インタビュー
MMORPG用ゲームエンジン「Zerodin Engine」の開発者にいろいろ聞いてみた
前の記事を読んでない人のために書いておくと,Zerodin Engineは,RF onlineのエンジン部分を開発したというOneal Jang氏が開発を主導していることで話題になった韓国産のMMORPG用ゲームエンジンである。
RF onlineは,日本で発表当時に私がセガの担当だったこともあって,個人的に思い出深いゲームの一つである。グラフィックスデザインのよさもあるのだろうが,現時点で見てもRF onlineのテクスチャ解像度の高さや鈍く入るハイライトの質感など,画面の綺麗さは高い水準にあると思う。さらに,3種族入り乱れて,エフェクトバリバリで激戦を繰り広げても,重くて動けないとかそんなにひどいことにはならなかった。Far Clipが浅めなのは少し気になったが,十分に軽く,かなりの大規模戦闘でも遊べるレベルでバランスがとられている。
ゲーム自体は,スキル上げが鬼だったり,誰にでもおすすめできるかというと微妙なところがあったものの,「RF onlineってどう?」と聞かれたときは,なにはともあれ「エンジンは凄くいい」と答えていたものだった。そんなエンジンの開発者が作った新作で,しかもエンジン単体で販売していくというのだから,期待せずにはいられない(個人的に)。
ここではZerodin GamesのCEO Seo Hyo Seok氏とTechnical ManagerのOneal Jang氏に話を聞いてみたので,エンジン開発の経緯や特徴などを紹介してみたい。
本日はよろしくお願いいたします。まず,Zerodin Engineの特徴などについて教えていただけますか。
Oneal Jang氏(以下Jang氏):
Zerodin Engineは,MMORPG向けに特化されたエンジンです。単なるゲームエンジンではなく,サーバー,クライアント,エンジンを一まとめにしたものとなっており,2009年の2月か3月くらいに完成する予定です。サーバー部分は一部まだ未完成な部分もありますが,ほかはほぼできあがっています。
4Gamer:
サーバーを含めてのパッケージとなるわけですね。これまでのゲームエンジンではサーバーが付いているものはほとんどなかったので,これは非常にいいと思いますよ。
Seo Hyo Seok氏(以下Seo氏):
恐縮です(笑)。
4Gamer:
Zerodin Engineの元になったのは,RF onlineのエンジンだと考えていいのでしょうか。
Jang氏:
いえ,まったく違います。RF onlineのエンジンも私が作成したものですが,あれはCCRの著作物となりますし,Zerodin Engineは,次世代エンジンとしてまったく新しく作ったものとなります。
4Gamer:
クライアントの特徴について教えてください。
Jang氏:
最近のゲームエンジンを見ると分かると思うのですが,どれも機能が一律的なんですよね。どこかが新しい機能を付ければ,よそも同じ機能を備えてきますので,あまり変わるところがない状態となっています。我々は,そういった一律的な部分と同時にカスタマイズできるような要素を備えたエンジンを作っています。
Zerodin Engineは,近代的なゲームエンジンが持つべき3要素,つまりHDR,リアルタイムシャドウ,そしてノーマルマッピングを備え,そういった基本機能に加えて,カートゥーンレンダリングや独自のレンダリング機能を加えていきます。
カートゥーンですか?
Jang氏:
例えば,「プリンス・オブ・ペルシャ」の独特なカートゥーンのレンダリングであるとか,これまでになかったような表現も作れるものですね。
我々のエンジンは,フォトリアリスティックレンダリングとノンフォトリアリスティックレンダリングの両方をサポートし,どちらも簡単にカスタマイズできるようなものになっています。デザイナーが,自分なりのレンダリングを作れるような環境を用意したいと思っています。
4Gamer:
サーバー側はどんな機能を持っていますか。
Jang氏:
基本的にMMORPGに必要な機能がいくつかありますよね。ログインサーバーであるとか,ゾーンサーバーといったものです。それらの割り当てや分割方式,インスタンスなど,いろんなタイプのものをサポートするものとなっています。
4Gamer:
なるほど。エンジンの仕様でゲームに制約ができるのではなくて,いろんなタイプのゲームにエンジンが対応できる感じですね。
加えて申しますと,Zerodin EngineはMMORPGに特化されてはいますけれど,ほかのタイプのゲームを作ることもできます。いろんなことができるようになっていないとMMORPGは作れません。カジュアルゲームですとかFPSなども作れます。ただ,FPSを作る場合はFPS専用のエンジンと比べると,若干劣る部分はあると思われます。Zerodin EngineはMMORPG用のエンジンです。海外にはFPS専用のエンジンはいくらでもありますが,MMORPGに特化されているエンジンは少ないはずなので,この点を強化する方向で作っています。
MMORPG用のエンジンというと,MMORPGしか作れないんじゃないかと思われることも多いので,ちょっとこの点は強調しておきたいと思います。
4Gamer:
MMORPG用のエンジンというの自体がまだ珍しいですよね。よく名前を聞くのはBigWorldくらいですか。
Jang氏:
