業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第221回:大規模ゲームショウに回帰したE3 2009
迷走を続けていたE3(Electronic Entertainment Expo)が,かつての賑やかな姿で我々の前に戻ってきた。出展メーカー数や展示内容においても,「世界最高のゲームイベント」としての地位を奪回できたようだが,すべてが以前と同じというわけではない。ゲームイベントのあり方そのものが変容しているようで,今回は筆者がE3 2009を通して感じたこと,そして会期中にニュースにできなかった話などを紹介してみようと思う。
巨大な垂れ幕がコンベンションセンターを飾り,久々に活気が感じられたE3 2009会場。以前と同じ華やかさで,各社とも腕によりをかけた新作発表が見られた。また,どうやって紛れ込んだのか分からないような人が圧倒的に減ったのも好印象だ。AtariやNCsoftなど,参加を見合わせているメーカーも少なくないが,やはり盛り上がりのあるE3は楽しい
2009年6月2日から4日までの3日間,ゲーム企業各社が年末から2010年にかけて発売するゲームタイトルの展示会「Electronic Entertainment Expo 2009」(E3 2009)が,ロサンゼルスのコンベンションセンターで開催された。今年で15回を迎えるE3だが,2007年〜2008年は規模を縮小し,メーカーとメディア/バイヤーのミーティングを主体とした招待制に変更されていた。
北米だけで売り上げが2兆円を超えるという,ハリウッド映画と音楽業界を合わせたよりも大きな規模に成長したゲーム産業だが,主催者である業界団体ESA(Electronic Software Association)が採用した新しいスタイルのE3は,そうしたゲーム産業の盛り上がりを発信する機能をまったく失ってしまう。一回の出展につき億単位の出費を強いられる主要ゲームメーカーの意向に応えて縮小されたE3ではあったものの,いつしか「もとのE3に戻そう」という声が業界内外から聞こえてくるようになった。
果たして以前の姿に戻れるのかという事前の懸念は大きかったが,フタを開けてみれば,2年間のブランクなどウソのようだった。E3 2009に参加した企業は,200社に少し足らない規模で,参加者は4万1000人ほど。2006年当時から見ると半分程度の出展者数ではあるが,それでも2008年の実に五倍ほどになり,ホールの華やかさも戻ってきた。
巨大なモニターに映し出される数々の新作や大音響のサウンド,そしてライブパフォーマンス。二つのメインホールを忙しなく往来する人々や,コスプレ美女/マッチョマン達の姿は,最盛期のE3を思い起こさせた。
プラットフォームホルダー三社のプレスカンファレンスも,各社の現状を反映させつつ,それぞれ趣向をこらしたものになっていた。先陣を切ったMicrosoftは,ポール・マッカートニー氏やスティーブン・スピルバーグ氏などを動員するショーマンシップを発揮するだけでなく,新コンセプト「Project Natal」によってゲームの未来像を見せつけ,多くのゲーマーを喜ばせた。
Sony Computer Entertainment Americaは,巨大なスクリーンで豊富なエクスクルーシブタイトルを紹介しつつ,「PSP go」による携帯ゲームの進化を見せる。
任天堂はナンバーワンである余裕からか,カンファレンスもラインナップも保守的ながら,ファンを魅了するには十分な内容だったといえよう。
確かにサプライズは少なかったとはいえ,Valveは「Left 4 Dead 2」をE3まで見事に隠し通すことに成功したし,Ubisoft Entertainmentは3Dで展示された「James Cameron's Avatar: The Game」やタッチスクリーンに対応させた「R.U.S.E.」など,興味深いラインナップを揃えていた。
アートワークを一新させた2K Gamesの「Borderlands」やE3直前に発表されたTHQの「Homefront」,そしてElectronic Artsの「Mass Effect 2」や「Fight Night Round 4」など,すでに開発発表が行われた各社のタイトルも,ゲーマーとしての筆者の食指を動かすのに十分な訴求力を持っていた。また,「Alan Wake」(Microsoft Game Studios)や「Tom Clancy's Splinter Cell: Conviction」(Ubisoft)のような,開発がどのように進展しているのか分からなかった作品もようやく我々の前に登場した。
