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ツール界の巨人Autodeskが目指す新市場,ソーシャルやモバイルもハイエンド3Dグラフィックスに移行するか
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印刷2012/03/21 00:00

インタビュー

ツール界の巨人Autodeskが目指す新市場,ソーシャルやモバイルもハイエンド3Dグラフィックスに移行するか

Marc Stevens氏(Vice President Product Management, Autodesk
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 GDC 2012開催期間中に,会場でAutodesk Product Management部門のVice President であるMarc Stevens氏に同社のゲーム関連ミドルウェアの展開について話を聞いてみた。同社にはGDCのたびにインタビューを行っているので,それらを読んでいただければAutodeskがかなり本気でゲーム開発環境について取り組んでいるということが分かるだろう(関連記事1関連記事2)。

 インタビュー記事に先駆けて,この1年の間に起きた変化をまとめておくと,Autodeskのゲーム開発関連のミドルウェアが「Gameware」というブランドで展開されるようになったこと,ScaleFormやIlluminationLabに続き,新たなミドルウェア開発会社としてGrip Entertainmentを傘下に加えたことなどがトピックとして挙げられる。そして先日お伝えしたように,Gameware製品は順調にバージョンアップを繰り返しており,任天堂の次世代機となるWii Uの標準ミドルウェアとして提供されることも決まった(関連記事)。

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 そのような状況を踏まえて,GDC 2012会場で行われた,同社副社長Marc Stevens氏へのインタビューをご覧いただきたい。

4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 この1年でAutodeskのGameware戦略の方向性になにか変化はありましたでしょうか。

Stevens氏:
 今後の戦略としては3つあると思っています。まず,主要パートナーとの緊密な連携を維持していくこと。そして,ソーシャル,カジュアル,モバイルといった新しい市場に向けてのソリューションを拡充していくことですね。3つめはProject Skyline,これを進めていくことです。

4Gamer:
 先日の発表では,今年は新しい市場に乗り出すということで,ソーシャル,カジュアル,モバイルでのゲーム開発支援を挙げていらっしゃいました。関連した戦略を具体的に教えてください。

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Stevens氏:
 現在のゲーム市場の動きを見る限り,ソーシャルやモバイルといった市場を戦略に取り入れないというのは,すでに大きな間違いだといえるくらいの状況になっています。スマートフォンやスマートテレビ,タブレットでは先日発表された新しいiPadなど,多種多様な機器が開発されており,そこに向けて,いろいろなコンテンツが投入されていきます。そういった多様なコンテンツを楽しみたいという人がいて,これだけ機会が広がっていますので。

4Gamer:
 先ほど見たセッションでは,今後モバイルのグラフィックス能力は20倍になると言われていたのですが,本格的にモバイルコンテンツが3Dへと展開されるまでにどれくらいかかると予想されていますか。

Stevens氏:
 それはすでに現実になっていると思っています。ちょっとお見せしましょう……。Epic Gamesの「Citadel」というデモでは,Unreal Engine,つまり「Gears of War」と同じエンジンを使っていて,非常にハイクオリティなゲームを作ることが可能です。

Citadelの画像
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Citadel


4Gamer:
 同じEpic Gamesの「Infinity Blade II」については,先ほどセッションを見てきました(笑)。とはいえ,普通のところはなかなかあそこまで作れませんよね。

Stevens氏:
 携帯電話では,データのダウンロードに時間がかかることはありますが,それ以外の処理はリアルタイムでできるようになっており,今後もデバイスがパワフルになる流れは続きます。今年中ではないかもしませんが,2,3年で携帯電話は現在のコンシューマゲーム機と同じくらいの性能になって,ハイクオリティなゲームもどんどん出てくるようになるでしょう。


より充実を見せるキャラクター制御ミドルウェア群


4Gamer:
 では,Autodeskのプロダクトについてお伺いします。
 AI関係では新たな会社としてGrip Entertainmentを獲得されましたが,Gripを取得された目的はなんでしょうか。

