開催中止になったE3 2023。果たして「Summer Game Fest」はE3に代わる新たなゲームイベントになるのか

　毎年6月はゲームが熱くなる季節だが，2023年3月31日，その中心にいた「E3 2023」の開催中止が発表されてしまった。しかしその同じ日，「キャンセルはしません！」と公式Twitterアカウントで高らかに宣言したのが，「Summer Game Fest」だ。

Video game summer isn't canceled.#SummerGameFest returns this June, featuring events, announcements and updates from more than 25 of the industry's leading publishers, platforms and developers.

Plus our spectacular showcase event, live Thursday, June 8 from @youtubetheater pic.twitter.com/uRAtq1DlcR

— Summer Game Fest (@summergamefest) March 31, 2023

Geoff Keighley氏。「gamescom」で開催される「gamescom: Opening Night Live」の司会も担当する（geoffkeighley.comより）

「Summer Game Fest」は，カナダのゲームジャーナリストGeoff Keighley氏が主催するゲームイベントで，2020年に新型コロナウイルス感染拡大のため，E3 2020とドイツのgamescom 2020がキャンセルされたことを受け，新たなオンラインイベントとして第1回が開催された。
　Keighley氏は，その前年の2019年，E3を主催するESA（Entertainment Software Association）との「意見の相違」を理由に，それまで20年近く参加し続けてきたE3に別れを告げたことを表明していた。E3の熱心なサポーターであるだけでなく，ゲーム開発者にインタビューやディスカッションを行うイベントE3 Coliseumなどの司会も務めていただけに，「難しい決断だった」と述べている。

「Summer Game Fest」ポータルサイト

E3の代替イベントとしてスタートした
「Summer Game Fest 」

　「Summer Game Fest 2020」の開催期間は，5月1日から8月24日までの約4か月間で，gamescomの代役も務めるという意図があったのだが，さすがに長すぎた。また，パートナーであるパブリッシャやデベロッパ，出版社などが実施する多数のオンラインイベントも「Summer Game Fest」であるとしており，そのため，どこからどこまで「Summer Game Fest」なのか，ちょっと判然としなかった。
　なにしろ，土壇場で急遽企画されたイベントであり，Keighley氏はライブ配信の方法を1から学んだという。

　結果として成功を収めたものの，期間が長すぎる，構成が練れていないなど，視聴者のフィードバックは厳しいものが多かったという。この反省から，「Summer Game Fest 2021」では，開幕を告げるキックオフイベントが開催されることになり，期間も6月10日から7月22日までの約1か月に短縮された。
　Keighley氏は，年末に行われる「The Game Awards」も主催しており，約6か月離れた2つのイベントは，タイミングとしてちょうどうまく収まっていたようだ。なお，この年（2021年）のE3はオンラインのみで開催され，任天堂の「Nintendo Direct E3 2021」がゲームファンの最も大きな注目を集め，Microsoftの「Xbox & Bethesda Games Showcase 2021」がそれに続いた。この年のE3は，オンラインでも存在感を発揮した印象だった。

「E3 2019」で制作が発表された「ELDEN RING」だが，発売日が明らかになったのは，「Summer Game Fest 2021」のキックオフイベントでのことだった（※外部リンク）

　翌年の「Summer Game Fest 2022」はさらに短く，6月9日〜12日の4日間にわたって実施された。オンラインを含めて「E3 2022」が完全に中止になったことから，大型タイトルの新発表が集中して行われ，高い認知度を獲得。「Summer Game Fest」は，夏のゲームイベントとしてのアイデンティティをひとまず確立した。


　そして今年，「Summer Game Fest 2023」のキックオフイベントは，日本時間6月9日4：00に開幕する予定だ。開催場所はカリフォルニア州ロサンゼルスのSoFiスタジアムにある「YouTubeシアター」に決定しており，イベントの模様はYouTubeやTwitch，Twitterなどでの無料配信が行われるが，詳細については追って発表するとのこと。
　キックオフイベント終了後には「Summer Game Fest Play Day」を実施するが，これは，メディアやインフルエンサーを対象とした招待制のプレビューイベントで，一般公開はされない。しかし，それに合わせて多くのパブリッシャやプラットフォームホルダーが，デモ版の提供などを行う予定だ。

　入場チケットの販売もすでに始まっており，それと同時に40社以上のパートナー企業も発表された。リストには，ActivisionやEpic Games，Electronic Arts，Ubisoft，カプコン，バンダイナムコエンターテインメント，スクウェア・エニックス，セガといった大手企業が並んでおり，プラットフォームホルダーとしては，昨年に引き続きPlayStationとXboxが確認できる。E3にも勝る，豪華なラインナップだ。


