イベント
「あら,雪山で演奏会があるのですって」暗号解読力と演技力が試される周遊型イマーシブサスペンス「密行喩送(みっこうゆそう)」レポ
本作は,高額報酬が簡単に手に入るという“運搬バイト”に応募したことで,思わぬ事態へ巻き込まれていく物語を“自分自身の行動”として体験できる,没入型イベントだ。
参加者は池袋PARCO内を巡り,暗号の手がかりを探したり,キャストとの対話から情報を集め,“お仕事”を遂行していく。しかし,どんな選択をするかによっては,思いも寄らないルートへ足を踏み入れてしまう可能性も……?
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ちなみに,「密行喩送」では暗号を用いて会話することがお仕事達成へのカギとなっている。暗号は,いわば隠語や業界用語のような,直接的な表現を避けるためのものだ(例えば警察用語で「ウカンムリ」が窃盗を意味するようなもの)。
暗号だらけの公式サイトの動画はコチラ。
また本イベントは,最大3人まで一緒に参加できるということで,今回は編集部のさがさんと共に2人で挑戦してみた。
なお,具体的な解き方や,役名,エンディングに関するネタバレは避けているが,まっさらな状態で体験したい人はディレクターへのプチインタビューへジャンプ。と,その前に,とても楽しかったので行って損なし,歩きやすい靴での参加がオススメということだけお伝えしたい。
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えっ,もう始まってるの!?
不意に幕を開けるサスペンス
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「場所,ここで合ってますかね? 看板はあるけど……」
編集部のさがさんと合流して周遊型イマーシブサスペンス「密行喩送(みっこうゆそう)」の受付を探すが,案内板はないし,「こちらでーす」と呼び込む人もおらず,集合場所を間違えたのかと少し不安になってくる。
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プチプチに包まれた「密行喩送」看板の裏手には,キャラクターグッズのポップアップストアがある。「義務ちゃん? また個性的なキャラが流行ってるんだな……関係はなさそう」と思った矢先,ショップカウンターを覆っていたカーテンが開いた。
中からスタッフさんが「取材ですか?」と声をかけてくれて安堵したと同時に,「ここだったんだ,受付」という驚きと,このイベントへの期待の高まりを感じた。
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そして取材手続きのあと,「2人とも,名前どうする〜? ホラ,ニックネームでもいいんだけどさぁ」と,スタッフさんの口調と空気が「バイト先の先輩」に変わったとき,「このイベントはきっとおもしろい」と期待が確信に変わった。
イベントの題材が“大っぴらには言えないヤバそうな運搬バイト”ということで,その窓口も一見ソレとは分からないポップアップストアに仕立てているが面白い。さらに,受付からもうバイト(イマーシブ体験)は始まっており,現実と虚構の世界が入り混じる感じにワクワクしてくる。
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先輩にコードネームとなる名前を伝えると,「STAFF」と書かれたIDカードとホルダー,手帳とペンを渡された。
この手帳は見聞きしたことを自由に書き込んでいいとのことで,なんだか探偵手帳のようでうれしい。
さて,“お仕事”の詳細は別のスタッフさんから聞いてね〜,ということでバックヤードへ。
招き入れてくれたスタッフさんは,受付のパイセンよりも偉い人だと直観的に分かる佇まいで,例えるならエリアマネージャーさんの風格。通称エリマネさんは説明の合間に,我々の意志や力量をはかるような質問を投げかけてくる。
この感じには覚えがあるぞ……,スタンディング面接だ!(※バックヤードが狭いため,店長も応募者も立ったまま面接する,小さなお店あるある)
エリマネさんと我々2人が入ればちょっと窮屈に感じるスペース,置かれたゴミ箱,ゴミ出し表など雑多な感じが妙にリアルで,「ちゃんとしたバイトの面接ではない」感も出ていた。
エリマネさんは,説明の途中にもかかってきた電話に対応するなど,忙しそうだ。どうやらトラブルがあったらしい。聞けば,顧客に届けるはずの荷物がある組織に奪われてしまったので,その対応を我々2人に頼みたいとのこと。組織に近づき,荷物の行方を探るには,面が割れていない新人が適任なのだとか。
報酬の希望額も聞かれたが,虚勢を張って「ナメられない額っていくらなんだろう?」と返答に詰まっていると,さがさんが「100万で」と平然と答えたので,それに乗っかることにした。流石さがさん,「龍が如く」シリーズをこよなく愛しているだけあって,肝が据わっているぜ……。
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そして,エリマネさんは「業務委託注意事項」の同意書を差し出して,内容の確認とサインを求めてきた。
コードネームをサインした横には拇印を押す欄が! エリマネさんにスタンプ台を渡され,なりゆきでギュッ,と押してしまったが,ぼ,拇印て! 恥ずかしながら,かつて原付のテールランプが切れていたことに気づかず,整備不良ということで交通切符に拇印を押した経験があり,それゆえに「えらいことになった」「指紋をニギられたらもう逃げられないのでは」と焦りと緊張が胃からせり上がってくるようだった。
また,エリマネさんの質問といい,拇印といい,自分がこれから何者になるのか,役割を認識させるような演出が積み重なることで,次第に物語の一部になっていくような,不思議な感覚にもなった。
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バックヤードをあとにし,フロアで次に会うべき相手を探す。エリマネさんから聞いた特徴に合致する人物は……いた!
