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[AOGC 2006]G-Clusterが目指す新市場構造とシステムの可能性
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印刷2006/02/13 23:51

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[AOGC 2006]G-Clusterが目指す新市場構造とシステムの可能性

 すでにインタビュー記事などで技術的な概要を紹介している「G-Cluster」だが,AOGCのセッションでは,クラビット ゲームオンデマンド事業部長の小野田哲也氏から,同システムのゲームメーカーやサービスプロバイダに対するメリットなどが語られた。
 仕組みの部分については簡単に流しておこう。
 G-Clusterの仕組みは,ビデオオンデマンドシステム(VoD)のアーキテクチャと非常に近いものがある。VoDでは,手元のリモコンで巻き戻しや再生といった操作をすると,サーバー側で実際に処理が行われて,結果がストリーミングで送信され,テレビ画面などに表示される。
 VoDとゲームオンデマンドの最大の違いは,リアルタイムでビデオエンコードしているかどうかだ。VoDでは前もってエンコードして,ストリーミングサーバーに溜め込んでおくことができる。しかしゲームの場合は,前もってエンコードしておくことができない。テクノロジーのミソは,どれだけ速くエンコードできるかという部分にかかってきているという。

 CPUやグラフィックスカードのリソースを貸し出して,なんらかの処理を行い,結果を送信するという意味では,G-Cluster上で動かすのは必ずしもゲームである必要はない。ビジネスアプリなどでも実現可能だ。リアルタイム性を問われるゲームが実現できてしまえば,あとはなんでも動かせるといっていいだろう。
 ユーザー側のメリットを簡単に列記しておく。

・ダウンロードやインストールの手間がない
・最新のグラフィックスカードやハードディスク容量が不要
・低スペックPCやセットトップボックスでもプレイ可能
・セーブデータなどはサーバー側に残るため,場所を選ばずゲーム喫茶や友人の家で続きができる




■ゲームメーカー側にメリットはあるのか?

 では,ゲームメーカーにとってG-Clusterのメリットとはなんだろうか。小野田氏は,まず,非常に分かりやすい例を挙げてくれた。
 世の中には,非常に大きな潜在的市場を持っているにもかかわらず,パッケージビジネスがほとんど成り立たない国というのも存在する。明言はされなかったが,要するに中国などの違法コピー問題だ。現在はパッケージビジネスが成り立たないので,こぞってオンラインゲームが展開されている。
 半面,日本のゲームメーカーはまったく逆で,パッケージビジネスに注力しているものの,オンラインゲームでのノウハウや実績をまったく持っていないところが多い。
 ところがG-Clusterを使うと,こういった会社がパッケージソフトのスタイルのままで,中国に展開することも可能になるわけだ。しかも海賊版の心配はまずない。
 小野田氏によると,ゲームメーカーと話をすると,必ずのように不正コピーがまかり通る市場の話題が出るという。アジア諸国での展開のためにも,今後の必須課題としてオンラインゲームの開発を検討している日本企業は多いだろう。
 どうやってオンラインゲームへ移行するか,オンラインゲームで本当に利益が出るのかなどで頭を悩ませていたところに,こういったソリューションを提示されれば,飛びつくところも少なくないのかもしれない。

 次に日本のゲーム市場の構造に関する問題点が挙げられた。
 現在,中古ゲーム市場は,ゲーム市場全体の数分の1の規模を持つまでに成長しているが,いくら中古市場でソフトが売れても,ゲーム制作会社に利益が還元されることはない。
 これを映画と比較してみると,あまりの違いに驚いてしまう。コストをかけて制作したソフトという意味では大きく変わらないはずだが,市場での扱われ方はまったく異なっているのだ。



 映画では,リリースウィンドウという考え方が使われている。まず,ロードショウ公開したあと,セルDVD/ビデオやレンタル,ケーブルテレビやテレビ放送を行っていく。さらに,ものによってはキャラクタービジネスでグッズ販売を行うなど,リリース後から,時期によって売り方を変えて収益を得ているのだ。実際,1本の映画のロードショウ公開時の収益は,全収益のほんの一部分にすぎないという。
 これが日本のゲーム市場となると,新作でも店頭の目立つ棚に並べられるのはほんの1,2週間にすぎない。そのあと場合によってはグッズ販売などがあるものの,基本的に売り切りの1Shotでしか収益を得る機会がない。その1Shotでどれくらいの収益が上げられるかは,同時期の他社タイトルの状況などに左右されることもあるだろう。ゲームの制作は,ある意味ギャンブルになってしまっているともいえる。

 多大なコストをかけてギャンブルを行うことを好むものは少ないだろう。結果として,なるべく売り上げの読めるタイトルの開発が多くなる,これが,シリーズものの増加につながっている。結果として市場全体にマンネリ気味なのは,多くの人がじていることではないだろうか。
 映画と比較するとゲームの収益の回収機会が少ないので,ゲーム開発でギャンブルができない。これは構造的な問題である。