もともとトレードショウとしてスタートしたE3だが,その機能は早くから失われており,今ではメディアをとおしたアピールの場としての立ち位置に落ち着いている。ただ,いつリリースされるのか分からないソフトの展示は減り,ほとんどは2009年後半から2010年前半にかけての発売に限られた新作の発表になっていた。画像は,Electronic Artsブース内の試遊台群。すごい数
これまでのE3に比べ,今回のE3 2009はどこが変ったのだろうか? まず言えることは,各社ともに遠い未来に予定しているプロジェクトについて,ほとんど語らなくなったことだろう。今回出展されていた作品は,2009年夏から年末に向けた新作ソフトがほとんどで,遅くとも2010年のE3が始まる頃にはリリース済みとなっているはずだ。会場内外にあった広告用の垂れ幕にも,「Red Faction: Guerilla」(THQ)や「PROTOTYPE」(Activision),「The Sims 3」(Electronic Arts),そして「FreeRealms」(Sony Online Entertainment)など,すでにリリースされているものや,マスターアップ済みのものが少なくなかった。
もちろん,「メタル・ギア・ソリッド: ライジング」(コナミ)や「ファイナル・ファンタジー XIV」(スクウェア・エニックス),「Crysis 2」(Electronic Arts)のように,E3 2009を沸かせた“ちょっと未来”なタイトルの発表もなかったわけではない。
とはいえ,例えばメタル・ギア・ソリッド: ライジングの発表はアート画をつなぎ合わせた程度のものでしかなく,Xbox 360に付加価値を与えるための“ティーザー”としての情報公開が目的で,通常の新作発表とは趣が異なる。
つまり,各社がE3で見せたかったのは,「今」のソフトなのだ。これまでのE3では,ひどい場合には3〜4年後に発売されるような新作のパブリシングが会場で大々的に行われていたりした。これは,とりあえず発表することでメディアに書きたててもらい,その宣伝効果を狙ったものだ。しかし,その作品への期待が高ければ高いほど,発売日までダラダラと情報開示を求められることになり,発売される頃には新情報がまったくないなんてことも往々にして起こる。Lionhead Studiosの「Black & White」などは,そんなゲームの代表例といえるかもしれない。
日本でもアメリカでも,紙メディアが過去のものになりつつあるのは同じことで,インターネット時代に応じた動きも見られる。これまでのE3では,各メーカーとも大作の発表に際して特定のペーパーメディアに事前に独占的な情報を与えるといった便宜を図っていたが,その情報はあっという間にネット上に流れ(むろん,誉められたことではないが),独占は意味のないものになっていた。
そもそもの目的は「多くのゲーマーに自社製品を知ってもらう」ことであるのだから,情報を一斉に,そして平等に各メディアに発表することで,一気にゲーマーに伝達させようとするのは理にかなっている。最近では,ビデオを持ち込むメディアが優遇される傾向にあるようだが,それも「E3の興奮を生でゲーマーに届けられる」からに違いない。
こうして見ると,ゲーム企業各社はネットの特性をうまく生かした宣伝活動に転換し始めているようだ。当然ながら,各社のプレスカンファレンスが世界中にライブ配信されるという,オンラインメディアさえバイパスしてファンに直接訴えかけるスタイルも,インターネット時代の情報伝達手段として注目されている。
それでは,最後にE3 2009における筆者的に気になる “5つのニュース”をお伝えしたい。もっとも,お読みいただければすぐに分かるように,会場で聞いた真偽の定かでない噂や憶測などもさり気なく混じっていることをお断りしておこう。
Microsoftのプレスカンファレンスの目玉として公開されたProject Natal。このnatalとは,「ta」にイントネーションを置く感じで「ナタール」と発音し,ポルトガル語で「誕生」,あるいは「クリスマス」を意味するという。そこで,もしかするとクリスマス前後にリリースされるのではないかというウワサが持ち上がっている。
あまりにも早過ぎる気もするのだが,E3 2009のカンファレンスに登場したLionhead Studiosの「Milo」(仮称)だけでなく,某海外メーカーのレーシングゲームに対応したデモが秘密裏に行われていたとのこと。開発キットも,すでに大手メーカーには行きわたっているとの情報もある。普通に考えれば「2010年のクリスマス」が現実的に思えるが,そうしたウワサが出るのも,Project Natalに対する期待の現れなのかもしれない。
