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Access Accepted第345回:ついに発売された「Diablo III」。シリーズの物語を覗いてみよう
北米時間の2012年5月15日,シリーズ最新作「Diablo III」がリリースされた。第1作がリリースされたとき,ここまでのタイトルに成長するとは,Blizzard Entertainmentは予想もしていなかったようだが,続編や拡張パックも次々に大ヒット。それに伴って,Diabloの世界も次第に複雑になっていった。今週は,そんなDiabloの世界観を,Blizzard Entertainment監修の小説シリーズなどを参考に紹介したい。天界と魔界はなぜ戦うことになったのだろうか。そもそも“Diablo”とはどのような存在なのだろうか?
PCゲーム最大のブランドの1つ「Diablo」シリーズの
最新作がいよいよ登場
Blizzard Entertainmentは北米時間の2012年5月15日,12年ぶりのシリーズ最新作となる「Diablo III」をリリースした。1997年に第1作となる「Diablo」が発売され,2000年の「Diablo II」では日本語版もリリースされた。そのため,日本でも知名度の高いシリーズであり,プレイが解禁されると同時に,サーバーにアクセスできないプレイヤーが続出したほどの人気ぶりを見せている。
アイテム収集や成長といったRPG要素にスピーディなアクションを加え,「アクションRPG」と呼ばれるジャンルを確立した歴史的なゲームの血を受け継ぐ最新作,それがDiablo IIIなのだ。
アクションRPGというアイデアは,Diabloのプログラマーを務めたDavid Brevik氏が朝,シャワーを浴びているときにふと浮かんできたと,筆者が同氏にインタビューしたときに語ってくれた記憶がある。さらに同氏は,当時,Brevik氏を始めとする開発スタッフは誰もDiabloがあれほどのヒットになるとは夢にも思っていなかったと教えてくれた。
もともと続編を作るというハッキリした構想がなかった第1作のヒットを受け,前作のストーリーを大きく広げる形で,続編のDiablo IIがリリースされ,さらにその後,Blizzardの監修で小説シリーズが発売され,これらを合わせてDibaloの世界観が完成した。
筆者は,ゲームの細かいストーリーを調べることが好きだが,欧米ではそういったストーリー重視のゲーマーのことを「Lore Fan」と呼んでいる。Blizzardが主催するBlizzConのようなゲームイベントでは,そんなLore Fanを対象にしたクイズ大会や討論会が開催されるほどであり,その数も少なくない。そのため現在,こうしたゲームの背景となる歴史や世界観,キャラクターの造形などはゲーム開発において手の抜けない部分になっている。
ゲームを題材にした小説が欧米でよくリリースされるのもそのためで,Diabloに関していえば,すでに10作以上の小説やガイドブックが存在する。年月がたってしまったせいでオリジナルメンバーがあまりいないDiablo IIIの開発スタッフだが,筆者がプレイする限り,おそらくそれらの書籍を参考にしたのだろう,従来作との関連性はきちんと保たれている。
「Diablo III」公式サイト
天界と魔界との激しい抗争に身を委ねるサンクチュアリ
日本語版がリリースされたDiablo IIに入っていたマニュアルやガイドブックで,Diabloの世界観を知ったというファンも多いだろう。しかし,今回のDiablo IIIがシリーズ初体験という人は,英語版ということもあって,そもそもDiabloシリーズがどんな物語なのかが非常に分かりにくいはず。
非常にざっくりとだが,以下にDiabloの世界観をまとめておくので,プレイするうえでの参考にしてほしい。キャラクター名はすべて英語表記としたが,そのほかの固有名詞については,可読性をよくするため適宜,日本語を使っている。
■第1章 〜 世界の始まり
「Diablo」の世界は,Anuという創造主によって造られた。Anuは,完全かつ絶対の存在になるために,自分の体についていた不完全なものを取り除いたが,その不完全なものが七つの頭を持つTathametというクリーチャーになる。AnuとTathametは何千年にもわたって戦いを続け,同時に死ぬ。その際,Anuから天界と大天使が生まれ,Tathametからは魔界と七魔王が誕生した。そしてこの七魔王が,Diablo,Baal,Mephistoという3人の大魔王と,Andariel,Duriel,Belial,そしてAzmodanという4人の魔王になったのだ。