 G-Clusterでは,試験的に新作ソフトの無料体験版のオンライン配信も行っている。
 これまで体験版などでプロモーションを行う場合,体験版DVDの製造費用がかかったりする割には,有効なマーケティングデータが取れなかったという。店頭配布や雑誌付録では,基本的に配りっきりでしかない。これは新作の数字が測定しづらいという点にも関わっている。
 G-Clusterを使うと,何人がどれだけプレイしたか,1回のプレイ時間はどれくらいか,何面まで進んだのが何人か,といった詳細なデータが取れる。取ろうと思えば,いくらでも詳細なデータが取れるシステムなのである。事前に本物とほぼ同じもので体験版がプレイできれば,ユーザーメリットも大きいといえるだろう。
 リリース後は,G-Clusterで配信すれば,中古ソフト市場に流れていた利益をある程度製造元で回収できるようになる。

 1Shotでしか収益がないなら,必然的に価格も上がる。ゲームを買う側にしてみても,よく分からない完全新作にお金を出すよりは,内容が読めるシリーズものを買う傾向が強いのではないだろうか。ギャンブルを避けて,よく分からないものは中古で買う……などという連鎖が続く限り,日本のゲームマーケットの将来は明るいとは言えないだろう。G-Clusterがゲーム市場にリリースウィンドウを実現してくれるなら,ゲーム業界全体に望ましいことのように思われる。

 さらに将来的には,KT(旧Korea Telecom)で行っていた実験のように,携帯型端末などでもG-Clusterが利用できるようになる可能性がある。通信速度などで,現状の日本では難しいものがあるが,無線LANなどに対応すれば十分に可能になるという。
 重要なことは,携帯電話で対応する場合でも,サーバー側のプログラムは1種類で対応できるということであろう。3Dタイトルであっても,最初から画角の調整などで端末に合わせた映像が送れるシステムになっているのだ。1本のプログラムでマルチプラットフォームに対応でき,携帯電話対応でキャリア個別に対応版を作ったりする必要もなくなる(同一キャリアでも,たくさんのモデル/ロットがあって検証するのはもの凄く大変。以前話を聞いた会社では,端末を全種類買っているという)。生産性という意味でも効果は大きそうだ。

■G-Clusterは無限の可能性を秘めたメディア?

 さて,サーバーで集中して処理を行うということで,疑問に思っている人もいるかもしれないのが,利用者が多くなったら膨大な数のサーバーが必要になるのではないのかという点だ。クラビットでさまざまなデータを取ったところ,同時利用者数は,VoDに比べてもかなり低くなるという。一度利用すると1〜2時間はサーバーを占有するVoDに対して,ゲームでは1回当たりの利用時間が短めなことで,重複がかなり緩和されているからだ。

 G-Clusterは,ありていに言えば,ゲームをやるための最高の環境というわけではない。それでも,かなり高いレベルでのゲームが苦労なく,現状で楽しめる。技術進化の速度からすると,たとえ次世代ゲーム機が出てきて凄い映像を見せつけたとしても,1〜2年後にはG-Clusterで同じレベルの映像が実現される可能性が高い。そういうのも,アリではないだろうか。
 とくにアジア諸国での展開は,刺激的な話題である。オンラインゲームは,海賊版対策には有効である。しかもパッケージ版の技術だけで対応できる。市場規模とリスクの少なさを考えると,まさに日本のゲームメーカーにうってつけのシステムと言える。とはいえ,オンラインゲームの運営会社がサーバーごと持ち去って海賊版サービスを始めてしまうような国もあるので,十全な対策は必要になるだろうが……。

 余談になるが,個人的に期待しているのは,非ゲーム分野だったりする。将来的に高速無線ネットワークが普及すると(そう遠くもないだろう),PCの処理自体をサーバー側でやってしまうソリューションも考えられるからだ。想像してほしい。軽量で,液晶とキーボード,十分なバッテリ,そしてネットワーク機能だけを搭載した軽量なノートPCがあったとしよう。CPU,メモリなどは格安でよいので,かなり安くなるはずだ。HDDは不要で,データはすべてサーバー内なので,ノートPCは落としてもなくしても業務に支障はない。サーバーがアップデートすれば,自動的に処理能力は上がる。もちろん,ゲームだってできる。PCを携帯しなくても,他人の端末でログインすれば自分のデスクトップが開く……(すでにSun MicrosystemsのSunRayがほぼ実現している環境ではあるのだが)。
 セキュリティ対策などの難しい点は置いておくとして,ブロードバンド時代のPC環境というのは,そんな感じのものになるのかもしれないと想像してみるのも楽しいものではないか。(aueki)

  • 関連タイトル:

    G-cluster

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