Stevens氏:
 これまでAI関係のミドルウェアでは,Path検索(キャラクターの移動経路を自動で決めること)を行うKynapseがありました。しかし,それ以外にもゲームではさまざまなAIが使われます。例えば,一つのシーン内に多くのNPCが登場する場合があります。それらのNPCに対して,個別にプログラムを作るのは非常に効率が悪いので,簡略化できるソリューションを探していました。そうした意味でGripは魅力的だったわけです。Gripが持っているものを我々はハイレベルAIシステムと呼んでいます。要は脳のようなものですね。作成したキャラクターに,その脳を使って自然な振る舞いをさせるためのものになります。GamewareではCognitionという形で取り入れました。
 こういったミドルウェアは,ゲームの開発プロセスというものを非常にシンプルにしていくことに大きく貢献します。これは単に時間の削減ができるというだけのものではなく,より多くのものを追加できるという部分が重要になります。
 同時にゲームにリアリズムを追加できるようになります。例えば,メインキャラクターとは関係なくても,たくさんの人がいて車が走っていてといったシーンのどこかに変な振る舞いがあると,ゲーム全体に違和感が出てしまいます。そういったものに対応できるのがGripの素晴らしいところです。
 
4Gamer:
 PopulationとCognitionはどういう関係にあるのでしょうか。

Stevens氏:
 Cognitionは,AIシステムとしてビヘイビアツリーシステムを使用しています。これを使ってキャラクターの振る舞いを定義する部分になります。一方で,Populationというのは,映画監督みたいに「こっちにもっと人を増やしたい」とか「この辺の人はこういう動きをしてください」といった群集への指示ができるものになります。ですから,いちいち「この人はこう動いて,こっちの人はこうで」と指定しなくても,おおまかな指示だけで済むわけです。ただ,このPopulationでもCognitionで定義したビヘイビアツリーシステムなどを使っています。

4Gamer:
 なるほど。Cognitionはアニメーション管理用かと思っていたのですが,そういうわけではないようですね。これはHumanIKなどと組み合わせて使うものなのですか?

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Stevens氏:
 HumanIKは,プロシージャルアニメーションシステムが搭載されており,いちいち動きを指定しなくても自分で適切なアニメーションになるように調整してくれます。例えば,「カップの位置がここにあるからキャラクターの手の動きをそこに合わせる」といったことが可能です。Cognitionは,キャラクターAIを担当するもので,「これをやれ」といった指示を行いますが,実際の動きの部分でHumanIKを組み合わせることもできます。

4Gamer:
 これでキャラクターの動作に関しては一通りミドルウェアが揃った感じでしょうか。

Stevens氏:
 障害物などを避けたり,動きを調整する部分は揃っています。ただ,ゲーム内でキャラクターの動きに影響してくる物理演算の部分についてはAutodeskの製品だけではカバーできていないところもありますね。

4Gamer:
 Autodeskのキャラクターを扱うミドルウェアが非常に充実してきたことはよく分かったのですが,一方で,キャラクターを作成する部分,オーサリング方面でキャラクター作成に特化したものはないのでしょうか。

Stevens氏:
 キャラクター作成についてもいくつか製品を持っていますよ。例えば,1年くらい前に取得したEvolverという製品は,簡単な操作でキャラクターが作成できるツールです。性別,年齢,身長,体重などを指定するとキャラクターを生成してくれます。現在でも,Evolverという名前でWebサービスとして提供が行われています。


4Gamer:
 そういうものもあるのですね。今後,モバイルやソーシャルへと3Dゲームのプラットフォームが爆発的に増えてくると,3Dデザイナーが圧倒的に足りなくなりそうな気がしていたのですが,それなら大丈夫そうですね。
 ここで,ちょっと細かい部分ですが,製品のアップデートについての疑問について聞いてもかまいませんか?

Stevens氏:
 なんでも大丈夫ですよ(笑)。

4Gamer:
 Kynapseのアップデート内容についてです。もともと道が崩れるなどといったダイナミックなレベルの変化に対して自動的に対応できることがウリのシステムだったと思うのですが,今回の変更内容の中であえて「Dynamic Pathdata Graph」といった項目があるのは,どういった部分が変わったためですか。

Stevens氏:
 以前のシステムは,事前のパス計算が主体であり,レベル内に変化が発生したとしても基本的に静的なシーンの状態を見て,「ここからならこう行くのがいいですよ」と教えてくれるものだったのですが,今回のものについては,ゲーム中で動いている物体などに対しても随時パス情報を更新して,常に最適なパスが検索できるようなものになっているんです。

4Gamer:
 なるほど。よく分かりました。


次世代ゲーム制作環境Project Skylineの進捗は?


