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[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法
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印刷2012/08/23 00:00

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[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法

 開催中のCEDEC 2012で,アクセスゲームズの今井新太郎氏片岡英樹氏による「ゲームAIはプレイヤーを虜にできるか? 〜アクションゲームにおいて、AIを使って華麗に誤魔化しつつ魅せる手法」というセッションが行われた。
 タイトルから想像できるとおり,このセッションは,そこそこの出来のAIをうまく使って,高性能AIのように見せるという手法を紹介するもの。「戦国BASARA クロニクルヒーローズ」や「ACECOMBAT 3D CROSS RUMBLE」など,数々のタイトルを手がけるアクセスゲームズだけに,「なるほど」と思わせるものが多かったので,その模様をレポートしよう。

画像集#022のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法
今井新太郎氏
画像集#023のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法
片岡英樹氏

 最初に今井氏は,アクセスゲームズが考えるAIの制作や使用方針を披露した。それは「気がつかなければOK!」「俺、強ぇ!感を演出!」「ちょっとした工夫!」「人間らしくみせる!」「かしこく見せる!」という5項目。セッションでは,この項目ごとに具体的な手法が紹介された。

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気がつかなければOK!


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 これは,画面外や遮蔽物の影など,プレイヤーが状況を把握できない部分や,プレイヤーが操作キャラに集中し,AIキャラクターの動きまでしっかり見ていない状況まで利用してAIの処理を行うというもの。
 今井氏は「演劇の舞台袖でいろいろとやっているイメージ」と説明した。

 実際の使用例として,戦闘中,プレイヤーキャラクターから離れた場所で,AIキャラクターの移動速度を上げたり,装備を変えたりするという手法がまず紹介された。これらの変化は画面内で起こっているということで,プレイヤーとしては「いくらなんでも気づくだろう」と思ってしまうのだが,近くにいる敵との戦闘に夢中になっているプレイヤーはまず気づかないのだという。
 ただ,今井氏は「あくまでさりげなく」と,使い方にコツがあることも説明していた。

 続いては「攻撃が当たってから避ける」という手法。これはプレイヤーキャラと一緒に戦う味方のAIキャラクターによく使われるもので,言葉どおり,攻撃が当たったと判定された瞬間に回避アクションを行い,プレイヤーに「避けた」と思わせるものだ。この手法を使えば,AIに攻撃を予測させるような複雑な仕様が不要になり,工数が減らせるという。
 これまたプレイヤーからするとすぐに気づきそうなものだが,今井氏は,前の例とは逆に「とにかく派手な回避アクションを取らせれば,避けたように見える」と,使い方をレクチャーしていた。

画像集#004のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法 画像集#005のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法


俺、強ぇ!感を演出!


画像集#006のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法
 こちらは,プレイヤーが気持ちよく戦うために必要な,ザコキャラにおけるAIの使い方だ。

 具体的な手法としてまず挙げられたのは,プレイヤーキャラ対複数のザコキャラといった場面で使われるもので,ザコキャラに「やられる順番」を割り振り,やられ番以外のキャラはプレイヤーのジャマにならないような位置取りをさせるという手法。これで,それほどうまくないプレイヤーでも,バッサバッサと気持ちよく敵を倒せるようになるという。

 この応用編として,プレイヤーを誘導する手法も紹介された。この手法を使えば,プレイヤーがザコを倒しているうち,いつの間にか主戦場に移動させるということが可能になる。プレイヤーが敵を探してマップをうろうろするようなイライラがなくなるというわけだ。

画像集#007のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法

 また,もう1つの手法として,AIキャラクターの強さを切り替えるというものも紹介された。
 アクセスゲームズが手がけたあるタイトルには「イージー」「ノーマル」「ハード」という3段階のモードがあるが,実際のところ,AIの強さはそれぞれのモードに3段階ずつ,合計で9段階設定されているとのこと。AIの強さはコンティニューを選ぶタイミングなどでプレイヤーのレベルに合わせたものに切り替えられ,プレイヤーは気持ちよくプレイを続けられる。

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ちょっとした工夫!


 ここで紹介されたのは完全に見せ方の手法。今井氏は「初見が大事」として,AIキャラクターの登場シーンにこだわっていることを明かした。登場シーンがド派手でかっこいいものになったり,登場時に威嚇モーションが入ったりすると,プレイヤーにはその印象が強く残り,すでに登場したキャラクターと同じAIを使っていても,特別な敵に感じてしまうという。

画像集#010のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法

 また,これに似たものとして「動き始めを丁寧にする」という手法も紹介された。複数のザコキャラが登場する場合,最初に連携攻撃を行うようにするだけで,プレイヤーに「こいつらは手強い」と思わせることができる。その後はそれぞれのザコキャラが勝手に攻撃するようになっていても,案外プレイヤーは気づかないとのこと。もっと簡単にしたいなら,ザコキャラに隊列を組ませるだけでもいいそうだ。

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人間らしく見せる!


