インタビュー
P67マザーボードでゲーマー向け市場を狙うASRockマーケティング&Jonathan“Fatal1ty” Wendel氏インタビューを掲載
とはいえ,「ASRock」というと,ゲーマーにはいま一つ馴染みがないブランドかもしれない。なぜゲーマー向け製品に乗り出してきたのか,製品の特徴や今後の展開など,同社マーケティング部門のChris Lee氏と企画協力したJonathan “Fatal1ty” Wendel氏に直接インタビューを行った。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。早速ですが,ASRockさんというと,プラットフォームの切り替わり時に旧CPUで新世代の機能が使えるような製品を出すなど,日本ではちょっと変わったマザーボードを出すメーカーとして知られているのですが,ゲーマー向けのハイエンド製品を発表したのは驚きでした。ゲーマー向け製品開発に至った経緯を教えていただけますか。
Fatal1ty氏とは,昨年のCeBITの際に出会ったのですが,ASRockでは,それ以前からゲーマー向けマザーボードを作ろうとしていました。しかし,ゲーマーのニーズというのがよく分からず,製品開発は難航していました。CeBITでFatal1ty氏と出会って,ぜひ一緒にマザーボードを作っていこうという話になり,今回の商品を作り出すことになりました。
4Gamer:
そもそも,ASRockがゲーマー向け市場を目指した理由はなんなのでしょうか。
Lee氏:
ASRockは,主にデスクトップ製品のマザーボード製品を中心に展開しています。現在のマザーボード市場は,次第にノートPC向けやタブレット向けに比重が移りつつありますが,ASRockでは,もっとデスクトップ市場に専念しなければならないと感じています。そして,デスクトップ製品といえば,ハイスペックでゲームに適しており,ゲーマーにはなくてはならないものとなっています。今後もゲーマー向けのニーズは高まっていくことが予想されますので,ASRockとしてもハイエンドなゲーマー向け製品を作らなければならないと考えています。
4Gamer:
すでにゲーマー向け製品を出されているASUSさんや新たに参入されたGIGABYTEさんとはどのように差別化していく考えでしょうか。
Lee氏:
ASUSさんやGIGABYTEさんの製品は,彼ら自身が考えたゲーマーのニーズに沿った製品開発がされています。ASRockの場合は,本当のゲーマーのニーズを的確に捉えるため,このようにFatal1ty氏に協力をお願いしています。
例えば,このマザーボードには「Fatal1ty Mouse Port」というものが搭載されています。ご存じのように,ゲーマーにとってマウスの応答は非常に重要なものです。このポートを使うことで,マウスからのレポートレート(マウスからデータを送る頻度)を125〜1000Hzのあいだで自由に設定することができます。
また,Fatal1tyというブランドは世界的に有名ですので,このブランドを見れば,ゲーマーの人ならすぐにゲーマー向け製品だと分かってもらえると思います。
4Gamer:
そのマウスポートなのですが,実装はハードウェアによるものですか,それともソフトウェアによるものですか?
Lee氏:
この仕組みはソフトウェアによるものです。10個用意されているUSBポートのうち,1個だけ,専用のソフトウェアから高速なモードが使えるようになります。
実は,Windows 7からマウスを高速に動作させるのは非常に難しいのです。やろうとすると,テストモードなどで面倒な操作が必要になります。それが,このポートを使うことで,ゲーマーのニーズに合わせて,レポートレートを標準の125Hzから,例えば200Hzにしたりということが非常に簡単にできるようになります。ちなみに,デフォルトでは500Hzになっています。それが,私が最適だと思うレポートレートです。
4Gamer:
この機能は,Windows 7のみで有効なのですか? WindowsのほかのバージョンやLinuxなどでは使えるのでしょうか。
Lee氏:
この機能は,F-Streamというユーティリティに組み込まれています。Windows用のソフトですので,WindowsならXP以降の各バージョンで使用できます。残念ながらLinuxには対応していません。
分かりました。このマウスポート以外の部分での,Fatal1tyさんからのアドバイスにはどんなものがあったのでしょうか。
Fatal1ty氏:
まず,デザインですね。ゲーマーは,LANパーティなどで自分のPCを持ち寄って見せびらかすことが多くあるので,マザーボード自体のデザインもかなり気になります。カッコいいマザーボードがほしかったので,今回の製品は,ヒートシンクやヒートパイプなどのデザインにもこだわっています。このマザーボードのデザインは,すでにゲーマーの間で結構評判になっていますよ。
さらに,F-Streamでは,現在のところFatal1ty Mouse Portしか制御できないのですが,将来的には,ほかのFatal1tyブランドの製品,サウンドカードやメモリなどの設定もできるようにしたいですね。現在,F-Streamからメモリの設定をできるようにOCZの技術者と協議中です。OCZのメモリを使った場合は,特別な設定ができるようにする予定です。
Lee氏:
