インタビュー
「マビノギ」開発チームにインタビュー。ドラゴンと火山と気球,イリア大陸最後の未踏地域ザルディン
ストーリー的にも一段落を迎えるという「ジェネレーション8〜DRAGON」アップデートについて,オフラインイベントでは解説役を務めたファン・チャンヒ氏,開発を担当するdevCAT studio マビノギチーム長のハン・ジェホ氏,同海外開発ユニットのチェ・ガンジュ氏に,話を聞いてみた。
G8最大の呼び物は予想どおりドラゴンおよび空中戦と想定しているようだが,実は熱気球は2種類あるなど,オフラインイベントでは出てこなかった情報も飛び出した。さっそくお伝えしよう。
独自のノリを発揮する日本プレイヤー
4Gamer:
本日はお忙しいところインタビュー応じていただき,ありがとうございます。3周年記念オフラインイベントの様子は,ご覧になりましたか?
ハン・ジェホ氏:
ええ。2人ともこっそり後ろのほうにずっといました。
チェ・ガンジュ氏:
割と最後のほうまで見ていましたよ。
4Gamer:
日本のファンについて,どんな感想を抱きましたか?
韓国にはオフラインイベント自体ほとんどないので,非常に楽しかったです。日本のプレイヤーさんが,私達が制作したレッドマンティスやジェスチャー――日本ではエモーションというんでしょうか――それとイベントアイテムなどを喜んでくれて,作った側としても非常にやりがいを感じました。
ワールドごとに集まって行われた「昇段試験」でも,みなさん盛り上がっていて,そういった面でもマビノギを楽しんでいるんだなと肌で感じられ,本当に良い経験になりました。
チェ・ガンジュ氏:
今回本当に多くのプレイヤーさんに参加していただけて,心から感謝しています。私達が作ったムービーなども喜んでいただけたようで,これからも頑張って,より良いものを作っていかなければならないと感じました。
4Gamer:
韓国では,新作発表以外のオフラインイベントは,あまりないものなのでしょうか?
ハン・ジェホ氏:
韓国ではメーカー単位のプライベートショウやG★以外,オフラインイベントはそう頻繁には行われませんので,ゲームタイトル単位で行われるイベントには,今回初めて参加しました。韓国ではプレイヤーさんが自分達で人を集めて行うイベントはありますが,運営側で開催することはあまりないんです。
4Gamer:
イベントの中でも,とりわけ意外だった日本プレイヤーの反応は,どういったものでしたか?
ハン・ジェホ氏:
二つあって,一つはラットマンのときの盛り上がり具合です。もう一つがピコピコハンマーへの反応で,この二つは韓国ではまずない感じでしたね。
チェ・ガンジュ氏:
韓国では,戦闘から生産まで楽しみ方が広範囲なんですが,日本では,私が感じた限りとくにコミニュケーションに非常に強い興味を持っていたり,「可愛いアイテム」に興味があったりと,そういった面で違いがあるのかな,と思いましたね。
PvPは今後のメインコンテンツにならない
4Gamer:
今回のアップデートでは,いよいよエルフとジャイアントの対立の背景が描かれるようですね。例えば中国でのプロモーションでエルフ側とジャイアント側に分かれたPvPコンテンツを重視するといったお話がありましたが,これは今後韓国や日本でも導入されるのですか?
ハン・ジェホ氏:
エルフとジャイアント専用のPvPというわけではないですね。中国サイドからPvPの要望がかなり高かったので,中国では入っていますが,必ずしも両種族の対立に関わるPvPというわけではありません。
種族関係なしのPvPコンテンツが,すでに中国では入っています。
4Gamer:
韓国サービスにおけるPvPは,どうなっていますか?