サンクチュアリが天界と魔界の戦いに巻き込まれることを恐れた二人は,天界や魔界の影響を遮るバリアのような役目を果たす「ワールドストーン」を世界の中心から盗み出し,アリアット山の奥深くに隠してしまう。古くは「Eye of Anu」と呼ばれたワールドストーンだが,これが創造主の一部なのか,強大なパワーがどこからやってくるのかは誰も知らなかった。このワールドストーンのかけらが,Diablo IIのストーリーなどで重要な役割を果たすことになる,おなじみのソウルストーンなのだ。
■第2章 〜 ナファレムの登場
やがてこのサンクチュアリには,InariusとLilithと同じ志を持った者達が天界と魔界から集まってきたが,そこから天界,魔界双方の血を受け継ぐ新たな存在「ナファレム」が生まれ,ナファレムの子孫が人類となる。InariusとLilithの子がRathmaで,最初のネクロマンサーになった。バーバリアン王Bul-Kathosや,ドルイドの初代学長Fiacla-Gearのように,さまざまな種族や職業の父祖になったのが初代ナファレムなのだ。
ところが,InariusとLilithは,天界と魔界の力を兼ね備えるナファレムの潜在能力に警戒心を抱くようになる。Inariusはナファレムの絶滅を主張するが,天界や魔界に対抗する第三勢力としてナファレムを育てようとしたLilithがそれに反対する。戦争を嫌って逃げ出した二人だが,ナファレムをめぐって激しくいがみ合うようになってしまうのだ。
ワールドストーンの影響によって,ナファレムの能力は世代を重ねることで消滅していくのだが,それをLilithは知らず,Inariusから逃げるように自らの存在を無の中に投じた。以上は,ゲームが描く時代より3000年も前に起きたことだ。
やがて長い年月が経過し,魔力を持ったナファレムは消滅し,サンクチュアリには人間だけが残っていた。そんな人間達の間に,一人の男の子が生まれる。彼こそが,小説「Diablo: Sin War」シリーズの主人公となるUldyssianだ。農夫だったUldyssianは,Lilithの導きによって覚醒し,ワールドストーンを見つける。そして,数名の仲間とともに新生ナファレムとなって,サンクチュアリを完全に人類のものにするため,天界と魔界に挑戦状を叩きつけたのだ。
■第3章 〜 サンクチュアリの自由
こうして,天界,魔界,そしてイディレム(新世代ナファレム)の三つ巴の戦いが繰り広げられる。地は裂け,山は削られるといった壮絶な戦争になるが,その悲惨さを後悔したUldyssianは,ワールドストーンから取り出した強大な力を利用し,天界と魔界に続く門を一時的に封印する。さらにInariusも倒し,Inariusの身柄は大天使の協議会に拘束されることとなった。
大天使達は,Lilithの父であるMephistoとの交渉の末,InariusをMephistoに引き渡す。彼は,魔界で永遠に拷問を受け続けることになった。さらに交渉によって,サンクチュアリを天界と魔界との緩衝地帯として,双方が直接に手をつけないという約束が交わされる。大天使達はイディレムを含むすべての人間から記憶と歴史を消してしまい,その後のサンクチュアリを,Inariusの兄弟であったTyraelに一任することにした。
だが,魔界との約束が長続きしないと信じるTyraelは,ゲームの時代の200年ほど前に,人類の中から有能なメイジを招集し,彼らに魔王を一人ずつソウルストーンに閉じこめてしまうことを進言する。彼らメイジは「ホラドリム」と呼ばれ,Deckard Cainの先祖であるJered Cainや,「Diablo II: Lord of Destruction」に登場したTal Rashaなどが含まれていた。
ホラドリムは,七人の魔王をソウルストーンに閉じこめることに成功するものの,サンクチュアリ西方の大国カンデュラスの王,Leoricの精神を蝕んだDiabloが再び動き始める。これが,第1作Diabloにつながっていくのだ。
以上,「Diablo」第一作に連なるストーリーをかなり駆け足で説明してきたが,以上がシリーズの背景となる物語だ。やっかいな固有名詞が次々に出てくるDiablo IIIのストーリーだが,本稿がその理解の手助けになれば幸いだ。では,よきDiablo IIIプレイを。
著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるだろう。
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