これまでのASRock製品では,あまりマザーボードのデザインに気を遣っていませんでしたので,今後はもっと力を入れて生きたいです。細かいところでは,マザーボード上のボタン(電源,リセット)についても,新たに金型を起こして専用のものを作りました。全体的なデザインは結構よくできているのではないでしょうか。
そのほかの特徴としては,ブート時間を短くするようにASRockの技術を投入しています。
発売して2週間ほど経過していますが,海外のメディアやゲーマーのあいだでかなり注目されたマザーボードになっているようです。
4Gamer:
製品情報ではコンデンサが金色であることがかなり強調されているようですが,この色は,やはりデザインの一環ですか? それとも,なにか機能的に特徴があるものなのでしょうか。
このコンデンサは,Fatal1ty製品だけに使われているものではありません。P67世代の製品で共通して使っているものですが,もともとは,このマザーボードの品質を上げるために日本製の高品質製品を導入して使っているものです。Fatal1ty Professionalのデザインに合わせるため金色のキャップの製品を特注しています。
4Gamer:
このマザーボードには,オンボードでTHXのサウンドチップが使われていますが,THXにこだわった理由というのはなにかありますか。
Fatal1ty氏:
これまでCreativeでサウンドカードについていろいろやってきました。オンボードのサウンドはなかなか難しいというのはご存じでしょう。THXはCreativeが力を入れている技術なのですが,ゲームで使う3Dの音声効果ではTHXがいちばんいいと思っています。通常の音声とは違って,THXでは,ゲームをやっている最中に,音がどこから,そしてどれくらいの距離から出たのかが分かるようになっています。これは非常に重要です。
今回のサウンド機能は,増設のサウンドカードと比べると劣るものですが,オンボードのTHX機能としては,いちばんよいものだと思っています。
4Gamer:
THXの3Dサウンドは,ちょっとリバーブが強くてあまりゲーム向きではないという評価もあるのですが,そのあたりはいかがでしょうか。
Fatal1ty氏:
私自身はそのように感じたことはありませんね。
4Gamer:
なるほど。次に,F-Streamのオーバークロック機能についてお聞きしたいのですが,ゲーマーであればあるほど高クロックよりも安定性を求める人が多いのではないかと思います。
おっしゃるとおりです。オーバークロックと安定性はトレードオフの関係にあります。ただ,こちらの製品はオーバークロック性能よりは安定性を重視した内容となっています。そのため,デジタルPWM方式のV-Core管理やV16+2フェイズといった電源設計を行っています。ASRockではこれまでアナログPWM方式を使っていたのですが,ハイエンド製品ではすべてデジタル方式に切り替えました。これによって,無駄な電力をなくし,より安定した電力供給ができるようになりました。信頼性の高いコンデンサをはじめ,これらの安定性の高い部品では高度なオーバークロックも期待できますが,それ自体が目的ではなく,より安定した動作を追求した仕様にした結果,オーバークロックにも対応できるようになっているということです。
付け加えると,実際には,Sandy Bridge世代になってCPUのオーバークロックは,Intelの仕様によって非常に制限されたものになってきています。あまりクロックは上がらず,どのマザーボードでも変わりません。ですので,オーバークロック性能を競うことには意味がなくなり,マザーボードメーカーは,それ以外の部分でアピールすることが求められてきました。
4Gamer:
この製品だと,ゲーマー向けという部分以外でなにかありますか?
Lee氏:
例えば,今回の製品では,X-FastというASRock独自のソフトウェアにより,USB転送の速度を他社製品と比べて大幅に向上します。こういったものはASRock製品にしか搭載されていませんので,優位点になると考えています。すでに公式サイトで公開されていますので,過去のASRock製品のユーザーでも利用することができるものになっています。
Fatal1ty氏:
ゲーム用で使うPCでも,ゲームにしか使わないわけではありません。私自身も,いろんな用途に使っています。写真や音楽の転送などにしても,転送が早く済めば,それだけゲームなどに使える時間が増えることになりますので,できるだけ速いに越したことはないわけです。
4Gamer:
分かりました。
話は変わりますが,この製品は,ゲーマー向けハイエンド製品ですので3-Way SLIやCrossfireXに対応しています。しかし,プロゲーマーに好まれるゲームは,かなり負荷が軽かったり,解像度を高くしないでプレイする人もいますよね。Fatal1tyさんにお聞きしたいのですが,こういったマルチGPU構成というのはプロフェッショナルなゲーマーにとって必要なものなのでしょうか。
Fatal1ty氏:
面白い質問ですね。マルチGPUは有効だと思いますよ。ゲームによって違うと思うのです。確かに,これまでのゲームの多くはそれほどGPUパワーを必要としないものが多かったのですが,グラフィックスを強化したゲームもたくさん現れていますし,これからはマルチGPUも重要になるのではないかと考えています。
4Gamer:
Fatalityさん自身は,マルチGPUを使っているのですか?
