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[CEDEC 2006#01]CEDEC 2006開幕。スクウェア・エニックス和田社長が語る「国内ゲーム業界の今後」
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印刷2006/08/30 19:23

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[CEDEC 2006#01]CEDEC 2006開幕。スクウェア・エニックス和田社長が語る「国内ゲーム業界の今後」

相変わらず独特の雰囲気がある和田洋一氏
 日本のゲーム開発者支援を目的として行われるカンファレンス「CEDEC」(CESA DEVELOPERS CONFERENCE)。その2006年版「CEDEC 2006」が,東京の昭和女子大学で開幕した。

 2006年8月30日から3日間にわたって開催されるCEDEC 2006初日の基調講演では,スクウェア・エニックス代表取締役社長で,CESA会長でもある和田洋一氏が登壇。CESA会長という立場から,「日本のゲーム産業の今後」という題目で,ゲーム業界の現状と今後について語った。

2001年から,ゲーム業界は年平均約15%の成長を遂げたとするグラフ……なのだが,国内では「日本市場の縮小」と捉えられてしまったと和田氏は言う
 まず氏は,IntelのCore 2 Duo発表会で登壇したときにも指摘した「ゲーム業界が縮小する/しているのではないか」という危機感を一蹴。この危機感を「量的なもの」と定義し,なぜこのような危機感が煽られるに至ったのか,そのソースとなるグラフを右に挙げるとおり示した。
 和田氏は「このグラフが『量的な危機感』を煽っているわけですが,確かにこれだけを見ると,日本市場が伸びていないように見えます」という。「ですが,このグラフで示されているのは,家庭用ゲームが各国で販売されたかというデータだけ。中古やオンラインゲーム,アーケードゲームなどは含まれていないという意味で,非常に限定にされたものなのです」(和田氏)。これが誤った,量的な危機感を生んでいるというのだ。

 「家庭用ゲーム機市場は日本が先行し,欧米で立ち上がったのは1999〜2001年です。成熟市場の日本よりも,欧米で市場が大きく伸びているのは,考えてみれば当たり前なんですね」と続けた和田氏は,人口比率や購買者数を考えれば,決して日本が劣っているわけではないと述べた。「つまり,このグラフは『ゲーム業界は依然として成長過程にあり,同時にゲームは日本だけでなく,世界中でエンターテインメントの一形態として認められた』と読むべきなのです」。

ゲームには非常に強い輸出競争力があるとするグラフ。これは2004年のデータだが,「世界で市場が伸びていても,国内が成熟期に入っていたらダメではないか」という意見に対しての反論として示された


先ほどのグラフに,2005年における全世界の「オンラインゲーム課金市場」を加えたもの。波線で囲まれた増加分には,日本市場も含まれる
 さらに氏は,2005年のオンラインゲームの市場規模が全世界で2800〜2900億円(課金ベース)になっていることを指摘。2000年の段階では,ほとんどゼロに近かったオンラインゲーム市場が急激に立ち上がっている点を挙げ,「家庭用ゲームという限定を外し,さらにグラフにない地域を入れていけば,依然として十分な成長余力があることが分かります」と述べる。

 そして本題。和田氏は「こういったデータは,家庭用ゲーム機のものばかり見せられますが,我々が作っているのは『ゲーム』」として,PCやアーケード(のインカム),携帯電話用ゲームといった市場データを含めた国内市場の推移グラフを提示した。

国内ゲーム市場において,オンラインゲームや携帯電話用ゲーム市場が大きく成長していることを示すスライド
 ここでは,毎年1割の成長があり,オンラインゲームや携帯電話用ゲームが大きく貢献しているのが見て取れる。「データを家庭用ゲームに限らなければ,日本でもまだ十分に成長の余地があるのです」。

 では,成長のために何が必要なのかという問いが出てくるわけだが,和田氏は日本におけるゲーム人口と,これからプレイしたいと考えている人の構成グラフを示し,「何か自分にマッチしたサービス,コンテンツがあれば,プレイしてくれる人が,日本にはこれだけいる」という。これが,氏の言う「質的な問題」の一端であり,潜在的なプレイヤーがいるという意味で,量的には「バカみたいに」(同氏)楽観的で構わないが,世代ごとのライフスタイルを考慮する必要が出てきたことは,課題の一つとした。

左は世代ごとの,ゲーム機のプレイヤー数,右は「機会があればプレイしてみたい」と答えたものを加えたものとのこと。右の波線部は,左のプレイヤー数に対応している。この潜在的なプレイヤーの「機会」は,必ずしもゲーム機で与えられる必要はない