ハン・ジェホ氏:
1対1やアリーナ以外でのPvPは,日本と同じく韓国でも入っていません。中国ほどPvPが好まれないので。例えば韓国で開催されたゲーム内イベントの中でキャプチャー・ザ・フラッグができたんですが,頭上に「私を攻撃しないでください」と表示して,戦わずにイベントに参加している韓国のプレイヤーさんを見て,やはり韓国のマビノギではPvP関係より,ほかのコンテンツなんだと感じたんです。
4Gamer:
そうすると韓国サービスでエルフとジャイアントの対立は,クエストやストーリーで展開される形になりますか。
ハン・ジェホ氏:
PvPは,ジャイアントとエルフの対立を表現する“一つの”方法として投入されたものです。物語自体は「ジェネレーション7」から導入され,メインストーリーで明らかにしていく形となっています。
実は2種類ある熱気球
4Gamer:
では開発側から見て,あらためてジェネレーション8の目玉は,どこになるのでしょうか。
標題のとおりドラゴンとの戦闘ですね。ストーリー進行中にドラゴンとの対立が起きたり,ドラゴンが出現するダンジョンをクリアする必要が生じたりするのですが,そういった部分です。また,熱気球でのワイバーンとの空中戦なども,非常に努力して制作しました。
もう一つの目玉はNPC「ルエリ」に関するストーリーですが,今回でいったん完結となりますので,そこも楽しみにしていただければと思いますね。その後に関しては,以前のメインストーリーや今回投入されたストーリーとは別に,新しいストーリーとして構想を練ってますので,今後の展開にご期待ください。
4Gamer:
今回のドラゴンは単なる敵なのでしょうか。それともどちらかというと,世界の秘密を語ってくれるような存在なのでしょうか。
ハン・ジェホ氏:
基本的にドラゴンは「戦闘相手」ではなく,新しい「種族」です。今回レッド,ブルー,ゴールドといった3種類がいます。例えばレッドドラゴンは人間と対立的な関係にあって戦う相手になりますが,同時に「イリアの秘密」のカギを握る存在でもあるんです。
ジェネレーション3でルエリがタルラークの許を去るストーリーがありますが,それに関連してジェネレーション8では「レガトゥス」(ブルードラゴン)がNPCとして登場したり,彼と対立するレッドドラゴンが,フィールドボスとして登場したりするんです。
4Gamer:
ではドラゴンのお話では何が焦点になるか,ごくかいつまんで教えてください。
ハン・ジェホ氏:
これまではNPC戦士3人の物語でしたが,今回はプレイヤーキャラクター中心のストーリーになります。ルエリの痕跡を追う探検の中で,エルフとジャイアントの対立や,さまざまなNPCとの関わりを通じてストーリーが展開します。一言で表すと「ルエリを追う中で知るイリアの秘密」,みたいな(笑)。新たなキャンプにいるNPCについては,ストーリー進行の中で「ケルピー」の秘密を解き明かすという部分も多少ありますが,メインではないですね。
4Gamer:
では次に気球と空中戦についてですが,気球はプレイヤーが所有できるんですか?
ハン・ジェホ氏:
プレイヤーさんがNPCから気球のキットを購入する形になります。燃料が切れたり(気球の)HPがなくなって墜落したりすると壊れて,同じものには乗れなくなりますが,プレイヤーさん側の意思で「着陸」させた場合は,同じ気球にまた乗れます。
4Gamer:
燃料となる発火石は自分で取りに行くんでしょうか。
ハン・ジェホ氏:
火山で掘り出せますが,気球には元からある程度の「基本燃料」があって,それより長く乗りたい場合に発火石を足すということなんです。発火石がないと動かないということはありません。
4Gamer:
気球はどこにでも着陸できるんですか?
ハン・ジェホ氏:
ペットに乗って飛べる場所ならどこでも乗れますし,着陸できる範囲も同様です。
4Gamer:
空中戦でワイバーンを相手にする場合,やはり接近戦武器は使えないんでしょうか。
使えません。ですがそうすると接近戦型のキャラクターは戦えないので,「Str」値が反映される「バリスタ」という武器を気球に用意しています。体力が高いとバリスタをうまく扱えるという方法でバランスを取りました。
4Gamer:
バリスタの矢は消耗品ですか?
