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[GDC 2011]NGPの開発にも対応したSCEの最新ゲームエンジン「PhyreEngine 3.0」
国内タイトルだと,「Demon's Souls」「トトリのアトリエ 〜アーランドの錬金術士 2〜」「マリシアス」などがPhyreEngineベースで作られているとのことなので,名称がどこまで一般的かはともかく,エンジンとしては比較的お馴染みといっていいのではなかろうか。
NGP向けタイトルの開発で注意すべき点と
PhyreEngine 3.0の実装
講演の前半はPhyreEngine 3.0の新機能や変更点に関する話だったが,やはり気になるのはNGPということで,今回は後半から先に紹介してみたい。
というわけで,セッションではまず,NGPの概要が下のスライドに示したとおり紹介された。なにぶんタイルベースのアーキテクチャであるから,一般的なGPUとは考え方を変えなければならない点についての注意がなされている。
ちょっと見慣れない「Tile-based Deferred Renderer」(タイルベース遅延レンダラー,以下 TBDR)というのは,PowerVR系グラフィックスコアが持つ特徴のようなもの。イマドキのゲームタイトルでよく使われている「Deferred Rendering」(複雑な光源のシーンなどで,さまざまに使われることになるデータを,前処理でまとめておく最適化技法)のようなことを,すべてのシーンで当たり前のように処理することが要求されるので,この点は抑えておきたい。
ユニットテストと接続部の移植は1日で終わり,基本的なレンダリング機能の移植も2週間で終えたとのこと。「『移植元』としては,PS3版よりはPC用マルチスレッド対応版のほうが適していた」というが,PS3はかなり特殊な構成のハードウェアなので,これはうなずける話だ。ちなみに,CPU部分のコードは,PC版のものがほぼそのまま使えたとのこと。
シェーダ部分も,「もともとPS3版とPC版で共通の基盤を作っていた」(Swobida氏)こともあって,あまり苦労はなく,PS3&PC版からほとんど変更せず持って来られたという。とくに,NGP対応の初期バージョンでは,PC版のシェーダをそのまま使っていたそうだ(もちろん先述のとおり,GPUアーキテクチャはかなり違うため,パフォーマンスのチューンは必要になるのだが)。
現在,シーン探索やアニメーション,可視判定,自己遮蔽削除はCPU側に,スキニングはGPU側にそれぞれ移して実装されているという。
ピクセルシェーダは長くなりがちなので,多くの光源を扱うのは難しいとのこと。そこで,(光源が多いとき多用される)一般的な意味でのDeferred Renderingも,次のバージョンでサポートされる計画になっているようだ。
PhyreEngine 3.0の新機能
ということで話を戻して,PhyreEngine 3.0の新機能について,以下,軽く紹介しておこう。とはいっても,もともとPCゲーム情報サイトだった4Gamerでは,以前のバージョンを紹介したことはなかったりするが,そこは寛大な心でチェックしてもらえれば幸いだ。
●NGPのサポート
思いっきり繰り返しだが,対応プラットフォームに変更があり,PSPに代わって,NGPがサポートされることとなった。●レベルエディタの追加
「Maya」「3ds Max」などで作った部品を配置して,AI制御用のナビゲーションメッシュなどを設定できる。エディタ上でゲームを動かすことも可能。●新しいオブジェクトモデルの導入
Entity/Componentモデルのデータが導入されたという。Entityはデータの実体,Componentは特定の機能を持った部品の意。データの並列駆動を促進するためのものだそうだ。データはシリアライズされて渡されるため,受け取った側次第で,同じデータでもメモリイメージは変わってくる。●LUAによるスクリプティングをサポート
AIの制御などにも使われる。●Maya&3ds Maxとの連携強化
データの直接変換に対応。シェーダノードに対応し,ツール上でも同じシェーダが使えるようになった。●MLAA(Morphological Anti-aliasing)の導入
MLAAは,後処理で画像のジャギーをなくすタイプのアンチエイリアシング技法である。2Dベースのアンチジャギー技術と考えてよさそうだ。以上のように,エンジンの基本部分でもかなりの機能強化が窺える。日本のゲーム会社で使われることも多いので,今後の新作タイトルにおける品質向上に期待が持てそうだ。
もちろん,冷静に考えてみると「SCEE製の開発者向けツールがアップデートされましたよ」以上でも以下でもない話であり,「PhyreEngine 3.0でなければNGP用ゲームは作れない」わけでもない。ただ,PS3とNGP,そしてPCといったマルチプラットフォーム展開がやりやすくなるエンジンということは確かなので,今後の展開には注目しておきたい。
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