合言葉で話しかけ,こちらが例のバイトであると伝えると,その人物はこれからの具体的な段取りを教えてくれた。それにしても,この人……,周囲に溶け込んでいるし,意外と気安い口調だけれど,タダものではない,裏社会を見てきた人という印象も受けた。
仮に監視者さんと呼ぶが,我々への助言として気になることを言っていた。「この会社を裏切らないほうがいいよ」と。
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暗号探しは時間との勝負
次なるミッションは,敵対組織が使っている暗号(隠語)を知る構成員に接触すること。構成員は複数のフロアをまたいで移動しているらしく,話しかけるタイミングも重要になってくるようだ。
監視者さんの情報を頼りに構成員を探すが,似た服装の人,いやすれ違う人々すべてが怪しく思えてくる。それでも不思議と「アイツに違いない!」とピンとくるもので,その対象を尾行することに。
姿を見失わないように,でも近づきすぎないように……,これまでゲームの中でしかやったことのない尾行をしていることに,ちょっと感動してしまった。さがさんも「これ,『ジャッジアイズ』(JUDGE EYES:死神の遺言)でやったやつ!(小声)」と静かに盛り上がっていた。
舎弟気質で憎めないキャラの構成員から暗号の解き方を教わってからは,池袋PARCOの各階で手がかり探しに乗り出す。構成員がくれた地図に記された場所へ行けば,暗号があるらしい。
ここからは,我々バイトだけで調査を進めることになるが,指定の時間までに敵対組織の幹部のところへ向かわなければならない。幹部との会話では,暗号を理解していないと怪しまれるということで,すべての暗号を知りたいところだが……。
地図の階数を勘違いしたり,謎解き自体に苦戦したりして,時間がどんどん過ぎていく。
途中,ある人物から話しかけられたときも,適当に会話を切ればまだ時間に余裕があったのかもしれない。ある人物の話は興味深く,もしそれが本当なら自分たちバイトはとんでもないことに足を突っ込んでいるのかも……?
けれど,この人物が嘘をついている可能性もある。さがさんと相談したいが,この場で迂闊にバイトのことは話せないので「聞かれたことについては何も知らない」と,どこか他人事のように振る舞うも,その人物は食い下がる。
そこへ,さがさんがスッパリと自分たちは関係ないと笑顔で答える。横で聞いていて「ええー!? いけしゃあしゃあと言い切りよった!」と相棒ながら驚いていた。その人物にも「そんなに真っ直ぐな瞳で言うのなら,信じます」と言わしめたほど,さがさんの表情に曇りはなかった。
そんなやりとりを経て,結局1つの暗号が分からないまま幹部のもとへ。幹部は池袋PARCOのカフェで我々を待っているという。
キョロキョロしながら奥へ進むと,明らかに異質なオーラを放っている人が視界に入る。幹部だ……。
ここから先は重大なネタバレになるため,ご自身の目で確かめてほしい。
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義務ちゃんのポップアップストアに戻り,成果の納品を済ませると,パイセンから「おつかれ〜」と茶封筒を渡された。中には,エリマネさんが提示してくれた額の小切手が入っている。この小切手をよく見ると,秘密の合言葉が書かれていた。
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合言葉を本イベントのLINEアカウントに送信すると,後日談が送られてきた。……自分の行動による結果だから納得はできるけど,文章で突き付けられると,何とも言えない気持ちになってくる。
聞くところによると,エンディングは複数あるとのことで「もし,あそこで別の選択をしていたら?」と,異なる展開に思いを馳せずにはいられない。
それでも,さがさんと「あの暗号なんだったんだろう? 悔しいね〜」「こんなやり方もできたかも?」と感想戦をくり広げるのが楽しかった。
それに,さがさんがあんな演技力&胆力を持っていたとは。相手や,自分自身も知らなかった一面が引き出されるというのもイマーシブ体験の醍醐味なのかもしれない。
