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[NDC21]「マビノギ」が物語への没入度を高めるために行った施策とは。ストーリーテリングとキャラの関係が語られたセッションをレポート
その初日には,Nexon Koreaのプランナー・Jang Kieun氏により,PC向けMMORPG「マビノギ」のストーリーテリングにおけるキャラクターのタイプとアイデンティティに関するセッションが行われた。本稿ではその聴講レポートをお届けしよう。
まずJang氏は,このセッションにおける「プレイヤー」を,ゲームを操作する人間であること,「プレイヤーキャラクター」は,プレイヤーが操作してゲーム内で行動するキャラクターであること,そしてプレイヤーが操作していないキャラクターは「NPC」であることを定義づけた。
Jang氏は,ゲームにおけるキャラクターを3タイプに分けて考えているという。1つめは,明確なアイデンティティと特徴を持ったキャラクターだ。このタイプは,名前や外見が決まっていたり,設定や性格がしっかり決まっていたりするケースが多い。主にストーリードリブンのコンシューマゲームのプレイヤーキャラクターがこの傾向にあり,キャラクターの魅力をアピールするのに適している。
2つめは,基本的な情報とポジションのみを提供するタイプで,ゲーム開始時は平凡な存在というキャラクターだ。このタイプは自由に名前を付けられ,外見も変更できるケースが多く,プレイの進行に伴って成長していくので,ロールプレイングや育成要素,カスタマイズ要素が強いゲームのプレイヤーキャラクターに適している。
3つめは,プレイヤー自身を認識しているキャラクターだ。これはプレイヤーがセーブ/ロードをしようとすると反応を見せたり,プレイヤー自身にメッセージを送ったりするといったメタ的な視点を持つ存在として描かれる。
昨今はこれら3つのタイプが混在しているケースもあり,デフォルトの名前や役割が決まっていても,途中の行動や選択によってキャラクターの役割が変化していくシナリオ分岐/マルチエンディングのゲームも多数存在するとJang氏は語る。
Jang氏によると,これらのキャラクタータイプは,ストーリーテリングにおいてプレイヤーを没入させる方法に違いがあるのだという。
例えば「The Last of Us Part II」のプレイヤーキャラクター・エリーは,「ジョエルの復讐を果たす」という点ではプレイヤーの共感を得られる半面,ゲーム内での言動は彼女自身の意思決定に基づいており,プレイヤーはそれに従うことになる。
一方でプレイヤーが意思決定し,行動を決めるゲームでは,プレイヤーキャラクターはアバターに近い存在となる。
またプレイヤーキャラクターにしっかりした設定があり,かつそのキャラクター自身が意思決定をするゲームもある。こうしたケースでは,小説を読んだり映画を観たりしているかのように,プレイヤーがプレイヤーキャラクターの行動を鑑賞できるようにする必要があるという。
そして,プレイヤーキャラクターの設定があらかじめ決まっていて,プレイヤーがそれに沿って意思決定を下すゲームも存在する。例えば,暗殺者が主人公のゲームなら,プレイヤーはゲーム内で暗殺者として振舞うことになる。ただしこの場合はキャラクターのアイデンティティは,プレイヤーごとに異なる解釈がなされることがあるとJang氏は語る。
以上を踏まえて,Jang氏は自身が担当した「マビノギ」のG24/G25アップデートの事例を紹介した。G24/G25のアップデートは情報量が非常に多く,ストーリーへの没入度が低くなってしまうことが考えられたため,いかにしてプレイヤーに集中してもらうかという課題があったそうだ。
当初Jang氏は,プレイヤーを認識しているメタ的な存在のキャラクターをフィーチャーする形で企画を進めていったという。しかし「マビノギ」が17年間にわたってサービスを提供している人気MMORPGであることを踏まえ,プレイヤーキャラクターの成長を軸に据える形に変更し,当初考えたメタ的な要素をアクセントとして加えることにした。加えて,NPCには明確な性格とアイデンティティを与えたという。
結果としてJang氏がこの事例で作ったプレイヤーキャラクターは,プレイヤー自身の意思決定を反映する傾向が強いものとなった。一方NPCは,キャラクター自身が意思決定したり,プレイヤーが見ていて楽しめたりする存在にしたという。
またシナリオは,プレイヤーキャラクターの身近な出来事を中心にしており,プレイヤーの選択と決定によって多くのNPCを巻き込んでいく内容にし没入感を高めたそうだ。NPC達はそれぞれの立場や状況から意思決定を行い,彼ららしく振る舞うが,最終的にはすべてプレイヤーにとって有益な行動になるという形にしたのだという。
話題は,選択肢によるシナリオの分岐にもおよんだ。Jang氏によると,運営型のオンラインゲームにとってシナリオ分岐は難しい存在で,ストーリーに組み込むこと自体は容易なのだが,次のストーリーを作る際に考慮すべきことと開発コストが大きくなる可能性があるのだという。
限られた開発期間の中でリソースが足りなくなるのは明らかであるため,選択の結果を大きく変更するよりも,結果に到達する過程に差異を持たせるなどの工夫をして,プレイヤーに「意味のある選択をしている」という感覚を演出することを重視したとJang氏は語った。
最後にJang氏は,改めてキャラクターのタイプによって物語に没入させる方法が異なることを述べ,ターゲット層に合わせたストーリーの方向性を考え,構想段階からどのようなキャラクターを配置してプレイヤーを没入させるかをきちんと考えておくことが重要であるとまとめた。
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