ハン・ジェホ氏:
消耗品ですが,NPCから安価に購入できます。そして矢はプレイヤーキャラクターのインベントリの中にあれば,自動的に使われます。
4Gamer:
気球システムは全体に開発が難しそうですが,なかでも一番苦労したのはどこでしょうか。
ハン・ジェホ氏:
いろいろな人が気球に乗って「同時に」空を飛び,「何らかの形で行動」できるという部分ですね。もう一つはワイバーンの攻撃方法。ただ空中に浮いて攻撃してくるだけでは面白くないので,戦闘機のような一撃離脱が見られるようにしたんです。
4Gamer:
気球は何人乗りでしょうか?
ハン・ジェホ氏:
気球は2種類あり,一つはバリスタが装着されていて戦闘可能なもの,もう一つが単に移動手段としてのものです。空の旅が楽しめるよう2種類作ったんですが,戦闘で使われるほうの気球には,パーティの制限人数と同じ8人まで乗れます。戦闘用でないほうは2人乗りですね。
4Gamer:
戦闘用の気球は,壊れることもあるんでしょうか。
ハン・ジェホ氏:
熱気球にはHPと燃料という二つのゲージがあります。燃料ゲージは発火石で補えますが,HPは乗っているプレイヤーキャラクターが攻撃されると減っていくので,3種のワイバーンが使ってくるアイス,ファイア,ライトニングといった魔法を,属性に合ったシールドで防がないといけません。HPがなくなると墜落してしまいます。まあ,墜落してもプレイヤーキャラクターがダメージを負うことはありませんが。
4Gamer:
なるほど。ではチェさんに質問なんですが,温泉猿については,要望があったとき疑問に思いませんでしたか? ちょっと日本ローカルすぎるアイデアのような気もするので。
いえいえ。それほど不思議には思いませんでしたよ。海外向けの開発案件に携わっていると,本当にさまざまな要望をお聞きしますから。
ハン・ジェホ氏:
韓国では,温泉自体はジェネレーション8のシーズン1に投入されているんですが,そのときは開発期限の関係で「温泉効果」を入れられなかったのです。それであらためて効果を導入するに当たって,何か面白いものを一緒に入れられないかと思った結果が猿です。
4Gamer:
温泉ザルにはどんなモーションが見られるんですか?
ハン・ジェホ氏:
温泉の周りを歩いたり,温泉の中に飛び込んでくつろぐ,といった形で,さまざまなモーションが入っていますよ。
4Gamer:
温泉効果はペットにも及ぶのでしょうか?
ハン・ジェホ氏:
ケガが治る種類の温泉では,ペットと一緒に入ると,ペットのケガも治ります。
日本先行コンテンツ,エモーションと染色
4Gamer:
今回,日本で先行導入されるコンテンツの中で,開発側として一番印象深いものは何でしょうか。
4月17日に入る日本先行コンテンツは,レッドマンティス,特殊色が出せる染色アンプル,そして開発に最も時間がかかったエモーションといったもので,個人的には,これらの内容から日本のプレイヤーさんの好みがある程度分かる気がしました。
次はデザインコンテストの衣装が入る予定で,現在鋭意その作業に当たっています。楽しみにしていてください。
4Gamer:
ではラットマン以外で,日本からの要望で驚いたものは何でしょうか?