BigWorldもありますし,ほかにもいくつかありますね。BigWorld Engineは,韓国ではほとんど使われていません。シェンムーオンラインで使われていたはずなのですが,プロジェクト自体がなくなってしまいましたので,話を聞かなくなりました。エンジンに問題があったのか会社間の問題だったのかよく分かりませんが。
4Gamer:
Jang氏:
そうですね。まだ準備中でしたので,十分なものではありませんでした。
4Gamer:
それでもあれだけ人気が出ていたのは,日本でもMMORPG用のエンジンを探している人が多いからじゃないかと思うんですよ。
日本はゲームでは先進国じゃないですか。それでもオンラインゲームに関しては,ちょっと手をつけにくいと感じている人が多いんじゃないかと思います。おそらく,そのうち技術を持った人達がオンラインゲームも作ってくるようにはなると思うのですが,これまでそういったゲームの開発経験がなかったということで,オンラインゲーム用のエンジンを作るのを敬遠しているような感じはありますよね。
でも最近は,日本のゲーム開発会社でもいろいろなところの技術を取り入れようという傾向が出てきているように思われます。我々のエンジンを見てもらえれば,例えばゲームのサーバーはこういう風に構築する,ゲームのクライアントはこういう風にするといった例題がたくさん入っていますので,これが販売されたら参考にしてもらえるのではないかと思います。
MMORPGは,どうしても莫大な費用や人員,そして開発期間が必要になりますので,かなり作りにくいジャンルだと思います。開発の初期段階から我々のエンジンを使えば,コストの削減もできるでしょうし,適切なプロトタイピングができれば,開発期間の短縮もできると思います。ですので,MMORPGを作ろうとしている会社の人であれば,かなり興味を持って記事を見てくれたのではないでしょうか。
4Gamer:
対応しているプラットフォームはPCだけですか?
現在はPCのみです。現在,韓国で必要とされているのはPCのみですので。今後,Xbox 360などでの需要が出てきましたら,そのときに対応したいと思っています。
4Gamer:
現在,日本ではどうしてもコンシューマゲームが主流でPCゲームはほんの少ししか作られていません。最近は,PLAYSTATION 3でMMORPGを作るようなところも出てきていますので,できればコンシューマ機にも対応してほしいところですね。
Jang氏:
我々も日本市場はとても大きいと見ています。日本の業者ともコンタクトを取っていますが,守秘義務がありますので,まだ具体的なことは申し上げられません。
4Gamer:
分かりました。ほかになにかアピールしておきたい部分はありますか?
そうですね。我が社はエンジンビジネスですが,単にエンジンだけでなく,成功したMMORPGのプロセスや開発企画などを移転する準備もできています。
4Gamer:
移転といいますと。
Jang氏:
例えば,日本のMMORPGを見てみますと,日本ユーザーが求めているものとちょっとずれているんじゃないかと思われる作品もあります。韓国で成功した企画やプロセスを移転することで,開発コストやリスクを軽減することもできるのではないかと思います。
4Gamer:
なるほど。ノウハウの問題ですね。
はい。我が社はエンジンビジネスで年間8%の成長をしていますが,来年には,国際的に通用するような日本のIPと組み合わせたゲームが作られるようになればと希望しています。
4Gamer:
すでに日本の会社からいくつか問い合わせがあるということでしょうか?
Seo氏:
そうですね。詳しいことはお話できませんが。
4Gamer:
それは非常に楽しみです。
ところで,根本的なところからお聞きしますが,どうしてエンジンを作ろうと思ったのでしょうか。
私は,ずっとゲームが好きで,素晴らしいゲームを作ることを目標にしていたのですが,ゲーム会社に入って実際にゲームを作っているうちに,ゲームというのはゲームエンジンの影響を強く受けていることに気づきました。エンジンが優れていれば,優れたゲームを作りやすくなります。
私が一番重視しているのはあくまでもゲームを作ることです。しかし,よいゲームを作るために重要なのは,まず優れたエンジンです。エンジンをほかの人に任せても満足できるものができそうになかったので自分で開発することにしたわけです。
こうして作ったものをほかの人も一緒に使えるように,ゲームエンジンの会社Zerodin Gamesが作られました。
4Gamer:
社名の「Zerodin」というのはどういう意味なんでしょうか。
Seo氏:
これは「Zero」と「Odin」の合成語です。Odinは北欧神話の神で「創造の神」の意味で使っています。つまりゼロからいろいろなものを創造するといった感じの造語ですね。ゲームもそうじゃないですか,無から有を作り出すという意味では。
Jang氏:
世の中にはエンジンだけの会社もあります。ただ,それはちょっとおかしいんじゃないかと思うんです。ゲームを作るためにエンジンが必要なのに,エンジンだけを作っていたのでは,ゲーム開発者に本当に必要なものはできないと思うんですよ。例えば,Unreal Engine 3のEpic Gamesの場合は自社の優秀なゲームで開発して,エンジンの性能をアピールしているじゃないですか。我が社も同じ方針でいこうとしているところです。
4Gamer:
それは,御社自身がMMORPGをリリースする予定があるということでしょうか。
Seo氏:
はい。そうです。
4Gamer:
それは楽しみですね。