ちょうど使おうとしているところです(笑)。現在使っているPCは違いますが,ちょうどこのマザーボード2セットでPCを組むように友達に頼んでいるところです。それではマルチGPUの最高の仕様にする予定ですよ。Intelの最高のプロセッサとOCZのメモリ,Fatal1tyのサウンドカードなども搭載します。まだ組み上がっていないのですが,とても楽しみにしています。
4Gamer:
ゲーマー向けということでは,このような大きなマザーボードだけではなく,BYOC(Bring Your Own Computer)用に小さなゲーマー向けPCという需要もあると思うのですが,そのような製品のための企画はありませんか?
Lee氏:
現在のところ予定はありませんが,面白いアイデアですね。社に持ち帰って検討してみたいと思います。
Fatal1ty氏:
私自身も,世界各国にPCを持ち運ぶことがありますので,飛行機の上の棚に入れたり,足元に押し込んだりといつも苦労しているので,よく分かります。ただ,PCの大きさは性能とトレードオフの関係にありますので,ちょっと難しいかもしれませんね。
実は,ASRockのFatal1tyシリーズでは,3つのラインナップを予定しています。現在のProfessionalシリーズは,ミドルエンドになります。そして,エントリー向けに「Fatal1ty Performance」シリーズ,ハイエンドには「Fatal1ty Champion」シリーズを今後展開していく予定です。
Performanceは,アマチュアといいますか,普通にゲームをやりたいという人のための製品です。ミドルエンドのProfessionalは,プロゲーマーやすべてのゲームを楽しみたい人向け。それ以上に高性能な製品を求める人のためにChampionを用意します。例えば,オンボードサウンドで,ProfessionalにはTHXが用意されていますが,Chanmpionシリーズではさらに上位のものを搭載する予定です。
Fatal1ty氏:
実際には,このProfessionalシリーズも相当ハイエンドな製品ですので,長く使われていくことになると思いますよ。
4Gamer:
それらのシリーズのすべてで,Fatal1ty Mouse Portはサポートされるのですか?
Lee氏:
このマウスポートは,ASRock Fatal1tyマザーボードのトレードマークのようなものですので,すべてのシリーズでサポートしていきます。
4Gamer:
それは楽しみですね。発売はいつ頃でしょうか。
Lee氏:
まず,Championシリーズから投入していきます。Performanceシリーズの投入にはちょっと時間がかかる見込みです。
4Gamer:
最後に日本のゲーマーになにかメッセージをお願いします。
Fatal1ty氏:
今回の製品を通して日本のゲーマーに伝えたいことがあります。快適なマウス操作や安定性など,ゲーマー向けで真に重要なものはなにかというのを,この製品から読み取ってほしいですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
(2011年1月21日収録)
印象的だったのは,マザーボードのコメントでたびたびFatal1ty氏がコメントをしていたことだ(原稿では多少割愛している)。名前を貸しただけではなく,商品開発にかなり深く関わっていることがうかがえる。
一方のASRock側も,氏の意向を全面的に取り入れる姿勢を見せており,よい形の信頼関係が築かれているようだ。マザーボードで,意匠という意味でのデザインなどは性能にはまったく関連しないものだが,金型を起こすだけでも非常にコストがかかり,価格競争力を気にするならなかなかできることではない。
インタビュー後に行われたゲーム大会では,日本のゲーマーとの交流も行われた。Quake Liveはしばらくプレイしていなかったとかで,Fatal1ty氏はブランクを気にしていたのだが,蓋を開けてみれば,そんなものを微塵も感じさせないくらいの圧倒ぶりで,世界トップレベルの貫禄を見せつけていた。これだけ凄い人が作ったマザーボードなら,きっと凄いんだろうなと思えてくるから不思議なものだ。
とにかく,Fatal1ty Mouse Portは,ほかのマザーボードではサポートされない機能であり,マウスの応答性を重視する人には願ってもない製品といえるのではないだろうか。ソフトウェア制御ということで,オンラインゲームの一部では機能しない可能性もあるのだが,マウス操作がとくに重要になる本格FPSのようなゲームでは威力を発揮しそうだ。
今後も展開されていくというFatal1tyシリーズが,ゲーマーのための選択肢を増やしてくれることに期待したい。
ASRock公式サイト
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