 また,成熟期に入った産業は,他業種とのコラボレーションが進むとして,映画産業,オンラインサービス,シリアスゲームの三つを和田氏は例として挙げていた。ポイントは,以下の3点である。
  • 北米ではゲーム会社がハリウッドに近づいて,ゲームと映画のいい相乗効果が出ており,こういった連携の巧みさは,謙虚に学ぶ必要があること
  • 「何かを見つけたらアイテムなどと交換してあげる」といったように,オンラインサービスは積極的にゲーム的な要素を取り入れつつあること
  • 正しい行動には報酬が与えられるというゲームのシステムは,学習ツールとして最高で,今後シリアスゲーム市場が大きくなっていく可能性が十分にあること

■第2の成長段階へ進むゲーム業界で求められる
■「質的な変化」とは何なのか


 以上を踏まえて和田氏は「産業として確立したゲーム業界は,第2の成長段階へ移行することになります。ゲーム機以外のさまざまなデバイス,さまざまな世代へと進んでいくため,質的な変化が必要になるわけです」と述べ,氏の言う「質的な変化」について,「あくまで例に過ぎない」とはしながらも,いくつか挙げてみせた。それが右のスライドだが,順に見ていくことにしたい。

 まず挙げられたのは,いわゆるミドルウェアについてだ。ゲーム機では,ハードウェアの限界をいかにして打ち破るかに主眼が置かれていたため,“限界までは”ハードを使い切らないツールへの評価は低かったと,氏はこれまでを振り返る。
 しかし,ハードウェアのスペックは「ツールを使っても変なことにはならない」程度にまでは上がり,この問題はクリアされたという。そして,業界が第2ステージへ移行するときは,他業種とのコラボレーションが必要になるという持論を展開したうえで,「質的なジャンプのためには異才をゲーム業界に招き入れる必要がありますが,このとき,内部の人間と他業種の人間の間には“共通言語”がないと話が広がっていきません。かつて,3Dツールが誕生したことにより,デザイナーがCG,ゲーム業界へ入れるようになったのと同じく,ミドルウェアによって,異才がゲーム業界にやってこれるようになるのです」と述べる。
 「ツールを使うとゲームがつまらなくなる」という考えがゲーム業界に広がっていると指摘した氏は,それを「とんでもない誤解」と切って捨て,ミドルウェアの導入が,質的な変化をもたらす可能性を指摘した。

 また,「皆が『Web 2.0』と書くから,そうは書かなかった」とジョーク混じりに語り出したのは,ユーザー参加型コンテンツについてだ。「Second Life」やModといった実例を挙げ,「エンドユーザーに“いじられる”ことを前提とした,堅牢なゲームデザインやシステム」の構築が重要になると述べる。

 次に,最近話題のデュアルコア,マルチコアCPUについて。ゲーム開発者はCPUの使い方をよく知っているが,科学技術計算とは異なり,1台の機械=1個の(シングルコア)CPUという縛りがあったゲーム業界では,伝統的に1個のCPUをとことん叩く文化があると和田氏は指摘。「ゲーム業界は,マルチコアの思想とは“根っこ”が異なります。ハードウェア側からの要望なので,マルチコアCPUへの対応は不可避ですが,ゲーム業界が,最も影響を大きく受けるかもしれません」と述べていたのは興味深い。

 最後に挙げたのは産官学との連携だ。「ゲームは産業として確立してしまったため,国策と結びつけて考える人達が出てきてしまった」としながらも,ゲーム事業を国策とする国がある以上,日本のゲーム業界が飛躍するためには連携が必要とまとめた。

■“和田発言”の奥に見えるもの

 さて,和田氏は講演のまとめとして,「日本ほど,通信インフラが整備され,それにつながる端末のスペックが均質に高く,コンテンツを提供する企業の数も,サービスを享受することに慣れたユーザーの数も多い国は,おそらくない」と述べ,次のように続けた。「それだけに現在の日本は,次の時代のサービス,ライフスタイルを考えるうえでの,最大の実験場なのです」。
 そして,現在最も先進的なコンテンツビジネスを展開する産業として,ゲーム業界は“その次”をも見据える使命があるのではないかと結び,最後に,「痛みを伴う変化を乗り越えてがんばりましょう」と,開発者に語りかけていた。


 ――この「がんばりましょう」を,CESA会長による開発者への激励と受け取ることはできるだろう。ただ,少なくとも「国内メーカーによる次世代ゲーム機の登場が目前に控えているにもかかわらず,国内のゲーム機市場についての楽観的な予測が,特別にはなかったこと」は,指摘しておく必要がありそうだ。
 あくまで筆者の印象と断ったうえで話を進めるが,「いつまでもゲーム機“だけ”にしがみついているようだと,変化は乗り越えられませんよ」と述べているようにも感じられた今回の基調講演。和田氏の言う「質的な変化」により,開発現場レベルでも,国内のゲーム機一辺倒な状況が変わってくるのであれば,PCゲームファンとしては大いに歓迎すべきなのだが。(佐々山薫郁)

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