チェ・ガンジュ氏:
パーティ掲示板ですね。韓国の場合,パーティは入りたいダンジョンの前で募集するのが普通なので,そういった要望はなかったんですが,日本ではそうした形での募集はあまりしないのかな? と。また以前,日本サービスで,韓国サービスではいないラゴデッサ(黒い巨大クモ)というペットが入ったときも,日本ではペットに韓国とは違うものを求めているのかな,という感じがしましたね。
4Gamer:
今回いよいよエモーションが追加されるわけですが,ゲーム内でムービーを撮影できる機能などの追加は,考えていますか。
ハン・ジェホ氏:
エモーションには「自分をうまく表現したい」というプレイヤーさんの思いがあるんだと思います。実は,3種族それぞれのエモーションを作るので非常に作業量が多く,作業開始までにもかなり時間がかかった難しいものだったんですが,それにも関わらず今回エモーションの導入が実現できたのは,日本のプレイヤーさんからの,熱い要望がきっかけとなっています。
ムービーの撮影機能については,当面の開発予定には入っていませんが,そういった例もありますので,強いご要望があれば開発チームとしては前向きに検討していくつもりです。
4Gamer:
今回入るエモーションの中で,お二人が個人的に気に入っているものを教えてください。
ハン・ジェホ氏:
私は男性的なしぐさが好きなので,男性ジャイアントが突撃を指示するような形で手を上げるモーションとか,ムービーにも出ていた,相手の肩を叩くモーションとかが非常に気に入っていますね。(身振りで示しつつ)
私は,音楽を聴いて座って拍手する「音楽鑑賞」が,お気に入りです。
4Gamer:
特殊な色が出る染色アンプルが作成できるとのことですが,その場合材料はどうなりますか。
ハン・ジェホ氏:
ベースとして,いまある染色アンプルや色指定染色アンプル,金属染色ポーションなどが必要になります。それに,NPCから購入できる材料を組み合わせて調合すると,カラーパレット自体は変わりませんが,そのパレットに,いままであったのとは違う色が出てくるんです。
エンブレムと縁飾り,色を選べるギルドコスチューム
今後導入されるというギルドコスチュームについてですが,ここで使える模様は,あらかじめ用意されたものだけでしょうか。
ハン・ジェホ氏:
そうです。技術的には難しくないので,最初はプレイヤーさんがデザインしたものを登録できるようにしようとしたんですが,二つほど問題があって,やめることになりました。
韓国では見ることに「年齢制限」のある絵があるんですが,プレイヤーさんがもし,そうした絵を登録してしまうとみんなに見えてしまうということ。もう一つは,デザインのクオリティをどこまで出せるかという部分で自信がなかったためです。
4Gamer:
エンブレムっぽい絵だけでなく,縁飾りも選べそうに見えたのですが,実際はどうですか?
衣装の縁,胸元のシンボル,そしてそれぞれの色の選択ができます。選択権はギルドマスターが持っていて,ギルドメンバーは,ギルドマスターが選んだコスチュームを着ることになります。コスチュームのギルド員以外への譲渡はできません。ちなみにデザインは,あとで変更することも可能です。
4Gamer:
では最後になりますが,今回のジェネレーション8とそれ以後に関し,日本のプレイヤーさんに何を期待してもらいたいか,一言ずつお願いします。
ハン・ジェホ氏:
まずはジェネレーション8に導入されたドラゴンや火山などを体験してみてください。このザルディン地域がイリアでの最後の追加地域になるので,イリア大陸の秘密を解き明かしつつ,ルエリの話を追う,そういったさまざまな形で楽しんでいただければと思います。
チェ・ガンジュ氏:
今回導入されたパーティ掲示板やエモーションを利用して,コミュニケーションを活発にしていただければ嬉しいです。今後も日本のファンのためのコンテンツを開発していくつもりですので,これからもぜひ,マビノギを応援してください。
4Gamer:
ありがとうございました。
ただ,目新しい時期だけ賑わうといったことにならないよう,今後のフォローアップにも期待したいところだ。単に新しいシステムが加わるというだけでなく,「プレイヤー自身で新たな遊び方を発見できる」地域として,発展させていってほしいと思う。
多くの国でプレイされているマビノギだが,各国の市場やプレイヤーの好みの違いは,グローバルサービス化が進むMMORPGにおいて,すでに大きな課題となっている部分だ。同じくエルフとジャイアントの対立を扱うにしても,PvPと結びつけたプロモーションが行われる中国市場と,とくにフィールドPvPの導入予定はない韓国・日本と,明確に差が現れたのも興味深い。
文化や嗜好の異なる各国の要望を理解し,その要望に応じられるようにとカスタマイズされたマビノギのオリジナルコンテンツ。その日本における実例を,我々はすでに多く目にしたわけだが,今後どのようなものが追加されていくのか。「ジェネレーション8」のストーリーや新システムのみならず,そこにも引き続き注目していきたい。
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