体験を重視したものになったんです。これが第3期ですね。
4Gamer:
「アーランド」シリーズは,それまでのハイブリッドな作りになっていると。岸田メルさんのイラストの魅力もあって,個人的には,ここが「アトリエ」シリーズの分岐点的な印象が強いです。
細井氏:
「アーシャのアトリエ」から始まる「黄昏」シリーズは,再度RPG色を強めました。作り方も考え方も,RPGのそれで,この流れは今も続いています。 簡単に変遷を振り返ってみましたが,どんどんRPG要素を取り入れているんですよね。ですから当然,原点となる「マリーのアトリエ」は,この中で最もシミュレーション色が濃い作品です。
4Gamer:
タイムマネジメントの要素が強いですし,RPG的な「世界を救う」ゲームではないことも強く打ち出していましたからね。
細井氏:
でも,そのままシミュレーションRPGやシミュレーションゲームとしてリリースしてもヒットしそうにないため,当時のプロデューサーが「“新感覚RPG”で行こう」と決めたと,新人に度々おっしゃっていたのを覚えています(笑)。
4Gamer:
あのジャンル名はそういう理由だったんですか(笑)。
そういった「マリーのアトリエ」を,今の時代に合わせてリメイクするにあたり,どういった方針を打ち出したのでしょうか。
細井氏:
まず,今の「アトリエ」シリーズのファンの皆さんを尊重したリメイクをしようと考えました。ファンの皆さんが触ったときに「全然面白くない」と言われてしまうようなものは,絶対作りたくありませんから。
そのための方法として,その時点で発売済みのタイトルとしては最新作となる,「ソフィーのアトリエ2」の利便性や受け入れられた部分を取り入れる形にしました。ディレクターも「ソフィーのアトリエ2」と同じ勝又が担当しています。オリジナル版の「マリーのアトリエ」よりも,ある程度RPGに寄せているんです。たとえばフィールドを自由に歩けるようになりましたし,戦闘バランスも全部作り直しています。
4Gamer:
となると,プレイ感もずいぶん変わりそうですね。
細井氏:
それ以外の部分に関しては,比較的オリジナル版を踏襲しています。新しい要素もオリジナル版の設計に溶け込むようにしているので,結果としてオリジナル版を楽しんでいた方も,初めて触る方も長くプレイできる仕上がりになっていると思います。
リメイク版で一番大きなポイントは,時間制限の扱いです。
4Gamer:
時間制限は,最近の「アトリエ」シリーズでは見なくなりましたよね。
細井氏:
はい。オリジナル版がタイムマネジメントのゲームだったので,長く継承されてきたのですが,「不思議」シリーズ以降はオミットしています。RPGで時間に追われる体験が,大きなストレスになる方がいらっしゃることを,我々も重く受け止めているんです。
一方で,初期の「アトリエ」シリーズが好きな方は,タイムマネジメントをまた体験したいというのも分かっています。そのため,リメイク版では通常通り5年間という期限の中でプレイする形を残しつつ,時間制限のない「無期限モード」も用意しました。
4Gamer:
時間制限のない「マリーのアトリエ」ですか。かなりノビノビとしたプレイができそうですね。
細井氏:
世界観や錬金術をゆっくり楽しめるようになります。
もう1つ注力したポイントは,プレイヤーをリードする機能を追加することです。「今,何をした方がいいよ」といったアドバイスを提示するなど,ゲーム進行に関しては意識して丁寧に作っています。
4Gamer:
オリジナル版の出た当時のゲームは,基本的に不親切ですからね。リメイク版は,今のプレイヤーがストレスなく遊べる方向に力を入れているという認識で合っていますか?