Jang氏:
エンジンのための会社ではなく,ゲームも作ることで本当に使えるエンジンが作れると思っています。
ただ,我々のエンジンを使って完成されたゲームがまだありませんので,どのようにしてエンジンを評価すればいいのかという質問をもらうことがあります。どこで作ったゲームであろうが,なにかのゲームが形になって出ないと,ゲームエンジンを評価することは難しいわけです。いまは「RF onlineを作った人」が作ったエンジンだというふうにアピールをしていくしかありません。
4Gamer:
現在何社くらいにライセンシングしているのでしょうか。
Seo氏:
いまのところ3社くらいですね。ライセンシングの要請はいろいろあるのですが,最初に出てきたゲームのイメージが悪いとエンジンのイメージも悪くなってしまいます。一度よくないイメージがつきますと,どんなにいいものを作ってもイメージが悪いままになってしまいますので,ライセンシングをする会社はある程度の開発力を持っていると認められるところを慎重に選んでいます。
4Gamer:
ゲームエンジンは,韓国ですと,Gamebryoを使っているところが多いと聞きますが。
そうですね。韓国では非常に多く使われています。ただ,カジュアルゲームなどが多く,最近はMMORPGではUnreal Engine系とかCryENGINEが選ばれているようです。
4Gamer:
おや,そうなんですか。
Jang氏:
Unreal Engine 2については,MMORPG用に作られているわけではありませんから,リネージュII以外のゲームで採用しようとしたところはすべて失敗していますけどね。
4Gamer:
そのようですね。
Jang氏:
Unreal EngineとCryENGINEについては,もともとFPS用に作られていますので,これらでMMORPGを作るにはとてもコストがかかります。かなりのリソースを持っている会社でないととても使いきれない状況ですね。
4Gamer:
NCsoftでは両方とも出してますね(笑)。
Jang氏:
NCsoftは最高ですね。AionではCryENGINEを使っていますが,CryENGINEを使っているほかの開発者から,いったいどうやったらCryENGINEであんなものが作れるんだろうと聞かれたことがあります(笑)。
4Gamer:
CryENGINEはよく知りませんが,たしかUnreal Engineだとエンジン自体は,20体くらいまでしかキャラクター表示をサポートしてないんですよね。
Jang氏:
それらに比べると,我々のゲームエンジンは最初からMMORPGを基盤としていますから,はるかに簡単に使えますし,8割くらいはリスクを軽減できるのではないでしょうか。また,使う側がいくらでも変えられる余地を持っていますので,MMORPGでは本当に競争力のあるエンジンになったと思います。
4Gamer:
対応作品がリリースされるのが楽しみです。本日はありがとうございました。
Zerodin Engineは,MMORPGに特化したゲームエンジンである。需要がどれくらいあるかというのも微妙かもしれないのだが,少なくとも日本のゲーム開発者が苦手としている部分を大幅にサポートしてくれそうなものなのは確かそうだ。個人的には,日本のオンラインゲーム業界に注目してもらいたいエンジンである。
そもそもMMORPGというのは最も大規模なゲームとして知られており,開発コストも開発期間も膨大にかかる。基礎開発から行う場合,開発に5年程度かかることも珍しくない。韓国や中国では開発プロセスと熟練した開発者,ないし膨大な数の開発者がいれば1年程度で1作品を作り上げているところもないではないが,その境地にまで到達するのは簡単ではない。
国産MMORPGの状況だが,MMORPGと呼べるか微妙なのを入れて現在30本弱がサービスされている。なかには,もう少し高性能なゲームエンジンを使っていればなあと思わせるタイトルがいくつかあるのも事実だ。トップレベルの会社を除けば,サーバー周りも表示周りも韓国産と比べると周回遅れといった印象がある。とくにサーバー関連の技術者が少ないのが目立つ。
日本産の代表的なMMORPGといえば「ファイナルファンタジーXI」だが,この秋に行われた開発者向けイベントCEDECでのスクウェア・エニックス田中氏によるMMORPGのデータベースに関する講演では,いきなり「データベースは使っていません」という驚くべき発言が飛び出していた。ファイル入出力だけで,あれだけの規模のゲームを作っているという。これはこれでとてつもない話なのだが,日本のゲーム業界を象徴するような逸話であろう。
Zerodin Engineは,ゲームサーバーあたりまでひっくるめたパッケージとしてリリースされるというのが魅力である。あのRF onlineを作った人の手によるエンジンであれば,パフォーマンスもかなり期待できそうだ。早く実際のゲームで確認してみたいものである。
最後に,Zerodin Engineのエディタやブラウザの動作を示すムービーをいただいたので紹介しておこう。ちょっと元ファイルのビットレートが低いので本来の画質が損なわれているかもしれないのだが,どんな仕上がりになるかのイメージはつかめるのではないだろうか。
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RF ONLINE Z
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