業界動向
韓国コンソールゲーム市場は,いまだ発展の途中。SIEと任天堂が人気を二分
韓国は,世界で見ると「コンソールゲーム不毛の地」の一つと言われているが,その分潜在力が大きいという評価もされている。韓国のコンソールゲーム市場は,PCやモバイルゲーム市場と同様に非常に魅力的な市場なのだが,その詳細をちょっと見てみよう。
1兆ウォン(約1100億円)規模に成長した韓国のコンソールゲーム市場
韓国のコンソールゲーム市場は,実は40年近い歴史を持つ。DAEWOO電子(大宇電子)が1985年にMSXをベースに製作・発売したゲーム機「Zemmix」※がヒットし,そこで本格的な韓国コンソールゲーム市場が開花,その後は韓国の大企業が,日本のゲーム機を積極的に輸入するようになった。
※日本でよく見かけたMSXマシンとは違ってキーボードなどは付いておらず,ゲームパッドでプレイするROMカセットゲーム専用機として作られていた。MSX規格には参入していたが,製品そのものは非ライセンス品だった模様
1990年代になると,サムスン電子がセガと,現代電子が任天堂と手を組んで,複数のコンソールゲーム機が国内に投入された。当時発売されたゲーム機は,マスターシステム,メガドライブ,ファミコン,スーパーファミコンなどで,高価のため販売数はさほどではなかった。
1998年のアジア通貨危機以降,両社が事業から撤退し,コンソールゲーム市場はいったんサスペンドされた。2000年代に入って,PlayStationとXbox,ゲームキューブ,Wii,Nintendo DSなど様々なコンソール機が正式発売され,さまざまなゲームも登場した。
しかし,依然として違法コピー問題が続き,発売本数が減少し,コンソールゲーム市場は成長を続けることができなかった。また,2010年代初頭には“ゲーム中毒”の議論とともに,「ゲームシャットダウン制」※が施行されるなど,ゲームは規制を受ける時期になった。
※午前0時から午前6時までの深夜時間帯において,16歳未満の青少年に対してインターネットゲームを提供禁止とする制度。2011年から施行され,2022年の「青少年保護法」の改訂で事実上廃止となった
青少年のインターネット環境の課題への対応(韓国内閣府)
当時,市場規模は1千億ウォン(約110億円)程度に過ぎず,市場シェアはわずか1%,成長率はマイナスを記録したこともあった。世界のコンソールゲーム市場の規模が右肩上がりに上昇を続けていたことに比べれば,正反対の動きを見せていたのだ。
しかし,2013年末にPlayStation 4が正式発売された後,2014年からは成長が本格的に始まった。毎年30%上の成長率を記録し,市場規模はどんどん大きくなった。2020年には,市場規模が初めて1兆ウォン(約1100億円)を突破し,韓国のゲーム市場全体での割合が6.4%まで増加した。
しかし,その後は劇的な成長が見られない。市場規模は,2022年には1兆ウォン台前半まで落ち込んだが,今年と来年で少しずつ成長するだろうと韓国コンテンツ振興院は予想している。
SIEと任天堂は興行,MSは低迷
3大コンソールプラットフォーマーであるソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)と任天堂,マイクロソフト(以下,MS)の,現在の韓国での実績はどうだろうか。
・SIE
まずPS5は,韓国も1次発売国に含まれ,2020年11月に発売された。しかし日本などと同様,供給不足による品切れ現象を起こし,発売の翌年まで円滑な販売が行われなかったという経緯がある。業界では,国内販売量が少なくとも30万台を超えたと推定している。
むろんSIEは,PS5発売後に韓国市場のために多くの努力を重ねてきた。様々な放送でPPL(商品広告)も行うなど,SIE組織のグローバル化に伴い,マーケティング戦略もそれぞれの国に合わせて行われるようになったからだ。
その中でも「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」に主人公クレイトスが使う斧,「Horizon Forbidden West」に登場した機械獣「クローストライダー」の大型造形物を作って,注目を集めた。G-STAR 2022では「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」関連イベントを開催し,その後は「Marvel's Spider-Man 2」と「FINAL FANTASY XVI」のポップアップストアもオープンして,注目を集めた。
韓国で人気が高い作品は「Marvel's Spider-Man」シリーズと「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズ,「FINAL FANTASY」シリーズなどが挙げられるが,2022年に人気を博した作品としては,「ホグワーツ・レガシー」「EA SPORTS FC 24」「ディアブロ IV」「原神」「Call of Duty: Modern Warfare ll」などがある。
・Nintendo
Nintendo Switchは,韓国の販売会社であるDAEWON MEDIA(大元メディア)が販売台数を公開しているが,それによると2017年の発売以来,今年の上半期までで累計154万台以上を販売している。ソフトについては,累計550万本を超えている。
DAEWON MEDIAは,Nintendo Switch全体販売の50%を担当していると言われているため,そこから導きだされるSwitch全体の販売台数は,約300万台を超えているであろうことが推定できる。
人気ゲームは他国同様で,「スーパーマリオ」シリーズや「ポケモン」シリーズ,「ゼルダの伝説」シリーズ,「マリオカート」「星のカービィ」シリーズなどが挙げられる。
・Microsoft
MSもPS5と同様に,2020年11月にXbox Series X/Sを発売した。近年のコンソールゲーム機の中では最も強力な性能を誇り,多くの注目を集めた。韓国では通信会社SK Telecomと提携し,クラウドゲームを提供するXbox Game Passを組み合わせたレンタル購入方式である「Xbox All Access」※を発表した。
