連載
ゲームをうたう:第5回は櫻井天上火さんと「邪聖剣ネクロマンサー」。ゲームに触発された俳句連作をお届けします
第5回は,俳人の櫻井天上火さんによる「邪聖剣ネクロマンサー NIGHTMARE REBORN」のインスパイア連作「冥府下り〈カタバシス〉」です。往年のゴシックホラーRPGの世界へ,足元から引きずり込まれるような言葉たちをお楽しみください。
冥府下り〈カタバシス〉
人々はこう考えてきた。神の世界創造は善なる行為であり、悪とはすなわち善の欠如である、と。しかし、端的に言ってこれは誤謬だ。私たちの眼前には、了解しきれない固い塊〈マッス〉として悪意ある悪魔的な悪〈マル・ディアボリック〉が投げだされている。私たちは、それをじっと見つめなければならない。
針葉をうしろ漕ぎだす銀の舌
白雨の木々の闇鳴きに肉叢を応えよう
殲滅の馬上へ音すみなみかぜ
森を抜けてむしとりすみれに植え替わる
花冷に不在を花す愚者〈アルルカン〉
見紛ふとは屋根裏へ遺る夜会〈ソワレ〉だらう
A=A この天空〈メテオラ〉に優曇華を似せて
犇く楡の均衡に遊牧感を建てていよう
変わり身 弱〈あま〉やかな逸れ〈クリナメン〉が詩のうしろを立たせる
暁を丘す人獅子〈ナラシンハ〉の暗がり
虹めく崕〈あしだい〉の心見〈うらみ〉に蛇霊は降る!
凍てる祭壇の最南に鏡〈テスカトル〉が赫い
落下の受肉〈アヴァターラ〉に垂直が輝り返る
みづ逃げの墓前を下る夜風〈エエカトル〉
そしてなんとも皮肉なことに、この悪魔的な悪によって、はじめて思考可能となり思考をあらしめているものこそが、自由と呼ぶべきものなのである。
1998年北海道生まれ。短詩を中心に書いています。第六回芝不器男俳句新人賞城戸朱里奨励賞。無所属。
「ゲームをうたう」特集ページ
- この記事のURL:
キーワード