細井氏:
はい,その通りです。体験自体を変えてしまいたいわけではありません。
たとえば採取であれば,リメイク版ではフィールドを実際に歩いて行うので,取るものをある程度選べます。
4Gamer:
オリジナル版は,何が取れるのかランダムだったんでしたっけ。
細井氏:
そうです。なので,時間の無駄なく採取できるという点で簡単になっているのですが,オリジナル版に近い体験をしたい方に向けて,ランダム性のある「簡易採取」も用意しました。もちろん,ゲーム的なメリットがあるわけではないので,「何に使うの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが,ここは体験を大事にしたいと考え,割り切って実装しています。
シミュレーションだからこそのビジュアル
4Gamer:
ビジュアル面についても教えてください。リメイク版では3Dのミニキャラを採用していますよね。近年の「アトリエ」シリーズは,キャラクターの可愛らしさを前面に打ち出していると思うのですが,ビジュアルはどのような方針で作っていったのでしょうか。
細井氏:
リメイクするにあたって,あのクォータービューのような画面を再現することが最重要だと考えました。あの当時の雰囲気を感じられる部分は,あえて残すべきかなと。イラストも一新していますが,オリジナル版が持っていた雰囲気は残せていると思っています。
4Gamer:
今風なのに,懐かしい感じが出ていると思います。でも,今のイラストっぽい3Dグラフィックスで描かれるマリーも見てみたかった気はしますね。
細井氏:
もちろん,その気持ちも分かりますし,頭身を高く描くのもアリじゃないかという議論もしました。ただ,その方向に進むと,今の「アトリエ」シリーズらしいRPGにするしかなくなってしまうんですよ。クォータービューで定点カメラだからこそ,シミュレーションっぽく見えると言うか,ファジーさが許される部分もあると言うか。
4Gamer:
なるほど。確かに今の等身のキャラクターで,シミュレーションらしいちまちました作業を描くと,合わなくなるかもしれません。
細井氏:
それと,純然たるRPGとは遊び方も違いますから。30〜40時間でエンディングを迎えて「いい体験だったね」と終わるゲームではなく,10時間程度で1つのエンディングに向かうことを繰り返す,言わば周回プレイのゲームです。あまり今の「アトリエ」のグラフィックスに寄せてしまうと,違う印象になってしまうかなと思って,そうした面でもクォータービューのデフォルメキャラクターを採用し,差別化を図っています。
4Gamer:
近年のRPGとしての「アトリエ」シリーズから入った層から,どういった反響があるか楽しみですね。
細井氏:
我々としては,「マリーのアトリエ」には,今の時代に遊んでも面白い,普遍的な楽しさがあると思っています。だからこそのリメイクですし,もし高い評価をいただけるなら,「アトリエ」シリーズとしていろいろな道がまた増えると考えているぐらいです。
難度はオリジナル版より少し簡単に
当時の感覚を求める人はハード以上を推奨
4Gamer:
すでにいくつか話に出てきましたが,リメイク版で追加された新要素をあらためて教えてもらえますか。
勝又祐樹氏(以下,勝又氏):
やはり一番大きいのは,細井も言っていたとおり5年間の期限なしでプレイをお楽しみいただける無期限モードです。また,ゲームの進行を教えるチュートリアルが追加され,分かりやすくなっています。
4Gamer:
アドバイスを提示する機能も追加されているという話でしたが,これはチュートリアルとは別の補助機能ですか?