この時ばかりは,ユーザーたちはついに「MSが韓国市場に力を入れ始めた」と期待した。Xbox Game Passは強力なサービスだったし,韓国語の吹き替えも積極的に行われていたからだ。しかし,最近では「Starfield」が韓国語に対応しない旨の発表をして,Xboxのイメージは失墜した。今まで築きあげてきた塔が,一瞬で崩れたのだ。
※世界12か国でサービスを提供しているが,その中に日本が含まれていない(関連記事)
コンソール3社の韓国での現状は,最近行われたアンケート調査で明らかになった。最近,韓国コンテンツ振興院が1万人を対象に調査した「2023 ゲーム利用者実態調査」によると,韓国のゲーマーの内64.1%が任天堂のデバイスを,52.3%がSIEのデバイスを楽しんでいることが分かった。
この調査は重複回答が可能だったため,SIEと任天堂のコンソール機を一緒に持っている割合が,相当数になると予測される。一方で,MSのデバイスの利用者は17.8%に過ぎず,韓国市場でMSが置かれている状況が分かる。
韓国コンテンツ振興院「2023 ゲーム利用者実態調査」(韓国語)
しかし,韓国のコンソール市場には,まだ様々な障害が存在する。しかも市場の規模が小さいため,きちんとしたサービスが行われていない面もある。
まず,オンラインサービスに関する問題だ。韓国ではオンラインサービスを利用する場合,未成年者のアカウントではゲームを正しく利用することができない。過去には,韓国政府の「シャットダウン制」により,未成年者はアカウントを作ることができなかった。
現在はシャットダウン制が廃止され,未成年者もアカウントを作ることができるようにはなったが,まだ一部のコンソールプラットフォームではマルチプレイやストアの利用ができない状況だ。
また,ワールドワイドでは実施されているサブスクサービスが,韓国では利用できないこともある。PCとクラウドプレイができる「PS Now」は韓国に展開されていないため,PlayStation Plus Premiumも利用できない現状だ。
拡大する市場に韓国ゲーム会社も積極的に挑戦する
海外のコンソールゲーム市場が拡大し続け,韓国のコンソールゲーム市場が拡大する中,韓国のゲーム会社もコンソールゲームの発売に目を向け始めている。これまでPCとモバイルに集中してきた韓国ゲーム会社も,ついにコンソールプラットフォームに積極的に進出するようになってきた。
日本でも知られている会社を中心に,各社のタイトルラインナップを紹介しておこう。
Nexonはすでに,カジュアルレーシングゲーム「カートライダー ドリフト」や対戦アクションゲーム「DNF Duel」などのゲームを発売している。今年最大の収入を記録した「デイヴ・ザ・ダイバー」も,10月26日にNintendo Switchで発売された。
それだけに限らず,シューターゲーム「The First Descendant」や,大規模チームPvP「Warhaven」,Project AKとして知られていた3人称アクションRPG「Arad Chronicle:Kazan」(アラド戦記IPの新作)が,コンソールで発売される予定。
北米法人を通じてコンソールリズムゲーム「FUSER」を発表したNCSOFTも,コンソールゲームを相次いで発表している。まず2022年末にMMORPG「THRONE AND LIBERTY」を発売する予定で,その後はオープンワールドシューティングゲーム「LLL」,乱闘型対戦アクション「バトルクラッシュ」,インタラクティブアドベンチャー「プロジェクトM」などのゲームが,順次発売される。
モバイルゲームを中心にゲームを発売し,「セブンナイツ 〜時空の旅人〜」でコンソール機進出の第一歩を踏み出したNetmarbleも,積極的にコンソールゲーム開発に参加している。TPS MOBAゲーム「Paragon:The Overprime」をPlayStationプラットフォームに拡大する予定で,子会社であるNetmarble Nexusを通じてコンソールゲーム「プロジェクトWE」も進行中だ。
Neowizは,日本でも知られるシングルアクションRPG「Lies of P」をコンソールプラットフォームでリリースし,良い反応を得たので,次回作の開発を開始している。LINE Gamesは,SOFTMAXの有名アドベンチャーSRPGである「創世記戦」と「創世記戦2」をまとめた「創世記戦:灰色の残影(The War of Genesis:Remnants of Gray)」を開発中だ。韓国では12月にNintendo Switchで発売される予定で,グローバル市場でも2024年上半期に発売される。
「黒い砂漠」のコンソール版でノウハウを蓄積したPearl Abyssは,オープンワールドアクションアドベンチャーゲーム「紅の砂漠」を,コンソールプラットフォームで来年発売する予定。「勝利の女神:NIKKE」で有名なSHIFT UPは,AAA級アクションゲーム「Stellar Blade」をPlayStation独占で開発している。
「TERA」と「PUBG:BATTLEGROUNDS」,「The Callisto Protocol」をコンソール機でリリースしたKRAFTONも,多くのコンソールプロジェクトを準備している。ルートシューターゲーム「Project Black Budget」,アクションアドベンチャーゲーム「Project Gold Rush」,人生シミュレーションゲーム「in ZOI」,子会社のアンノウンワールドによる「Subnautica」の続編も,コンソールプラットフォームで発表する予定だ。
そのほか,Smilegateはスペインに設立した海外スタジオで新作コンソールゲームを開発中。「オーディン:ヴァルハラ・ライジング」を開発したライオンハートスタジオは,ルートシューターゲーム「プロジェクトS」を開発中で,WemadeはMicrosoftと協力して,「This Means War(仮称)」をXboxプラットフォームで発売する予定だ。(著者:ザン・ヨングォン,パク・サンボム)
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