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Access Accepted第755回:Steam Next Fest最大の話題作だった「Dark and Darker」に持ち上がった大きな疑惑
韓国のIRONMACEが開発する「Dark and Darker」は,16人のプレイヤーがダンジョン内の財宝を巡って争うバトルロイヤルゲームだ。2023年2月に開催された「Steam Next Fest」で話題になったタイトルだが,Nexonからアメリカで告訴される事態に陥っている。期待作に一体何があったのか,その現状をまとめてみたい。
同時アクセス者数10万人の期待作に一体何が!?
韓国のIRONMACEが開発するバトルロイヤルゲーム「Dark and Darker」は,16人のプレイヤーたちがダンジョンに潜入し,モンスターと戦いながら装備や財宝を集めていくオンラインアクションだ。モンスターだけでなく,ほかのプレイヤーとも財宝を取り合うことになる,PvPvE(プレイヤーvsプレイヤーvs環境)の形式が特徴となっている。
Steamで2023年2月に開催された「Steam Next Fest」では「最多ウィッシュリスト追加数」と「最多プレイ」のランキングで首位を獲得し,同時アクセス者数が10万人を突破するなど大きな反響があったことは,「こちら」の記事で紹介している。ローンチに向けて幸先の良いスタートを切った……はずだった。
ところが,その前後から「Dark and Darker」の周辺が騒がしくなりはじめ,3月25日にはSteamストアページが完全に削除されてしまった。さらに4月中旬になると韓国の大手ゲーム会社であるNexonが,ワシントン州西部を管轄する地方裁判所でIRONMACEに対して告訴するという,きな臭い問題へと急速に発展している。まだ現在進行形の話題ではあるが,今回はそうした動きをまとめておきたい。
まず,「Dark and Darker」の問題についていち早く報じたのが,This is Gameのような韓国国内のゲーム系メディアだ。すでに「Dark and Darker」の情報公開時点でウワサに上がっていた疑惑について調査した結果として,IRONMACEの中核メンバーにはNexonから懲戒解雇された複数のメンバーがいたという。さらに,彼らが在籍していた当時に担当していたプロジェクトの資料やアセットを流用する形で,本作の開発が行われているというのだ。
This is Gameによれば,そのプロジェクトは「P3」と呼ばれるプロトタイプのPC向けオンラインRPGであったという(関連記事)。中世ファンタジー風の世界で「暗く危険なダンジョン探索をテーマにしたリアルタイムマルチプレイが特徴」のタイトルだ。
Korea JoongAng Daily(英語版)のレポートでは,3月7日に現地警察がIRONMACEのスタジオに強制捜査に入ったという動向が報じられた。NexonでP3を指揮していた人物“A氏”が2021年7月から1万点を超える極秘ファイルをリークさせていたことが明らかになり,正式発表が行われてから間もない2022年8月の時点で,この人物は懲戒解雇となったというのだ。
その後,P3の開発チームの半数となる20人ほどのメンバーが,IRONMACEに参加しているという。
焦点はソースコード持ち出しに絡む流用問題か
こうした経緯があり,Steamストアページから削除された「Dark and Darker」だが,IRONMACEは,Steamを介さずにBitTorrentでクライアントを配布して4月14〜19日にプレイテストを行うと発表した。
そうして,「Dark and Darker」のプレイテストが始まったのと同じ4月14日に,Nexonはシアトルにある地方裁判所に告訴したのである。双方ともに韓国の企業であるにもかかわらずシアトルの地方裁判所が選ばれたのは,Steamが,その近郊都市にあるValveが運営するサービスであったことが理由だと思われる。
これに対して,A氏は「2020年8月に,開発の効率を上げるためにソースコードを含むデータを,自分のプライベートサーバーに移動させることを,NexonでITセキュリティも担当していた開発マネージャーに要請し,それが受理されていた」と告訴される以前から主張している。
This is Gameの記事などでは,P3と「Dark and Darker」の比較画像が掲載されており,確かにダンジョン内の様子や質感はそっくりだ。しかし,画像だけ見ても盗作と判断するのは難しい。もともと,同じようなアートアセットは無料/有料で販売されていたりするからである。
今後の裁判の行方は,彼らが在籍していた時に持ち出されたソースコードが,実際に使われているかどうかにかかっているのではないだろうか。
こうした裁判になったケースで思い出されるところでは,ZeniMax MediaとOculus VRの間で2014年に始まった,VR技術の不正利用を巡る訴訟がある。Oculus VRのCTOであるJohn Carmack(ジョン・カーマック)氏が,ZeniMaxの子会社であるid Software在籍中に開発したプログラムコードを,VRヘッドマウントディスプレイにおいて不正に利用していると,ZeniMax側が訴えていたものだ。この裁判は,2018年末にFacebook(現Meta)がZeniMaxに対して2億5000万ドルを支払う結果となった。
そうした判例やこれまでの状況を見るに,IRONMACEにとって厳しい道のりが続くと思われるが,今後の訴訟の行方に注目しておきたいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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