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4Gamer:
 ところで次世代の開発環境となる「Project Skyline」の進捗についてはいかがですか。

Stevens氏:
 今回のGDCでも展示されていますが,進捗は非常に順調です。現在は,いくつかのデベロッパに実際に使っていただき,次世代のゲーム開発を効率化できているかについて検証しているところです。

4Gamer:
 使ってみたという開発者の反応はいかがでしょうか。

Stevens氏:
 みんなかなりエキサイトしてますね。
 実際に結果としてもよいものが出ていますので,我々としても期待しています。

4Gamer:
 現在,Project SkylineはMayaを使ったデモが行われていますが,このProject SkylineはAutodeskのほかの製品にも適用されるものなのでしょうか。

Stevens氏:
 現在は,全体的なワークフローを検証している段階です。これがうまくいけば,モデリングやライティングといった部分にも広げていきたいですね。将来的にはほかの製品でも使われることになると思いますが,現在はMayaでのプロダクションにフォーカスしている段階です。


業界初? 任天堂の開発ツールにAutodeskのミドルウェアがバンドル


4Gamer:
 では,次に任天堂との提携についてお聞きします。今回の提携の話は,どちら側から出てきたものなのでしょうか。

Stevens氏:
 以前から任天堂さんにはMayaなど,弊社のツールを使っていただいており,良好な関係にありました。弊社と任天堂プラットフォームとの関わりは,ニンテンドー3DSにScaleFormを対応させたところからですね。そのときの弊社の取り組みを,任天堂さんに高く評価していただいたようです。そして任天堂さんが,開発各社からWii Uでゲーム開発をしていくうえで,どのようなミドルウェアがあったらよいかというヒアリングを行ったところ,ScaleFormや弊社のミドルウェアの名前が多く挙がったそうです。そこで,Wii U向けの開発キットの中に弊社のミドルウェアを入れることはできないかという話が出てきました。

4Gamer:
 Wii U用のゲームはすでに開発が進んでいるところも多いと思いますが,この発表がされた段階で,すでにAutodeskのミドルウェアが提供されていると考えてよろしいのでしょうか。

Stevens氏:
 いえ,今回は,そういった契約に至ったという発表です。具体的にいつSDKに含めて提供されるかなどは当社では分かりません。ただ,この件については半年近くかけて準備を進めてきましたので,こちらとしては,いつでも大丈夫ですよ。

4Gamer:
 Autodeskで,このように単独の機種のためにこういった契約を行った前例はあるのでしょうか。

Stevens氏:
 いえ,今回のWii U向けが最初の事例になります。業界としても初めてのことではないでしょうか。非常に画期的なことだと思います。

4Gamer:
 なるほど。ところで,Wii U自体についてはどういった印象をお持ちですか。

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Stevens氏:
 ちょっと時期としては早い段階ですので具体的な話は申し上げられませんが,とても高い可能性を秘めているプラットフォームだと思います。キーとなるのはどれくらい素晴らしいゲームが出てくるかですね。どんなに素晴らしいハードウェアでも開発者が優れたゲームを作ってくれなければ成功は望めませんから。
 そういった意味で,今回の件のように,開発キットに良質なミドルウェアをセットにして提供していこうという任天堂の方向性は非常に正しいものだと思います。

4Gamer:
 では,最後に日本のゲーム開発者に向けてなにかメッセージをお願いします。

Stevens氏:
 まず,今回の任天堂との発表について,我々は非常にエキサイティングだと思っています。また,任天堂だけでなく,日本のゲーム業界全体の発展に今後も寄与していきたいですね。ゲーム業界にとって最善のツールを提供していくというスタンスは変わっていませんし,今後よりよいワークフローを提供していくことをお約束します。日本のゲーム開発者の皆さんとはすでによい関係を築けていると思いますが,これをいっそう強固なものにしていきたいですね。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


 ゲーム業界を影から支える巨大企業,それがAutodeskだ。ゲームにはさまざまなプラットフォームのタイトルが存在するが,そのほとんどは同社の3Dツールで作られているといっても過言ではない。
 そんな同社が,次なる市場として展開しているのがソーシャル,モバイルゲームの世界だ。実際にソーシャルゲームやモバイルゲームが本格的な3Dに移行するのはしばらく先のことになるとは思われるが,ゲーム開発環境はそれらの動きに先駆けてたものになるのは言うまでもない。
 そんな同社の最新動向についていろいろ聞いてみたわけだが,Stevens氏は副社長ながら製品の細かい部分も把握しており驚かされた。同社の目指す方向性についても明解なビジョンが感じられる。それはゲーム業界自体の方向性とも密接に関連していることだともいえよう。今後も同社の動きに注目していきたい。
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