勝又氏:
はい。中間目標として,ゲーム内で「これを達成してみましょう」といった旨の指示が出て,これを達成すると,所持金が少し増えるなどのメリットがあります。こちらは達成しなくとも,ゲームオーバーになることはありません。
4Gamer:
5年後の目標とは別の,短期的な目標というわけですね。
勝又氏:
ほかにも「フォトモード」や,周回プレイ終了後,その内容に応じたものが手に入る「称号」,発生したイベントを振り返る「EXTRA」モードの新機能など,細かな新要素がいろいろ追加されています。
4Gamer:
シナリオ周りはどうでしょう。新しいエンディングが追加されたりとか。
勝又氏:
新エンディングはないですが,キャラクターごとに交流イベントを追加しています。
4Gamer:
リメイクで作り直したという,戦闘バランスについても教えてください。
勝又氏:
オリジナル版の戦闘は結構シビアでしたが,これを大きく見直し,ノーマル難度なら通常の戦闘はそこまで難しくないようにしています。その一方で,ボスはオリジナル版より強めです。
4Gamer:
通常戦闘でキャラクターを育成したり,アイテムを集めたりして,最終的にボスに挑むというRPG的な導線をよりハッキリさせた感じでしょうか。
勝又氏:
そうですね。また大ボスを倒したかどうかが称号の条件になっていますし,新たにやりこみ要素として隠しボスも追加していますので,挑戦のしがいはあるかと思います。
4Gamer:
オリジナル版と同程度の歯応えを求めるなら,難度はどのくらいに設定すればいいのでしょうか。
勝又氏:
ハードです。かつ細井が言及していた簡易採取を使うと,だいたいオリジナル版と同じ体験ができます。
ノーマルを選ぶ場合,全体的にオリジナル版から2割くらい難度を落としています。ただ戦闘と採取が簡単になったぶん,調合にかかる時間を調整しているので,トータルでかかる日数はあまり変わっていません。敵と一生懸命戦おうとすると,時間的に少し厳しめになるかもしれませんね。
スマートフォンなど多様なメディアにチャレンジしたい
4Gamer:
3月24日リリースの「ライザのアトリエ3」で「秘密」シリーズの区切りが付き,原点となる「マリーのアトリエ」のリメイク版がこうして発表され,「アトリエ」シリーズにとって25周年は大きな年になったかと思います。お話できる範囲で構いませんので,この先の展開についても教えていただけないでしょうか。
細井氏:
そうですね。まずはもちろん次の30周年を目指して,みなさんに楽しんでいただける作品を作り続けていきたいです。
このシリーズはコンシューマ向けで始まって,近年はPCにも広がっていきました。多くのユーザーの皆さんに「アトリエ」シリーズを楽しんでいただけるように,多様なメディアで継続的に取り組んでいきたいなと思っています。コンシューマ向けはもちろんですが,漫画であったり,スマホであったり。
ただ,「アトリエ」シリーズのスマホゲームとしては,「アトリエクエストボード」や「アトリエ オンライン 〜ブレセイルの錬金術士〜」でチャレンジしましたが,正直なところ立ち上げきれなかったという思いがあります。「ライザのアトリエ」以降,非常に多くの皆さんに触れていただき,原点である「マリーのアトリエ」にも触っていただける機会を設けられたので,もう一度チャレンジしたいう気持ちがあります。
4Gamer:
近年の「アトリエ」シリーズは,キャラクター表現も大きく進化していますから,新しくスマホで展開するとなると,どのようなものになるのか楽しみです。
それでは最後に,「アトリエ」シリーズのファンに向けたメッセージをお願いします。
勝又氏:
今回,「マリーのアトリエ」をリメイクすることになり,オリジナル版を大切にして開発を進めました。最近「アトリエ」シリーズを知り,原点にも触れてみたいという皆さんに向けては遊びやすさを,オリジナル版のファンの皆さんに向けては当時の体験を,それぞれ楽しんでいただけるよう注力しましたので,ぜひお手にとってくださると幸いです。
細井氏:
「アトリエ」シリーズ25周年の最後のタイトルとして,原点である「マリーのアトリエ」をリメイクします。最近のシリーズでファンになった皆さんにとっては非常に新鮮な体験になるでしょうし,長く応援してくださった皆さんにとっては,すごく懐かしく思っていただけるような仕上がりになったと思っています。
また,まだアトリエシリーズ遊んだことないよ! という方にも,楽しんでいただける作りになっていますので,ぜひお手に取ってみてください!
25周年という大きな節目を迎えられたのも,ひとえに多くの皆さんから応援していただいた結果です。新旧問わず,多くのシリーズファンの皆さんに楽しんでいただければと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
「マリーのアトリエ Remake 〜ザールブルグの錬金術士〜」公式サイト
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