　公式サイトでは，パートナー企業が予定しているイベントが列挙されている。日本時間5月25日5：00にPlayStation Studiosの新作タイトルなどを紹介する「PlayStation Showcase 2023」が配信されたのは，すでにお伝えしたとおりだ。続く日本時間6月12日2：00には「Xbox Games Showcase」がスタートし，終了後には，Bethesda Softworksが開発中の新作RPG「Starfield」（PC / Xbox Series X|S）の詳細を披露する「Starfield Direct」が予定されている。Ubisoftの「Ubisoft Forward」は日本時間6月13日2：00に，iam8bitとDouble Fineが主催するインディーゲームのイベント「Day of the Devs Summer Game Fest Edition」は日本時間6月9日6：00に配信が始まる。そのほかのパートナー企業は，6月9日のイベントで何らかの発表を行うのだろう。

　また，昨年の「The Game Awards 2022」には，コジマプロダクションを率いる小島秀夫氏が登壇し，ほんのわずかだが新作にも言及した。小島氏とKeighley氏はつながりが深いと言われており，「Summer Game Fest 2023」では，そのあたりにも期待できそうだ。

参考：このほかに予定されているオンラインイベント

「GUERRILLA COLLECTIVE SHOWCASE」
日本時間6月8日1：00

「Future Games Show Summer Showcase」
日本時間6月11日2：00

PC Gaming Show
日本時間6月12日5：00

　ちなみに，パートナー企業の中で元気がいいのがアメリカのDevolver Digitalだ。E3 2023のキャンセルがまだ発表されていない3月29日，彼らは公式Twitterアカウントを更新し，「今年は駐車場に行きません。その代わり，Summer Game Festですごいプレゼンテーションをやります」と書き込んでいる。
　Devolver Digitalは例年，E3会場であるロサンゼルスコンベンションセンター正面の駐車場にトレーラーハウスを持ち込み，メディアやファンを招待してプレゼンテーションなどを行っては，E3を主催するESAと揉めている。プレスカンファレンス風の血まみれパロディ映像を公開したり，E3をからかうようなゲームをわざわざ作って無料配信したりなど，なぜかE3をライバル視していたDevolver Digitalだが，今年は早々と「Summer Game Fest」への参加を発表したわけだ。
　Devolver Digitalは続けて，「しかしながら，6月上旬にロサンゼルスの駐車場に行きたい，ビールを飲んでホットドッグを食べたいと思っているなら，われわれは止めません」とも書き込んでいる。余談がすぎた。

No Devolver E3 Parking Lot this year but we will have a fresh, new Devolver Direct presentation during @SummerGameFest.

Should be gooooooood.

— Devolver Digital (@devolverdigital) March 29, 2023

E3はこのまま終わるのか

　E3のような大規模ゲームショウについては，参加するメーカーの負担増や費用対効果の面から以前から議論が繰り返されていた。2007年と2008年には名称を「E3 Media and Business Summit」に変更して規模を縮小したものの，不評のため2009年には元の姿に戻っている。2017年以降は，これまで一般に非公開だったイベントにゲームファンの参加も認めるという判断を下したが，オンライン中継の急速な普及に伴って離脱を表明する大手パブリッシャが増えてきた。E3開幕前に各社はカンファレンスを開催するが，重要な発表のほとんどはそのときに行われ，E3が開幕しても，イベントそのものの存在感は薄くなっていた。
　E3 2023では，キャンセルが発表される前に，ソニー・インタラクティブエンタテインメント，任天堂，Microsoftの主要プラットフォームホルダーが不参加を表明し，Tencent，セガ，Ubisoftなどもそれに続き，E3離れは明白だった。


　おそらく，広いイベントスペースにブースを設置し，来場者が並んで新作タイトルをプレイするといったスタイルは時代遅れなのだろう。では，未来のゲームイベントはデジタル限定になるのかといえば，それほど単純ではなさそうだ。Keighley氏は，デジタルファーストであることは間違いないが，「Summer Game Fest Play Day」のようなハンズオンイベントも重要であり，物理的な要素も取り入れていくとTwitterで述べている。また，イベントのありようはゲーム業界の変化によって変わっていくともしており，オンラインのみにこだわっているわけではないようだ。
　いずれにせよ，夏のゲームの祭典はもうすぐやってくる。