 プレイヤーに「人間がプレイしている」「人間と対戦している」と思わせるようなAIはゲーム開発者にとっての最終目標かもしれない。シーンが限定されるとはいえ,それが実現できる手法が紹介された。

 まずは,実際に開発者がコントローラで操作したキーログを,AIの行動パターンとして利用するというもの。実際のタイトル開発においても,攻撃→ジャンプキャンセル→攻撃といった複雑な攻撃パターンを実現するのに使われており,プレイヤーからも驚きの反応があったという。今井氏は「純粋なAIではない」としながらも,その効果の大きさをアピール。ただし,この手法を使うには,AIがキーログを使える仕様にしておく必要とあるとも語った。

画像集#012のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法

 これに続いて紹介されたのが,AIキャラクターのパラメータを一時的に変更するという,キーログを受け付けないAIでも使える手法。セッションではプレイヤーキャラクターと,その味方のAIキャラクターが一緒にステージを進むというゲームが,一例として語られた。

 プレイヤー達のルートに幅の広い溝を設定し,2段ジャンプを使って越えさせたいという場合,正攻法なら,AIキャラクターに溝の幅を判断させ,それに応じたジャンプを使わせる,という仕様が必要になる。だが,AIにそこまで工数をかけられない場合は,溝の直前から直後まで,一時的にAIキャラクターのジャンプ能力を上げ,通常のジャンプで飛び越えられるようにすればいい。これでも,プレイヤーからはAIキャラクターが溝の幅に応じたジャンプをしているように見える。

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かしこく見せる


画像集#015のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法
 ここでスピーカーは片岡氏に交代。セッションの内容も,これまでに紹介されたような“ごまかし”ではなく,AIを賢く使う方法の紹介となる。

 片岡氏が基本的な手法として挙げたのは,攻撃や防御,回避といった行動を行う「個体AI」と,状況の把握や個体AIへの指示を行う「管理AI」の2つを実装する方法だ。

 例えばステルスアクションゲームでは,個体AIがプレイヤーを発見した場合,その情報が管理AIに送られて,ほかの個体AIに「現場に向かえ」という指示を出す,ということが表現できる。チームで対戦するゲームの場合は,残り時間が少なくなったところで管理AIに「イチかバチか突っ込め」といった指示を出させることも可能だ。人間らしい,組織的な行動が再現できる手法といえるだろう。

画像集#016のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法

 この手法をさらに進化させると,管理AI同士の「談合」が可能になる。チーム同士が対戦するゲームの場合,それぞれの管理AI同士が情報を共有するというものだ。
 ちょっと分かりづらいので,チームAとチームBの対戦という場合を例にして説明しよう。まずチームAの管理AIが出した「作戦は中央突破」という指示に対して,チームBの管理AIは「それなら中央の守備を厚く」という指示を出す。それに対してチームAは「なら1人だけ外に回らせる」という具合に,白熱した戦いが展開するというわけだ。
 プレイヤーとしては,自分だけ仲間はずれになっているようで複雑だが,うまい方法といえるだろう。

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 片岡氏は続けて,AIの検証手法を紹介した。といってもシンプルなもので,AI対AIでゲームを行う,というものだ。プレイヤーが介在しない状況でちゃんとゲームが進行するか,地形にはまったりしないか,連携が取れているかをチェックするという。

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 セッションの最後では今井氏が再びマイクを取り,紹介された手法はどんな場合でも使えるというわけではないと釘を刺した。基本的に「プレイに夢中になっている1人のプレイヤーをごまかす」という手法のため,リプレイやフリーカメラ機能,マルチプレイ機能を持ったタイトルとは相性が悪いとのことだ。
 そして,AIの実装では「華麗に誤魔化す」ということが大切だとアピール。そのごまかしがうまくいけば,プレイヤーに「面白い」「白熱する」と思ってもらえて,「魅せるAI」につながるとまとめた。

画像集#021のサムネイル/[CEDEC 2012]プレイヤーはごまかされている? アクセスゲームズの開発者が語るAIキャラクターの実装手法

 セッション終了後,今井氏に話を聞く機会を得たので,筆者がセッション中に気になっていた「アクセスゲームズが手掛けたタイトル以外で,ごまかしの手法を見つけたことはあるか」という質問をぶつけてみた。
 今井氏は確信はないとしながらも,忍者がザコキャラとして登場するゲームで見た,ボス登場とともに忍者が消えるというシーンを挙げた。ボスキャラにリソースを割くため,なんとかして自然にザコキャラを消す方法を考えた結果,忍者という設定になったのではないかということだ。

 また今井氏は,今回紹介したような手法は,社員同士の口づてで伝わるようなものだとも語ってくれた。だとすると,このような場所でほかの開発者に明かしてしまうのはなかなか太っ腹と言えるだろう。
 これは筆者の推測だが,もしかしたら,まだまだとっておきの手法があるのではないだろうか……。

アクセスゲームズ公式サイト

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