全体を振り返ってみても,尾行から謎解き,幹部との対決など,いろいろなシチュエーションを経験したことが,楽しい出来事として体に刻み込まれている気がする。
周遊型イマーシブサスペンスの仕掛け人に聞く
バイトを終えて、今回のイベントを手掛けた Sallyのディレクター兼デザイナーMoRi氏にお話を聞くことができた。
4Gamer:
ポップアップストアからイマーシブ体験が仕込まれているとは思いもよりませんでした。商業施設ならではの演出ですね。
MoRi氏:
今回の企画より以前に,「盗薬次楽」という周遊型サスペンスを実施しました。このときは,パルコの中にできた本物さながらの治験センターが舞台でした。この企画が好評をいただき,第2弾として入口をポップアップストアにしたら面白いんじゃないかとパルコとSallyで考えていました。
購入後に分かる特別な合言葉を言うことで,バイトの面接に来たと暗に伝える,「HUNTER×HUNTER」のハンター試験みたいなイメージですね。それに,キャラクターを作ってみたいという思いもあって,この義務ちゃんのグッズを作りました。
4Gamer:
どうして“義務”という名前にしたのですか。
MoRi氏:
この子のビジュアルができたときに,「ギムッ」という感じだなと思いまして。それで漢字を当てはめたら義務になってしまったと。こちらは3Dプリンターで出力した義務ちゃんフィギュアなんですけど,ご覧いただければ……。
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4Gamer:
ああ,押し固めたような「ギムッ」とした感じ,ありますね。
MoRi氏:
そうなんです。そして義務感がなさそうな見た目なのに,「義務だよ」が口癖です(笑)。「○○するのは義務だよ」とか,言い始めるんです。この子の友だちとして,感謝の意味で謝意ちゃんという子もいます。
4Gamer:
イベントのためのオリジナルキャラクターで,本編には大きく絡んでこないのに設定が細かい! グッズもいろいろ種類がありますね。ポップアップストアでは実際に買えるのですか。
MoRi氏:
はい,どなたでも購入できます。ポップアップストアはバイトの窓口ですけれど,お店としての機能もちゃんと備わっていますから。
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4Gamer:
もしかすると,イマーシブイベントとは知らずにグッズをお迎えする人もいらっしゃるかもしれませんね。
MoRi氏:
ええ,そして「義務ちゃん」をネットで調べてみても,正体がよく分からないという……(笑)。ストアの前を通りがかる人は「この子はなんだろう?」と視線を向けられているので,興味を持っていただけているとは思います。
本当はぬいぐるみもご用意したかったのですが……。シリーズ化できたら,ぬいぐるみも実現できるかもしれません。
4Gamer:
義務ぬいを連れてイマーシブイベント体験をしてみたいですね。今後の展開としては,どのようなイベントを予定されていますか。
MoRi氏:
新たな周遊型イマーシブ企画が展開できるように準備を進めております。
4Gamer:
また挑戦してみたいものです。周遊型イマーシブイベントはチケットが取りやすいというか,気軽に参加しやすいのも魅力ですね。
MoRi氏:
ええ。10分に1組を送り出していますし,キャストも日によって替わりますので,何度も楽しんでいただけると思います。
4Gamer:
キャストさんの演技を間近で見られることや,その演技によってPARCOがテーマパークになったかのように,一瞬で空気が変わる体験は本当に楽しかったです。
MoRi氏:
おっしゃるとおり,「日常なんだけど,いつもと違う景色に見える」ということを狙って企画・制作しています。また,こうしたイマーシブ体験の業界も盛り上がってきていると思いますので,これからも開催情報をぜひチェックしていただけるとうれしいです。
――2025年11月14日収録
周遊型イマーシブサスペンス「密行喩送」は,池袋PARCOにて開催中だ。公演チケットは公式サイトから申し込もう。
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