Double Fine Productionsが開発し,Electronic Artsからリリースされる予定の「Brutal Legend」に対して,Activision Blizzardが発売差し止めを要求する訴訟を行った。
Brutal Legendは,もともとActivisionブランドでリリースされる予定だったタイトルだが,2008年にActivisionとVivendi Gamesの合併に際して発売予定リストから外されている。しかし,販売権がDouble Fine Productions側に返還されたわけではなく,しかもそれ以前に支払われた15億円におよぶ開発費が返還されていない,というのが訴訟の趣旨であるようだ。今が旬の人気俳優ジャック・ブラックら,豪華なゲストが登場するアクションアドベンチャーBrutal Legendの発売予定は10月。果たして,それまでにこの問題は解決するだろうか。
最近のゲーム業界のトレンドとしては「ソーシャル・ネットワーキング」や「モーションコントロール」といったキーワードが思い浮かぶが,意外なプレゼンスを見せ始めているのが「ラブシーン」だ。ゲームにおける性的な描写といえば,女性キャラクターのモデリングや衣装でセクシーさを強調するというパターンがほとんどで,映画やTVドラマで見るような“ラブシーン”は,これまで不思議なほど取り入れられてこなかった。
ところが,最近のゲームではストーリー展開に必要な要素として見直されているのか,かなりあからさまな描写が登場し始めており,E3 2009でもいくつかの作品で激しいラブシーンが見られた。「Dragon Age: Origins」(Electronic Arts)や「Heavy Rain」(Sony Computer Entertainment)といったタイトルは,そんな大人向けゲームの代表例ともいえそうだが,このトレンドは加速するのだろうか。
シングルプレイ専用のFPSとして人気を集めた作品といえば,2K Gamesの「Bioshock」。オンラインモードがなくとも十分に成功することを証明したゲームだが,E3 2009で初公開された「Bioshock 2」には,なんと「Unreal Tournament」風のマルチプレイモードが実装される。
また,人気アクションアドベンチャー「Assassin's Creed 2」にも,どうやらマルチプレイモードが存在するらしい。まだ,完全黙秘が続けられている状態だが,同作のマルチプレイモードはDLC(ダウンロードコンテンツ)としてリリースされることになるようだ。ダ・ヴィンチのグライダーや水泳能力も加味されたAssassin's Creed 2のオンラインモードとは,いったいどのような感じになるのだろうか。
期待されてはいたものの,残念ながら今回のE3に出展されなかったタイトルも多い。Ubisoftの「I Am Alive」は,昨年のE3でティーザームービーが紹介されたものの,今回は音沙汰なし。開発がUbisoft MontrealからUbisoft Shanghaiに移行されたようだが,現状はどうなっているのだろうか。
このほか,発売時期不明のゲームとしては,id Softwareの「RAGE」,そしてBlizzard Entertainmentの「Diablo III」および「Starcraft 2」がある。両社とも独自のファンイベントを開催する予定になっており,そこで新作発表や開発の進捗を公開することが多い。そのためか,E3 2009では音なしの構えだった。また,Left 4 Dead 2の発表で我々を驚かしたValveだが,実はイベントが始まる直前まで「Half-Life 2: Episode 3」が紹介されると思われていた。それにしても,Episode 3はどうなったのだろう?
ところで,E3 2009で存在感が薄かったのがMMORPGだ。香港のUserJoy Technologiesや韓国のK2 Networkのほか,Sony Online Entertaimentが「The Agency」 と「DC Universe Online」を, またTrion World Networkが「Heroes of Telara」を,そしてLucasArts Entertainmentが「Star Wars: The Old Republic」を紹介するに留まっており,大きな話題になっていたとは言い難い。もっとも,「All Points Bulletin」がElectronic Artsによってパブリシングされるという嬉しい話はあった。
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